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12.ふたつのしるし 13.たった、それだけ 14.神さまたちの遊ぶ庭 15.羊と鋼の森 16.静かな雨 17.つぼみ 18.緑の庭で寝ころんで |
【作家歴】、スコーレNo.4、遠くの声に耳を澄ませて、よろこびの歌、太陽のパスタ・豆のスープ、田舎の紳士服店のモデルの妻、メロディ・フェア、誰かが足りない、窓の向こうのガーシュウィン、つむじダブル、終わらない歌 |
11. | |
「はじめからその話をすればよかった」 ★☆ |
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2016年04月 2013/11/26 |
作家の初エッセイ集となれば、作家となるに至った経緯、周辺事情、そしてその人となりを知ることができるという面があって、わりと読むようにしています。 本書は、私のお気に入り作家の一人である宮下奈都さんの初エッセイ集という訳で、宮下さんの周辺事情をいろいろ知ることができる一冊になっています。 とはいえ宮下さん、エッセイには苦手意識があったそうです。そんな宮下さんに編集者の一人が、「宮下さんが主人公の掌編小説を書くようなつもりで」書けばいいと言ったそうです。 「日々、つれづれ」という冒頭部分のエッセイはまさにそんな風で宮下さんの身の回りについての話題が多い。子供たちを中心に日常生活のこと等々。 宮下さんと身近に親しくなれたような気がする一冊です。 ホルモンから生まれた−まえがき/日々、つれづれ/本のこと、ときどき音楽、漫画、映画/自分の本の解説(*既刊10作品について)/ひとさまの本の解説(*計6作品)/ホルモンその後−あとがき *途中挿入の掌編小説:オムライス/あしたの風/ちゅうちゅう/サンタクロースの息子 |
12. | |
「ふたつのしるし」 ★★ |
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2017年04月
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冒頭は、ハルこと温之が小学校に入学した時のこと。 ひとつのことに興味をひきつけられると他のことが全く目にはいらなくなってしまうハルは、担任のベテラン女性教師にとっては問題児でしかなかった。しかし、そんなハルを凄いと見ていた同級生(健太)もいるのです。 一方の遥名は、その頃中学一年。 自分の力に自信をもっているが故に目立つまいと、あえて馬鹿っぽい話し方をしている。 ハルも遥名も、ごく普通の生徒からすればかなり風変わりなキャラクター。敢えて言えば共に、人と群れようとしない、孤立を恐れない性格の持ち主。 そんな2人を、その間に何年も置きながら、2人が出会うまでを全6章構成でそれぞれの成長、足取りを描いた連作風長編小説。一応純粋な恋愛小説だそうです。 ただ、最初とびきりユニークだった2人が徐々に社会に馴染んでいく辺り、ちょっと物足りないと言うべきか、それともあぁ良かったと喜ぶべきなのか、少々微妙な思いがあります。 出会うべき人に出会ったとき、その人に“しるし”があるのを見い出すもの。かなりユートピア的恋愛のように感じます。“赤い糸”伝説の変型かもしれません。 でも婚活時代、あるいはセックスありきの恋愛という現代、そんな夢を見れることは幸せだと感じます。 第1話-1991年5月/第2話-1997年9月/第3話-2003年5月/第4話-2009年7月/第5話-2011年3月/第6話 |
13. | |
「たった、それだけ」 ★★ |
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2017年01月
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望月正幸、優しい人柄で、社内でも評判の良い人物。現在はトップ昇進で営業部長。 しかし、望月の社内不倫相手である夏目は、望月が贈賄に関わっていることを知り、望月を告発する一方で逃亡を勧める。 生れたばかりの女児と共に置き捨てられた妻の可南子、動揺する姉の由希子、成長した後の娘ルイ、そして彼らに関わった人たちを各章の主人公として繋ぐ連作ストーリィ。 不確かな時代だなぁと思う、それを象徴するようなストーリィ。 そうした不確かな時代に、どうしたら幸せと思える生活を、あるいは人生を手に入れることができるのか。 そのためには、各人に何が必要なのでしょう。 そうした本ストーリィをどう読み解くかは、読み手次第。 要は、確かなものを手にすることができるかどうかではないか。 そして、その確かなものを手に入れることができるかどうかは、その人の強さ、弱さにかかっているのではないか。 一見すると暗い話のように思えますが、決してそうではありません。正幸の世代に弱さを感じる一方、ルイやその同級生たちには親たちの弱さを見据えた強さを感じ取れるからです。 幸せを手に入れることができるかどうかは、きっと単純なことなのでしょう、目先のことに目を晦まされなければ。 不確かな時代を生きた親世代から、若い世代へのエールを繋ぐストーリィ、私はそう感じます。 第一話/第二話/第三話/第四話/第五話/第六話 |
