越谷オサム作品のページ No.2



11.魔法使いと副店長

12.房総グランオテル

13.まれびとパレード

14.四角い光の連なりが(文庫改題:次の電車が来るまえに)

15.たんぽぽ球場の決戦


【作家歴】、ボーナス・トラック、階段途中のビッグ・ノイズ、陽だまりの彼女、空色メモリ、金曜のバカ、せきれい荘のタマル、いとみち、くるくるコンパス、いとみち二の糸、いとみちさんの糸

越谷オサム作品のページ No.1

  


         

11.

「魔法使いと副店長 ★★


魔法使いと副店長

2016年11月
徳間書店刊

(1800円+税)

2020年05月
徳間文庫



2016/12/15



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埼玉県栗橋の自宅に妻と小1の息子を残して神奈川県藤沢に赴任中の大手スーパー副店長=藤沢太郎、41歳が主人公。
ある満月の夜、その太郎の部屋に箒に乗ってまるで突進してくるかのように飛び込んできたのが、見習い魔法使いの少女=
アリスと。そしてそのアリスと一緒に姿を見せたのは、「補佐役」だというモモンガの顔にリスの尻尾という小動物姿のまるるん
そんな出来事が起きたとしたら、そりゃあ驚くことでしょう。
そのうえさらに、居候を頼まれたとしたら・・・・。

単身赴任中の一人暮らしに14歳の少女を居候させるなど、良識からして了承できる訳がありません。しかし、子煩悩の処を見込んだと言われ、そのうえ半ば脅されるようにして承諾させられ、太郎・アリス・まるるんの同居生活が始まります。
ファンタジー場面から始まる、切なさも交えたハートウォーミングなストーリィという処は、あたかも
陽だまりの彼女の逆パターンのように感じられます。

大切な家族から離れて暮らす単身サラリーマンと、家族の幸せを知ることのなかった少女というコンビによる、新たに築かれていく清新な家族ストーリィ。
気持ちさえ繋がればそれはもう家族と言って良い、そしてそれはお互いが離れても変わることはない、というメッセージが伝わってくるようです。

最初こそ然程インパクトのないストーリィという印象でしたが、最終場面では一気にストーリィの密度が濃くなったみたい。それと同時に胸熱くなる思いがありました。
最後は、爽快な気分が胸の内に広がります。私好み。

        

12.

「房総グランオテル BOSO GRAND HOTEL ★★


房総グランオテル

2018年03月
祥伝社刊

(1400円+税)

2021年07月
祥伝社文庫



2018/04/07



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越谷さんらしい、心優しく、ユーモア感が漂うストーリィ。

舞台は、太平洋を望む海と砂浜が自慢の
南房総・月ヶ浦にある、家族で営む民宿<房総グランオテル>
その宿に3人の宿泊客を迎えての二泊三日が描かれます。
冒頭、とんでもない場面から始まりますので、一体どうなるのやらと心配させられますが、本質的には穏やかなストーリィ。
中心人物となるのは、民宿を営む
藤平夫婦の一人娘で、現在高校2年生の夏海(なつみ)
その夏海だけでなく、宿泊客3人も入れ替わり立ち代わり主人公になるという連環形式でストーリィは展開していきます。

3人の客はいずれも問題ありげ。若い女性の
佐藤舞衣子は、藤平家3人がよもやと心配する程に暗い表情。中年男の菅沼欣二はどうも自殺決行を考えているらしい。若い男の田中達郎はある女子高校生を追いかけているらしい(ストーカー?)。
そこへさらに、夏海と同じ高校に通う従姉妹で、中身はアホだがとびきりの美少女という
ハルカが、お泊り会という名目で泊まりにやってきます。

基本、ドタバタ劇です。でも、3人がそれぞれ抱える悩みは誰もが抱えていて不思議ないものですし、ドタバタ劇にもそれぞれ愛嬌があって楽しめます。
最後はちょっぴりハラハラさせられましたが、あんな逆転劇になろうとは、登場人物たちも読者も、全く予想付かなかったことでしょう。

何と言っても楽しいのは、夏海のキャラクター。人懐っこく、それでいてしっかり者。本ストーリィを楽しいものにしてくれている第一の存在です。
また、房総グランオテルがある月ヶ浦の景色も魅力です。
こんな民宿なら、きっとまた来たくなりますよね、元気な看板娘にも会いに。

           

13.

