村崎なぎこ作品のページ


1971年栃木県生。食べ歩きブロガーをしながらトマト農家の夫を手伝う。運営するブログ「47都道府県1000円グルメの旅」が、2022年<ライブドアブログ OF THE YEAR ベストグルメブロガー賞>を受賞。21年「百年厨房」にて第3回日本おいしい小説大賞大賞を受賞し作家デビュー。


1.百年厨房 

2.ナカスイ!−海なし県の水産高校− 

3.ナカスイ!−海なし県の海洋実習− 

 


                   

1.
「百年厨房 ★★       おいしい小説大賞大賞


百年厨房

2022年04月
小学館

(1600円+税)



2022/05/21



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美味しい食事が縁となって人々の繋がりを作っていく、という作品はいろいろありそうですが、それに大正浪漫とタイムスリップが加わると、それはやはり珍しいと言うべきでしょう。本作はそんなストーリィ。

主人公の
石庭大輔は32歳。宇都宮市大谷町にある元石材商だった旧家の現当主とはいうものの、桜沼市役所で情報専門職員、独身で交際嫌い、食べ物に興味がなく、コンビニ弁当常習者。

ある日、女性の悲鳴が聞こえたと思ったら、裏山にある祠の階段から昔風の女性が転げ落ちてきた。
その女性、
アヤと名乗り、明治生まれの22歳、亡き祖父に女中として仕えていたと・・・・つまり、タイムスリップ。
さらに音信不通だった妹が死去したからと突然に7歳の
姪ルナが現れるといった混乱が続きます。
郷土博物館の学芸員である
篠原紫、すかさずアヤさんとルナを世話する人が必要だろうと同居を宣言し、独身暮らしがいきなり4人の疑似家族暮らしへ・・・。

開かずの蔵の鍵をアヤが見つけ出し蔵を開けた処、そこは当時の最新型設備を揃えた厨房蔵=
百年厨房
そこでアヤ、次々と当時の料理を作りだし、皆を喜ばせます。そして次第に大輔も皆も変わっていく。しかし、またもや新たなタイムスリップが起きて・・・。

タイムスリップも面白いのですが、何より楽しいのは、アヤさんが説明しながら作り出してくれる数々の庶民的な料理です。そしてもう一つ、個性的な面々がひとつ家族としてまとまっていく姿が実感できるところ。
さて、最後にどう決着するのか、どうぞお楽しみに。


プロローグ/1.冷やしコーヒーをもう一度/2.楽しい「ご飯」/3.レモンとミルクのサムシング/4.柿と七五三/5.ベーキャップルをあなたに/6.昔日のミルクセーキ/7.「時」が結ぶ味/8.「おいしい」は世紀をつなぐ/エピローグ

              

2.
「ナカスイ!−海なし県の水産高校− ★★


ナカスイ!

2023年03月
祥伝社

(1600円+税)



2023/04/04



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これぞまさに、高校生たちの青春!という一作。

ストーリィの舞台がユニーク。何と海なし県にある唯一の水産高校=
栃木県立那珂川水産高等学校(ナカスイ)
海なし県なのに何故水産高校があるの?というと、海がなくても川がある、那珂川町は鮎の宝庫、ということらしい。

主人公の
鈴木さくらは、“普通”から脱却したい、普通ではない高校&下宿生活で青春を謳歌したいと、魚のことも良く知らないままナカスイに進学。
ところが入学してみると、たった2人の女子生徒からは邪慳にされ、魚の知識豊富な同級生たちについていけず、孤独感にさいなまれます。

とはいえ、水産高校らしく、担任教師や同級生たち、いずれもすこぶる個性的で、楽しくもあり可笑しくもあり。
ただし、そんな彼らもそれぞれ、さくらに負けない問題や悩みを抱えていることが順次明らかになっていきます。

前半は、水産高校の授業ぶり、その物珍しさへの興味。
後半になると、さくらが言い出しての
“ご当地!おいしい甲子園”への挑戦という展開。

何だかんだと言いつつ、本作も食べものがストーリィのポイントになっています。
学校の近くにある用水路で獲れた素材を使っての料理とか、いかにも楽しそうです。

ただ、水産高校の内容が充分描かれたとは言えないうちに、“おいしい甲子園”を中心に据えたストーリィ展開になってしまったところは、楽しいことは楽しかったですけれど、ちと残念と思う次第です。


1.四月はザリガニグラタンコロッケバーガーで/2.サワガニフルコースは五月晴れ/3.シジミそうめんは夏への扉/4.総集編ピザまんで梅雨が明ける/5.ナマズせんべいはエールの証/6.海なし県の水産グラタンパイで飛び跳ねろ/7.さよなら。鮎は黄昏で/最終章.ユース〜若鮎のころ〜

            

3.
「ナカスイ!−海なし県の海洋実習− ★☆


ナカスイ! 海なし県の海洋実習

2023年12月
祥伝社

(1700円+税)



2024/01/06



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ナカスイ!”シリーズ第2弾。

前半、主人公である
鈴木さくらが、恋愛したいという妄想にかられ、猪突猛進ならぬ猪突妄想といった様子。
そのきっかけになったのは、卒業する水産研究部の安藤元部長、桑原元副部長がそろってカレシを見つけていたということに衝撃を受けたらしく、自分もと急にバタバタし始めます。
折しもさくらの目の前に現れた、
茨城県立那珂湊海洋学校の生徒である関清斗に一目惚れ。
そして、さくらたちが受ける海洋実習に那珂湊海洋高校の協力を受けるとか、TV番組での両校対抗戦といったイベントが続き、さくらの関への恋情は募るばかり。

ただし、前半のこの部分、率直に言って私としては読んでて面白くなかった。いちいち騒ぎ過ぎ、と阿呆らしく思えて。

しかし、後半、東京の日本橋にある
山神百貨店からナカスイに、同店が催す<水産加工品フェア>への出店の誘いがあった辺りから、俄然面白くなってきます。
2年になって
芳村小百合大和かさねと選択コース=クラスが別れたものの、<食品加工コース>に転入してきた野原麻里乃とコンビを組んださくらは、山神百貨店フェアへの出店、売り上げ第一位を目指して奮闘します。

転校生である麻里乃との新たな友情、親の経済的な事情からの悩みも面白いのですが、何より愉快なのはさくらによる出店商品へのネーミング。
水産研究部の仲間たち(卒業生も含む)や先生たち、同級生たち等々の協力も得ながらさくらが本気で挑戦するところ、これぞ高校青春篇といった風で、爽快、かつ胸熱くなります。

さて、さくらの初恋はどうなることやら。それは読んでのお楽しみです。

1.那珂川を遡る三匹の若鮎は、ピスタチオの苔を食む/2.那珂川コーヒーゼリー/3.那珂川の竜宮城ふりかけ/4.コイの海洋実習/5.モクズガニざんまい/6.白鳥と黒鳥の湖/7.おいしい三角関係〜那珂川グリーンカレー〜/最終章.オタマジャクシの初恋

      


   

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