中島たい子作品のページ No.1


1969年東京都生、多摩美術大学卒。96年「チキチキバンバン」にて日本テレビシナリオ登竜門の大賞、97年「宇宙のペン」にて城戸賞(映画シナリオ・コンクール)にて準入選。放送作家、脚本家を経て2004年「漢方小説」にて第28回すばる文学賞を受賞。


1.漢方小説

2.そろそろくる

3.建てて、いい?

4.この人と結婚するかも

5.結婚小説(文庫改題:ハッピー・チョイス)

6.ぐるぐる七福神

7.LOVE & SYSTEMS

8.心臓異色(文庫改題:おふるなボクたち)

9.院内カフェ

10.がっかり行進曲


万次郎茶屋、かきあげ家族

中島たい子作品のページ bQ

 


     

1.

●「漢方小説」● ★★          すばる文学賞


漢方小説画像

2005年01月
集英社刊
(1200円+税)

2008年01月
集英社文庫化

2005/02/27

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主人公は川波みのり、シナリオライター、31歳、独身。
昔の男が結婚すると聞かされたショックから、みのりはロデオマシーンのように身体が震えだす発作に度々見舞われることになります。
幾つもの病院を回ったものの、西洋医学の見地からはどこも悪くないと言われ、みのりは追い詰められるばかり。そんなみのりが最後に行き着いた先は漢方診療所。
そこの漢方医は、すぐみのりの痛い場所をつきとめ、迷うことなく漢方薬を処方してくれます。
それからやっと、みのりは徐々に回復していきます。それとともに、漢方医療に深くのめりこんでいくみのり。

ごくあっさりとした、かなり短めの長篇小説です。
ストーリィを読むというより、このストーリィに浸っているとなんとなく安らかな気持ちになっていく...。
まるで本作品自体が漢方薬そっくりな効き目をもっているようです。対処療法でなく、心の底から癒してくれるような。しかも、苦くないのがいい。

気持ちが疲れたとき、そっと優しく休めてくれる、そんな安らぎを覚える作品です。

     

2.

●「そろそろくる」● 

そろそろくる画像

2006年03月
集英社刊

(1200円+税)

2009年02月
集英社文庫化

2006/04/10

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漢方小説に共通するストーリィ。

主人公である岩崎秀子はイラストレーター、独身、30歳過ぎ。
今日も朝からいらついてばかり。イラストの仕事も低調で、先行きに希望も見えない。
「漢方小説」のみのりには、まだ回復途上という雰囲気がありましたけれど、本書のヒデコにはないなぁ。
ふとしたきっかけで、親友の画家の弟と恋人関係に陥りますが、だからといって心理状況はあまり改善しない。

このヒデコの最悪ぶりと落ち込む原因は、どうもPMSの所為らしい。ヒデコばかりか、ヒデコの女友達も同じストレスを味わっているらしい。
しかしこのPMS、男性としては想像はしても実感として判りません。ですから、本書を読んでいても今ひとつ。
男性としてはお手上げ、というほかないのです。

   

3.

●「建てて、いい?」● ★★


建てて、いい?画像

2007年04月
講談社刊
(1300円+税)

2010年04月
講談社文庫化



2007/05/03



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独身女が家を建てても良いのか、悪いのか?
表題作「建てて、いい?」は、そんな主人公の疑問、実際に家を建てるまで戸惑い、周囲の騒ぎを描いた、あっさりメの作品。

主人公の長田真里は30代半ばの独身女性。一歳下の従妹・友紀子が経営する輸入下着等の通販会社勤務。
いい加減ろくに洗い物干しもできないアパートはヤダ、居心地の良い家に住むにはまず結婚か?といろいろ思い巡らしたうえにやっと気づかされたのは、自分の居場所探し、ということ。
見合いした相手の建築設計士に相談にのってもらいながら、真里が自分の家を建てるまでを描いたストーリイです。

