中山可穂作品のページ No.1


1960年愛知県名古屋市生、早稲田大学教育学部英語英文科卒。卒業後劇団を主宰。92年TOKYO FMショート・ストーリー・グランプリにてグランプリ受賞。93年「猫背の王子」にて作家デビュー。95年「天使の骨」にて第6回朝日新人文学賞、2001年「白い薔薇の淵まで」にて第14回山本周五郎賞を受賞。


1.猫背の王子

2.天使の骨

3.熱帯感傷紀行

4.サグラダ・ファミリア

5.感情教育

6.深爪

7.白い薔薇の淵まで

8.花伽藍

9.マラケシュ心中

10.ジゴロ


弱法師、ケッヘル、サイゴン・タンゴ・カフェ、悲歌、小説を書く猫、愛の国、男役、娘役、ゼロ・アワー、銀橋

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1.

●「猫背の王子」● ★★


猫背の王子画像

1993年06月
マガジンハウス刊

2000年11月
集英社文庫
(419円+税)


2002/01/31


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中山可穂さんのデビュー作。同時に、朝日新人賞を受賞した「天使の骨」の前篇にあたる作品です。

主人公は、「天使の骨」と同じ、王寺ミチル。20代、少年と見間違えられるような小柄な容姿でありながら、脚本家・演出家・主演俳優として劇団を主宰。そして、日毎夜を共にする女性を変えるという奔放な生活を送り、芝居に全力を注ぎ込んでいる、という主人公。ミチルには、自己破壊的なエネルギーを、強く感じさせられます。
ミチルは、“女たらし”と言われる程、魔性的な魅力の持主。女性を魅了して止まない、それが彼女の劇団が一定のファンを獲得している理由でもあります。
しかし、ミチルの魅力は、単に人物設定というにとどまらず、小説中の人物として、強烈なものを持っています。ですから、ミチル故に、どんどんストーリィの中に引き込まれてしまう。そのストレートなエネルギーが、本作品の特徴と言えるでしょう。
続編にあたる「天使の骨」は、もちろん単独で読んで差し支えない作品ですが、本書を読めば、そこにミチルが至った状況がよく判ります。それを予想させる危うさが、本作品のミチルから迸っています。

中山可穂という作家に興味をもったら、あるいは「天使の骨」に魅力を感じたのなら、本作品は見逃せない一冊です。

   

2.

●「天使の骨」● ★★    朝日新人文学賞


天使の骨画像

1995年10月
朝日新聞社刊

2001年08月
集英社文庫化



2002/01/07



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かつて自ら劇団を主宰していた王寺ミチルが主人公。今はすべてに絶望し、成り行き任せに生きているような日々。
そんなミチルに、羽根がボロボロになった天使の姿が見えるようになります。そして、その数は次第に増していき、ボロボロの羽根をつけた大勢の天使が連なるようになる。
ミチルの絶望状態、心が死につつある状況を表わす心象風景でしょうが、それが凄い。

絶望の果てにミチルは日本を脱出し、イスタンブールからパリへと、異国の地を彷徨します。しかし、ミチルの心は果てしない虚無感につつまれ、ボロボロの天使の姿がどこまでも付きまとってきます。それに対し、外国の地でミチルが出会う人々は、ミチルを包み込むような温かさで迎えてくれます。
そして、多くの人々の心に触れることを経て、ミチルは再び演劇への情熱を取り戻す、というストーリィ。

ストーリィをそう語ってしまうと、ありきたりの話と思われるでしょうが、これでもかこれでもかと叩き付けるような展開、小気味良いテンポに、どんどん引きずり込まれます。ストーリィ云々より、そんな中山さんの文章に魅せられてしまう、と言って過言ではありません。
そしてまた、主人公ミチルが何とも妖しい魅力を放っています。少年に間違えられるような中性的な個性。ヨーロッパ各地をさすらいながら彼女は幾つかの恋愛関係を結びますが、いずれもその相手は女性です。孤独な匂いを放ちつつ、それらの女性を引き付けてやまない魅力を、この王寺ミチルは備えています。

全体としては粗いところも感じますが、魅力ある作品。
なお、本書は中山さんの処女作「猫背の王子」の続編であり、ミチルの成長編と言える作品ですが、単独で読んでも十分な読み応えがあります。

   

3.