「まれびとパレード Marebito Parade ★☆


まれびとパレード

2018年10月
KADOKAWA刊

(1600円+税)



2018/11/25



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陽だまりの彼女」「魔法使いと副店長と、越谷オサム作品においてファンタジーとは意外なものではありませんが、流石にここまでくるとなぁ〜、と驚かされます。

なにしろ、
「Surfin's If The Dead」は、台風が来るというのにサーフィンをしに海へ出て1年前に死んでしまったコータ先輩<ゾンビ>になってミナミの前に現れる、というストーリィなのですから。
このゾンビになったコータ先輩の姿や死臭が生々しく、越谷さんじゃなかったら勘弁してほしいところですが、そこは越谷さんらしくユーモアでコーディング。それなりに楽しませてくれます。

「弟のデート」に登場するのは、癒し系妖怪の代表格である<座敷わらし>。実家立て直しのため仮住まいした古家屋。そこには座敷わらしが住んでおり、いつのまにか不登校7か月の弟=健人と仲良くなっていた。これ以上自分たち家族の運命を傾かせる訳にはいかないと、高校生の姉=紗良は座敷わらし引き留めに一生懸命になります。

「泥侍」、ショッピングモール建設予定地から変な声が聞こえるという苦情を受けて市役所員である大宇巨(おおうご)青空は、現地を確認に出向きますが、そこで見たものは土の中から上半身を現していた<泥田坊>。そのうえ、大宇巨作助と名乗ったその泥田坊は何と青空のご先祖さまらしい。
さて、その顛末は・・・・。

「ジャッキーズの夜ふかし」のジャッキーズとは、奈良の興福寺にある、ご本尊薬師如来を守る四天王に踏みつけられている四匹の<天邪鬼>のこと。
何十年ぶりに四天王から一時的に開放してもらえた天邪鬼たち、古都の夜で大騒ぎ、という愉快な篇。
リーダー、モチクニ、コーちゃん、ぞっちょんと呼ばれる4匹がいつも乗せている四天王は、多聞天、持国天、広目天、増長天なのでしょうね。越谷さんの名づけがまた楽しき哉。

最後の篇はちょっと別にして他3篇は、それぞれ主人公や家族たちが妖したちに救われるというストーリィ展開。
やはりハートウォーミングな異色妖怪譚。中でも座敷わらしは、いつでも人気者ですよね。

※最近では、
荻原浩「逢魔が時に会いましょうという連作ものもありました。

Surfin's If The Dead(サーフィン・ゾンビ)/弟のデート/泥侍/ジャッキーズの夜ふかし

         

14.

「四角い光の連なりが ★★
 (文庫改題:次の電車が来るまえに)


四角い光の連なりが

2019年11月
新潮社

(1550円+税)

2022年07月
新潮文庫nex



2019/12/14



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日常ドラマ、思い出・・・そのいずれにも列車あるいは電車が絡む、という5篇。

これはもう、列車好きの人向けの作品集でしょうねぇ。
と言って、それだけの作品集でもありません。人と人の繋がりの温かさ、優しさ、ちょっとユーモラスの香り付でですから。
さらにファンタジー要素の楽しみもあるのが「ニ十歳のおばあちゃん」の篇。
さあ、どうぞお楽しみください。