14. | |
「神さまたちの遊ぶ庭」 ★★ |
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2017年07月
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題名からてっきり小説と思い込んでいたらエッセイ、ただし何と面白いエッセイであったことか。 北海道で暮したいというご主人の強い希望から、大雪山国立公園の中にあるトムラウシという集落に移り住むことになった宮下家4人、その一年間にわたる暮らしを描いたエッセイ。 (「小説宝石」に2013.05〜2014.06連載) そもそもは帯広で2年間という計画だったのに、ご主人がもっと北海道の雄大さを感じられる処が良いと言い出したとのこと。 14歳の長男、12歳の次男、9歳のむすめ、当然に反対すると思ったら「面白い」「そういうところで暮してみたい」と言い出し、あっさり決定してしまった、というところが面白い。 そして福井から移り住んだトムラウシ集落のあるその土地がカムイミンタラ、アイヌ語で「神々の遊ぶ庭」という意味なのだそうです。 子供たちが通うことになったのは小中併置校の富村牛、宮下家の兄弟妹3人が入学する前年は、小中合わせて生徒は僅か10人だったのだという。それでも山村留学でやってきてそのまま居着いている家族もあるのだとか。 トムラウシでの生活の様子は何と言っても子供たちが中心。 少ない生徒、生徒数に対して多い先生たち、そして教師や親たちを交えたイベントの多さ、大自然を舞台にした遊びとも思えるような授業の豊かさ、いやあ楽しそうだなぁ。 こんな環境で暮らせる子供たちは、本当に幸せだと思います。 また、子供たち(特にむすめ)の行動や話に対する宮下さんのつっこみも愉快。 しかし、子供たちがずっとその集落に留まっていられる訳ではない現実の難しさも語られます。 小説よりもリアルに豊かで楽しい山村集落での暮らし体験記。 読み手も宮下家と一緒になってトムラウシ集落での生活を味わった気持ちになります。お薦め。 新年−引っ越すことになった/四月−長い長い春休みが始まる/五月−桜の蕾はまだ堅いまま/六月−山が生きている/七月−トムラウシ登山/八月−プールに入りたかった熊/九月−雪虫が飛んでたよ!/十月−まさかのシンデレラ/十一月−子供がつないでくれている/十二月−じたばたと楽しむ/一月−一年間だけ、いつもひとり/二月−迷ったり揺れたり/三月−きらきらと輝いた暮らし/四月−いつかまた |
「羊と鋼の森」 ★★☆ 本屋大賞 | |
2018年02月
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「羊と鋼」とはピアノのこと。 本作品は、高校生の時に学校の体育館にあるピアノを調律しにやってきた調律師の出す音に森を感じて惹かれた主人公が、調律師専門学校を経て一人前の調律師を目指して一歩一歩成長していく姿を描いた、静謐で敬虔なストーリィ。 主人公の外村は、山の中の集落で生まれ育ち、高校の時初めてピアノ調律師という仕事に出会います。 特別才能に恵まれていた訳でもなく、ましてピアノが弾ける訳でもないといった地味な青年。 そんな彼の調律師としての歩みは、当然にしてそう簡単には進まず、自分でも情けなく思う程。 それでも彼は、焦ることも自虐になることもなく、謙虚にそして素直に、一歩一歩前進していく努力を積み重ねていきます。 何かというとすぐ結果を求め、また出そうとする現代社会にあって、遥に遠い目標を目指し、気持ちを緩めることなく地道に道を究めようとする青年の姿はどんなに尊いことか。 本作品は、極めて地味なストーリィです。 でも主人公の真摯で敬虔な姿が、何とも言えない居心地の良さ、快さを醸し出しています。 この雰囲気に浸れることこそ、本作品を読む喜びとして過言ではありません。 |
※映画化 → 「羊と鋼の森」
「静かな雨」 ★★ |
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2019年06月
