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1.流浪の月 2.わたしの美しい庭 3.滅びの前のシャングリラ 4.すみれ荘ファミリア 5.汝、星のごとく 6.星を編む |
「流浪の月」 ★★★ 本屋大賞 | |
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父の死後、母は9歳の更紗を置き捨てて男と出奔した。 伯母の家に引き取られた更紗は、自由を奪われ窮屈な思いを強いられた上に、従兄から不埒な振る舞いをされる。 そんな更紗をその状況から救い出してくれたのは、公園で知り合った19歳の男子大学生「文」でした。 育児ブックその通りに育てられた文と更紗の同居生活は、2人共にとって居心地の良いものでしたが、世間は決してそれを許すことはない。 それから15年後、今は亮という恋人と同棲中の更紗は、偶然に夜カフェのマスターとなっている文と再会し・・・・。 世間のごく普通な人々からは道を踏み外したとしか見てもらえない更紗と文、でも2人にだって幸せになる権利はある筈。しかし世間は、2人を型に嵌め、問題ありと勝手に決めつけ、2人の話を、思いを聞こうとはしない。 世間からどんなに誤解されようと、更紗は自分の思う幸せを真っ直ぐに追い求めていく。そこには人との馴れ合い、人へのおもねりなど微塵もない。更紗のそんな芯の強さに圧倒され、胸打たれるばかりです。 そして結局、そんな2人を救ってくれるのは、2人を理解しようとし細やかながらも応援してくれる人たちの存在です。 何処にも行き先のないように思われていた2人に訪れた、エピローグの日々。その確かな日々にホッとさせられる思いです。 幸せは決して諦めてはいけない。強く信じて生きていく処に幸せはあるのだ、と感じさせられます。 2人の人間同士としての強い繋がりに拍手喝采。是非お薦め。 ※まったく異なる展開の作品ですが、ふと姫野カオルコの名品「ツ、イ、ラ、ク」を思い出しました。 1.少女のはなし/2.彼女のはなしT/3.彼女のはなしU/4.彼のはなしT/5.彼女のはなしV/終章.彼のはなしU |
※映画化 → 「流浪の月」
「わたしの美しい庭」 ★★☆ | |
2021年12月
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表題の「美しい庭」とは、主要登場人物である百音、国見統理、井上路有が暮らすマンションの屋上にある庭。 そしてその奥には、御建神社(古くは御太刀神社)があり、縁を断ち切る強い神様を祀っていることから「縁切りさん」と呼ばれていたりする。 百音は10歳の小学生、お洒落な美少女。統理と一緒に暮らしているが血縁はない。統理の元妻で、離婚して再婚した夫との間に生まれた子。両親が事故死し、身寄りのない百音を統理が引き取ったという関係。 マンションの同じ5階に住む路有はゲイ。統理とは高校同級生以来の付き合いで、いろいろ統理に助けられてきたという関係。 百音を主人公にしたプロローグ、エピローグ的な掌編を冒頭と末尾に置き、3篇は行き詰まりを感じている3人の人物の、人間ドラマ。 「あの稲妻」の主人公は、マンション3階で母親と2人暮らし、39歳で独身女性の高田桃子。結婚に前向きになれない彼女にどんな想いがあるのか。 「ロンダリング」は路有。4年前に去られた恋人から暑中見舞い葉書が突然に届き・・・・。 「兄の恋人」は坂口基。準大手ゼネコンに就職したものの、うつ病を発して退職。恋人との関係もあり・・・。 さてこの3人が縁を断ち切りたい、断ち切らせたいものとは何なのか。 登場人物たちの様々な想いがストレートに伝わってきて、胸を打たれます。とくに百音と桃子。 人の幸せとは、定型的なものではなく、人それぞれだと思います。 そのことを美しく浮かび上がらせた連作ドラマ、と感じます。 ※趣きは異なりますが、百音と統理・路有の関係に、大崎梢「空色の小鳥」を思い出しました。こちらもお薦めしたい作品。 わたしの美しい庭T/あの稲妻/ロンダリング/兄の恋人/わたしの美しい庭U |
「滅びの前のシャングリラ Shangri-La before the destruction」 ★★ | |
2024年01月
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小惑星が地球に衝突する、というニュースが世界の人々を揺るがす。衝突まで残された時間はあと1ヶ月。 その1ヶ月を人々はどう過ごすのか。 と言っても多くの人々を描くのではなく、本作が描くのは特定の4人。いずれも「人生をうまく生きられなかった」という悔いを抱いています。 ・江那友樹:17歳・高校2年。ずっとイジメに遭いパシリも。何が間違ったのだろうと思っている。その友樹、ライブを見る為東京に向かうという美少女の同級生=藤森雪絵を守ろうと、友樹もその後を追って東京へ。 ・目力信士:暴力的な人間。ずっと暴力団の淵で生きてきたが、命じられて敵対暴力団の組長を殺害。最後に、昔惚れていた女に会いに行く。 ・江那静香:40歳。全力で友樹を育ててきたが、中卒のシングルマザー、息子に寂しい思いをさせてきたという悔いあり。 ・山田路子:29歳、人気歌手。指示されるまま自分を変身させてきたが、その結果は身内、元バンド仲間と疎遠になり孤独。 4人の内3人が冒頭、人を殺してしまったと告白します。そんなことをしてしまったのもあと1ヶ月だったからでしょうか。 4人の行動に共通するのは、自分が大切にしていたものを最後まで守りたいという強い気持ちです。 本ストーリィは、最期の時に4人がひとつ処に集結するまでの、ロードノベルにも似た展開。 善悪を別にして、大切なものを守るためにこれまでの自分には考えられなかった行動をとる、それは痛快と言えるでしょう。 最期の場面、何かすっきりとした気持ち良さを感じます。 ※SF小説に、新天体が地球に衝突するという予測がなされ、一時的に地球の軌道を変える大作戦が行われる、というストーリィがあります。山本弘「地球移動作戦」。興味を惹かれましたら、こちらも是非。 シャングリラ/パーフェクトワールド/エルドラド/いまわのきわ ※付録小冊子:「イスパハン」・・・スピンオフ。 |
