織守(おりがみ)きょうや作品のページ


1980年英国ロンドン生、国際基督教大学卒、早稲田大学法科大学院修了。元弁護士。2012年「霊感検定」にて第14回講談社BOX新人賞Powersを受賞し、13年同作にて作家デビュー。21年に専業作家となるまでは現役弁護士の傍らで小説を執筆。15年「記憶屋」(京谷名義)にて第22回日本ホラー小説大賞読者賞、21年「花束は毒」にて第5回未来屋小説大賞を受賞。。


1.ただし、無音に限り

2.朝焼けにファンファーレ

3.花束は毒

4.夏に祈りを−ただし、無音に限り− 

5.まぼろしの女−蛇目の佐吉捕り物帖− 

 


     

1.

「ただし、無音に限り ★☆   


ただし、無音に限り

2018年08月
東京創元社

(1600円+税)

2021年12月
創元推理文庫



2022/04/09



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“霊の記憶が視える”という異能をもつ私立探偵を主人公とした連作中編ミステリ2篇。

推理小説の名探偵に憧れて<
天野春近探偵事務所>を開設したものの、主な依頼は浮気調査ばかり。
それでも向かいのビルに事務所のある
朽木弁護士が時々仕事を紹介してくれる。
しかし、霊の記憶が視えるといっても、そう簡単に事件解決に繋がる訳ではない。死者が最後に視たものだけで音声等はなく、不鮮明であればそれまで、という次第。それでもそれを手掛かりに真相解明に奮闘するというストーリィ。

興味どころは霊の記憶、それに基づく事件解決にあるのですが、春近の探偵ぶりは甚だ頼りない。また、事件解決後も余りすっきりしない処があって、読み応えとしては残念ながら今ひとつ。
それでも興味を惹かれるのは、周囲から“変わった子”と言われている
羽澄楓という中学生の存在。中学生らしくないと言えばそのとおりなのですが、洞察力に富んでいて春近とは良いコンビになりそうです。

「執行人の手」
稀代の実業家であった
羽澄桐継が死去。その遺言で遺産の殆どを亡長男の子である中学生の孫=が相続することとなったため、長女の大上桜子から父親の死に不審な処はないか調べてほしいとの依頼。
春近、死ぬ直前の桐継の視たものから、何者かの手の動きに不審を抱くのですが・・・。

「失踪人の貌」
一人で小さな運送会社を経営していた
笠野俊夫が、経営の行き詰まりからか2年前に失踪。
たぶん山の中で自殺している筈という未亡人の
笠野智子から、生命保険を受け取りたいので遺体を発見して欲しいとの依頼。
会社事務所に現れる霊の記憶から、誰かに殺されたのではないかという疑いが生じ、犯人を突き止めようとするのですが・・・。


執行人の手/失踪人の貌

     

2.

「朝焼けにファンファーレ ★★


朝焼けにファンファーレ

2020年11月
新潮社

(1600円+税)



2020/12/30



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司法試験に合格し、法律家として世に出る前の司法修習生期。
司法修習生たちを連作風に描いた4篇。

「人は見かけによらない」は、鳥山法律事務所が舞台。
指導役となった先輩弁護士=
澤田花を語り手公に、茶髪で赤いフレームの眼鏡という。軽薄そうな修習生=藤掛千尋の予想外の活躍が描かれます。
(※この藤掛千尋が、4篇を通じて良い役どころを演じます)
「ガールズトーク」の舞台は家庭裁判所少年部。
語り手は書記官の
朝香夏美、修習生は真面目で熱心な女子修習生=松枝侑季。少年審判にどう法律家は向かい合うべきなのか、松枝が悩みます。
「うつくしい名前」の舞台は、検察庁。
語り手は先輩検察官である
君塚、修習生は19歳で予備試験合格、そのまま司法試験も合格し“天才少年”と呼ばれる柳祥真
赤ん坊を産んではすぐ扼殺していた女性にどれだけの量刑を求めるべきなのか・・・柳たちが問われます。

それぞれ面白さはあっても、ここまでなら単に“お仕事前小説”に過ぎないと感じていたのですが、そうした感想を一変させたのが、最後の
「朝焼けにファンファーレ」
舞台は、集合修習が行われる和光市の司法研修所。
語り手は修習生の一人、
長野
演習の中では、修習生たちが裁判官、検察官、弁護士チームに別れ(被告人、証人役等もあり)、模擬裁判が行われる予定。
その前、ネット上に不審なブログ発言、寮内に事件が発生し、模擬裁判上の事件、修習生たちの間で起きた現実の事件に対する謎解きが行われるという、ミステリが楽しめます。

最後は、修習を無事に終え、いよいよ法律家としてデビューする直前という、卒業式のような雰囲気がもたらされます。
その辺りが実に爽快。
題名の意味が快く得心できて、気持ちよく読了しました。

1.人は見かけによらない/2.ガールズトーク/3.うつくしい名前/4.朝焼けにファンファーレ

           

3.

