小田雅久仁
(まさくに)作品のページ


1974年宮城県仙台市生、関西大学法学部政治学科卒。2009年「増大派に告ぐ」にて第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し作家デビュー。23年「残月記」にて第43回日本SF大賞を受賞。


1.本にだって雄と雌があります

2.残月記 

3.
(わざわい) 

  


     

1.

本にだって雄と雌があります」 ★★


本にだって雄と雌があります画像

2012年10月
新潮社

(1800円+税)

2015年09月
新潮文庫化



2012/11/08



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本にも雄と雌があり、書庫の中で交合し新たな本を生み出す。だから見覚えのない本がどんどん増え、本は家一杯に溢れだすのである、というのが深井與次郎の回りくどい言い訳である、という文章から始まるストーリィ。
てっきり書庫の世界、本が主役となるストーリィかと予想していたら、話はどんどん逸れていき、ついアレレと面喰ってしまった次第。
本書において本は主役ではなく、本の蒐集家である深井與次郎こそが主人公。
ただし、直接與次郎が主人公となるのではなく、その與次郎を母方の祖父とする
が、息子の恵太郎に曾祖父のことを語って聞かせるという入り組んだ設定。時間軸は自在に前後し、都合4代にまたがるストーリィへと膨らみます。

読み始めは何が何だか判らず面喰ったまま。ようやくストーリィの骨子が判って面白く感じられるようになったのは、かなり読み進んでからです。
ですから何がどうなっているのか理解ができなくても、構わず強引に読み進んでしまいましょう。そうすれば何時か視界は晴れる筈。

奇妙奇天烈な語りで読み手を翻弄する辺り森見登美彦さんを連想させられますが、主観的な妄想ではなく、饒舌な言葉で読み手を引きずり回し珍妙な世界に溺れさせるのも厭わず、といった風ですから全く別の異色さです。
幻書がバタバタと鳥のように空を飛び、白い象が何処からか現れるという、綺譚尽くし。
それでも書物好きの人間であれば、書物のことなら何でもあれと受け入れられ、楽しめるのです。
そんな珍妙で不思議な面白さを味わえる一冊。

       

2.

「残月記 ★★        日本SF大賞


残月記

2021年11月
双葉社

(1650円+税)

2024年11月
双葉文庫



2022/03/19



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月をモチーフにした異世界を描く中編×2&長編×1。

異世界というとファンタジーということになりますが、本書、楽しい感じのファンタジー作ではありません。
月の存在感、イメージに相応しく、蒼く、陰という雰囲気が漂うとともに、冷え冷えとして研ぎ澄まされた印象あり。

「そして月がふりかえる」
家族でファミレスへ行った夜、月にちょっとした変化が。
するとその結果、大学教授である
大槻高志の身に信じられないことが起きます。そこは裏返った世界なのか・・・。
ホラーというには余りに恐ろしく、かつ絶望的です。

「月景石」
叔母が遺した月景石を枕の下に入れて寝た
澄香、気づくと自分は月世界に。しかもそこでは、胸に石を抱えているイシダキたちに対して惨劇が繰り広げられていた。自身もイシダキの一人。
再び自宅に戻った澄香が目にしたものは・・・。
最後の景色は衝撃的。そんなことがあって良いのか、と。

「残月記」
未来世界、そこでは<月昂>という感染症が広まり、独裁国家した日本において感染者=月昂者は隔離の憂き目にあっていた。
児童養護施設育ちで木工所で働いていた
宇野冬芽も、月昂者となった一人。彼の生涯を描いた長編。
生い立ち、そして発症・収容後<剣闘士>の道を選び、<勲婦>である
ルカこと山岸瑠香と出会う。
本篇は過酷な運命を剣闘士となって生き抜こうとする冬芽の闘いと、瑠香との長い恋愛ストーリィ。
会えなくなってからの2人の結びつきに、何時までも余韻が残ります。

ただ、余韻が深い一方、それまでのストーリィ展開は何の意味があったのだろうか、とも思います。

そして月がふりかえる/月景石/残月記

         

3.

「禍(わざわい ★☆   


禍

2023年07月
新潮社

(1700円+税)



2023/08/10



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奇妙、奇怪、そしておぞましいばかりの7篇。
よくまぁ、こんな話を思いつくことができるなァと、感心というより呆れるばかりですが、各篇、本当に凄まじい。

各篇に共通するのは、身体、でしょうか。
「食書」は食欲、「耳もぐり」は文字どおり耳、「柔らかなところへ帰る」は肉の塊、「農場」は鼻、「髪禍」は髪、「裸婦と裸夫」は裸体。

「食書」と「耳もぐり」まではまだストーリィに付いていけましたが、「柔らかなところへ帰る」と「農場」「髪禍」辺りになるともう、奇怪でおぞましいばかり。

「食書」、こんなことをしていたら身体に変調を来たしそうですし、第一食い切れるのか、と思ってしまいます。
「農場」における鼻、ゴーゴリ「鼻」ではないですけれど、どうも鼻って独り歩きする傾向がありますね。
「柔らかなところへ帰る」は、奇想もここまで来るともう呆然としてしまう他ありません。
「髪禍」、とにかく気持ち悪い・・・・。

発想の凄まじさを感じる短篇集。
本作を気に入るかどうかは、読者の好み次第でしょう。

食書/耳もぐり/喪色記/柔らかなところへ帰る/農場/髪禍/裸婦と裸夫

 


  

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