久坂部羊
(くさかべ・よう)作品のページ


1955年大阪府生、大阪大学医学部卒。外務省の医務官として9年間海外勤務の後、高齢者が対象の在宅訪問診療に従事。その一方で20代から同人誌「VIKING」に参加し、2003年「廃用身」にて作家デビュー。14年「悪医」にて第3回日本医療小説大賞を受賞。


1.
芥川症

2.
いつか、あなたも


3.院長選挙

  


     

1.

「芥川症 ★☆


芥川症画像

2014年06月
新潮社刊

(1500円+税)

2017年01月
新潮文庫化



2014/07/13



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題名、表紙絵を見て直ぐに気付かれることでしょう。本書が芥川龍之介作品のもじりであることを。
そして内容はといえば“医療小説”。医療小説というと私にとってすぐ思い浮かぶのは帚木蓬生等のサスペンスものですが、一方でヒューマンドラマもあり、古くは
クローニン「城砦」があり最近では夏川草介「神さまのカルテがあります。
さて本書はというと、如何にも他人を喰った題名から察することができるように、現代医療への風刺を含んだブラック・ユーモアという趣向。

収録7篇の原題は、
「藪の中」「羅生門」「鼻」「蜘蛛の糸」「地獄変」「芋粥」「或る阿呆の一生」という訳です。

「病院の中」は、緊急入院した父親の死因を確認しようとする息子が難しい医療用語に振り回され、その揚げ句に「医療の進歩は必ずしも人間のためにはならない」と言われ、愕然とする話なのですが、その結末に同感させられるものがあって可笑しい。
「他生門」も、如何にも実在して不思議ない話なのですが、うっかり同感できないところが何とも・・・。
「バナナ粥」は、親切過剰なケアマネージャーにいがみ合っていた筈の父子がたじたじとなる話。2人だけだと揉めるしかない関係も、もう一人加わると別の局面が生まれ得るという象徴的な話かもしれません。

病院の中/他生門/耳/クモの意図/極楽変/バナナ粥/或利口の一生

   

2.

「いつか、あなたも ★★


いつか、あなたも画像

2014年09月
実業之日本社

(1500円+税)



2014/10/01



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必然的に末期患者を行うことの多い在宅医療、その専門クリニック「あすなろクリニック」に所属する2人の医師と看護婦、そして末期患者とその家族の姿を描いた医療小説、6篇。

いやー、在宅医療現場の壮絶さ、苦労の多さに何度絶句、そして涙ぐんだことでしょうか。
余りにリアル、と感じていたところ、実際に久坂部さんが携わった実例を基に描いたストーリィなのだそうです。
まず冒頭の
「綿をつめる」、病院だったら看護師だけで行う遺体の処置も在宅医療となれば医師も手伝わない訳にはいかない、ということで、看護師たちが当たり前に行っている処置の内容が具体的に描かれます。以前、納棺師を扱った映画「おくりびとが話題を呼びましたが、映画だけにあれは綺麗ごとでしかなかったのだなぁと感じます。

しかし、上記篇などはほんの序の口。その後の篇、まさに現実は作り話より遥かに重いものを備えていると思わざるを得ませんでした。
在宅看護、もちろん患者本人の治療・看護も苦労多いのでしょうけれど、それに優るとも劣らず、看護する家族のケアもまた、在宅医療における大きな課題、役割りなのだということを初めて認識した思いです。
看護する家族の性格、理解度によって、患者が受けられる看護も大きく左右されていることが、現実のこととして描かれます。

本書を読み終えた時、「いつか、あなたも」という本書題名が、突き刺さすように胸に迫ってくるのが感じられます。
その時、私は看護される側なのか、看護する側なのか。いずれにせよ、覚悟をもって生きなければならないのだと、ふと考えました。


綿をつめる/罪滅ぼし/オカリナの夜/アロエのチカラ/いつか、あなたも/セカンド・ベスト

      

3.

「院長選挙 ★★


院長選挙

2017年08月
幻冬舎刊

(1600円+税)



2017/10/06



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国立大学病院の最高峰である天都大学医学部付属病院で、病院長の宇津々覚が急死。しかし、不整脈による突然死という発表の一方で、自殺、事故死、もしかすると謀殺?という噂がささやかれていた。
そんな中、次の病院長の椅子をめぐって、4人の副院長が争うことになります。つまりは“院長選挙”をめぐる争い。
その4人の副院長とは、心臓至上主義で外科嫌いの
循環器内科教授=徳富恭一、手術の腕は抜群だが内科嫌いの消化器外科教授=大小路篤郎、患者を多く集め手術収益で病院への貢献大という眼科教授=百目鬼洋右、そして改革派を標榜する整形外科教授=鴨下徹、という面々。

折しも女性フリーライターの
吉沢アスカが“医療崩壊”をテーマにしたノンフィクションをものにしようと、天都大学に取材に入り込みます。
そのアスカの視点を以て描かれる、抱腹絶倒というより、呆れる上にも呆れ果てるばかりの、高名医師たちによる群像劇。

アスカが一人ずつ取材に回る限りでは、自分の自慢・他科の悪口を吹きまくっているというだけのことなのですが、その4人が集まるや、いやはや・・・・。言い争いがどんどんエスカレートして罵り合い、挙げ句の果てには掴み合い、アスカや出版社部長という第三者がその場にいるというのに見境なし。
それは部下の晴れの舞台でも繰り広げられるのですから、何ともはや・・・。
珍しく4人が意気投合しているかと思えば、それは患者やその家族に対する悪口を吹きまくっている時というのですからねぇ。

しかし、コメディとばかり言っていられないのは、誇張過ぎる処はともかくとして、実際そんな場面、傾向はあるのだろう、と思われることです。
とにかく、「先生」と呼ばれる人たちは、人に頭を下げるということを知りませんからねぇ。

口をあんぐり開けてしまう程にまで呆れ返るストーリィを読んでみたいという方に、お薦め。


1.伝説の教授室/2.手術部風呂/3.犬猿の仲/4.アンフェア・プレー/5.謝罪会見/6.コメディカル/7.面白い巨塔

 


  

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