佐伯一麦(かずみ)作品のページ No.1


1959年宮城県仙台市生、県立仙台第一高等学校卒。上京後、週刊誌記者や電気工等様々な職業を経験。84年「木を接ぐ」にて海燕新人文学賞を受賞し作家デビュー。90年「ショート・サーキット」にて野間文芸新人賞、91年「ア・ルース・ボーイ」にて第4回三島由紀夫賞、97年「遠き山に日は落ちて」にて木山捷平賞、2004年「鉄塔家族」にて第31回大仏次郎賞、07年「ノルゲ」にて第60回野間文芸賞、14年「還れぬ家」にて第55回毎日芸術賞、同年「渡良瀬」にて第25回伊藤整文学賞、20年「山海記」にて第70回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。夫人は草木染め作家の神田美穂。


1.
ア・ルース・ボーイ

2.遠き山に日は落ちて

3.マイ シーズンズ

4.鉄塔家族

5.石の肺

6.ノルゲ

7.ピロティ

8.誰かがそれを

9.還れぬ家

10.渡良瀬


空にみずうみ、山海記、アスベストス

 → 佐伯一麦作品のページ No.2

 


 

1.

●「ア・ルース・ボーイ」● ★★      島由紀夫賞



1991年06月
新潮社刊


1994年06月
新潮文庫

2019年08月
小学館文庫



1994/06/15

まずこの作品の新鮮な感覚に驚きました。そして、読了後振り返ってみて、良い作品であることを改めて感じました。

お定まりの学校授業、進学コースから敢えて飛び出した主人公鮮と、女友達の幹、幹の赤ん坊の梢子。
教師から見れば怠け者、母親から見ればふしだら或いは異常、という主人公の、外部に対する感覚力のみずみずしさは素晴らしいものがあります。

自らの世界に飛び出し、世間を見る目、漸く手に入れた仕事に対する関心・感じ方、主人公は決して能力が劣った人間ではなく、むしろ一般生徒よりはるかに新鮮な嗅覚を備えています。
そんな主人公の、生活、成長ぶりを描くストーリィです。その瑞々しさ、充実感に惹かれます。

最後、自分のいた高校の工事に出かけ、同級生の卒業式の様子を体育館の天井から見下ろすシーンは、爽快さを感じます。

   

2.

●「遠き山に日は落ちて」● ★★☆    木山捷平賞


遠き山に日はおちて画像

1996年08月
集英社刊
(1500円+税)

2004年10月
集英社文庫化
(457円+税)

2004/12/10

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伸びやかな気分に浸れる、気持ちの良い小説。
草木染作家の菜穂と小説家の斎木が移り住んだ蔵王山麓での日々を、穏やかに語っていく作品です。

廃屋のようになっていた一軒家を借りて始まった生活ですが、少しずつ手を入れていくと、所有者だった老人が生前に丹精した庭の姿が現われてきたりと、生活に味わいが出てきます。
家と土地に親しむと同時に、地元の人たちにも溶け込んでいく。そんな2人の心持ちが伸びやかで、とても気持ち好い。
 
2人の生活は、金銭面で決して豊かではありません。菜穂は生活費を家庭教師のバイトで稼いでいますし、斎木は離婚して別れた妻子に譲った家の借金をまだ負っている身。そのうえ斎木には喘息の持病もある。
地方での生活には、良いところと煩わしいところの両面がありますし、古い家にはそれなりの難点もある。それでも本作品がすこぶる気持ち良いのは、2人の前向きで自然体の姿勢があるからでしょう。
 
2人がどう知り合い、どうして一緒に暮らすようになったかは、一切語られていません。過去をやたら振り返ることのない点も、気持ち良い理由のひとつです。
心が疲れたときなど、是非お薦めしたい作品です。

  

3.

