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いつか陽のあたる場所で、犯意、すれ違う背中を、禁漁区、いちばん長い夜に、新釈にっぽん昔話、水曜日の凱歌、美麗島紀行、六月の雪 |
「家裁調査官・庵原かのん」 ★★ Family Court Investigating Officer Kanon Iohara |
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2025年02月
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家裁調査官が主人公とは珍しい。まずそこからして、興味津々です。 しかし、本ストーリィは、そんな軽薄な関心が恥ずかしくなるような内容です。 家裁調査官に求められるのは“人間力”だと言う。 本作を読み進むと、その意味が分かります。 当然ながら少年犯罪(14〜19歳)が題材になっていますが、少年犯罪の起きる理由は、やはり家庭環境、両親との関係が大きいのでしょうか。 ただ、一口に家庭環境等といっても、それぞれに様々ですし、本人や関係者からの話をよく聴き、そこに潜んでいるかもしれない真相を察知し、少年たちに寄り添うという姿勢が重要。 通常に事件ものであれば、謎解きをして真犯人を明らかにしてしまえばそれで終わりますが、少年犯罪ではそれで終わりません。真相を知るのも、少年たちを如何にして救い、如何にして更生させるかの為である、ということが大きく異なります。 主人公となるのが、現在福岡地裁北九州支部の少年係調査官である庵原(いおはら)かのん、35歳の独身。 恋人である栗林は動物飼育員でニシゴリラが担当という元中学同級生で、東京・福岡という遠距離恋愛。 援助交際を取り上げた「沈黙」も衝撃的でしたが、女性への猥褻行為で逮捕された高校生が緘黙する「アスパラガス」とペルー人の父親とフィリピン人の母親とのコミュニケーションが問題となる「パパスの祈り」は、見過ごせない重要な問題と感じます。 一方で、救われる思いがしたのは、「野良犬」と「おとうと」の2篇。 少年犯罪とそれに対応する家裁調査官について、実に学ぶことの多い一冊。 無暗に解決させようとするストーリィではない処に好感。 本作、シリーズとなるようです。今後、楽しみです。 ※家裁調査官を扱った作品、他に柚木裕子「あしたの君へ」も。 自転車泥棒/野良犬/沈黙/かざぐるま/パパスの祈り/アスパラガス/おとうと |
「雫の街−家裁調査官・庵原かのん−」 ★★☆ | |
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“家裁調査官・庵原かのん”シリーズ第2弾。 前作の内容が良かっただけに、第2弾刊行はとても嬉しいことです。内容もまた、グレードアップした印象。 まず冒頭、主人公である庵原かのんにおける変化がいろいろ語られます。 福岡地裁北九州市部から横浜家裁加浅木中央支部に異動、担当も少年部から家事部に変わります。 そしてコロナ感染が広がるという情勢を受けて、この際と遠距離恋愛が続いていた栗林とついに入籍。 前作のストーリィも読まされましたが、<家事調停>となると対象が大人になるだけに、余計に厄介。 普通に家庭生活を送っている身からすると、こんな酷い揉め状態があるのかと驚かされますが、それにもかかわらず冷静に話を聞き、双方にとって良い方向へ導こうとする家裁調査官たちの忍耐力には驚嘆します。 余程の人間力がないとこの仕事は務まらないことでしょう。 作品中でも、裁判所という法律を扱う場所で、調査官だけは人間そのものと向き合う臨床家という立ち位置にあると語られています。 栗林との結婚、彼の作る料理も、かのんを支えているようです。 ・「幽霊」:記憶喪失の男性から戸籍取得の申立事件。 ・「待ちわびて」:妻からの失踪宣告(死亡扱)申立事件。 ・「スケッチブック」:離婚調停事件。8歳の娘は義父から本当に性的悪戯を受けていたのか? ・「引き金」:60代妻からの離婚調停申立事件。どんな事情? ・「再会」:離婚して父親側に引き取られた子ども2人との、母親からの面会交流調停申立事件。子どもたちの胸の内は? ・「キツネ」:離婚した妻に対する慰謝料請求調停申立事件。 まるでミステリorサスペンスドラマの如し。 ・「はなむけ」:内縁関係解消調停申立事件。 妻は飲み屋経営、夫は交通事故の賠償金で借金、10代の子ども2人はそれぞれ事件を起こして鑑別所入り。どうしようもない家族と思われるところですが、かのんは妻の胸の内に入り込み・・・ ※各章に毎回登場する「常連客、こじらせ屋」と皆から呼ばれる男性の存在が面白い。どうしようもない輩もいるものです。 家庭が崩壊すると深刻な影響を受けるのは、子どもたち。 だからこそ、かのんたち調査官の役割は重大なのでしょう。 深い読み応えを感じる一冊。 本シリーズ、乃南アサさんのライフワーク作になるに違いありません。今後に期待大です。 幽霊/待ちわびて/スケッチブック/引き金/再会/キツネ/はなむけ |
