|
|
1.お父さんと伊藤さん 2.おまめごとの島 3.星球(文庫改題+α:一等星の恋) 4.PTAグランパ! 5.ニュータウンクロニクル 6.Team383 7.アイランド・ホッパー 8.お願いおむらいす 9.働く女子に明日は来る! 10.シルバー保育園サンバ! |
1. | |
「お父さんと伊藤さん」 ★★☆ 小説現代長編新人賞 | |
2016年08月
|
主人公は34歳のバイト書店員=彩。 <伊藤さん+彩+父親=三角関係?>と思うところですが、本作品はあくまで家族小説です。 頭からシッポの先まで餡がみっちり、しかも食べ続ける内にどんどん美味しさが増していく、という風。一度読んだら忘れ難い、他所ではちょっとお目にかかれない見事な家族小説。 |
2. | |
「おまめごとの島」 ★★☆ | |
2017年08月
|
東京を逃げ出し、友人を頼って小豆島にやって来た高橋秋彦は何故かニット帽子に大きなマスクという不審者の恰好。しかし実際は 180cm近い長身のイケメン男性。友人のホテルでまずバイトとして働き始めますが、早速パート従業員の久留島真奈美に眼を付けられます。ぐーたら亭主に4人の子育てという状況に嫌気がさしていた真奈美、秋彦こそ自分をこんな境遇から救い出してくれる男性と勝手に思い込みます。 ドジで意気地がないのにイケメンが災いする秋彦、真奈美に付け狙われ、偶然に隣人となった言問子とも関わり合い、さらにアイドル並に美しい小学生の娘=遥まで登場。小豆島という穏やかな島でコミカルなドタバタ劇の末に心温まるストーリィが展開されると思っていたのですが、とんでもない。 それでも、何とかやり直そうという気持ちさえあれば、過ちを犯した場所に戻ってもう一度スタートし直せばいい。ここ小豆島の自然と単純素朴な住民たちは、そんな主人公たちを受け入れてくれる筈。 最近同じような物語を続けて読んでいるような気がしますが、舞台が小豆島というだけで、何やら新鮮な空気を吸っている気がします。コミカルにして心揺さぶられるストーリィ、お薦めです。 |
「星 球」 ★★ |
|
|
趣向が多彩な故に、ひとつひとつのストーリィをじっくり味わって楽しめる恋愛短篇集。 恋愛経験のない女子大生から、妻に死なれて不便と婚活を始めた定年退職男性、天体観測が趣味の若手サラリーマン、出産の為実家に戻ったところの妊婦、不器用な便利屋、突然に結婚中止を告げられた女性と、各篇の主人公像は実に多彩。 そんな各篇の主人公たちに共通するのは、そろって恋愛ごとに不器用であること。だからこそ主人公たちに共感、ユーモアが感じられ、温かな気持ちになります。 今回は上手くいかなかったけれど、決してこれで全て終わりではない、まだまだ先に可能性はあるよと、主人公たちの背中を押してあげたくなる気持ちでいっぱいになります。 表題作の「星球」は恋愛への希望を抱かさせてくれる篇。恋愛に対する前向きな姿勢が素敵です。 「The Last Light」の主人公は68歳の定年退職者。身勝手で鼻持ちならない主人公ですが、最後のオチが何とも気分好し。 「半月の子」では、妊婦となった女性がかつて憧れの対象だった同級生に再会して慌てふためく様子がユーモラス。でも、それだけで終わらせないところが本篇の清新な魅力です。 最後を飾る「七夕の旅」は何とも切ない篇。戦後70周年ということもあってこのところ戦争に関わる作品が目につきますが、本篇も戦争絡みのストーリィ。手を緩めることなく、細かな仕掛けを最後に施しているところに好感を抱きます。 なお、昔愛読したテニスン「○○○○・アーデン」を思い出して懐かしい気分になったことも触れておきたいこと。 星球/The Last Light/ほうき星(→一等星の恋)/半月の子/Swing by/七夕の旅 ※文庫化時、書き下ろし1篇を追加 ・・・ 星を拾う |
「PTAグランパ!」 ★★ | |
2017年03月
|
