|
|
1.最後の証人 2.検事の本懐 3.あしたの君へ 4.合理的にあり得ない 5.検事の信義 6.ミカエルの鼓動 |
「最後の証人 The Last Witness」 ★★ | |
2011年06月 2018年06月
|
“佐方貞人”シリーズ第一作。 主人公の佐方は既に検事を辞めていて、刑事専門の弁護士。 でも儲かってはいない。何故なら、報酬の多寡よりも事件が面白いかどうかで引き受けるから。 検事時代を描いたシリーズ続刊を読んでいて何やら腑に落ちていなかった事々、それが本作を読めば明らかになるという点で、やはりシリーズの原点といって良い作品です。 まぁ、私が本作を読まないまま続刊に手を出していた、という所為なのですが。 男女関係の縺れから、密会場所であったホテルの一室で殺人事件が発生。 しかし、容疑者は無罪を主張。物的証拠も状況証拠も揃い、佐方の後輩とも言うべき若い女性検事の庄司真生が絶対の自信を持つ中、何故佐方は弁護を引き受けたのか。 そして事件の真相は・・・。 読者が予想した以上の仕掛けを何層にも巡らせ、あっと驚かされるストーリィでしたけれど、ヤラレタ!という思いがそのまま感動に繋がるかというと、率直に言ってそこまでには至らず。 それでも、今後の佐方貞人の活躍を十分予想させてくれる作品になっていました。 佐方シリーズ、検事時代が終われば弁護士時代に引き継がれて続くのでしょうか。そうであって欲しいと期待します。 夜間の法科大学院に通う佐方事務所の事務員=小坂千尋にもまた会いたいですし。 プロローグ/公判初日/公判二日目/公判三日目/判決/エピローグ |
「検事の本懐」 ★★ 大藪春彦賞 | |
2018年07月
|
久し振りに堪能した法曹ミステリ。 柚月裕子作品、以前から一応知ってはいたのでもっと早く読めばよかったと思う処なのですが、それはそれでいろいろ経緯もあった訳で今頃になってではあっても読めたことは満足です。 長編「最後の証人」でヤメ検弁護士として登場した佐方貞人シリーズの2冊目。時代は遡り、検事時代の佐方が関わった事件を描いた短篇集。 シリーズものミステリが魅力的かどうかは、主人公のキャラクターにかかっています。結果的に、佐方という人物を知るには本作から読んだ方が良いのかも、と思う次第です。 その佐方、外見はぼさぼさ頭によれよれのシャツ、スーツとまるでだらしないもの。でも、あいつは「事件を起こす人間を見るんです」と検察の上司らから評価されている。 「樹を見る」は、連続放火魔事件。捕まった犯人はその中の1件だけは自分ではないと否定。その真相は・・・。 「罪を押す」は、常習窃盗犯が出所直後に起こした事件。でも佐方は何故か捜査に時間を掛ける・・・それは何故か。 「恩を返す」は、高校時代の同窓生からの個人的な依頼。結婚間近だが現職警察官から強請られているという・・・。 「拳を握る」は、国会議員の贈収賄事件。特捜本部に各地から検事・事務官が応援に駆り出されます。大事なのは検察の威信か、それとも真実か・・・。 「本懐を知る」の主役は、業務上横領罪で逮捕され獄中で病死した元弁護士=佐方貞夫の父親である佐方陽世の事件を、14年後の今になって雑誌ライターが調べ始めるという篇。 各篇のドラマそのものにも引き込まれるのですが、その一方で本来の主役である佐方貞人を立体的に描き出す、という2重構造に読み応えがあります。 各篇、第三者の目から佐方貞人を描き出すという形を取っていると同時に、順次その過去に遡っていくという手法によりその生い立ちを語るという、佐方貞人自身をミステリに対象に据えたような巧妙な趣向。 2重、3重にも楽しめる連作ミステリに成っていて、お見事。 1.樹を見る/2.罪を押す/3.恩を返す/4.拳を握る/5.本懐を知る |
3. | |
「あしたの君へ」 ★★ | |
2019年11月
|
裁判所職員採用試験に合格して家裁調査官に採用されると、2年間にわたる合同研修〜実務修習を受けるそうです。その間の身分は「家裁調査官補」、通称“カンポちゃん”と呼ばれるのだそうです。 家裁が取り扱う事件となると、少年事件と家事事件(家庭に関する事件)。 家裁調査官という見慣れぬ職業に視点を置いたところが新鮮。 「背負う者」:17歳の少女は何故窃盗犯罪に手を染めたのか。 |
「合理的にあり得ない−上水流(かみづる)涼子の解明−」 ★☆ |
|
2020年05月
|