住宅展示場の家を見にいってみると、一軒家とは家族のための住居であることが想定されている。
独身女が家を建てられるのか、建てていいんだろうか? というのが、真里の最初に直面する疑問。
そんな真里の一方で、両親やおばさんたちは独身女が家を持ったりしたらおしまい、結婚なんてする気がなくなってしまうと心配する。その心配が的を射ているから可笑しい。
それでも、本人が建てたいなら建てたっていいじゃないか、その代わり住んで淋しくならないように、独身女向けの家を建てろよな、と応援したくなります。
間取り、通勤等のアクセス、住宅ローン等々と我が家を持つことは男子にとって一生の問題ですが、されど家は家。
女性だって自分のために家を選び、家を構えたりするのは当然のことであって、今更驚くことの方がおかしい、というべきなのでしょう。本書の底辺にはそんな主張があって気持ち良い。

自分の希望通りに設計してもらった家に住めるなんて、さぞ嬉しいことでしょう。マンションなんて所詮面倒くさがりやの選択かと、マンションである我が家の床に寝そべって本書を読みつつ、ついひがみ根性が頭をもたげます。

「彼の宅急便」は元恋人への未練をきれいに断ち切るまでのショート・ストーリィ。

建てて、いい?/彼の宅急便

  

4.

●「この人と結婚するかも」● ★★


この人と結婚するかも画像

2007年09月
集英社刊
(1200円+税)

2010年09月
集英社文庫化



2007/09/20



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さらっと、可笑しい。でもしみじみと考えてしまうなぁ、というのが中島たい子作品らしさ。それは本書でも変わりません。
収録2篇とも、ちっとも恋人が手に入れられない男女の、ボヤキとも言えるストーリィ。

「この人と結婚するかも」は、美術館勤めの節子が主人公。男性とちょっと出会っただけで「この人と結婚するかも」と毎度のように思ってしまう独身、28歳。
思わずくすっと笑ってしまうのですが、その気持ち判るんですよねぇ。異性にとかく縁のある人、モテる人は別でしょうけれど、そんな機会がなかなか得られなかった人にとっては共感するところ大。
そんな女性の気持ちをさらっと、可笑し味を加えて、それでも明るく描くところが、中島たい子さんの魅力です。
余計なこと考えるからぎこちなくなる。そんな意識を捨てれば、相手がどんな男性か知ろうとするところから始まり、次の段階に発展することもあるかもしれない。
本篇の最後の締め方、私は好きですね〜。

「ケイタリング・ドライブ」は、可愛い子と袖触れ合うもいつもフラれてしまう、一応料理家のサトルが主人公。ケイタリングの依頼を受けて清里まで車を走らせる中、独り言のボヤキという形で語られます。これは上記と異なり饒舌過ぎてちと煩い。夢想ばかりしてないで手近を見よ、という見本のようなストーリィ。

軽い味わい、午後の紅茶と一緒に楽しむのに格好の中篇です(特に前者)。

この人と結婚するかも/ケイタリング・ドライブ

  

5.

●「結婚小説」● ★★☆
 (文庫改題:ハッピー・チョイス)


結婚小説画像

2009年12月
集英社刊
(1200円+税)

2012年11月
集英社文庫化

2009/12/28

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39歳、独身の作家=本田貴世を主人公に描く“結婚”小説。

担当編集者から結婚小説の執筆依頼を受けた貴世。でも、書けない。何しろ経験がないから。
そこに友人からちょうど良いと差し出された機会が、サクラとして蕎麦打ち合コンに参加すること。
おかげで知り合ったのが、ドキュメンタリー映画をとっている福原茂夫。フィクションとノンフィクションの違いはあれど似た仕事をもつ同士、すっかり意気投合して、順調にトントンと。
でも・・・・。

貴世は福原と見事ゴールインできるのか、果たして結婚小説は書き上げられるのか。興味は自ずと湧き上がってきます。
その一方、何故結婚したいのか、結婚したら何故幸せになれるのかと、貴世は自問自答を繰り返し始めることに。
さてその結果は如何?というと・・・・こんな結末とは!

