中澤日菜子
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1969年東京都生、慶応義塾大学文学部卒。出版社に勤務しながら劇作家として活動。2007年「ミチユキ・キサラギ」にて第3回仙台劇のまち戯曲賞大賞、12年「春昼遊戯」にて第4回泉鏡花記念金沢戯曲大賞優秀賞を受賞。小説執筆にも取り組み、2013年「お父さんと伊藤さん」にて第8回小説現代長編新人賞を受賞し作家デビュー。


1.お父さんと伊藤さん

2.おまめごとの島

3.星球

4.PTAグランパ!

5.ニュータウンクロニクル

6.Team383

7.アイランド・ホッパー

 


           

1.
「お父さんと伊藤さん ★★☆       小説現代長編新人賞


お父さんと伊藤さん画像

2014年01月
講談社刊
(1400円+税)

2016年08月
講談社文庫化



2014/01/31



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主人公は34歳のバイト書店員=
その彩に、父親を引き取って同居している兄から、義姉の体調が良くないので暫く父親を預かってほしいと依頼が来ます。
どうもその父親、偏屈で何かと扱い難い人間らしい。しかも彩、兄や父に知らせていないままだが、現在「
伊藤さん」という男性と同棲中、しかも伊藤さんは彩より20歳も年上。
ただでさえ説明しにくい状況だというのにと、彩は困惑。
それなのに父親がいきなり押し掛けて来てしまい、お互いに気まずい思いをしたまま、彩と伊藤さん、父親という3人の同居生活が始まります。

<伊藤さん+彩+父親=三角関係?>と思うところですが、本作品はあくまで家族小説です。
親子とは近くて遠い関係。即ちずっと近くで暮しながら実はお互いのことを余りよく知っていない、というところがあります。
1対1ならどこまでも平行線のままとなるのかもしれませんが、そこに第三者という存在が加わるとどうなるか。しかもその相手が娘と同年代なら息子同然と父親は見下げてしまうのでしょうけれど、伊藤さんは何と彩と父親のちょうど真ん中、54歳。
本作品では、彩、伊藤さん、父親という3人の関係が絶妙かつ興味尽きないうえに、2人あるいは3人のセリフがこれまた味わい深くて楽しいのです。

頭からシッポの先まで餡がみっちり、しかも食べ続ける内にどんどん美味しさが増していく、という風。一度読んだら忘れ難い、他所ではちょっとお目にかかれない見事な家族小説。
なお、上記3人の他に彩の
、義姉の理々子、亡母の妹で何かと騒がしい小枝子叔母、バイト仲間のカンマニワさんという個性的な面々も登場し、本ストーリィを盛り上げてくれます。
新種の家族小説に興味ある方、是非お薦め!です。

       

2.
「おまめごとの島 ★★☆


おまめごとの島

2015年02月
講談社刊
(1500円+税)

2017年08月
講談社文庫化



2015/03/11



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東京を逃げ出し、友人を頼って小豆島にやって来た高橋秋彦は何故かニット帽子に大きなマスクという不審者の恰好。しかし実際は 180cm近い長身のイケメン男性。友人のホテルでまずバイトとして働き始めますが、早速パート従業員の久留島真奈美に眼を付けられます。ぐーたら亭主に4人の子育てという状況に嫌気がさしていた真奈美、秋彦こそ自分をこんな境遇から救い出してくれる男性と勝手に思い込みます。
一方、ホテルの出入り業者で働く独身アラフォー女性=
三輪言問子(ことこ)も、東京を逃げ出し、やり直そうと小豆島で働き始めた女性。

ドジで意気地がないのにイケメンが災いする秋彦、真奈美に付け狙われ、偶然に隣人となった言問子とも関わり合い、さらにアイドル並に美しい小学生の娘=まで登場。小豆島という穏やかな島でコミカルなドタバタ劇の末に心温まるストーリィが展開されると思っていたのですが、とんでもない。
後半、辛い、余りに辛い、という展開になるとは思いもしませんでした。仲の良かった父娘が行き違いから、お互いにこんなにも辛い思いをし合うなんて・・・。その傍で2人の様子を心配する言問子もまた、自分の経験から他人事とは言えない思いを味わいます。

それでも、何とかやり直そうという気持ちさえあれば、過ちを犯した場所に戻ってもう一度スタートし直せばいい。ここ小豆島の自然と単純素朴な住民たちは、そんな主人公たちを受け入れてくれる筈。
一度底まで転がり落ち、そこからまた這い上がっていくべき出発点に至るまでを描いた男女、父娘のドラマ。

最近同じような物語を続けて読んでいるような気がしますが、舞台が小豆島というだけで、何やら新鮮な空気を吸っている気がします。コミカルにして心揺さぶられるストーリィ、お薦めです。

    

3.

