垣谷美雨
(かきやみう)作品のページ No.1


1959年兵庫県生、明治大学文学部卒。2005年「竜巻ガール」にて小説推理新人賞を受賞し作家デビュー。喫煙の害、高齢化と介護、結婚難等シリアスな題材を描いた社会派小説で知られる。


1.竜巻ガール

2.七十歳死亡法案、可決

3.
ニュータウンは黄昏れて

4.あなたの人生、片づけます

5.避難所(文庫改題:女たちの避難所)

6.老後の資金がありません

7.農ガール、農ライフ

8.あなたのゼイ肉、落とします

9.嫁をやめる日(文庫改題:夫の墓には入りません)

10.後悔病棟

定年オヤジ改造計画、四十歳未婚出産、姑の遺品整理は迷惑です、うちの子が結婚しないので、うちの父が運転をやめません、希望病棟、代理母はじめました、もう別れてもいいですか、あきらめません、行きつ戻りつ死ぬまで思案中

 → 垣谷美雨作品のページ No.2


懲役病棟、墓じまいラプソディ、マンダラチャート

 → 垣谷美雨作品のページ No.3

 


           

1.

「竜巻ガール」 ★★          小説推理新人賞


竜巻ガール

2006年10月
双葉社刊
(1600円+税)

2009年06月
双葉文庫化



2013/11/16



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父親が再婚した相手の連れ子は、何と同学年のガンクロ女子高生だった。出会った最初こそ驚いた哲夫でしたが、その涼子とすぐ打ち解ける仲に。しかし、やがてその涼子に翻弄されるようになり・・・・というストーリィが冒頭の「竜巻ガール」
突風に翻弄されたような気分はするものの、一種の青春小説として読むとそれなりに痛快、爽快な印象です。

「旋風マザー」は、だらしない父親に見切りをつけて母親が出て行った後、その父親と同居し続ける20代の息子=広幸が味わう、両親+αのてんやわんやを描いた篇。
「渦潮ウーマン」は、不倫旅行中に相手の上司が事故死し、あわてふためいたワーキングウーマンに起きた、その後の驚くべき顛末を描いた篇。
「霧中ワイフ」は、一回りも年下の中国人男性と結婚したOLが抱え込んだ疑惑を描いた篇。

各篇の主人公は男性、女性とそれぞれですが、共通しているのは、真の主人公はいずれも女性側であること。
どんなことがあっても、なりふり構わず生き抜いていこうとするその強い姿には、恰好ばかり気にする男子はタジタジかも、と感じてしまいます。
痛快にして、女性たちの逞しさにホレボレする作品集。
なお、「旋風マザー」の母親の奸智には絶句、「渦潮ウーマン」の予想もしなかった展開はサスペンス小説以上の面白さです。

竜巻ガール/旋風マザー/渦潮ウーマン/霧中ワイフ

                  

2.
「七十歳死亡法案、可決 ★★


七十歳死亡法案、可決

2012年01月
幻冬舎刊

2015年02月
幻冬舎文庫

(600円+税)



2018/10/12



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高齢者が国民の三割を超えた日本、高齢者のための財政負担は重く、このままでは日本国が財政破綻しかねないと時の総理が強行成立させた法案が「七十歳死亡法案」
法施行まであと2年。その時点で70歳を超えている老人たちは皆一斉に死を迎えることに。一方、70歳未満の中高年者たちも、自分の人生はあと何年と計算し始めることに。

そこで本ストーリィの舞台になるのは、
宝田家
足を骨折して以来寝たきりとなった義母は、どうせあと2年とリハビリを止めてしまい、我儘放題かつ底意地の悪い姑化。
その義母の介護に疲れ果てた
東洋子(とよこ)は、あと2年我慢すれば自分の人生が取り戻せると、胸の内に火を灯します。

義姉・義妹は義母の介護に知らんぷり。夫は仕事が大変と、まるで介護に関知せず能天気。そのうえ折角就職した会社を自己都合退職した息子は転職先が見つからないまま引きこもり状態。