大手家電メーカーの営業統括本部長まで務めた武曽勤、67歳。 離婚してシングルマザーとなった娘=都、孫娘の小学1年=友理奈と現在同居中ですが、抽選でPTA副会長の要職を押し付けられてしまった都に代わり副会長を引き受ける羽目に。 ところが女ばかりのPTAで、やたらサラリーマン生活の実績を誇る勤の言動は、母親たちの反発を買うばかり。 おまけに同じく副会長となった内田順子は大人しい性格の上に、息子3人の子育てとパート仕事でキャパシティいっぱいいっぱいの状況。さらに立候補して会長を引き受けた織部結真は、24歳の一見チャラ男。 市立青葉小学校の今年度PTAが一体どうなる? 喜怒哀楽を様々に引き起こす、コミカルでアットホームな長編ストーリィ。 定年後の身の振り方、PTA役員仕事、仕事を持ちながらの子育てと、各年代層、男女それぞれが直面する様々な問題がこの長編一冊に織り込まれています。 読み手がどういう立場かによって、共感を抱く登場人物も異なり、思うところも異なるのではないかと思います。 私の場合は、やはり武曽勤と自分を照らし合わせ、同じように過去を振り返って反省するところ大です。 なお、そうした問題を考えながら本書を読む必要は全くなく、軽快でコミカルな本ストーリィを楽しむうち、自然と感じることばかりです。 何と言っても結真の存在はユニーク。一方、“武曽ジジイ”と“女錬金術師”ことママさん族のドンである吉村雅恵とのバトルは愉快。また、順子と都が意気投合する処は嬉しくなります。 |
「ニュータウンクロニクル」 ★★ |
|
2020年11月
|
“ニュータウン”と言えば、今は住民の高齢化・過疎化が何かと話題にされる存在。 しかし、大規模な宅地造成がなされ、新しい住宅地が誕生した頃は輝きに満ちていたのでしょう。 本書はその“ニュータウン”のひとつ、郊外の丘陵地が大規模に宅地開発された“若葉ニュータウン”が舞台(モデルは多摩ニュータウンなのでしょう)。 最初の住宅区域が完成した1971年から現在に至るまでを、クロニクル的に連作形式で綴られた長編ストーリィ。 各章において、そのニュータウンで暮らす人々やその家族のドラマが語られ、それ自体も読み応えのあるストーリィになっていますが、本作の魅力は、それらストーリィを俯瞰してみることによってニュータウンの姿の変遷、日本社会の変化が見て取れることにあると思います。 ・「わが丘」では、地元育ちの小島健児が高校を卒業して若葉町役場に就職し、新住民と旧住民の対立を目にします。 ・「学び舎」は、生徒の急増から新たに小学校が増設され、生徒たちが否応なく2つの学校に分けられてしまうという子供たちにとっての悲劇が描かれます。もっとも中学校では再び一緒になれる筈なのですが。 ・「プールバー」では、ニュータウン内商店街の変化とバブルの狂熱を描いた篇。 ・「工房」では、閉店された店舗を借りて機織り工房を開こうという若い女性が登場。実はそこに裏事情があった、というのが妙味になっています。 ・「五年一組」は、分校30周年を記念する同窓会。ニュータウン第二世代であるその一人の、現代的な悩みが語られます。 ・「新しい町」は、冒頭「わが丘」の登場人物だった小島健児らが50年ぶりに再会するストーリィ。 ニュータウン、結果的に失敗だったのかどうか。それについて中澤さんは、そこに住む人々がこの町で生きて行こうという意志を強く持っている限り町は続いていくものだ、というメッセージを本作に託しているようです。 長編としてのストーリィ、短篇ドラマ共に、読み応えのある作品に仕上がっています。 ※ニュータウンといえば思い出されるのが垣谷美雨「ニュータウンは黄昏れて」、本作とは対照的なエンターテインメント。 本作と読み比べてみるのも一興と思います。 わが丘-1971/学び舎-1981/プールバー-1991/工房-2001/五年一組-2011/新しい町-2021 |
「Team383」 ★★ | |
|
