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21.おはようおかえり 22.シャルロットのアルバイト 23.それでも旅に出るカフェ 24.ホテル・カイザリン 25.間の悪いスフレ−"ビストロ・パ・マル"シリーズNo.4− 26.山の上の家事学校 |
【作家歴】、ねむりねずみ、天使はモップを持って、モップの精は深夜に現れる、賢者はベンチで思索する、ふたつめの月、サクリファイス、タルト・タタンの夢、ヴァン・ショーをあなたに、エデン、シティ・マラソンズ |
サヴァイヴ、キアズマ、スティグマータ、マカロンはマカロン、ときどき旅に出るカフェ、インフルエンス、震える教室、みかんとひよどり、歌舞伎座の怪紳士、たまごの旅人 |
「おはようおかえり」 ★☆ | |
2024年11月
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本作題名、「おはよう」&「おかえり」と思っていたのですが、「(無事に)早く帰っておいで」という意味らしい。 大阪で70年続く和菓子屋「凍滝」、といって名店という訳ではなく、地元で古くからある和菓子屋さん、といった店。 長女の小梅は自分が継ぐべき立場だろうと、高校卒業後は家業を手伝っている。 一方、2歳下の妹で優秀なつぐみは、大学生の傍ら劇団活動、そのうえエジプトに留学したいと言って母親と対立している。 そんなある日、曾祖母が何とつぐみの身体に憑依してしまう。そうと分かったのは、そのつぐみが口にした「おはようおかえり」という言葉。母親の小枝、よく曾祖母が口にしていた言葉だと言う。 その曾祖母=榊さん、浮気相手の元で急死した曾祖父宛てに出した手紙を取り戻したい、と小梅に頼んでくる。 その曾祖母の頼みに小梅とつぐみの姉妹は・・・。 曾祖母のドラマを知ることによって、姉妹それぞれに、自分たちの家族のこと、自分たちの将来のことを改めて考えていくというストーリィ。 予想と違ったのは、曾祖母がずっと憑依している訳ではなく、時々つぐみの身体を借りて現れるだけ、という点。 それでも小梅は、曾祖母が作る和菓子にだいぶ刺激を受けたようです。 どちらかというと、こじんまりした印象の家族ストーリィ。 |
「シャルロットのアルバイト Part-time Job of Charlotte」 ★★ | |
2024年08月
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「シャルロット」とは、7歳の牝ジャーマンシェパードの名前。 元は警察犬ですが、30代後半である池上真澄と浩輔の共稼ぎ夫婦に引き取られ、今はのんびりとした隠居生活。 本作は、そんな真澄&浩輔&シャルロットと家族が遭遇する連作日常ミステリ。そして当然ながら、いずれも犬絡み。 ということで、犬が大好きな読者にとっては楽しく、嬉しくて堪らない連作ミステリではないでしょうか。 私の場合は、実家からして生き物を飼う習慣がありませんでしたし、子どもの頃は犬が怖い、という風でしたので、全く無縁の暮らしです。それでも犬と一緒に暮らす楽しさは想像つきますし、本作のシャルロットは、それを目一杯PRしているという印象です。 ・「シャルロットと迷子の王子」:散歩中に遭遇した迷子のトイプードル、やむをえず保護したところ、これがとんでもなく我が儘な犬で・・・。 ・「シャルロットと謎のお向かいさん」:向かいの家に引っ越してきた白木一家。犬好きと思われたのですが、ポストに「向かいの家の人たちは犬殺しです」という手紙が。一体何が? ・「シャルロットと紛失した迷子札」:シャルロット連れで泊まった海辺のペンション。宿泊客が連れてきた犬の迷子札がいずれも失せるという事件が起きます。犯人は? その目的は? ・「シャルロットのアルバイト」:犬のしつけ教室を経営している村重から頼まれ、シャルロットはそこでバイト。 ところが、近所の人が澄香に警告。果たしてどんな事情が? ・「天使で悪魔とシャルロット」:浩輔、同僚から頼まれラブラドゥードルの子犬を一時的に預かることに。しかし、その子犬、まさに天使であって悪魔でもあるといった風で・・・。 ・「家族」:エピローグ的篇。 「シャルロットと迷子の王子」が面白く、さらに「天使で悪魔とシャルロット」がとても面白い。犬を飼った経験豊富な方たちなら、あるある、というストーリィなのかも。 シャルロットと迷子の王子/シャルロットと謎のお向かいさん/シャルロットと紛失した迷子札/シャルロットのアルバイト/天使で悪魔とシャルロット/家族 |