「星 球 ★★


星球

2015年07月
講談社刊

(1500円+税)



2015/08/03



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趣向が多彩な故に、ひとつひとつのストーリィをじっくり味わって楽しめる恋愛短篇集。

恋愛経験のない女子大生から、妻に死なれて不便と婚活を始めた定年退職男性、天体観測が趣味の若手サラリーマン、出産の為実家に戻ったところの妊婦、不器用な便利屋、突然に結婚中止を告げられた女性と、各篇の主人公像は実に多彩。
そんな各篇の主人公たちに共通するのは、そろって恋愛ごとに不器用であること。だからこそ主人公たちに共感、ユーモアが感じられ、温かな気持ちになります。
今回は上手くいかなかったけれど、決してこれで全て終わりではない、まだまだ先に可能性はあるよと、主人公たちの背中を押してあげたくなる気持ちでいっぱいになります。

表題作の
「星球」は恋愛への希望を抱かさせてくれる篇。恋愛に対する前向きな姿勢が素敵です。
「The Last Light」の主人公は68歳の定年退職者。身勝手で鼻持ちならない主人公ですが、最後のオチが何とも気分好し。
「半月の子」では、妊婦となった女性がかつて憧れの対象だった同級生に再会して慌てふためく様子がユーモラス。でも、それだけで終わらせないところが本篇の清新な魅力です。

最後を飾る
「七夕の旅」は何とも切ない篇。戦後70周年ということもあってこのところ戦争に関わる作品が目につきますが、本篇も戦争絡みのストーリィ。手を緩めることなく、細かな仕掛けを最後に施しているところに好感を抱きます。
なお、昔愛読したテニスン「○○○○・アーデン」を思い出して懐かしい気分になったことも触れておきたいこと。


星球/The Last Light/ほうき星/半月の子/Swing by/七夕の旅

                

4.
「PTAグランパ! ★★


PTAグランパ!

2016年05月
角川書店刊

(1600円+税)

2017年03月
角川文庫化



2016/06/24



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大手家電メーカーの営業統括本部長まで務めた武曽勤、67歳。
離婚してシングルマザーとなった娘=
、孫娘の小学1年=友理奈と現在同居中ですが、抽選でPTA副会長の要職を押し付けられてしまった都に代わり副会長を引き受ける羽目に。
ところが女ばかりのPTAで、やたらサラリーマン生活の実績を誇る勤の言動は、母親たちの反発を買うばかり。
おまけに同じく副会長となった
内田順子は大人しい性格の上に、息子3人の子育てとパート仕事でキャパシティいっぱいいっぱいの状況。さらに立候補して会長を引き受けた織部結真は、24歳の一見チャラ男。
市立青葉小学校の今年度PTAが一体どうなる? 
喜怒哀楽を様々に引き起こす、コミカルでアットホームな長編ストーリィ。

定年後の身の振り方、PTA役員仕事、仕事を持ちながらの子育てと、各年代層、男女それぞれが直面する様々な問題がこの長編一冊に織り込まれています。
読み手がどういう立場かによって、共感を抱く登場人物も異なり、思うところも異なるのではないかと思います。
私の場合は、やはり武曽勤と自分を照らし合わせ、同じように過去を振り返って反省するところ大です。

なお、そうした問題を考えながら本書を読む必要は全くなく、軽快でコミカルな本ストーリィを楽しむうち、自然と感じることばかりです。
何と言っても結真の存在はユニーク。一方、“武曽ジジイ”と“女錬金術師”ことママさん族のドンである
吉村雅恵とのバトルは愉快。また、順子と都が意気投合する処は嬉しくなります。

              

5.

「ニュータウンクロニクル ★★


ニュータウンクロニクル

2017年07月
光文社刊

(1600円+税)



2017/08/09



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“ニュータウン”と言えば、今は住民の高齢化・過疎化が何かと話題にされる存在。
しかし、大規模な宅地造成がなされ、新しい住宅地が誕生した頃は輝きに満ちていたのでしょう。
本書はその“ニュータウン”のひとつ、郊外の丘陵地が大規模に宅地開発された
“若葉ニュータウン”が舞台(モデルは多摩ニュータウンなのでしょう)。

最初の住宅区域が完成した1971年から現在に至るまでを、クロニクル的に連作形式で綴られた長編ストーリィ。
各章において、そのニュータウンで暮らす人々やその家族のドラマが語られ、それ自体も読み応えのあるストーリィになっていますが、本作の魅力は、それらストーリィを俯瞰してみることによってニュータウンの姿の変遷、日本社会の変化が見て取れることにあると思います。