貴世が抱く疑問の数々、とても同感できます。でも、殆どの人は疑問を封印するために結婚してしまうのかもしれません。
その点、貴世のとった選択は実に勇気あるもの、と判ります。
さらりとした作品ですけれど、この展開は実にお見事!
いろいろ考えさせられると同時に、味わいも充分。
結婚をこれからしようと考えている方たちには禁断の実かもしれませんが、是非読んでみて、とお薦めしたくなる作品です。

           

6.

●「ぐるぐる七福神」● ★☆


ぐるぐる七福神画像

2011年10月
マガジンハウス刊
(1300円+税)

2014年02月
幻冬舎文庫化



2011/11/25



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NPO活動の夢破れ、借金を抱えているが故に地道に派遣社員として働く船山のぞみ32歳が、本書の主人公。
街中で偶然再会した大学時代の知人から、元恋人の
黒田大地がインドへボランティアに出かけて死亡したと聞いて、のぞみはショック。
のんびりした性格の大地の尻を叩くようにしてボランティアに向かわせたのは、誰あろう、のぞみ自身。自分は誰にとっても不吉な存在なのかもしれないと、すっかり落ち込んでしまいます。
折しも具合が悪くなって入院した祖母の部屋を片付けると、七福神の朱印が並んだ色紙を見つけます。しかし、寿老人の朱印が欠けていて揃っているのは6神のみ。
祖母の快癒を願って七福神めぐりを始めたのぞみですが、それは次第に大地との思い出を振り返り、大地に対する自分の気持ちを見直す工程ともなります。

七福神めぐりを舞台に設定した、小さな自分・見直し旅というストーリィ。
七福神、肝腎の谷中だけを回ればいいやと思っていたところ、あるはあるは、東京のあちこちに七福神が。その結果、のぞみは都内のあちこちまで足を延ばして七福神めぐりをくり返していくことになります。
船山のぞみという女性の自分見直しストーリィであると同時に、下町散策ロードストーリィといった楽しさを味わえる作品となっています。小説版ちい散歩、と言ったところでしょうか。

谷中七福神/武蔵野吉祥七福神/日本橋七福神/港七福神/インドの七福神/亀戸七福神/浅草名所七福神

          

7.

●「LOVE & SYSTEMS」● ★☆


LOVE&SYSTEMS画像

2012年08月
幻冬舎刊
(1400円+税)



2012/09/11



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題名からは、どんなストーリィかまるで見当がつきませんが、読み始めればすぐ判ります。
近未来社会、各国では各々異なる社会制度が導入されています。各国で読まれている雑誌“AIGE”。その記者
ロウドが各国を訪問して各々の結婚制度を取材する、というストーリィです。

・結婚制度がなく、子供は自治体が育てる国。自由な恋愛は可能だが、家族という形はない。
・国家が結婚相手を決める国。恋愛の自由はなく、女性は皆専業主婦になるだけ。
・経済的に破綻したが故に、誰も結婚しようとしない国。
・決まりがなく住民たちの全く自由だが、暗黙のルールで独占が認められていない国。
スウィフト「ガリバー旅行記」のような面白さが味わえる作品ですが、読み処は、結婚制度がない国の男性と国家が結婚を決める国の女性との出会いが、どういう結末に至るのかということ。。

近未来社会というといつもハックスリー「すばらしい新世界」を連想してしまうのですが、本作品はSF小説ではなく、あくまで恋愛小説。近未来社会を背景とすることによって、真の恋愛の姿が浮かび上がる、という趣向です。
この辺り、ほっとすると同時に、快い読後感があります。

アマナ/トレニア/ナコの木/ヒメジョオン

      

8.