●「マイ シーズンズ Dear Bjorg & Helge Abrahamsen 」● 


マイシーズンズ画像

2001年04月
幻冬舎刊
(1600円+税)



2001/06/17



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ノルウェーのテキスタイル・アーティスト、ビヨルグ・アブラハムセン
彼女の四季を描いた作品“マイシーズンズ”に魅せられた主人公夫婦は、彼女に手紙を出します。ところが、その手紙はビヨルグの夫ヘルゲから送り返されてくる。そして主人公夫婦は、ビヨルグが既に死んでいることを知ります。
作家である主人公と草木染の仕事をしている妻・早紀は、ビヨルグの実物作品を見たいとノルウェーに向かいます。そして、ビヨルグが描いたノルウェーの四季を確かめる為、繰り返し四季の都度ノルウェーを訪れることになります。
本書は、そんな主人公がビヨルグに宛てて書く手紙、という形式をとった小説作品。

てっきりフィクションだと思って読んでいたら、中頃にビヨルグの写真、その作品の“マイシーズンズ”“サマー・ウィンド”が挿入されていて、驚きました。
前者は本の絵ではよく判りませんが、“サマー・ウィンド”は写真でみてもとても素敵です!
どこまでフィクションで、どこまで事実なのか。それは別としても、本作品は極めてエッセイ的な小説です。
読んでいて浮かび上がってくるものは、ノルウェーの景色、そこに住む純朴な人々。
今まであまり知らない土地での話だけに、新鮮に、そして爽やかに感じます。
新しい風を感じる、そんな印象の作品です。

    

4.

●「鉄塔家族」● ★★☆      大仏次郎賞


鉄塔家族画像

2004年06月
日本経済新聞社
(2500円+税)

2007年07月
朝日文庫化
(上下)



2005/01/09



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遠き山に日は落ちてに続く長編小説。
小説家の斎木鮮とその妻の草木染作家・菜穂が引き続き中心的な登場人物ですが、彼ら2人が本書の主人公というのではなく、鉄塔がシンボルとなっている町に住む人たち多くを主人公とした長編作品です。

前作は蔵王山麓での伸びやかな生活を描いていましたが、本作品は場所も変わり、様々な人の生活、様々な家族の在り方がテーマとなっています。
斎木と菜穂、居心地の良い喫茶店のオーナー夫妻、この町に長年単身赴任しているサラリーマン、子供が独立して一人住まいの老婦人、等々。
斎木は以前として離婚した前妻・子供たちとのしがらみを抱えていますが、斎木に留まらず、どの人たちにもこれまでの人生で抱え込んだ何かしらの問題があります。でも、それらに後悔を引きずらず、今在る生活を愛おしんでいる、本書はそんな雰囲気に満ちています。その気分が心地良い。

それまで見知らぬ他人同士だった登場人物たちが、ストーリィ中で様々に交錯し、知り合い、人と人との繋がりを紡いでいきます。また、新しいテレビ塔建設のために町にやってきた鳶職人たちと売店のおねえさんとの間にも、新たな人と人との結びつきが生まれます。
“家族”とは最小単位で“世帯”のことですけれど、鉄塔の上から広く眺めると、その町の住民たちも大きな家族の一員と言えるのかもしれない。そんな懐の大きさが、本書の魅力です。

人と人との触れ合いを喜び、草木の花や、鳥の鳴き声の移ろいを慈しむ。核家族化し、都会化している現代の日本社会において、本書に描かれる町は理想郷かもしれません。

  

5.

●「石の肺−アスベスト禍を追う−」● ★★


石の肺画像

2007年02月
新潮社刊
(1400円+税)

2009年11月
新潮文庫化



2007/04/05



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アスベスト禍については先般ニュースで大きく取り上げられましたが、実際にアスベストを吸った現場での体験者の話は殆どないそうです。理由は単純、そうした現場の職人さんたちは言葉で表現することが苦手だから、というのが佐伯さんの冒頭での説明です。
その佐伯さんは、電気工として働きながら作家を目指したという経歴の持ち主。工事現場で働く中でアスベストを吸い、胸膜炎という持病を負うに至ったということですから、体験を語るといううえでは真にふさわしい人と言えます。
ご本人としても「そうした労働の現場の実際も誰かが書かなければいけない。それは、そうした経歴を経て作家となった自分の仕事なのではないだろうか」と思い始めるようになったとのことです。