●「熱帯感傷紀行−アジア・センチメンタル・ロード−」● ★☆


熱帯感傷紀行画像

1998年04月
大和書房

2002年09月
角川文庫
(476年+税)



2002/10/20



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準備も殆どせず、出発の前日は徹夜に近い状況で荷物作り。旅の最初の土地に辿り着いた時には、睡眠不足と疲れでヘトヘト。それなのに街の喧騒、人々のずるさに一遍でこの街が嫌いになった、という出だし。あれっこの出だし、どこかで読んだ覚えがあるなと思ったら、田口ランディ「忘れないよ!ヴェトナム」。女性作家の貧乏旅行は、どこか似るものなのか?(まぁ、たまたまと思うべきなのでしょう)

本書アジアへの旅は、「天使の骨」による新人文学賞受賞後、受賞後第一作も書けず、恋人とも別れて失恋の痛手に苦しんでいた、という時期のこと。
そんな状態に見切りをつけるために出た旅。だからこそ“感傷旅行=センチメンタル・ロード”なのです。その行き先が東南アジアとなったのは単純な理由から、資金的制約によるものだったそうです。
本書の魅力は、書かれた貧乏旅行の様子ではなく、中山さん自身の姿に触れることにあります。ビアンの恋愛小説を数々書いている中山可穂の実像は、如何なる女性なのか、ということ。
印象としては、王子ミチル緒川
絢彦に近いものを感じます。そこには納得感もあります。
そうと判れば、あとは貧乏旅行の一切を楽しんで読むのみ。
安ホテル、屋台、現地バス、値切るための丁々発止、それこそ貧乏旅行の醍醐味という言い分は、判るなァ。

タイ(バンコク、ホア・ヒン、ハジャイ)/マレーシア(ペナン島、クアラルンプール、マラッカ)/インドネシア・スマトラ島(ドマイ、メダン)/インドネシア・ジャワ島(ジャカルタ〜スラバヤ、マラン、ジョグジャカルタ)/シンガポール

        

4.

●「サグラダ・ファミリア[聖家族]」● ★★☆


サグラダ・ファミリア画像

1998年07月
朝日新聞社

2001年12月
新潮文庫
(400年+税)



2002/02/06



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自作の中で常に同性愛を登場させている中山さんが、新たな“家族”のかたちを描いた作品。

孤独なピアニスト・石狩響子にとって、ライターの透子は最愛の恋人だった。しかし、透子の望みは子供を持つことであり、やがて響子の元から去っていった。
その透子が再び響子の元を訪れた時、彼女は桐人という男の子を産み、望みをかなえていた。その時から、響子と〔透子+桐人〕という密接な関係が、新たに始まります。
同性愛では、子供を欲しても持つことができないのは、自明のこと。透子のとった行動は、響子と間に家族関係を築きたいという願いを果たす為には、自然なことだったのかもしれません。
しかし、その透子は交通事故で突然に死んでしまい、まだ2歳に過ぎない桐人が、シングルマザーの子供として、たった一人残されてしまう。そして、響子は、透子の葬儀でテルというゲイの青年と出会う。
中山作品では、同性愛がさも当然であるかのように描かれる為、響子と透子の関係にしても何の違和感もありません。男女の愛より同性間の愛の方がはるかに純粋であると説かれると、十分に納得できるから不思議です。
それは、響子が桐人を引き取り、新たな家族を築こうと決心する辺りも同じこと。一緒に家族を築くという明確な意思があってこそのことであり、強く心に残ります。
そして、“家族”の在るべき姿を、中山さんから強く問われているような思いがします。

比較的薄い一冊ですが、充実感はとても大きい。
中山可穂さんが見逃せない作家であることを、ますます認識させられた作品です。

※なお、ストーリィ的には、本書より後に書かれた「白い薔薇の淵まで」の、その後の話であると言いことができます。

  

5.