介護の苦労を誰からも理解されない者の絶望感、介護される側の屈折した心情、そして失業してしまった若者の孤独感。
現代日本が抱える様々な社会問題・家族問題をすべて取り込んだようなストーリィ。
七十歳死亡法案の賛否を問うようなストーリィかと予想していたら、まるで違った趣きの内容でした。

暗く、陰湿極まりないストーリィにならないよう、最後は東洋子の思い切った行動をきっかけに、全てが良い方向へ転がっていくという明るい結末に救われる思いです。
しかし、現実はそう生易しくありません。
本ストーリィで描かれた状況は、すぐ先にある現実です。

東洋子の我慢に何でそこまでと言ってやりたくなり、その夫の能天気ぶりには呆れるどころか怒鳴りつけてやりたくなります。
そんな面白さを味わいながら、この先にある現実を考えさせられる一作。
いずれは誰もが直面する状況。決して他人事ではありません。


1.早く死んでほしい/2.家族ってなんなの?/3.出口なし/4.能天気な男ども/5.生きててどうもすみません/6.立ち向かう明日

            

3.

「ニュータウンは黄昏れて ★★


ニュータウンは黄昏れて画像

2013年01月
新潮社刊
(1600円+税)

2015年07月
新潮文庫化



2013/02/13



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これはもう面白かった! 何と言っても題材が秀逸。
住宅取得問題、ローン返済問題、家族、家計・・・と、私にとってもリアルで切実なストーリィなのですから。

ごく普通のサラリーマン家庭の織部家。東京郊外にあるニュータウンに暮す。専有面積95uとはいえ購入時既に築15年の中古公団住宅、最寄駅の徒歩圏内にはなくバス利用、購入価格52百万も15年経った今はニュータウン自体が寂れたおかげで推定時価15百万円。売るに売れず当初借入42百万円のローン返済負担は重く、さらに夫の会社がIT会社に吸収合併されたおかげで夫は降格・減給と、何時になったらこの苦しさから解放されるのかと嘆きたいような状況。
主人公は、その織部家の主婦である
頼子と娘の琴里
2人を主人公とすることによって、ローン返済の苦しさは当の夫婦だけでなく子供たちに影響する問題であるということを如実に語っていて、その辺りの設定がお見事。
琴里、内定していた会社が入社前に倒産し大学卒業以来ずっとフリーター。しかしふとしたきっかけで付き合いだした相手は、都内に幾つもの不動産を持つ資産家の息子。琴里だけでなく、母親の頼子まで気持ちが揺れ出し・・・・。

当時花形だったニュータウンがバブル崩壊後は一転、今では“没落”と評されるような状況。その厳しい状況を余すところなく描き出した本書は実にリアルな作品ですが、そうした問題は何もニュータウンに限りません。一般家庭に広く共通する問題だろうと思います。
普通に幸せになるためには最低限の収入・資産が必要なのか、という究極のテーマもありますが、集合住宅の建替え問題、集合住宅内での世代格差、結婚問題、そしてそもそも資産格差問題(持てる者と持たざる者)等々、具体的な問題がリアルに描かれていて、実に読み応えあり。また学ぶところも大です。
社会問題を扱ったシリアスな作品であると同時に、琴里と幼馴染間の駆け引きまで盛り込んだリアルなエンターテイメント。
お薦め!

1.住宅ローン地獄/2.オールドタウンの憂鬱/3.資産家に生まれて/4.再生への期待/5.居住権/6.現在地

           

4.
「あなたの人生、片づけます ★★


あなたの人生、片づけます画像

2013年11月
双葉社刊
(1500円+税)

2016年11月
双葉文庫化



2013/12/02



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題名からすると人生再構築ストーリィ?という印象を受けるのですが、読み始めてすぐその面白さに拍手。
“片付けられない”という各章主人公たちが抱える問題を、“片付け”のプロである
大庭十萬里が痛快に切り拓いて彼らの人生問題まで解決していくという痛快な連作ストーリィ。