アスベスト=石綿といえば、小学校〜中学校の頃理科の実験で身近にあったものであり、役に立つという認識しかなかったものです。それが「静かな時限爆弾」と呼ばれ、こんなにも大きな禍をもたらすものであったという事実には、誰しも驚愕したことと思います。
本文中でいみじくも佐伯さんは「日本の建設現場は中卒の人たちで支えられ」「それを使う現場監督は、たいてい工業高校などの高卒の人間」「そして設計や仕事を発注する役人は大卒」と語っていますが、安全な場にいる人たちが最前線の現場にいる職人さんたちの身をどれだけ真剣に考えたか、という疑問を抱かない訳にはいきません。
現に消防署等の指導にしたがいアスベストが天井や壁に吹き付けられ、現場の職人さんたちは役所から警告されていないから安全の筈だと信じて働いていたのですから。

また、アスベストに関係する仕事をしていた人たちの間では、身体を損ない、若くして死ぬ人が多かった実情から、既に相当以前から危険なものだという認識があったと言います。
その一方で、特別な技能がなくても収入が得られると感謝しつつ仕事に従事した人たちが大勢いたと言います。

アスベストの埃が濛々と舞い上がる天井裏に這いつくばって仕事をしていたという佐伯さんの文章を読むと、いかに危険な場に彼らはいたのかと、底知れない恐ろしさを感じます。
天井裏に吹き付けられたアスベストの埃がダクトによって室内に排出されていたり、家具にアスベスト含みの生地が使われていたりと、この問題は決して特定範囲の人に限られる問題ではない、というのですから。

国の指導で吹き付けた/電気工になった日/二足の草鞋を履く/ヤバイ現場/むなしき除去工事/アスベストとはなにか/時限爆弾はいつか目覚める/何をいまさら/アスベスト禍の原点を訪ねて/どこにでもある不滅の物質/親方との一夜

   

6.

●「ノルゲ Norge 」● ★★       野間文芸賞


ノルゲ画像

2007年06月
講談社刊
(2100円+税)



2007/08/09



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マイシーズンズで四季毎にノルウェーを訪ねた夫婦は、妻の留学により1年間をノルウェーで暮らすことになります。
本書はそのノルウェー、オスロでの一年間の生活を綴った作品。

留学のきっかけは、前書にてオスロにある美術工芸大学でエンブロイダリー(刺繍やアプリケなど布や糸を使った表現の総称)を教えているエディットを知ったことから。
2年間の準備期間を経て、草木染作家であるナホはエディットから学ぶため1年間の留学を決意したという次第。したがって、本書は「マイシーズンズ」に続く作品です。
ナホの夫であり作家のトオルは、妻の留学について来る形でオスロに住むことになったもの。
ノルウェーで何かするという目的がある訳でなく、ただ妻についてきただけ。それも鬱病という病気のため誰かと一緒にいたほうが良いといわれたから、という理由。
それだけに、素直にノルウェーの生活に溶け込もうとしている姿勢が好ましく感じられます。そしてそれは、そのまま読み手が主人公に同化してノルウェー暮らしを体験する気分になる、ということに繋がっています。
何も目的がないからといって世間と没交渉ではありません。妻の同級生の家に招待されたりとそれなりの交際はあり、外国人に対する彼らの温かい気遣いが感じられて嬉しい。
こんな風に一時期を外国で過ごす経験をしてもよかったのだろうなぁ(そんな度胸があったかどうかともかく)と思います。

人口が少ないノルウェーでは、住まいの近くに様々な鳥が来るようですし、街中ではすぐ知り合いに出会うという。
また、冬の日照時間の短さに陰鬱な気持ちになる一方で、夏の白夜にはまた睡眠不足という悩みがあるようです。
サマータイムの切替での難儀、ノルウェーの伝統的な料理ルートフィスク(鱈)は若い人に好かれていないこと、アジアからの移民も多いこと等々、見るもの聞くもの全て珍しい。
それらオスロでの生活、住民との交流が淡々と書かれているところにかえって味わい深さがあります。

※なお、「ノルゲ」とはノルウェー語でノルウェーのこと。ブークモールでは Norge、ニーノシュクでは Noregと記すらしい。

       

7.