「それでも旅に出るカフェ」 ★★ | |
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オーナーである葛井円が一人で営む小さな店“カフェ・ルーズ”を舞台にした連作日常ミステリ、「ときどき旅に出るカフェ」の続編。 円がいつも「おいしいですよ」と勧めてくれる、様々な国の料理やお菓子を楽しみに店へ通う一人暮らしの奈良瑛子が主人公であり、語り手であるのは前作どおり。 ただし、本作は新型コロナ感染拡大の時期、ずっと休業中となっている店と円のことを瑛子が心配する処から本巻は始まります。 基本的に日常ミステリですが、本巻では謎解きより、様々な客が抱える悩みごとについて円が相談に乗り、解決策へのヒントを与えるという趣向が強い。もちろん瑛子はその場での同席者。 いいですよねぇ、葛井円のキャラクター。いつも明るく、しなやかに強いといった印象の女性。 そして、その円がいつも自信たっぷりに「おいしいですよ」とメニューを勧めてこれるのは何故なのか。その答えは、瑛子の述懐の中で語られています。 とはいえ、円が若い女性であることに変わりはなく、恐れを覚える場面はあります。それが描かれるのは「抵抗のクレイナ」。 本作では、円自身が身に覚えぬ攻撃を受けることになります。 終盤のその部分、流石にハラハラです。 なんのかのといっても、相手が男性か女性かで区別するような人物はもはや是認できない、ということなのでしょう。 なお、題名の「それでも」という言葉、コロナに負けない、という意思表示を感じます。 葛井円、頑張れ。 ※各篇に登場する様々な外国菓子、食べてみたいですよねぇ。 表紙写真はスロバニア名物<ブレッドケーキ>のようです。 再会のシュークリーム/リャージェンカの困難/それぞれの湯圓/湖のクリームケーキ/彼女のためのフランセジーニャ/鳥のミルク/あなたの知らない寿司/抵抗のクレイナ/クルフィの温度/酸梅湯の世界 |
「ホテル・カイザリン Hotel Kaiserin」 ★★ | |
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本作は短篇集。しかも、ブラックな篇を多数収録。 私にとって近藤史恵作品というと、これまでシリーズもの長篇、連作ミステリ、ハートウォーミングなものばかり読んでいたことに改めて気づきました。 本書、冒頭からブラックな内容で、思わずゾゾゾっと。 今までの近藤作品の印象を覆されただけに、なおのこと鮮烈、思わず震えおののいてしまいました。事件そのものではなく、そうした作品が執筆された、ということに関して。 そして、ブラックな内容であっても、流石に近藤さんは巧い。読み惚れてしまいました。 衝撃的だったのは、「降霊会」「甘い生活」の2篇。 洒落てて面白かったのは、「未事故物件」。 「金色の風」と「迷宮の松露」には好感。 ・「降霊会」:文化祭、幼なじみの彼女が突然に降霊会イベントを企画したその目的は・・・。 ・「金色の風」:パリに短期語学留学した主人公が抱えてきた思いは・・・。 ・「迷宮の松露」:忘れ得ぬ祖母の思い出・・・ ・「甘い生活」:他人のものばかり欲しがる少女、何と悪辣なことか・・・。 ・「未事故物件」:深夜の上の階からの物音は幻覚なのか? 何と面白い哉。 ・「ホテル・カイザリン」:ホテルで出会い親しくなった女性二人、それぞれが抱えていた秘密は・・・。 ・「孤独の谷」:そんな真相ってあり? ・「老いた犬のように」:自分勝手な男性は、これを機に振舞いを改めるべし! 降霊会/金色の風/迷宮の松露/甘い生活/未事故物件/ホテル・カイザリン/孤独の谷/老いた犬のように |