大庭十萬里、本を出したりマスコミに取り上げられたりと主婦の間では結構有名という人物なのですが、正体は50歳代の丸顔で平凡なおばさん。その持ち味は「人生そのものを整理してくれる」とか。
しかしプロであるからには偶然出会ったというようなことは起こる筈もなく、各章主人公たちの状況を見かねた母親、娘、姑といった近親者が主人公たちに有無を言わせず十萬里に依頼した、という次第。
仕方なく十萬里を迎え入れた主人公たちは、単なる掃除のおばさん程度にしか思っていないのですが、片付けをするのではなく片付けの指導をしに来たと言い、家の中の様子をみて何度も大げさに溜息つく十萬里に「何と失礼な!」と怒りさえ覚えるのです。ところが・・・・。

要は、単に家の中に溢れた物を整理するだけではなく、人生の片付け、今の生活の見直しというストーリィ。それにしても、現代社会における広く共通する問題を“片付け”という身近な行為の中で、何とまぁ見事に取り上げたことか。
すこぶる面白いだけでなく、身につまされる思いもする、痛快な連作短篇集。

「ケース1」は汚部屋化したマンションで暮らす独身OLが主人公、「2」は妻に先だたれた老職人が主人公、「3」は田舎の大きな家に一人暮らしする老婦人が主人公、そして「4」はかなりシリアスな内容です。
私は割りと片付けは好きな方で、すぐ捨ててしまう方なので他人事と思って読んでいましたが、書棚にぎっしり並べた本のことを言われるとツライなぁ。でも本はずっと読み直しすることがなくてもそこに存在するだけで・・・。(苦笑)

ケース1.清算/ケース2.木魚堂ケース/3.豪商の館ケース/4.きれいすぎる部屋

           

5.
「避難所 ★★
 (文庫改題:女たちの避難所)


避難所画像

2014年12月
新潮社刊
(1500円+税)

2017年07月
新潮文庫化



2015/01/22



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東日本大震災で被災し、家や家族を失って避難所生活を余儀なくされた、50代、40代、20代の3人の女性(妻)たちの姿、状況を描いた長編小説。

椿原福子は、ろくな稼ぎもない夫にずっと仕えてきた55歳、津波で家とパート仕事を失う。
山野渚はDV夫と離婚後実家に戻り、母と飲み屋を営んで小学生の息子=昌也を育てていたが、津波で母と店を失う。
漆山遠乃は生後6ヶ月の智彦を抱えた身で、津波により夫を失った28歳。
避難所生活はそこで暮す誰にとっても過酷な日々だったと思いますが、本ストーリィでは特に女性たちが味わった苦痛や我慢がリアルに描かれます。
女性たちの心情をまるで無視したような、リーダー役の初老男性の差配、公平という言葉の元に願いを拒否する市役所職員、ボランティアたち。そしてただ怒鳴り散らすだけで女は男に従って当たり前然としている年配の男性たち・・・。

もちろん、男性の皆が皆そういう人間ではないし、避難所生活だからということでもない筈ですが、旧弊な田舎社会だからこそ、避難所だからこそそれが際立ったのでしょう。
辛い状況に置かれながら何故我慢し続けるのか? それもまた閉鎖的な田舎社会だからこそなのか。
これでもかと降りかかってくる不運に、主人公である3人の女性たちに負けず劣らず憤りを覚えざる得ない程。
決して楽ではないものの、ようやく新たな一歩を踏み出した3人に、祝福のエールを送りたい気持ちでいっぱいになります。

なお、本作品の主眼は3人の女性の再出発ストーリィにあるのではなく、本ストーリィで描かれたようなことが実際の避難所生活においてあった、という事実を伝えるところにあると思います。
震災被害は人の力を超えたものですが、それ以外のところで心を傷つけられる出来事がどんなにあったか、ということ。
そうと知らずにいたことに、申し訳ないような気持になります。

ノンフィクションに近いフィクション、お薦めです。

              

6.
老後の資金がありません ★☆


老後の資金がありません

2015年09月
中央公論新社

(1600円+税)



2015/10/08



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年金の支給開始が段階的に後ろにずれされ、年金支給額も減額傾向、そのうえ消費税は増税傾向という状況にあって「老後の資金がありません」という題名は、怖っ!と感じて不思議ないもの。