●「感情教育」● ★★★


感情教育画像

2000年02月
講談社刊
(1900円+税)

2002年05月
講談社文庫化



2002/02/17



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那智理緒、2人の女性の胸が焦がれるような恋愛小説。究極の恋愛小説と言いたい程の熱さ、切なさが本作品にはあります。
ストーリィは3部構成。
第1章は、那智の生い立ちから結婚、家庭生活まで。
第2章は、理緒の生い立ちから、ライターとして自立するまで。
そして、第3章にて、2人の出会いと波瀾が描かれます。

いつもながら、中山さんの描く主人公は際立って個性的です。那智・理緒の2人も例外ではありません。そして、テンポの良さ・速さ。それ為、ぐいぐいとストーリィの中に引きずり込まれ、没頭する内あっという間に読み終わってしまう、と言って誇張ではありません。
那智は母親に産み捨てられた過去を持ち、理緒もまた母親からまともな愛情を得られなかった女性。そうした過去故に、2人とも真の恋愛を経験することなく、今の生活に至っている。
その2人の出会いと愛をつきつめていく様は、同性とか異性とかのこだわりを超え、必須の恋愛であることを迫真的に語っています。
そして、とくに那智について、その切なさは極まりない。

中山さんの他の作品に比べると、肉感的な要素は少なく、精神的な部分が勝っている作品。ですから、あまりレズビアンを気にすることなく読めることと思います。
是非お薦めしたい、恋愛小説における傑作のひとつです。

サマータイム/夜と群がる星の波動/ブルーライト・ヨコハマ

  

6.

●「深 爪」● 


深爪画像

2000年08月
朝日新聞社刊
(1500円+税)

2003年06月
新潮文庫化

2008年12月
集英社文庫化


2002/03/07

連作短篇形式による3部構成の作品。
ストーリィの重要な要素は、やはりレズビアンです。

第1部は、人妻相手のビアンのストーリィ、主人公は人妻を愛した方のビアンの女性です。
第2部は、第1部の人妻が主人公となり、彼女がビアン相手への恋しさ故に、家族を置いて出奔してしまう、というストーリィ。
第1部と第2部は不倫小説の典型ともいえるストーリィであって、たまたま相手が異性ではなく、同性である、というだけの違いです。
そして第3部は、女性に妻を奪われ、幼い息子と共に取り残された夫が、主婦業に努力する過程で妻の気持ちを推し量ろうするストーリィ。この第3部は、中山さん独自の視点あってのものでしょう。

本作品は、結論がはっきり出ているという作品ではなく、今まで中山さんが書いてきたビアン小説の延長として、不倫、家庭崩壊も当然ありうることなのだ、というその姿を描いた作品であると言えます。ただし、満足度としては今一歩。

深爪/落花/魔王

    

7.

●「白い薔薇の淵まで」● ★★★     山本周五郎賞


白い薔薇の淵まで画像

2001年02月
集英社刊
(1400円+税)

2003年10月
集英社文庫化


2002/01/08


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30歳間近の主人公と24歳の小説家という女性同士の性愛を描いた、本格的レズビアン小説。とにかく圧倒されます。
同性愛を描いた小説としては、三島由紀夫「禁色」以来の衝撃を覚えました。

天使の骨」と同様、畳み掛けてくるような展開、スピーディとさえ言えるテンポの良さは相変わらずですが、同作品のような粗さがなく、ずっと洗練されています。それだけに、「天使の骨」以上に引きずり込まれ、まさに逃れようがありません。
主人公とく子と、その相手となる山野辺塁、その2人がむさぼるように性愛に浸かっていく姿は、奈落の底までどこまでもずっと落ちて行くといった、鮮烈な感覚があります。
しかし、媚薬のような香りをふんだんに撒き散らしながら、不思議とエロチックな感じはしません。とても読み易い。それ故、どっぷり作品の中にはまり込んでしまうという案配です。
尽きぬ性愛への欲望という点では、山本文緒「恋愛中毒を思い出しますが、本作品の方がずっと淀みない、という印象です。ストーリィがシンプルで、それだけに徹底しているからでしょうか。

全体で 200頁位。通勤電車の往復で十分読み終わる程度の頁量です。しかし、頁数以上の深みがあり、読み出したら最後止まらなくなってしまう作品であることに間違いなし。お薦めです。

  

8.

