永倉萬治作品のページ


1948年埼玉県生、立教大学中退。“東京キッドブラザース”在籍後、放送作家、広告プランナーなどを経て作家。「アニバーサリー・ソング」にて講談社エッセイ賞受賞。2000.10.05死去。


1.どいつもこいつも

2.ぼろぼろ三銃士

 


      

1.

●「どいつもこいつも」● ★★




1998年9月
新潮社刊
(1700円+税)

 

1999/07/26

とくに特筆するようなストーリィがある訳ではありません。むしろどうでも良いようなこ とばかり、と言えるようなストーリィを集めた短編集です。
特徴を捉えようとするなら、世の中そう思い通りにはいかない、という話を中心にまとめた1冊と言えます。その点では、直前に読んだ山本文緒「紙婚式と似ています。
ところが、読み進むうちに、心の中が軽くなっていくような気分になるのです。
主人公の思う通りにいかないのは山本作品と同様なのですが、どこか抜けたようなところがあるのです。その所為か、思い通りに事が進まなくても良いのではないか、それはそれでちょっと面白いのではないか、と何時の間にか思うようにされています。
ストレスを抱えがちな現代人の気分を、軽くほぐしてくれる、そんな珍しい価値をもった本です。こんな本を読んでみるのも一興ではないでしょうか。

フライドチキンの夜/誕生日/銀杏/S高原の一夜/結婚願望/南の島/冬の雷鳴/三十歳/妊娠と淫売/どいつもこいつも/フンちゃん/雪の降るまちを

  

2.

●「ぼろぼろ三銃士」● 




2001年12月
実業之日本社
(1800円+税)

 

2002/02/23

永倉萬治さんの遺作となった作品。執筆途中で亡くなられた為、残りを有子夫人が書き継いで完成させたそうです。

主人公は大学時代の仲間3人。
各人共、会社からリストラ退職させられたり、勤務先が倒産、あるいは経営していた町工場を廃業したりと、今は定職のない身の上。そんな訳で、彼ら自ら曰く、“リストラ三銃士”
決して笑い事ではありません。不景気でリストラ(=一つ覚えの如き人員削減)ばかりが叫ばれる中、こうした状況に近い方は少なくないでしょうし、私自身にしても、近い将来の自分の姿と思えます。
この3人の場合は、さらに女房に死別していたり、とうに離婚していたり、退職を決めた日に突然離婚を言い渡されたりと、家庭生活の方も寂しい状況。
したがって、3人の境遇は寂しいもの。ですが、偶然ハローワークで再会して昔の仲間が顔を揃えると、自分だけじゃないという連帯意識も芽生え、明るさが生じてくるところに救いが感じられます。
中年3人の滑稽譚という点では、井上ひさし「浅草鳥越あずま床」が思い出されますが、現在の社会風潮を色濃く伝え、リストラ中年へエールを送っているところが、本作品の特徴でしょう。
ただ、前半に比べ、後半パワーダウンしているように感じます。

  


 

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