主人公の
後藤篤子は50代となった今、老後に向かって我が家の蓄えは十分かどうかと、気にし出します。
現時点の預金は○百万円。ところが娘の結婚にあたり相手方は豪華な結婚式と両家での費用分担を要求してきて一気に○百万円が消えたと思ったら、続けて舅の葬儀・墓購入でさらに○百万円が飛び、預金はあっという間に僅か○百万円。そのうえ夫婦そろって勤務先を解雇され、正社員であったにもかかわらず夫には退職金も出ないという窮地。
どうなる後藤家!?という処ですが、他人事と笑ってはいられません。いつ何時同じような状況に陥らないとは限らないのですから。
極めて深刻な事態ですが、そこは垣谷美雨さん、そこからの挽回劇、その経緯の程が痛快です。
それにしても、窮すれば格好づけなどしていないで、なりふり構わずというという気構えが必要なのかも。
その点、どうも男性は女性に比べて覚悟が足りないようです。
ふと気が付いてみれば本ストーリィにおいて男性族は蚊帳の外、女性たちによる女性たちのための脱困窮・群像劇と化していました。
特に痛快だったのは、篤子の姑である
芳子さんがしたたかでアグレッシブなキャラクターを露わにし出してから。

近未来的ホラーとして読むか、極めてリアルなドタバタ劇として読むかは、読者次第というところでしょう。

     

7.
「農ガール、農ライフ ★★


農ガール、農ライフ

2016年09月
祥伝社刊

(1500円+税)



2016/10/03



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派遣切りにあって仕事を失った水沢久美子32歳、帰宅すると同棲相手転じて今や単なるルームメイトの篠山修から、何と結婚したい相手が出来たので出て行って欲しいと通告されます。
一気に収入も住み場所も失い崖っぷちに立たされた久美子、ふと明るい農業女子を取材したTV番組を見てこれならと、さっそく農業大学の新規就農コースに入学し、農業ガールの道に踏み出します。
順調に卒業して、さぁこれからと意気込んだ久美子が直面したのは、誰も農地を貸してくれないという深刻な事態。
久美子が信じた明るく健康的な農業ライフは、そもそも実現不可能なことだったのか?

独身女子による単身での新規就農、明かされる現代農業の厳しい状況を知るにつけ、久美子の選択は余りに安易だったなぁと思わざるを得ません。それが前半。
それでも、真面目に農作業に取り組む久美子の姿に、次第に道は開けていきます。それが後半。

他に道がなく、就農の道を選んだのも消極的な理由だったと思えていたのですが、最後になって、実は久美子の積極的な気持ちのなせる業、生き方だったと気付きます。
そんな主人公=水沢久美子に対する好感度は、本書を読み進むに連れてうなぎのぼり。それ故の星2つ評価です。

                  

8.

「あなたのゼイ肉、落とします ★★


あなたのゼイ肉、落します

2016年10月
双葉社刊

(1500円+税)

2019年11月
双葉文庫



2016/11/11



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太ってしまった、太っているということで、人から無視されたり苛められたりと悩みを抱えている人たちが主人公。
ダイエット本を出して有名になった
大庭小萬里という人に個別指導を頼んだらと勧められ、相談してみようかと踏み切ったのは大庭小萬里の著書の副題に「−−心のゼイ肉も落とします」と書かれていたから。

あなたの人生、片づけますと似た印象、同じようなストーリィ構成だなぁと感じていたら、それもその筈、本作における指南役は「片づけます」で指南役を演じた大庭十萬里の妹=大庭小萬里だというのですから。

「ケース1」の主人公は仕事を持つ既婚女性。元々美人故にチヤホヤされていたが、いつの間にか太ってしまった所為か、今や夫や娘、さらに部下からまで目を背けられている気がする・・・。
「2」は、美人の母親と2人の姉と比較されて父親からも見下げられ、でもパティシエになりたいという夢は許されず、そのストレスからか食べることを止められず、という女子大生。
「3」交通事故で直近1年半余りの記憶を失ってしまった会社員が主人公。自分で鏡を見たら何とデブ! 1年半の間に自分の身に何があったのか・・・。
「4」は太っていることでイジメの対象になっている小学生。父親の死後、夜遅くまで働く母親に負担はかけられないとひたすら我慢するうちに・・・・。

「あなたの人生、片づけます」と同様、依頼人の悩みを痛快に捌いて彼らの未来まで切り拓いてみせるというストーリィ。
ストーリィの面白さ、各登場人物+大庭小萬里の魅力がいっぱい詰まった快作と言って間違いありません。


ケース1.園田乃梨子49歳/ケース2.錦小路小菊18歳/ケース3.吉田知也32歳/ケース4.前田悠太10歳

         

9.