●「ピロティ」● 


ピロティ画像

2008年06月
集英社刊

(1300円+税)



2008/06/30



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マンション管理人の仕事内容、苦労を、実際の管理人が後任者に引き継ぐための説明という設定をとって語った、一応小説作品。

マンション管理人というと、入り口の管理人室にずっと座っていればいいぐらいだろうと知らない人は思いますけれど、実はあれこれと面倒なものです。 
最初に私が20年ほど住んだマンションは小規模だったので常駐の管理人はおらず感じませんでしたけれど、一昨年引っ越した現在のマンションは常駐しており、管理人組合の理事も1年間勤めたことから、よく判りました。 
管理人本来の仕事もいろいろと雑事が多いものですが、一番悩まされるのは、面と向かって直接相手に苦情を言うのは厭なので管理人に苦情を言ってくる、というケースではないかと思います。 
もちろんその前提に、ルールを守らない居住者、自分のことは棚に上げて何かと文句ばかりつけてくる居住者の存在、という問題もあります。 
それらの苦労が、引継ぎの説明ということですから、具体的に懇切丁寧に語られていきます。

何はともあれ、良い管理人さんにいてもらわないと、住み心地が良くない、トラブルが多い、ということは起こりがちでしょう。 
マンションに居住している人に本書を読んでもらえると、管理人さんの苦労も少しは判ってもらえて、マンション全体のためにも良いと思うのですが。

  

8.

●「誰かがそれを」● ★★


誰かがそれを画像

2010年01月
講談社刊

(1500円+税)



201
0/03/19



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ささやかで、穏やかな日常の日々。そのヒトコマを書き綴った短篇集。
夫が作家、妻が草木染作家、東北の高台に建つマンションというシチュエーションからは、佐伯さんのこれまでの私小説から続く流れを感じます。
私小説というのは心に馴染み易いものなのでしょうか。佐伯さんの作品を読んでいると、そんな印象を抱きます。

けれど、そんな穏やかな日々にあっても、何かしらの出来事は起こります。年老いてますます頑固になった父親の扱いに苦労する話、夜中に聞こえる正体不明の物音、学生時代の同級生からの突然の電話、等々。
いくら穏やかな日々といっても、何かしらあるのも当然のこと。そんなことがあっても、日々は今まで通り穏やかに過ぎていきます。
だからこそ、このささやかな日々よりが愛おしく感じられるようです。
ケンポナシの実、焼いも、ほととぎすの鳴き声と、季節の移ろいがしみじみと感じられることも、本書の肌触りの良さ。

どれもごく短い、小品と言ってよい短篇集ですが、一篇一篇の味わいは深く、とても心地良い。

※なお、最後の「杜鵑の峯」は、珍しく時代もの。亡き伊達政宗公のことを、傍近くに仕えた者がしみじみと思い出す一篇。

ケンポナシ/誰かがそれを/俺/むかご/かわたれ/焼き鳥とクラリネット/プラットフォーム/杜鵑(ほととぎす)の峯

          

9.

「還れぬ家」 ★★☆          毎日芸術賞


還れぬ家画像

2013年02月
新潮社刊

(2300円+税)

2015年11月
新潮文庫化



201
3/03/22



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主人公の早瀬光二は、少年時代の悪夢や母親の冷たい仕打ちがトラウマとなって今も持病に苦しみながら執筆をつづける作家。再婚したものの今も前妻と子供たちに家の借金をまだ払い続けている身。その妻は草木染め作家の柚子。2人の人物設定はこれまでの作品と共通です。
それなりに平穏な生活を続けていた2人ですが、その2人の生活をかき乱す出来事が起こります。それは実家に住む父親が認知症になったこと。
姉と両親は絶縁状態。兄一家は東京住まい。必然的に近くにいる二男と主人公とその妻である柚子が何かと母親からの懇願を受けて動くことになります。