罠にはめられて弁護士資格を剥奪された美貌の元弁護士、上水流涼子が活躍する連作エンターテインメント。 弁護士時代に受けていた表仕事と逆に、表にはできない依頼事を引き受ける、というのが涼子の新しい仕事(ただし、「殺し」と「傷害」以外)。 元弁護士が主人公であるからには法律絡みの巧妙な仕掛けと迫真の攻防がある筈と思い込み期待したのですが、結果からいうと、期待外れ。 涼子の美貌と度胸、助手である貴山伸彦の IQ140という天才的な頭脳でターゲットを罠にはめ、依頼人の望みを果たす訳ですが、それだけに留まるという印象です。 したがって、逆転の痛快さも、仕掛けにおける面白さも、今ひとつという処です。 ・「確率的にあり得ない」は、予知能力を謳う詐欺師との対決。 ・「合理的にあり得ない」は、資産家夫人を騙して金を巻き上げている霊能力者の正体は? ・「戦術的にあり得ない」は、暴力団組長の賭け将棋に<上水流エージェンシー>が巻き込まれます。 ・「心情的にあり得ない」は、涼子を罠にはめ弁護士資格を剥奪せしめた人物から何と仕事の依頼が・・・。 ・「心理的にあり得ない」は、野球賭博に絡む詐欺。 気軽に楽しめる犯罪ものエンターテインメントではあります。 確率的にあり得ない/合理的にあり得ない/戦術的にあり得ない/心情的にあり得ない/心理的にあり得ない |
「検事の信義 The Public Prosecutor's Faith」 ★☆ | |
|
“佐方貞人”シリーズ4作目。 舞台は引き続き米崎地方検察庁公判部。佐方は任官5年目という設定です。 キャラクター像は変わらず。 検事としての信義は“罪をまっとうに裁かせること”。 それこそ検事の本分であり、とくに問題になることはないと思う処ですが、検察の威信、面目を最重要とするベテラン検事らと対立することも度々。それでも佐方は、検察の面目より真実を明らかにすることこそ大事と何ら気に掛けません。 そんな佐方を支えるのは、佐方の上司である公判部の副部長=筒井義雄。検事としての佐方を高く買い、その思い切った行動を後押しします。 もう一人は担当事務官の増田陽二。佐方の行動ぶりに、検察庁内部での立場が悪くなるのではと心配しながら、その洞察力に感嘆するのが常。本巻でもこの増田事務官が語り手となります。 本巻も短編連作。 ・「裁きを望む」:住居侵入および窃盗罪で起訴された庶子の被告、アリバイがありながら何故公判までその事実を主張しなかったのか。 ・「恨みを刻む」:昔馴染みの男がまたもや覚せい剤所持と警察に通報したスナックのママ。そこに隠された事情は? ・「正義を質す」:宮島の高級旅館一泊に誘って来た修習生同期の検察官。嘘をついてまで佐方を誘ってきた木浦の目的は? ・「信義を守る」:認知症の母親を殺害した容疑で逮捕された息子。その事実関係に疑問を抱いた佐方が母子の事実関係を自ら調査すると、道塚昌平の供述と事実はことごとく相違する。何故昌平は嘘の供述をしたのか。この事件において佐方、刑事部のベテラン検事と対立。増田が佐方の立場をしきりに心配します。 なお、佐方貞人のヘビースモーカーぶりは相変わらずですが、最近の時勢からすると違和感があるなぁ。 裁きを望む/恨みを刻む/正義を質す/信義を守る |
「ミカエルの鼓動 The Justice of St.Michael」 ★☆ | |
|
手術支援ロボット<ミカエル>を巡る医療サスペンス。 主人公の西條泰己は、北海道中央大学病院の循環器第二外科科長の職にあり、<ミカエル>支援下手術の第一人者と評価される外科医。 しかし、<ミカエル>による手術で北中大病院の勢力拡大を目論んでいた病院長=曽我部は何故か、ドイツの専門病院で高い評価を得ていた心臓外科医=真木一義を循環器第一外科科長に招聘する。一体、曽我部は何を企んでいるのか。 折しも、先天性心疾患を克服したものの再び「僧帽弁閉鎖不全症」という病状を起こした少年=白石航(わたる)・12歳の手術依頼が北中大病院に寄せられるが、ミカエルによる手術で対応するかどうかを巡り、真木と西條は対立することになります。 さて、その結果は・・・。 一方、<ミカエル>には欠陥があると主張するフリー記者が西條の前に現れ、さらに西條と共に<ミカエル>による手術を推進していた若手医師について、手術ミス〜辞職〜自害という知らせが西條の元にもたらされます。 一体、<ミカエル>にどんな問題があったのか。 あたかも手術支援ロボットの利用にかかる是非、危険の有無、といった展開になっていますが、外科手術におけるロボット技術の利用を否定するべきではないでしょう。患者、外科医双方にとってプラスであれば肯定すべき、それでも技術の向上という課題は常に残されている、と言うべきなのでしょう。 西條医師が、自分の功績作りに惑わされず、医師本来の責任を見失うことのなかったことが救いです。 医療の実施者という点で、西條や真木だけでなく、看護師等にも誠実かどうかを問う部分があり、評価したいと思う処です。 ただし、ストーリィとしては余計な部分があるようにも感じられます。 プロローグ/第1章〜第9章/エピローグ |