|
|
1.本にだって雄と雌があります 2.残月記 3.禍(わざわい) |
「本にだって雄と雌があります」 ★★ | |
2015年09月
|
本にも雄と雌があり、書庫の中で交合し新たな本を生み出す。だから見覚えのない本がどんどん増え、本は家一杯に溢れだすのである、というのが深井與次郎の回りくどい言い訳である、という文章から始まるストーリィ。 読み始めは何が何だか判らず面喰ったまま。ようやくストーリィの骨子が判って面白く感じられるようになったのは、かなり読み進んでからです。 奇妙奇天烈な語りで読み手を翻弄する辺り森見登美彦さんを連想させられますが、主観的な妄想ではなく、饒舌な言葉で読み手を引きずり回し珍妙な世界に溺れさせるのも厭わず、といった風ですから全く別の異色さです。 |
2. | |
「残月記」 ★★ 日本SF大賞 |
|
2024年11月
|
月をモチーフにした異世界を描く中編×2&長編×1。 異世界というとファンタジーということになりますが、本書、楽しい感じのファンタジー作ではありません。 月の存在感、イメージに相応しく、蒼く、陰という雰囲気が漂うとともに、冷え冷えとして研ぎ澄まされた印象あり。 ・「そして月がふりかえる」 家族でファミレスへ行った夜、月にちょっとした変化が。 するとその結果、大学教授である大槻高志の身に信じられないことが起きます。そこは裏返った世界なのか・・・。 ホラーというには余りに恐ろしく、かつ絶望的です。 ・「月景石」 叔母が遺した月景石を枕の下に入れて寝た澄香、気づくと自分は月世界に。しかもそこでは、胸に石を抱えているイシダキたちに対して惨劇が繰り広げられていた。自身もイシダキの一人。 再び自宅に戻った澄香が目にしたものは・・・。 最後の景色は衝撃的。そんなことがあって良いのか、と。 ・「残月記」 未来世界、そこでは<月昂>という感染症が広まり、独裁国家した日本において感染者=月昂者は隔離の憂き目にあっていた。 児童養護施設育ちで木工所で働いていた宇野冬芽も、月昂者となった一人。彼の生涯を描いた長編。 生い立ち、そして発症・収容後<剣闘士>の道を選び、<勲婦>であるルカこと山岸瑠香と出会う。 本篇は過酷な運命を剣闘士となって生き抜こうとする冬芽の闘いと、瑠香との長い恋愛ストーリィ。 会えなくなってからの2人の結びつきに、何時までも余韻が残ります。 ただ、余韻が深い一方、それまでのストーリィ展開は何の意味があったのだろうか、とも思います。 そして月がふりかえる/月景石/残月記 |
3. | |
「禍(わざわい」 ★☆ |
|
|
奇妙、奇怪、そしておぞましいばかりの7篇。 よくまぁ、こんな話を思いつくことができるなァと、感心というより呆れるばかりですが、各篇、本当に凄まじい。 各篇に共通するのは、身体、でしょうか。 「食書」は食欲、「耳もぐり」は文字どおり耳、「柔らかなところへ帰る」は肉の塊、「農場」は鼻、「髪禍」は髪、「裸婦と裸夫」は裸体。 「食書」と「耳もぐり」まではまだストーリィに付いていけましたが、「柔らかなところへ帰る」と「農場」「髪禍」辺りになるともう、奇怪でおぞましいばかり。 「食書」、こんなことをしていたら身体に変調を来たしそうですし、第一食い切れるのか、と思ってしまいます。 「農場」における鼻、ゴーゴリ「鼻」ではないですけれど、どうも鼻って独り歩きする傾向がありますね。 「柔らかなところへ帰る」は、奇想もここまで来るともう呆然としてしまう他ありません。 「髪禍」、とにかく気持ち悪い・・・・。 発想の凄まじさを感じる短篇集。 本作を気に入るかどうかは、読者の好み次第でしょう。 食書/耳もぐり/喪色記/柔らかなところへ帰る/農場/髪禍/裸婦と裸夫 |