「心臓異色」 ★★
 (文庫改題:おふるなボクたち)


心臓異色画像

2015年01月
光文社刊
(1600円+税)

2017年09月
光文社文庫化

2015/02/04

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ひと言で語ってしまうと、星新一さん的なショート・ショートストーリィを短篇仕立てにした、ちょっぴりSF的でユーモラス、そして思いがけないオチが楽しめる短篇集。

7篇中、特に面白かったのは表題作の「心臓異色」。予想もつかない真相に絶妙のオチ、快作です。
それ以外の篇も内容は実に多種多彩で、いずれもその篇なりの趣向、その篇なりの味わいが篭められていて、まるでプチフルの詰め合わせを味わうような楽しさです。

割りと穏やかな「家を盗んだ男」「ディラー・イン・ザ・トワイライト」から始まり、次第にSFっぽいストーリィへと変化していく構成も、読み手としては楽しい限りです。

私の好みにバッチリはまった小味な短篇集。
こうした短篇集にたまに出会うことがあるから、短篇集といっても軽視はできません。

家を盗んだ男/ディーラー・イン・ザ・トワイライト/それが進化/心臓異色/躍るスタジアム/ボクはニセモノ/いらない人間

 

9.

「院内カフェ ★☆


院内カフェ

2015年07月
朝日新聞出版
(1400円+税)

2018年09月
朝日文庫化



2015/07/29



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病院内に出店しているカフェを舞台にした群像劇。
登場するのは、カフェの店員の他、中年夫婦、奇妙な常連客、これまた威張った風の医者といった面々。

病院内のカフェという設定に本ストーリィの妙があります。
場所柄故そこに来る客は、どこか具合が悪かったり、家族等の世話や見舞いに訪れた人というのが殆ど。とはいえ、病院内だからといって特別のメニューがある訳でなく、病院外にある同じチェーン店と何の変わりもありません。
病院という特殊な場所の中にある、ごく普通の場所、というのがこの院内カフェ。
まるで入院あるいは通院している病人と、それに付き添う非病人との対照的な関係を映し出しているようです。

店内で突然夫にソイラテを浴びせた妻、という中年夫婦。
病人である夫に妻はどう寄り添えばいいのか。そして病人である夫は妻に何を求めるのか。
一方、このカフェで土日だけ働く女店員の本業は売れない作家。パン屋を営む夫の間で互いに健全なのに何故か子供ができないという課題を抱えています。

ストーリィは、バイト店員であり作家でもある
相田亮子、両親の介護に疲れた朝子とその夫である藤森孝昭、医師の菅谷と、各自の内側が順々と一人称で描かれます。
あっさりとした中に、温かさもしっかりある味わいは、如何にも中島たい子さんらしい作品。
それなりに楽しみ、それなりに考えさせられた一冊です。

          

10.

「がっかり行進曲 ★★


がっかり行進曲

2017年01月
筑摩書房刊
プリマー新書
(740円+税)



2017/03/13



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小学校、中学、高校と、いつもがっかりすることばかり多かった少女の成長ストーリィ。

主人公である
佐野実花は喘息という持病もち。そのため運動会、遠足と、明日こそと思うたび発作が出て休むという“がっかり”することの繰り返し。その所為か同級生たちに少し距離を感じている。
そんな実花が学校を休む度、クラスの連絡を届けてくれるのが家の近い
大島光樹。その光樹もまた風変わりな性格と陰気な雰囲気からクラスで除け者扱いにされていた。
中学、喘息の発症は少なくなったものの、今度は両親をがっかりさせることばかり。それに対して光樹は・・・。
そして高校では、ある出来事にショックを受け不登校に。
・・・という訳で実花のこれまでは“がっかり”の行進曲。

凡人であれば迷うこと、悔やむことが多くあって当たり前。自分にがっかりするということも一度や二度ではありません。
しかし、“がっかり”は決して無駄ではない、その積み重ねは財産と言ってもらえると、どんなに励まされることか。

本作は、自分にがっかりすることの多い凡人を励まし、勇気づけてくれる青春ストーリィ。
読み終えた後は、少し気持ちが軽くなるという快さあり。

自分自身の至らなさに悩める人へお薦めです。


1.小学生のわたし/2.中学生のわたし/3.高校生のわたし。そして・・・・

       

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