こうの史代
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1968年広島県広島市生。95年「街角花だより」にて漫画家デビュー。
「夕凪の街桜の国」にて第8回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、第9回手塚治虫文化賞新生賞を受賞。

 


     

●「夕凪の街 桜の国」● ★★★


夕凪の街 桜の国画像

2004年10月
双葉社刊
(800円+税)

2008年04月
双葉文庫化

  

2007/11/15

 

amazon.co.jp

広島の被爆体験者の哀しみを3篇、3代に亘って描いた漫画作品の傑作。

中学生の頃までは漫画の大ファンでした。それが小説に移ったのは、小説が語り出す世界に比べて漫画の語るところの及ばなさに気付いたから。
しかし、本作品はまるで異なる。小説ではなく漫画だからこそ伝わるものの深さ、大きさが感じられるように思います。
この作品で語られる言葉はそう多くはない。むしろ語られない言葉の中にこそ多くのものが詰まっていると言ってよいでしょう。
言葉だけで語りつくせるものではない。そんな哀しみが、語られない部分から伝わってきます。

「夕凪の街」は、父・姉・妹が死に、広島でバラックのような家に母親と2人暮らす若い女性、平野皆実が主人公。
本書にはさりげなく呟かれる言葉に胸を突き刺されるような思いを受ける箇所が幾つかありますが、その最初が「わかっているのは「死ねばいい」と誰かに思われたということ」という皆実の言葉でした。人間としてこれは、痛切極まりないセリフではないでしょうか。
「桜の国(一)」は、伯父夫婦の養子となって育った皆実の末弟=が父親となり、娘の七波と息子の凪生、そして旭の母親フジミとの暮らしが描かれます。
「桜の国(ニ)」は、「(一)」に引き続き七波が主人公。父親・旭と亡き母親が結婚するに至った物語が父親の回想として描かれるとともに、凪生の現在の恋愛の困難が描かれます。

すぐ読み終わってしまう薄い一冊。でもその中身は何度繰返し読んでも感動が尽きないほど、とてつもなく大きい。
井上ひさしの戯曲父と暮らせばにも大きな感動を受けましたが、本作品は母・娘と息子だけでなく、息子夫婦の子供たちにも繋がる物語としたところに、被爆という哀しみの底知れない深さを強く感じました。

夕凪の街/桜の国(一)/桜の国(ニ)

※映画化 → 「夕凪の街 桜の国

         


   

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