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12年前、文芸誌「文學界」にて新人賞の佳作を受賞したという、出版社曰く“幻のデビュー作”。 前回の本屋大賞を「羊と鋼の森」が受賞して宮下奈都さんに注目が集まったことからデビュー作が出版に至った、ということなのでしょう。 100頁ほどの中編作品。 (注:かなりネタバレです) 主人公の行助は、勤めていた会社が廃業して失職、その折に通りかかった店でたい焼きを買って食べたところ、その美味しさに勇気づけられます。 その後、安給料ではあるものの出身大学の研究室に職を得ることができた行助、たい焼き屋に度々足を運び、店主の女の子=このみさんと親しくなります。 ところがそのこのみが交通事故に巻き込まれ意識不明の重体、その後やっと意識を取り戻したものの、記憶を1日しか留められないという障害が残ります。 割とよくある設定。私の知る限り、小説では「博士の愛した数式」や「掟上今日子の事件簿」シリーズがありますし、映画では「50回目のファースト・キス」があります。ただし、主人公および障害を負った人物の設定次第によりその印象は異なります。 本作で行助、このみと同居することになるのですが、微妙なやり取りに加え、波乱も当然にしてあるのですが、本質的には静かな生活。 記憶を分かち合うより思いを分かち合えることの方が大切という行助の言葉と共に、静かな2人の姿が胸に沁み込んでくるようです。 その意味で「「羊と鋼の森」と対をなす原点というべき作品」という宣伝文句にも納得ができます。 宮下奈都ファンなら読んでおくことをお薦めしたい一冊。 |
「つぼみ」 ★★☆ |
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2020年08月
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慎ましく、細やかで、地道。それでも登場人物の心映えがとても美しく感じられる作品集。 10年前、5年前に書かれたもの、その他雑誌に掲載されたもの等を取り交ぜてまとめた一冊だそうです。 前半の3篇は、宮下さんの出世作「スコーレNo.4」(主人公は津川麻子)のスピンオフ作品。 「手を挙げて」の主人公は、麻子の叔母である和歌子。恋人とのちょっとしたひとコマが主場面。 「あのひとの娘」の主人公は、麻子の父親と学生時代に付き合っていた美奈子。主催する華道教室に“あの人”の娘である紗英が入会して来ての、ちょっとした心の揺らぎが語られます。 「まだまだ、」の主人公は、麻子の末の妹である紗英。華道教室で一緒になった元同級生の朝倉くんとの素敵な繋がりが語られます。 どの篇もちょっとした気持ちの変化を描いていますが、そのどれもが素敵。これからの新たな歩みに心が躍ります。 「晴れた日に生まれたこども」は、晴子と晴彦という似た名前を付けられた姉弟の物語。弟をいつも気遣う姉といつもちょっと姉に頼る弟の関係、そして母親の一言が、実に好いんだなァ。 「なつかしいひと」は、母親を亡くした後、父親・妹と母親の郷里に引っ越してきた中学生=太一の、奇跡のような出会いを描いた篇。書店、そして本が鍵になっているところが、本好きにとっては何より嬉しい。 「ヒロミの旦那のやさおとこ」は他の5篇と趣きのことなる作品ですが、ほとんど登場しない幼馴染“ヒロミ”の存在感が抜群であるところに惹きつけられます。 どの篇も、宮下さんらしい優しさと、凛とした美しさに満ちた作品集。どの篇もじっくり味わえる魅力を備えています。お薦め! 手を挙げて/あのひとの娘/まだまだ、/晴れた日に生まれたこども/なつかしいひと/ヒロミの旦那のやさおとこ |
「緑の庭で寝ころんで」 ★★ |
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2020年10月
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エッセイ集。 冒頭を飾り最後を締める「緑の庭の子どもたち」は、月刊「fu」2013年10月号〜17年10月号に連載された、子どもたちをテーマにしたエッセイ。 宮下家のお子さんたち、息子さん二人と娘さん一人、魅力的ですねー。成長する様子を宮下さんと一緒に見守っているような気持ちになりますが、3人ともとても逞しいなァと感じます。羨ましくなるくらい。 中心は、「神さまたちの遊ぶ庭」にも描かれた、北海道は十勝の山の中“トムラウシ”で過ごした山村留学一年間の様子です。 この部分が私にとっては一番楽しかったところ。 その他、家庭での日常生活、作家としての活動風景、読書日記(本のことなど)、自作解説(自作について)等々のエッセイに加えて、音楽劇原作や掌編小説といった創作5篇を収録。 とくに「自作について」と「羊と鋼と本屋大賞」は、宮下さんの小説世界に直接繋がるエッセイ。 宮下作品と対をなすエッセイ集と言える一冊で、たっぷり楽しめました。 まえがき/1緑の庭の子どもたち 2013-2015/大きな鳥/2.日々のこと/リトルピアニスト/3.本のことなど/左オーライ/4.自作について/椿/5.羊と鋼と本屋大賞/6.緑の庭の子どもたち 2015-2017/いまだよ |