個人タクシー運転手の小田山葉介75歳、ついに年貢を納めて運転免許証を返納。するとその直後、コンビニ店長の坂内菊雄から声を掛けられ、半ば強引に場末の中華料理店「紅花亭」に連れていかれます。 そこで待ち受けていたのは、紅花亭オーナーでチームリーダーの石塚紅子、鈴木比呂海、中原玄といういずれも70代後半の面々。そしてもう一人、紅子の孫娘で大学生の本庄桜子がマネージャー役として控えています。 何のメンバーかというと、富士スピードウェイで開催される“ママチャリカップ”に出場するチームだという。 最初こそ及び腰だった葉介、何となくノリの良いメンバーにのせられ、チームに加入した次第。 本作は上記メンバー5人の、それぞれを描く連作ストーリィ。 年を取ればできることは少なくなってくる。でも全てがなくなる訳ではなく、“今”という時は現実にあります。 だから、今できることはまだあるし、これから新しいことに挑戦することもできる、新しい仲間と繋がりを持つこともできる、というのが本ストーリィに篭められたメッセージでしょう。 5人のメンバー、一人一人のこれまでの人生と今が語られていきます。 そんな、年は取ったけど、まだまだ元気な年寄りたちの群像劇。 そしてその中で感じさせられたことは、家族の存在。家族がいるから支えられもし、元気でいられることもできる、ということ。家族の存在は有難いことですね。 それなりに好感という群像劇でしたが、最後の「無限」はかなり重いドラマ。 そんな重い現実があっても、それを乗り越えてこそまた前に進めるという筋書きは、かなり衝撃的です。 この最後の章により、読了後には感動と爽快感が残りました。 1.Team383/2.438289時間/3.2分50秒/4.51年/5.無限 |
「アイランド・ホッパー−2泊3日旅ごはん島じかん Island Hopper」 ★☆ | |
|
中澤日菜子さんと担当編集者=M嬢による島巡り旅。 web集英社文庫に 2016年5月〜18年8月の間、3ヶ月ごとに連載されたものを加筆・修正した文庫書き下ろしとのこと。 作家と担当編集者コンビによる紀行という定例パターン。 珍しいのは、行き先が<島>ということでしょう。 島、旅先としては選びにくいんですよね〜。どうしても時間がかかりますから。 本書の行き先で私が行ったことのある先は、桜島、礼文島、天草と僅か3ヶ所に留まりますし。 内容としては、フツーの旅記録、という処でしょう。 印象に残るのは、何故か中澤さん本人ではなく、M嬢恒例のご当地ソフトクリーム評。 時々それに中澤の締めラーメン喰いが加わりますが、味の問題より誘惑に逆らえず、という感じですから。 ともあれ、私が行ったことのない場所ばかり。それなりに旅気分を味わいました。 ※私が殆ど知らなかった島は次の2つ。 6島目の田代島は、宮城県の通称「猫の島」。 8島目の直島は、瀬戸内海にある“アートの島”。 1島目 桜島/2島目 礼文島/3島目 八丈島/4島目 軍艦島/5島目 座間味島/6島目 田代島/7島目 天草/8島目 直島/9島目 壱岐/10島目 奄美大島 |
「お願いおむらいす」 ★☆ | |
2023年06月
|
自分の人生に行き詰まりを感じた人たち。でも、希望は失われた訳じゃない、まだまだ可能性は残されている、と元気づけてくれる連作ストーリィ5篇。 各篇に共通する場所は、<ぐるめフェス>の野外イベント会場。 ・「お願いおむらいす」:年上の恋人が妊娠しやむなく就職した太一・25歳。しかし、仕事はイベント会場の掃除!? ・「キャロライナ・リーバー」:久々に父と姉に再会した歩子・33歳。超売れっ子少女まんが家である姉から告げられたことは? ・「老若麺」:妻子を故郷に残し、東京の人気ラーメン店<中華そば紅葉>で修業中の崇。大将から命じられ、兄弟子の天翔を助けて<ぐるフェス>に出店したのですが・・・。 ・「ミュータントおじや」:<ぐるフェス>公式アイドルである美優も既に25歳、集客力も落ちる一方。もう限界か・・・。 ・「フチモチの唄」:早期退職勧告を受けて退職したものの、再就職ならず、<ぐるフェス>で掃除バイトという中村浩・58歳。3年前に引き取った母親は認知症、妻は介護疲れで更年期障害を発し体調不良、まさに八方ふさがりの状況・・・・。 コミカルさを交え、テンポよく軽快。読めば心が弾んでくるような気がします。 各篇の主人公たちを支えてくれたものは、何だったのか。 ちょっと疲れたなぁと思ったときに、お薦めです。 お願いおむらいす/キャロライナ・リーパー/老若麺/ミュータントおじや/フチモチの唄 |
