柚月裕子(ゆづきゆうこ)作品のページ


1968年岩手県生、山形県在住。2008年「臨床真理」にて第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し作家デビュー。13年「検事の本懐」にて第15回大藪春彦賞、16年「孤狼の血」にて第69回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門を受賞。


1.検事の本懐

2.あしたの君へ

3.合理的にあり得ない

 


               

1.
「検事の本懐 ★★          大藪春彦賞


検事の本懐

2011年11月
宝島社刊

(1429円+税)



2016/09/10



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久し振りに堪能した法曹ミステリ。
柚月裕子作品、以前から一応知ってはいたのでもっと早く読めばよかったと思う処なのですが、それはそれでいろいろ経緯もあった訳で今頃になってではあっても読めたことは満足です。

長編
「最後の証人」でヤメ検弁護士として登場した佐方貞人シリーズの2冊目。時代は遡り、検事時代の佐方が関わった事件を描いた短篇集。
シリーズものミステリが魅力的かどうかは、主人公のキャラクターにかかっています。結果的に、佐方という人物を知るには本作から読んだ方が良いのかも、と思う次第です。
その佐方、外見はぼさぼさ頭によれよれのシャツ、スーツとまるでだらしないもの。でも、あいつは
「事件を起こす人間を見るんです」と検察の上司らから評価されている。

「樹を見る」は、連続放火魔事件。捕まった犯人はその中の1件だけは自分ではないと否定。その真相は・・・。
「罪を押す」は、常習窃盗犯が出所直後に起こした事件。でも佐方は何故か捜査に時間を掛ける・・・それは何故か。
「恩を返す」は、高校時代の同窓生からの個人的な依頼。結婚間近だが現職警察官から強請られているという・・・。
「拳を握る」は、国会議員の贈収賄事件。特捜本部に各地から検事・事務官が応援に駆り出されます。大事なのは検察の威信か、それとも真実か・・・。
「本懐を知る」の主役は、業務上横領罪で逮捕され獄中で病死した元弁護士=佐方貞夫の父親である佐方陽世の事件を、14年後の今になって雑誌ライターが調べ始めるという篇。

各篇のドラマそのものにも引き込まれるのですが、その一方で本来の主役である佐方貞人を立体的に描き出す、という2重構造に読み応えがあります。
各篇、第三者の目から佐方貞人を描き出すという形を取っていると同時に、順次その過去に遡っていくという手法によりその生い立ちを語るという、佐方貞人自身をミステリに対象に据えたような巧妙な趣向。
2重、3重にも楽しめる連作ミステリに成っていて、お見事。
 
1.樹を見る/2.罪を押す/3.恩を返す/4.拳を握る/5.本懐を知る

   

2.
「あしたの君へ ★★


あしたの君へ

2016年07月
文芸春秋刊
(1500円+税)



2016/08/30



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裁判所職員採用試験に合格して家裁調査官に採用されると、2年間にわたる合同研修〜実務修習を受けるそうです。その間の身分は「家裁調査官補」、通称“カンポちゃん”と呼ばれるのだそうです。
本書は、2人の同期生と共に九州の福森家裁に配属されたカンポちゃん=
望月大地を主人公に、大地が扱った4つ事件とそれらを通じて大地が成長していく姿を描いた連作風長編ストーリィ。

家裁が取り扱う事件となると、少年事件と家事事件(家庭に関する事件)。
修習生である故に初めて取り扱う事件に戸惑うことも、自分は家裁調査官に向いていないのではないかと悩むことも度々。
それでも先輩調査官の温かいアドバイス、あるいは手厳しい指導を受けながら真剣に事件に向き合う内、事件解決に繋がる隠されていた事実が浮かび上がってくるという展開。
隠されていた事実を探り問題点を明らかにしていくという展開はミステリ風のところがあります。
しかし、本書の読み処は真相解明にあるのではなく、事件の当事者らが抱えていた問題を明らかにし、少しでも彼らの助けになろうとする家裁調査官の役割を描くところにあると思います。

家裁調査官という見慣れぬ職業に視点を置いたところが新鮮。
そして、彼ら家裁調査官の厳しくも温かい眼差しに救いを覚える気がします。

「背負う者」:17歳の少女は何故窃盗犯罪に手を染めたのか。
「抱かれる者」:何故少年はストーカー犯罪を起こしたのか。
「縋る者」 :離婚して親権争い中の同級生、彼女の支えは?
「責める者」:何故彼女は離婚を決意したのか?
「迷う者」 :親権争いの対象者である少年の思いは?

1.背負う者(17歳 友里)/2.抱かれる者(16歳 潤)/3.縋る者(23歳 理沙)/4.責める者(35歳 可南子)/5.迷う者(17歳 悠真)

               

3.

「合理的にあり得ない−上水流(かみづる)涼子の解明− ★☆


合理的にあり得ない

2017年02月
講談社刊

(1500円+税)



2017/03/11



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罠にはめられて弁護士資格を剥奪された美貌の元弁護士、上水流涼子が活躍する連作エンターテインメント。
弁護士時代に受けていた表仕事と逆に、表にはできない依頼事を引き受ける、というのが涼子の新しい仕事(ただし、「殺し」と「傷害」以外)。

元弁護士が主人公であるからには法律絡みの巧妙な仕掛けと迫真の攻防がある筈と思い込み期待したのですが、結果からいうと、期待外れ。
涼子の美貌と度胸、助手である
貴山伸彦の IQ140という天才的な頭脳でターゲットを罠にはめ、依頼人の望みを果たす訳ですが、それだけに留まるという印象です。
したがって、逆転の痛快さも、仕掛けにおける面白さも、今ひとつという処です。

・「確率的にあり得ない」は、予知能力を謳う詐欺師との対決。
・「合理的にあり得ない」は、資産家夫人を騙して金を巻き上げている霊能力者の正体は?
「戦術的にあり得ない」は、暴力団組長の賭け将棋に<上水流エージェンシー>が巻き込まれます。
・「心情的にあり得ない」は、涼子を罠にはめ弁護士資格を剥奪せしめた人物から何と仕事の依頼が・・・。
「心理的にあり得ない」は、野球賭博に絡む詐欺。

気軽に楽しめる犯罪ものエンターテインメントではあります。

確率的にあり得ない/合理的にあり得ない/戦術的にあり得ない/心情的にあり得ない/心理的にあり得ない

          


   

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