「間の悪いスフレ Le souffle malvenu」 ★☆ | |
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“ビストロ・パ・マル”シリーズ第4弾。 これぞミステリ!とか、驚愕の真相!とかいった派手な要素はないのですが、美味しそうな料理のあれこれや、スタッフ同士の軽妙なやりとり、そしてささやかなミステリ、という本シリーズの趣向はとても楽しく、居心地が良い。 私の好きなシリーズです。 ・「クスクスのきた道」:常連客が娘の高校合格祝いに食事会。しかし、何故娘は機嫌が悪かったのか? ・「未来のプラトー・ド・フロマージュ」:コロナ感染流行により<パ・マル>もオーナーからの指示でテイクアウト商売。 何故か中二男子がテイウアウトを利用。その事情は? ・「知らないタジン」:<パ・マル>が料理教室を開催。女性参加者の知識不足を男性参加者が指摘して得意顔・・・。 ・「幻想のフリカッセ」:30代の兄弟が来店。その兄、高校生になった頃から母親が急に料理、家事を手抜きし始めたと。その理由は一体・・・? ・「間の悪いスフレ」:フロア担当である智行の従兄が婚活、食事の終わりに彼女にプロポーズしたい、ついては慣れないフランス料理だからと、智行に依頼事。結果は・・・、何故? ・「モンドールの理由」:フランス料理店3軒を経営する旧知の波多野から、期待している若手が店を辞めようとしている、ついてはその理由を聞きだして欲しいと頼まれるのですが・・・。 ・「ベラベッカという名前」:フランス料理店を経営する同業者から、自分の店には料理人、スタッフが何故か定着せず。<パ・マル>での定着理由を是非教えてほしい、との相談。 私としては「幻想のフリカッセ」、「間の悪いスフレ」の2篇がとくに面白かったです。 両方とも現実にありそうな話ですから、見逃せません! クスクスのきた道/未来のプラトー・ド・フロマージュ/知らないタジン/幻想のフリカッセ/間の悪いスフレ/モンドールの理由/ベラベッカという名前 |
「山の上の家事学校」 ★★ | |
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仲上幸彦、政治部所属の新聞記者、43歳。 一年前、幸彦が帰宅すると、妻の鈴菜と娘の理央の姿、物が一切消えており、机の上には記入済の離婚届け。さらに、ここ一年間の幸彦の行動レポートが置かれていた。 自分は大したことじゃないと思っていたが、鈴菜にとってはことごとく許せないことだったのだろうか・・・。 それから一年後の今、部屋にはゴミや埃が溜まり、布団は干さないから湿っぽく、食事もコンビニ弁当といったものばかり。 幸彦のすさんだ生活ぶりを見かねた妹の和歌子から、男性向けの家事学校に入学することを勧められます。 こんな不健康な生活を続けていたら、理央にも会ってもらえなくなるし、最終的に理央に迷惑を掛けることになる、という警告付きで。 ちょうど大阪支社への異動も決まった処。未取得だった2週間休暇を利用して、勧められた大阪の<山之上家事学校>に入学、寮生活を送ることになります。 その家事学校で幸彦が学んだことは、料理の作り方や家事の仕方以上に、自らを変えることだった。 家事学校にはいろいろな事情、理由から家事を学びにきている男性たちがいます。 彼等の事情を知るのも、家事を学ぶことに反発姿勢を示している大学生の沢渡と知り合ったことも、幸彦にとっては貴重な体験。 さて、幸彦が何を学び、何を考え、どう変わっていったのか。 家事から逃げてばかりの男性たちには貴重な学びの機会となるストーリー、お薦めです。 1.悔恨/2.家事ってなんだ?/3.猿渡の抵抗/4.鈴菜のSOS/5.それぞれの事情/6.家事と愛/7.聞くレッスン/8.ほころびを直す/9.失望/10.新しくはじめられる場所 |
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