紅玉
(こうぎょく)いづき作品のページ


1984年生、石川県出身。「ミミズクと夜の王」にて第13回電撃小説大賞・大賞を受賞し、ライトノベルレーベルとしては珍しい童話的作品にて作家デビュー。現在はライトノベルのみならず、ゲームシナリオやコミック原作など多方面で活躍中。


1.
サエズリ図書館のワルツさん1

2.サエズリ図書館のワルツさん2

 


           

1.

「サエズリ図書館のワルツさん1 ★☆


サエズリ図書館のワルツさん1画像

2012年08月
星海社刊
(1200円+税)

   

2013/09/02

   

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図書館を舞台にした連作短篇小説ですが、このサエズリ図書館、公共施設ではないとのこと。読み進むにつれて判りますが、本ストーリィ、近未来という設定らしい。
とはいえ
有川浩「図書館戦争のような抗争というハードな設定ではなく、書籍の電子化が進み印刷物の本などはもはや時代遅れ、希少な存在になった社会という設定らしい。
その意味ではもはや非現実的とは言えないストーリィです。でも“本”を愛する人はまだいて、そうした人たちが喜びをもって訪れる場所がサエズリ図書館という恰好。
そのサエズリ図書館の代表が、まだ若い女性の
ワルツさん。

電子化書籍と本、その優劣を競うような話ではないと思うのですが、第一章に登場するドジな若い女性の会社員=カミオさん、それまで本などろくに読んだことがなかったのに、サエズリ図書館に足を踏み入れたことをきっかけに本好きになっていきます。
電子化書籍でもこんなことがあるかなぁと思うと、いささか疑問を感じざるを得ない。本という現実のモノ、図書館という場所だからこそ、多くの人に読み継がれてきたという証にもなり、それを手に取る重み、実感もあるのだと思います。
本は読むだけに非ず、書店で買おうかと眺める楽しさも、買って自分のものにする嬉しさも、書棚に並べて楽しむ喜びもあるのですから。ただ情報だけのデータではない、というのが本好きなら共通の思いでしょう。

「カミオさん」はそれまで図書館に縁のなかった女性が本好きになる話。
「コトウさん」は何か理由があっての常連利用者らしい。
「モリヤさん」は何かサエズリ図書館に怨念があるらしい新規利用者。
そして最終章
「ワルツさん」にてサエズリ図書館ならびにワルツさん自身の謎が明らかにされる、というストーリィ構成。
いずれの篇にも共通するのは、本を愛する、という思いです。

サエズリ図書館のカミオさん/サエズリ図書館のコトウさん/サエズリ図書館のモリヤさん/サエズリ図書館のワルツさん

           

2.
「サエズリ図書館のワルツさん2 ★☆


サエズリ図書館のワルツさん2画像

2013年08月
星海社刊
(1200円+税)

   

2013/10/19

  

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紙の本が希少な存在となった近未来。私立のサエズリ図書館を舞台に、図書館を訪れて本を愛するようになり、そこから再スタートを切るに至った人たちの姿を描いたハートフル物語、第2弾。

今回は面接や緊張する場が苦手で希望のLB(リストベース)管理者採用試験に落第したことに始まり、ことごとく会社面接に落ちて自信喪失状況の女子学生、チドリ(千鳥蓉子)さんが主人公。
自分を見定められるような就職活動に苦痛を感じるというのは、近未来ではなく現代社会でも同様の筈で、その意味では現代的な物語。
本書の第1章から3章までは、そのチドリさんを主人公にした物語。自信を失ったままサエズリ図書館を訪れたチドリさんが、ボランティアとして働き始め、やがて図書修復師を目指すまでのストーリィ。
成長物語としては平凡ですけれど、本物語の舞台設定があるからこそ楽しめるストーリィになっています。

第4章は、ワルツさんとペアになって図書館を支えるベテラン職員サトミさんの秘密が、ちょいと覗ける章。短い章ですけれど、見逃せません。

サエズリ図書館のチドリさん/サエズリ図書館のチドリさんU/サエズリ図書館のチドリさんV/サエズリ図書館のサトミさん

            


   

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