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21.おはようおかえり 22.シャルロットのアルバイト 23.それでも旅に出るカフェ |
【作家歴】、ねむりねずみ、天使はモップを持って、モップの精は深夜に現れる、賢者はベンチで思索する、ふたつめの月、サクリファイス、タルト・タタンの夢、ヴァン・ショーをあなたに、エデン、シティ・マラソンズ |
サヴァイヴ、キアズマ、スティグマータ、マカロンはマカロン、ときどき旅に出るカフェ、インフルエンス、震える教室、みかんとひよどり、歌舞伎座の怪紳士、たまごの旅人 |
「おはようおかえり」 ★☆ | |
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本作題名、「おはよう」&「おかえり」と思っていたのですが、「(無事に)早く帰っておいで」という意味らしい。 大阪で70年続く和菓子屋「凍滝」、といって名店という訳ではなく、地元で古くからある和菓子屋さん、といった店。 長女の小梅は自分が継ぐべき立場だろうと、高校卒業後は家業を手伝っている。 一方、2歳下の妹で優秀なつぐみは、大学生の傍ら劇団活動、そのうえエジプトに留学したいと言って母親と対立している。 そんなある日、曾祖母が何とつぐみの身体に憑依してしまう。そうと分かったのは、そのつぐみが口にした「おはようおかえり」という言葉。母親の小枝、よく曾祖母が口にしていた言葉だと言う。 その曾祖母=榊さん、浮気相手の元で急死した曾祖父宛てに出した手紙を取り戻したい、と小梅に頼んでくる。 その曾祖母の頼みに小梅とつぐみの姉妹は・・・。 曾祖母のドラマを知ることによって、姉妹それぞれに、自分たちの家族のこと、自分たちの将来のことを改めて考えていくというストーリィ。 予想と違ったのは、曾祖母がずっと憑依している訳ではなく、時々つぐみの身体を借りて現れるだけ、という点。 それでも小梅は、曾祖母が作る和菓子にだいぶ刺激を受けたようです。 どちらかというと、こじんまりした印象の家族ストーリィ。 |
「シャルロットのアルバイト Part-time Job of Charlotte」 ★★ | |
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「シャルロット」とは、7歳の牝ジャーマンシェパードの名前。 元は警察犬ですが、30代後半である池上真澄と浩輔の共稼ぎ夫婦に引き取られ、今はのんびりとした隠居生活。 本作は、そんな真澄&浩輔&シャルロットと家族が遭遇する連作日常ミステリ。そして当然ながら、いずれも犬絡み。 ということで、犬が大好きな読者にとっては楽しく、嬉しくて堪らない連作ミステリではないでしょうか。 私の場合は、実家からして生き物を飼う習慣がありませんでしたし、子どもの頃は犬が怖い、という風でしたので、全く無縁の暮らしです。それでも犬と一緒に暮らす楽しさは想像つきますし、本作のシャルロットは、それを目一杯PRしているという印象です。 ・「シャルロットと迷子の王子」:散歩中に遭遇した迷子のトイプードル、やむをえず保護したところ、これがとんでもなく我が儘な犬で・・・。 ・「シャルロットと謎のお向かいさん」:向かいの家に引っ越してきた白木一家。犬好きと思われたのですが、ポストに「向かいの家の人たちは犬殺しです」という手紙が。一体何が? ・「シャルロットと紛失した迷子札」:シャルロット連れで泊まった海辺のペンション。宿泊客が連れてきた犬の迷子札がいずれも失せるという事件が起きます。犯人は? その目的は? ・「シャルロットのアルバイト」:犬のしつけ教室を経営している村重から頼まれ、シャルロットはそこでバイト。 ところが、近所の人が澄香に警告。果たしてどんな事情が? ・「天使で悪魔とシャルロット」:浩輔、同僚から頼まれラブラドゥードルの子犬を一時的に預かることに。しかし、その子犬、まさに天使であって悪魔でもあるといった風で・・・。 ・「家族」:エピローグ的篇。 「シャルロットと迷子の王子」が面白く、さらに「天使で悪魔とシャルロット」がとても面白い。犬を飼った経験豊富な方たちなら、あるある、というストーリィなのかも。 シャルロットと迷子の王子/シャルロットと謎のお向かいさん/シャルロットと紛失した迷子札/シャルロットのアルバイト/天使で悪魔とシャルロット/家族 |
「それでも旅に出るカフェ」 ★★ | |
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オーナーである葛井円が一人で営む小さな店“カフェ・ルーズ”を舞台にした連作日常ミステリ、「ときどき旅に出るカフェ」の続編。 円がいつも「おいしいですよ」と勧めてくれる、様々な国の料理やお菓子を楽しみに店へ通う一人暮らしの奈良瑛子が主人公であり、語り手であるのは前作どおり。 ただし、本作は新型コロナ感染拡大の時期、ずっと休業中となっている店と円のことを瑛子が心配する処から本巻は始まります。 基本的に日常ミステリですが、本巻では謎解きより、様々な客が抱える悩みごとについて円が相談に乗り、解決策へのヒントを与えるという趣向が強い。もちろん瑛子はその場での同席者。 いいですよねぇ、葛井円のキャラクター。いつも明るく、しなやかに強いといった印象の女性。 そして、その円がいつも自信たっぷりに「おいしいですよ」とメニューを勧めてこれるのは何故なのか。その答えは、瑛子の述懐の中で語られています。 とはいえ、円が若い女性であることに変わりはなく、恐れを覚える場面はあります。それが描かれるのは「抵抗のクレイナ」。 本作では、円自身が身に覚えぬ攻撃を受けることになります。 終盤のその部分、流石にハラハラです。 なんのかのといっても、相手が男性か女性かで区別するような人物はもはや是認できない、ということなのでしょう。 なお、題名の「それでも」という言葉、コロナに負けない、という意思表示を感じます。 葛井円、頑張れ。 ※各篇に登場する様々な外国菓子、食べてみたいですよねぇ。 表紙写真はスロバニア名物<ブレッドケーキ>のようです。 再会のシュークリーム/リャージェンカの困難/それぞれの湯圓/湖のクリームケーキ/彼女のためのフランセジーニャ/鳥のミルク/あなたの知らない寿司/抵抗のクレイナ/クルフィの温度/酸梅湯の世界 |
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