「働く女子に明日は来る!」 ★★ | |
2024年09月
|
未熟女子の、ドタバタお仕事奮闘記。 そして、その中で大事なものを見つけるという成長も絡めた、お仕事+人間成長ストーリィ。 その仕事現場はというと、TVドラマの制作現場です。 主人公の時崎七菜は31歳、テレビドラマ制作会社<アッシュ>のアシスタントプロデューサー(AP)。 その七菜が現在奮闘しているのは、人気作家で教育評論家でもある上条朱音原作小説のドラマ化、その撮影現場。 とかくギリギリで予想外のトラブルに見舞われがちな仕事場。 そうした中、ピリピリしがちなスタッフの気持ちを和らげてくれるのが、七菜の上司で女性プロデューサーの板倉頼子が毎度作りすっかり名物になっている“板倉頼子のロケ飯”。 そのロケ飯が各章の題名になっています。 相次ぐトラブル、二日酔いによるミス、原作者の怒り・・・、そこへさらに頼子が個人的事情から現場を外れ、七菜がプロデューサーの責任を負うという事態に。 それにプラスして恋人=佐々木拓との関係も七菜にとっての大きな悩みどころ。 TVドラマの撮影現場という舞台にも興味は尽きませんし、七菜のドタバタぶり、ミスぶり、奮闘ぶりもテンポが良く、飽きさせません。 ドタバタだけに終わらず、頼子や、メイクチーフである子持ち女性の愛理に学んでの七菜の成長ストーリィになっているところが気持ち良いところ。 変転が大きいだけに、たっぷり楽しめます。 1.とろ〜り牡蠣のチャウダー/2.しゃっきりクミン入り生姜湯/3.あつあつチリビーンズスープ/4.残りもの洋風鍋焼きスパゲティ/5.うまみたっぷりせんべい汁/6.ぶっきょちょはちみつレモン/7.あったかレトルトカレーのスープ/8.ドキドキとうふとわかめの味噌汁 |
「シルバー保育園サンバ!」 ★★ | |
|
主人公は八代銀治、68歳。警備会社を65歳で退職した途端、妻から離婚を申し出られ、妻と娘は家を出ていき、今は寂しい一人暮らし。 時間を潰すため半年前から月野市シルバー人材センターに登録。 そこで保育園の草取りを頼まれますが、そこからまさか、市立ふたば保育園に補助職員として勤めることになるとは! そうした折、別れた妻の律子から、娘の陽子についてあることが知らされ・・・・。 銀治、ずっと仕事を言い訳に家事と子育てを律子に押し付けてきた。母親のトシ子は気難しく律子は苦労していた筈なのに、目を背けて。そのため、陽子は父親を許していない。 保育園に勤め始めた銀治、保育園児たちにいかつい顔を恐がられたり、振り回されたり。子どもを育てるのはこんなにも大変なことかと初めて認識。そこからこれまでの自分の振舞いについて深く反省しますが、時遅し。 さらに、障害児を育てる苦労、負担も描かれます。 銀治の場合は極端ですが、私も家事と子育ては、基本的に妻の役目としてきた人間です。 今の時代から見れば、理解不足、協力不足と非難されても仕方ないと思いますが、当時はなァ、毎日遅くまで残業、そのうえ仕事も家に持ち帰りという状況だったのですよねぇ。 ともあれ銀治は、果たして娘の陽子と和解できるのか。 最後、銀治の人生はまだこれから、という読後感にホッとさせられると共に元気づけられる思いです。 ※なお、銀治は俳優の松平健さんを当て書き、また本作のため中澤さんは実際に養育園、保育園で嘱託職員として働いたとの由。 夏/秋/冬/春 |