「やまびこ」:東京から一関の実家に向かうため東北新幹線<やまびこ>に乗り込んだ中年サラリーマン=佐々木真人が、車中で父親との思い出を回想するストーリィ。
「タイガースはとっても強いんだ」:デート兼試合観戦で甲子園へ向かう途中、車内で見かけたのが海遊館への行き方に不安げなポーランド人夫妻。 4〜12歳をポーランドで暮らした帰国子女の浜野努、タイガース勝利のためのルーティン+中井澄乃さんとの約束を取るか、ポーランド人夫妻に案内を買って出るか、いやはやどうしたら良いのか・・・。
「ニ十歳のおばあちゃん」:高校生の美羽、昔の都電車両が走っているという、豊橋の路面電車に乗りたがっている祖母の付き添いで、一緒に豊橋へ。そこで美羽が目撃したのは・・・。
「名島橋貨物列車クラブ」:小6の原爽太が、学校には提出しない作文として書いたのは、放課後に名島橋を渡る貨物列車の姿を一緒に見ていた同級生、松尾塁人くん、伊藤萌香さんとの大事な思い出。

「海を渡れば」:前4篇とは趣向を変えた篇。なにしろ落語家=勾梅亭一六の独演会、そのまくらで亡き師匠との思い出、修業時代のことをあれこれ可笑しく語るのですから。
落語家の語りであるから、笑えて楽しい。それでも出てきます、忘れ難い列車の思い出話が。

「四角い光の連なりが」という題名、読み始めた時にはどういう意味なのだろうかと思っていたのですが、読了した今、そうかぁ列車の窓かと思い当たりました。

やまびこ/タイガースはとっても強いんだ/ニ十歳のおばあちゃん/名島橋貨物列車クラブ/海を渡れば

       

15.

「たんぽぽ球場の決戦 ★☆   


たんぽぽ球場の決戦

2022年06月
幻冬舎

(1600円+税)

2024年08月
幻冬舎文庫



2022/07/13



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越谷オサム作品の魅力は、理屈抜きに楽しいこと。
本作も、典型的なそうした作品のひとつです。

主人公の
大瀧鉄舟・26歳は、かつて「超高校級」と期待されたピッチャーでしたが、高二で肩を痛めてそのまま退部・引退。
その後はヒキコモリを経て、今は倉庫会社の非正規職員。
そんな息子を見かねた市議会議員の母親が押し付けてきたのは、草野球チームの募集・結成。
市の広報に載ったその募集広告には、
「野球の楽しさ再発見! 野球で挫折した人大歓迎!」という文句が躍ります。

その結果集まったのは、コーチ役を頼んだ元チームメイトの
阪野航太朗を除くと、ボール恐怖症の女子大生、野球を途中で諦めた過去をもつ会社員、息子(父)に内緒で野球に熱中している祖父と中学生の孫というコンビ、元○○日本代表、野球好きだけど運動神経に恵まれていない大学生、イップスを抱えた元ピッチャーという具合で、年代も経歴も実に様々。
でも一番厄介な人物はというと、コミュニケーション能力ゼロ、不器用で気遣いもできない、鉄舟自身なのかもしれません。

てんでバラバラだったメンバーが、練習を重ねるうちに親しみ、仲間意識を醸成し、ついには他チームとの試合に至る、という上り調子の一辺倒で進むストーリィだから、楽しい。
もちろんその過程で、自分の過去の傲岸さを気付かされ、反省しつつ、何とかマトモになろうとする鉄舟の様も愉快。

そして最後に待ち受けているのは、他チームとの試合場面。
草野球ならではの、いや草野球だからこその大激戦、臨場感いっぱいのスリリングな展開と、我らメンバーたちの大奮闘についつい興奮させられ、楽しいことこの上なし!です。

夏のこの時期の読書にぴったりの草野球小説。楽しいですよ。

※私としては、女性メンバーである
遠藤奏音、薬師院しのぶの2人の活躍が楽しいですねぇ。

    

越谷オサム作品のページ No.1

   


  

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