「緊立ち−警視庁捜査共助課−」 ★★☆ | |
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乃南さん久々の警察小説。なんと13年ぶりとのこと(私としては17年ぶり)。 その本作、すこぶる面白い! 何故13年もの長い間、警察小説を書いていなかったのだろう、と不思議に思うくらい。 一般的に警察ものというと、<事件発生→捜査→犯人逮捕>というストーリィ展開を予想するのですが、本作は違います。 指名手配されている犯人を逮捕する、というのが本ストーリィ。それこそ、如何にも警察らしい仕事ではないですか。 本作に登場するのは、警視庁捜査共助課に所属する刑事たち。 この共助課には<見当たり捜査班>と<広域捜査共助係>があり、前者は街中に佇んで通行者の中から指名手配されている者を見つける(「見当てる」)という捜査手法。 (何と 700人以上の手配写真を記憶しているのだという) そして後者は、様々な手掛かりから逃走している犯人を追う、という捜査手法と、対照的。 そのそれぞれの捜査手法によって、次々と犯人を逮捕していく様子が描かれるのですから、これはもう楽しみたっぷり。 それらの刑事の中でダブル主役と言えるのが、見当たり捜査班の中でも突出した才能を持つ若い川東小桃、広域捜査共助係の警部補である佐宗燈という二人の女性。 小桃にやたら懐かれて、厄介と思いながらその愚痴の聞き役になってやっている燈の面倒見の良さ、二人の関係が楽しい。 そして本作で描かれるのは犯人逮捕だけではありません。 夫婦関係、離婚、別居、親の介護問題と、それぞれの家族ドラマも描かれているところが、刑事もまたごく普通の人間であり、家庭人でもあることが示されていて、こちらも読み応えたっぷり。 実際の頁数以上に堪能できる警察小説。是非お薦めです。 また、乃南さんには、是非続巻を期待したい処です。 |
「マザー」 ★★ | |
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家庭を持つ平均的な男性は、まずサラリーマン等働く人という姿があり、次いで父親という姿があるのでしょう。 それに対して女性の場合、結婚して子供がいるとなると「母親」という姿で見られてしまう。 今の時代は少し違うのかもしれませんが、私の世代の母親となると、専業主婦=母親であり、ともあれ「○○のお母さん」ということになったのだろうと思います。 本作は、そんな「母親」像に隠された、女性たち本来の姿を描き出した連作短編集。 母親とは別に、一人の女性としての姿がある、というのは今にして思えば当然のことではありますが、昔は世界が狭かった(家庭が中心)なァと思います。 ・「セメタリー」:祖父母、そして父親も死去した後、初めて息子に語った母親の本音とは・・・・。 ・「ワンピース」:母親とずっと同居していたウツ病の兄、母親が死去してすぐ実行したことは・・・・。 ・「ビースト」:23歳の時に家を飛び出した娘が、男児2人を抱えたシングルマザーとなって押しかけてくる。自分の都合次第に実家・母親を利用しようとする娘はいったい・・・。 ・「エスケープ」:胎児の頃から母親のキンキン声に悩まされてきた陽希は、早く逃げなきゃという思いが常に・・・。 ・「アフェア」:主人公は熟年離婚され、マンションの住み込み管理人となった滝本。住人の老女=佐野さんは、娘が結婚して家を出て一人になった途端、服装や行動が派手になり・・・。 「セメタリー」「アフェア」に登場する母親の気持ち、分かるなぁ。もちろん私は、拘束などしていないと思いますけど。 セメタリー/ワンピース/ビースト/エスケープ/アフェア |
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