老いた親の介護問題。今や誰の身にもいつ何時降りかかってきても不思議ない、現代社会における大きな問題。私にとっても他人事ではありません。
しかし、かつて
佐江衆一「黄落を読んだ時のような衝撃はありません。それはもう慣れたということもありますし、本書では仕方ないことと淡々と受け止められている風だから、ということがあります。
それでも淡々と描かれる中で、考えてしまうことが幾つもあります。
・主人公自身が今もなお抱える母親との確執。
・両親とは他人である妻に自分以上に負担をかけていること。
・柚子においては、草木染め作家として自立していながら、世話する上では常に「嫁」と位置づけられることに対するうっ憤。
・そうした要因があっても、認知症となった父親をもはや母親一人に任せておくのは無理であるという事実。

本書を読んで感じたことは、両親が住む実家とは、その家を出て外に家庭を築いた人間にとってもはや帰るべき家ではない、ということ。それは私にとっても言えることです。
その上でどう対処していけばいいのか。まるで自分のことのように感じながら本書を読んでいました。
そしてもう一つ、現実に家を失うという出来事が起こります。3.11東日本大震災。
父親が認知症と宣告されたのが2008年03月11日。そして大震災が2011年03月11日。その2つが同日であったことは象徴的です。
ストーリィは地味で淡々とした展開ながら、胸に残る力作長篇。
お薦めです。

         

10.

「渡良瀬」 ★★☆         伊藤整文学賞


渡良瀬画像

2013年12月
岩波書店刊

(2200円+税)

2017年07月
新潮文庫化



2014
/05/31



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佐伯一麦さんのファンではありますけど、本作品については見落としていました。伊藤整文学賞を受賞したというニュースを知ってさっそく読んでみた次第。
本作品は「海燕」に1993年11月号〜96年09月号まで連載されていたのですが、終刊によって中絶していたものに大幅な訂正加筆を施し、残りを書き下ろしてようやく完結した作品とのこと。

28歳の主人公=南條拓は東京で電気工として働いていましたが、妻と3人の子とともに茨城県古河に引越し、渡良瀬遊水地の近くにある配電盤製造の工業団地内にある工場で工員として働き始めたところ。
自分の暴言を機に緘黙症となってしまった長女、川崎病の長男の為に少しでも良かれ、というのが引っ越しの理由。
ただし、妻の
幸子との関係は微妙で、しっくりいっているとはとても言えない状況。
必ずしも待遇が良い訳ではない中小企業の工員という境遇。そして、いろいろ癖もあるが腕は確かなベテラン工員たちに混じり、ひたすら配線を施していく地味で実直な日々が丹念に描かれていきます。

本書を読んでいると、ごく普通に生きていくことがどんなに大変なことか、ということが実感として伝わってくる気がします。
そんな中で主人公が確かなものとして抱えているのが仕事、それも出来上がりが確かな結果として残る製品であることが主人公を支えているのでしょう。
一見すると大変な仕事でも、一本一本線を繋いでいくことでいつしか仕事として完成する。それは主人公の人生も同じで、時に投げ出したいような衝動を感じる状況であっても、辛抱してひとつひとつ積み上げていくことによって、いつしか先に到達することができる、そんな人生訓を本作品から感じ取れます。

最近は軽いエンターテインメント小説を読むことが多いのですが、久しぶりにこうした私小説的な作品に触れると、じっくり読む楽しさを思い出させらます。
何かドラマがある訳でなし、ただ一工員の地道な日々が描かれるだけなのですが、そこには一人一人実直に生きる人々の群像に触れる嬉しさがあります。その点で本作品は、間違いなく素晴らしい一冊です。お薦め。

※なお、時期設定はちょうど昭和天皇崩御の時。当時の雰囲気を思い出させられて、ふと懐かしくなります。

 

佐伯一麦作品のページ No.2

   


  

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