●「花伽藍」● ★★


花伽藍画像

2002年02月
新潮社刊
(1400円+税)

2004年10月
新潮文庫化



2002/03/18



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中山さん初の短篇集。
これまでの長篇作品には、読者をぐいぐい引き込むような勢いがありましたが、本書でそれは影を潜めています。短篇という所為かも知れませんが、それよりも"別れ"を描いたストーリィの故、という気がします。
恋愛関係の終わりといっても、どろどろしたものはありません。どこかさらりとして、読後の残り香が素晴らしく鮮やか。そこに本書の魅力があります。

本短篇集では、ビアンの別れの切なさが、ストーリィの軸として描かれていますが、決してそれだけではありません。
異性間、同性間の恋愛にとらわれない余韻が、常にあります。
長篇作品では、ビアンの飽くことのない恋愛模様が多く描いていただけに、"別れ"のストーリィが多い本書は、とても新鮮です。

「鶴」では、残影となる鶴のイメージが実に奇麗。
七夕」は、ビアンの恋人と別れたばかりの女性が過ごす一夜を描いたストーリィですが、七夕の短冊に託された、優しさと思いやりに充ちた光景が、実にお見事。惚れ惚れとします。
「花伽藍」は、別れた夫が突然訪ねてきたところから始まるストーリィで、本書中では異色ですが、最終場面に描かれる花伽藍の風景はまさに素晴らしいのひと言。春にふさわしい一篇です。
「偽アマント」は、短い一篇ですが、主人公の切なさがじっくりと伝わってきます。
そして最後の「燦雨」は、究極のビアン小説と言いたい一篇。
いずれも珠玉の作品ばかり、と言える短篇集です。

鶴/七夕/花伽藍/偽アマント/燦雨

  

9.

●「マラケシュ心中」● ★★☆


マラケシュ心中画像

2002年10月
講談社刊
(1800円+税)

2005年05月
講談社文庫化


2002/10/18


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中山可穂さんならではの濃厚なラブ・ストーリィ。一気読みした後の充足感は久々のものです。
本長篇もまた女性同士の恋愛を描いたもの。ただし、安易に同性愛ストーリィと言うなかれ。異性とか同性とかを越えて、狂おしい程恋焦がれる気持ち、それ故の焦燥、葛藤、歓喜がそこに描かれているからです。
敢えて言うならば、(これまでの中山さんの主張どおり)女性間の同性愛だからこそ普通の男女愛をはるかに越える恋愛模様がそこに描かれます。誰しも2人の恋情に引き込まれざるを得ないでしょう。
主人公は新進歌人の緒川絢彦(寺西絢子)、35歳。「猫背の王子」の王寺ミチルのように女性の恋情を惹きつけて止まないタイプの女性です。
その絢彦が、小川泉、30歳と初めて出会ったその時から、狂おしい恋情に燃え上がります。しかし、泉は絢彦の恩師、かつ歌壇の重鎮である人物の後妻。
これまでの中山作品がやはり同性愛を描いていたといっても、そこにはやむなく、といった設定がありました。それに対して本書は、激情を根底においた恋愛(=同性愛)。それだけに、一気呵成に読まされてしまいます。
そして、絢彦、泉の深い愛は2人を外国への旅へと追いたて、2人はスペインからアフリカへ渡り、更にマラケシュへと行き着きます。
熱烈な恋愛小説というにふさわしい、読み応えある一冊です。

  

10.

●「ジゴロ」● ★★


ジゴロ画像

2003年02月
集英社刊
(1400円+税)

2006年05月
集英社文庫化

2003/03/08

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「たったひとりの女を愛し続けるために、百人の女と寝ることもある」 そんなストリート・ミュージシャン、カイ(もちろんビアン)を一貫した登場人物とする連作短篇集。

5篇の主人公は、カイ自身だったり、カイの相手だったりと、いろいろ。それだけに、連作といっても夫々独立した短篇として楽しめます。
中山さんの作品には、濃密なビアンの恋愛小説が多いのですけれど、本書はサラッとした味わい。濃密な作品ばかり読み続けてきた後には、とても快い。

短篇ということもありますが、カイ自身の真の恋人は別にいて、各篇で描かれるのはいずれも一時的な恋愛関係に過ぎない、という設定の故でしょう。カイが単なる傍観者に過ぎない、という一篇さえあります。

たまにはこんな軽いスケッチ風のビアン小説も良い。中山可穂作品の広がりを感じる一冊です。今後もまだまだ期待大。

ラタトゥイユ/ジゴロ/ダブツ/恋路すすむ/上海動物園にて

    

中山可穂作品のページ No.2

  


   

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