「嫁をやめる日 ★★
 (文庫改題:夫の墓には入りません)


嫁をやめる日

2017年03月
中央公論新社

(1600円+税)

2019年01月
中公文庫化


2017/04/10


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46歳の夫が脳溢血で突然に死去。残された妻の夏葉子(かよこ)は呆然とするばかり。
しかし、東京出張だった筈の夫は何故、地元長崎のホテルに宿泊していたのか。それから次々と夫の不審な行動、それに対する疑念が浮かび上がってきます。
その一方で夫の親族は、夏葉子を「良い嫁」と褒めそやし、さらに舅・姑ならびにヒキコモリの義姉は夏葉子さんがいるから安心と、しきりに身勝手な会話を繰り広げます。
次第に夏葉子は、常に監視されているような恐怖、相手の高瀬家に取り込まれて身動きを封じられるような束縛感に囚われるようになります。
さて、夏葉子はどう行動すればいいのか・・・というのが、本作の主題。

垣谷美雨さん、現代のトピック的な問題を取り上げ、不都合な状況からどうすれば脱出できるのかという解決策を興味尽きず、かつまた痛快なストーリィに仕立て上げるのが実に上手い!

まあ、今更“嫁”でもないだろうと思うのですが、人間関係がドライな東京と違い、地方都市、まして相手が地方の名家ともなるとそう簡単に割り切れるものではないのだろうなぁと思います。
如何にして夏葉子がついに腰を上げ、そしてどのように逆転脱出を図っていくのかが、本作の読み処。
そして、そこに至ってようやく家族の在り様が浮かび上がってくるという展開も、本作の見逃せない注目処です。

※「嫁」という言葉、私は好きではないので使わないようにしていますが、一方で「花嫁」という言葉もあり、そう簡単に禁止用語とする訳にもいかないかなァと悩ましいところです。

                     

10.
「後悔病棟 ★☆


後悔病棟

2017年04月
小学館文庫

(690円+税)



2020/12/06



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2014.11小学館刊行「if サヨナラが言えない理由」を改題・加筆して文庫化した作品。
社会的にトピックとなるような題材を描いてきた垣谷さんにしてはちょっと毛色の異なる内容です。

33歳の勤務医・早坂ルミ子は末期がんの患者を診ているが、「患者の気持ちがわからない無神経な医者だ」というレッテルを貼られているのが悩み。
そんなルミ子はある日、病院の中庭に落ちていた聴診器を拾うのですが、それは何と患者の心の声が聴こえるという代物。
さらにそれは、患者の前に過去へ繋がる扉を出して見せます。
その扉を開けた患者は、悔いを残す過去の時点に戻り、もう一度人生をやり直すのですが・・・。

もし人生をやり直すことができたら、これは誰しも一度や二度は思ったことがあるのではないでしょうか。
私も何度となくそう思ったことはありますが、やり直したいとはもう思わないかな。そう大した違いはないだろうと思いますし、もう一度苦労をやり直すのは面倒くさい、と思うので。

余命僅かな患者それぞれの、悔いを抱える現在、そして過去のやり直し人生はそれなりに楽しめますが、同時にやり直し
人生を共に経験することを通じて、ルミ子も少し成長したらしい様子に、ホッとさせられます。

「dream」:千木良小都子・33歳、母親は大女優。母親の反対を押し切って芸能界デビューしていたら・・・。
「family」:日向慶一・37歳、死期間近だというのに妻は金の事ばかり。何がいけなかったのか・・・。
「marriage」:雪村千登勢・76歳、娘が46歳の今も独身のままなのは、かつて結婚に反対したせいか・・・。
「friend」:八重樫光司・45歳、万引きを庇った親友を見捨てたことをずっと後悔・・・。

希望病棟を図書館に予約したら、本作の続編と知ったため急遽読んだ次第です。

1.dream/2.family/3.marriage/4.friend/エピローグ

            

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