「花束は毒 A Bouquet and a Venom ★★       未来屋小説大賞


花束は毒

2021年07月
文芸春秋

(1700円+税)

2024年01月
文春文庫


2021/08/13


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主人公の木瀬芳樹は大学生。
偶然、昔の家庭教師だった
真鍋研一に再会しますが、当時医学部生だった真鍋、今は何故かインテリアショップの店長。

その真鍋の元に「結婚をやめろ」という脅迫状が度々届いていることを知った木瀬は、探偵事務所で調べてもらおうと真鍋に勧めますが、なぜか尻込みしている様子。
その理由は、4年前に起きた事件が関わっていた。

木瀬が紹介した探偵は、かつて中学の1年先輩だった
北見理花。当時、様々な相談に応じていた彼女は、イジメに遭っていた従兄の苦境を見事に救ってくれた、という思い出あり。
決意した木瀬は、真鍋に代わって北見に調査を依頼。その経緯から、北見の調査に同行して事件解決に挑むことになります。

本作の面白さは、若き女性探偵=北見理花の探偵ぶりにある、と言って間違いないでしょう。
探偵による調査仕事とはこんな風に行われるのか、その辺りの展開が実に面白い。
そして、明らかになった真相は実に驚くべきもの。同時に、思わず怖い!と震えあがってしまうようなもの。
最後、どちらに転ぶかは登場人物の選択次第、という結末の付け方が余韻を深くしています。

北見理花の探偵キャラクターが魅力いっぱい。是非再会したいものです。

     

4.

「夏に祈りを−ただし、無音に限り− ★☆   


夏に祈りを

2022年03月
東京創元社

(1700円+税)



2022/05/01



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“霊の記憶が視える”探偵=天野春近と、中学生とは思えない観察力と分析力をもった羽澄楓のコンビによる謎解きを描く、ただし、無音に限りの続編。

春近と楓がきちんとコンビ化したことで前作より面白くなることを期待したのですが、残念ながら今ひとつ。
そもそも霊の姿を視ることはできるものの声や音を聞くことは出来ない、ということにストーリィ展開の難しさがあるのかも、と思います。
まず、霊を見る、その場所で眠ることによって死者にとって印象深かった光景を見ることができる、とは言っても断片的。
したがって、最後の光景を見ようとするだけでもかなりの労力を使ってしまうのですから。

今回は保育園が舞台。
羽澄家の家政婦である小池から頼まれ、その友人である保育園の園長=里中の相談に春近が乗る処から始まります。
その問題とは、保育園児の
松岡悠樹・4歳のこと。
我慢強くて良い子なのだけれど、怪我が絶えず、といって父親との関係は良好、虐待は考えられない。でも何か気になる、というもの。
春近と楓、ボランティアの手伝いとして保育園に入り込み、里中が気にすることの正体を探ろうとするのですが、悠樹の仲の良い保育園児の事故死を知らされ・・・。

結局、結末としてそれだけで良いのか、という疑問点を感じてしまう処が、読後感としてもすっきりせず。

            

5.
「まぼろしの女 She Who Disappeared −蛇目の佐吉捕り物帖− ★★


まぼろしの女

2024年08月
文藝春秋

(1800円+税)



2024/09/29



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時代物、本格ミステリ。
探偵役は、名岡っ引きで人々の信望も厚かった亡父から、岡っ引きを継いだばかりの
佐吉、20歳。(※蛇目は根付から)
その佐吉の貴重な相棒となり、事件解決を手助けする幼馴染が、腕利きの町医者である
浅葉秋高、という次第。

度々起こる奇妙な事件。その解決は佐吉の手に委ねられ、佐吉と秋高の二人が、どのようにしたらそうした事件が起こり得るのかと考えをめぐらせた(仮説)結果、ついに真相を突き止める、という趣向です。

「まぼろしの女」:裸に剥かれ髪も切られた若い女の死体が川から引きあげられる。身体中を酷く殴られ、顔も様変わりしていて身元不明。殺された女はいったい誰なのか。
「三つの早桶」:御家人=内藤左膳の屋敷で、賊が妻女と出入りの貸本屋を斬り殺し、帰宅した左膳がその賊を斬り捨てるという事件が発生。佐吉は恩人である鳶の千次親方から真相の調査を頼まれます。
「消えた花婿」:大店の娘・息子の縁談が成立、上方の本家へ挨拶に向かう途中、娘は首無し死体となり、息子は行方不明になるという事件が発生。その真相は・・・。
「夜、歩く」:6人の命を奪った“二十四銭文の辻斬り”。
佐吉の元に、奉行所与力=山内大膳の次男が怪しいという情報がもたらされますが・・・。
「弔いを終えて」:別宅で病気療養中だった千次親方が、腹心の源七と共に刺殺されるという事件が発生。しかし、何故匕首が二つ現場に残されていたのか?

表題作
「まぼろしの女」は、W・アイリッシュの名作幻の女を彷彿させる一篇。
その他、「夜、歩く」と「弔いを終えて」2篇の題名も、カー「夜歩く」、クリスティ「葬儀を終えて」のもじりとのこと。
本格ミステリを目指した織守さんの意欲を感じさせられます。

時代小説ですが、謎に現代的な問題も織り込まれています。
私としては
「まぼろしの女」「消えた花婿」の2篇がお薦め。

まぼろしの女/三つの早桶/消えた花婿/夜、歩く/弔いを終えて

       


   

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