「すみれ荘ファミリア」 ★★ | |
2021年05月
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2018年ライトノベルの加筆修正かと思い、大きな期待はしていなかったのですが、そう持ってくるかァ、流石は凪良ゆうさん!と感嘆したところです。 主人公の和久井一悟、子どもの頃から身体が弱く、今は母親所有の下宿<すみれ荘>の大家代理という状況。 そんなある日、一悟に自転車をぶつけられ右手を怪我、治るまで一悟に代筆をして欲しいと、ライトノベル作家だという芥一二三がすみれ荘に入居してきます。 その芥、実は両親が離婚して24年も会うことがなかった弟の央二と、すぐ一悟は気づきます。 一体何故、弟であることを隠して芥は一悟に近づき、すみれ荘に入り込んできたのか? 何やら不穏な出だしです。 そこから始まり、下宿人3人=美寿々、隼人、青子それぞれが抱える問題が描きつつ、一悟と芥の事情も描かれていきます。 そうした展開自体は、こうした群像劇では珍しいものではありませんが、そこに隠されていた真相、その後の展開に仰天させられます。 一旦壊れた家族も、再び家族として結びつくことができる、そう思うと救われる気持ちがします。 ※なお、美寿々の章に登場する居酒屋二代目、こんな考え違いをしている男性、まだいるんですかねぇ・・・いるのかも。 「すみれ荘ファミリア」(2018年富士見L文庫にて刊行、加筆修正) プロローグ−ファミリアT/たゆたえども沈まず−美寿々の告白/アンダーカレント−隼人の告白/名前のない毒−青子の告白/イマジナリー−央二の告白/不条理な天秤−母の告白/エピローグ−ファミリアU/あとがき 「表面張力」(後日譚、2021年2月「小説現代」に掲載) |
「汝、星のごとく」 ★★☆ 本屋大賞 | |
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典型的な田舎社会である今治に近い瀬戸内海の島、その島育ちである井上暁海と、男を追って京都から島に移り住んだ母親に連れられて転校してきた青埜櫂。 共に尋常ではない母親を持つという枷をはめられた2人が、出会った17歳から32歳になるまでの紆余曲折を描いたストーリィ。 展開だけ追ってみれば、「流浪の月」と似たところがあります。 出会いによって2人が救われ、そしてさる事情から別れ、再び出会うという展開ですから。 しかし、「流浪の月」は主人公2人が互いに支え合って生きようとするストーリィでしたが、本作は異なります。 枷から抜け出て自分の望む人生を生きていくためには、自立できる生活の術を手に入れることが必要である、というメッセージを伝えるストーリィになっていますから。 その点で、暁海の周囲には興味深い人物が登場します。 一人は、父親が母親を捨てて走った相手の瞳子という自立した女性。そしてもう一人は、暁海・櫂が通った高校の北原先生。 ユニークといえば、シングルファーザーであるこの北原先生ほど面白い存在はないでしょう。 でも私としてはその考え、十分理解できます。 ただ、終盤に至るまで、読み進むのが辛くて仕方ありませんでした。何が辛いって、子どもが親の世話に明け暮れ、自分の夢を犠牲にすること、これに尽きるものはないように思います。 似通った境遇にあり、お互いを支え合う大事な相手だった筈なのに2人の道が別れたのは、櫂が大きな苦労しないままに自立を掴み取った一方、櫂から置いてきぼりにされた暁海は苦労を重ねた末に自立の道を掴み取ったからでしょう。 最後は、暁海にとっては一つの幕切れ、ということでしょう。 「流浪の月」と同様、エンディングの余韻が忘れられない作品になりました。 プロローグ/1.潮騒/2.波蝕/3.海淵/4.夕凪/エピローグ |
「星を編む」 ★★ | |
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「汝、星のごとく」の続編。 シングルファーザーの北原先生と娘=結の秘密が明かされるとともに、櫂亡き後の北原先生と暁海の暮らしが20年という長い年月にわたって語られます。 北原草介と草介と結婚した暁海、2人を描く物語と言って良いでしょう。 前作で書ききれなかった物語を本書で、ということでしょうか。 ・「春に翔ぶ」:北原草介が結という娘を持つに至った経緯を描く物語。草介と結の実母である明日見菜々との関係はこういうものだったのか、と驚き。 それにしても草介の腕に抱かれる結の可愛らしそうなこと。草介にとって結の父親になれたのは、幸運なことだったのかもしれません。 ・「星を編む」:前作にも登場した、青埜櫂を見込んだ編集者2人=二階堂絵理と植木渋柿がそれぞれの編集部で今や編集長となり、故・青埜櫂の遺作小説「汝、星のごとく」の刊行と漫画復刊を目指し奮闘します。 編集者としての2人の覚悟と、ぶれない行動に読み応えあり。 ・「波を渡る」:北原暁海38歳の夏から、交互に北原草介を主役とした篇も合わせながらの58歳の夏まで。 2人の長く、静かな歩みに胸打たれる思いです。 「汝、星のごとく」の続編ではあり、前作と関係がない訳ではありませんが、本作は本作で独立した作品として読み甲斐あり。 春に翔ぶ/星を編む/波を渡る |