「わが丘」では、地元育ちの小島健児が高校を卒業して若葉町役場に就職し、新住民と旧住民の対立を目にします。
「学び舎」は、生徒の急増から新たに小学校が増設され、生徒たちが否応なく2つの学校に分けられてしまうという子供たちにとっての悲劇が描かれます。もっとも中学校では再び一緒になれる筈なのですが。
「プールバー」では、ニュータウン内商店街の変化とバブルの狂熱を描いた篇。
「工房」では、閉店された店舗を借りて機織り工房を開こうという若い女性が登場。実はそこに裏事情があった、というのが妙味になっています。
「五年一組」は、分校30周年を記念する同窓会。ニュータウン第二世代であるその一人の、現代的な悩みが語られます。
「新しい町」は、冒頭「わが丘」の登場人物だった小島健児らが50年ぶりに再会するストーリィ。

ニュータウン、結果的に失敗だったのかどうか。それについて中澤さんは、そこに住む人々がこの町で生きて行こうという意志を強く持っている限り町は続いていくものだ、というメッセージを本作に託しているようです。
長編としてのストーリィ、短篇ドラマ共に、読み応えのある作品に仕上がっています。

※ニュータウンといえば思い出されるのが
垣谷美雨「ニュータウンは黄昏れて、本作とは対照的なエンターテインメント。
本作と読み比べてみるのも一興と思います。


わが丘-1971/学び舎-1981/プールバー-1991/工房-2001/五年一組-2011/新しい町-2021

                        

6.
「Team383 ★★


Team383

2018年04月
新潮社刊

(1600円+税)



2018/05/16



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個人タクシー運転手の小田山葉介75歳、ついに年貢を納めて運転免許証を返納。するとその直後、コンビニ店長の坂内菊雄から声を掛けられ、半ば強引に場末の中華料理店「紅花亭」に連れていかれます。
そこで待ち受けていたのは、紅花亭オーナーでチームリーダーの
石塚紅子、鈴木比呂海、中原玄といういずれも70代後半の面々。そしてもう一人、紅子の孫娘で大学生の本庄桜子がマネージャー役として控えています。
何のメンバーかというと、富士スピードウェイで開催される
“ママチャリカップ”に出場するチームだという。
最初こそ及び腰だった葉介、何となくノリの良いメンバーにのせられ、チームに加入した次第。
本作は上記メンバー5人の、それぞれを描く連作ストーリィ。

年を取ればできることは少なくなってくる。でも全てがなくなる訳ではなく、“今”という時は現実にあります。
だから、今できることはまだあるし、これから新しいことに挑戦することもできる、新しい仲間と繋がりを持つこともできる、というのが本ストーリィに篭められたメッセージでしょう。
5人のメンバー、一人一人のこれまでの人生と今が語られていきます。
そんな、年は取ったけど、まだまだ元気な年寄りたちの群像劇。

そしてその中で感じさせられたことは、家族の存在。家族がいるから支えられもし、元気でいられることもできる、ということ。家族の存在は有難いことですね。

それなりに好感という群像劇でしたが、最後の
「無限」はかなり重いドラマ。
そんな重い現実があっても、それを乗り越えてこそまた前に進めるという筋書きは、かなり衝撃的です。
この最後の章により、読了後には感動と爽快感が残りました。


1.Team383/2.438289時間/3.2分50秒/4.51年/5.無限

             

7.
「アイランド・ホッパー−2泊3日旅ごはん島じかん Island Hopper ★☆


アイランド・ホッパー

2018年11月
集英社文庫

(520円+税)



2018/11/25



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中澤日菜子さんと担当編集者=M嬢による島巡り旅。
web集英社文庫に 2016年5月〜18年8月の間、3ヶ月ごとに連載されたものを加筆・修正した文庫書き下ろしとのこと。

作家と担当編集者コンビによる紀行という定例パターン。
珍しいのは、行き先が<島>ということでしょう。
島、旅先としては選びにくいんですよね〜。どうしても時間がかかりますから。
本書の行き先で私が行ったことのある先は、
桜島、礼文島、天草と僅か3ヶ所に留まりますし。

内容としては、フツーの旅記録、という処でしょう。
印象に残るのは、何故か中澤さん本人ではなく、M嬢恒例のご当地ソフトクリーム評。
時々それに中澤の締めラーメン喰いが加わりますが、味の問題より誘惑に逆らえず、という感じですから。

ともあれ、私が行ったことのない場所ばかり。それなりに旅気分を味わいました。

※私が殆ど知らなかった島は次の2つ。
6島目の
田代島は、宮城県の通称「猫の島」。
8島目の
直島は、瀬戸内海にある“アートの島”。

1島目 桜島/2島目 礼文島/3島目 八丈島/4島目 軍艦島/5島目 座間味島/6島目 田代島/7島目 天草/8島目 直島/9島目 壱岐/10島目 奄美大島

     


   

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