近藤史恵作品のページ
No.2



11.サヴァイヴ−"サクリファイス"シリーズNo.3−

12.キアズマ
−"サクリファイス"シリーズNo.4−

13.スティグマータ
−"サクリファイス"シリーズNo.5−

14.マカロンはマカロン
−"ビストロ・パ・マル"シリーズNo.3−

15.ときどき旅に出るカフェ

16.インフルエンス

17.震える教室

18.みかんとひよどり

【作家歴】、ねむりねずみ、天使はモップを持って、モップの精は深夜に現れる、賢者はベンチで思索する、ふたつめの月、サクリファイス、タルト・タタンの夢、ヴァン・ショーをあなたに、エデン、シティ・マラソンズ

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11.

●「サヴァイヴ SURVIVE」● ★★


サヴァイヴ画像

2011年06月
新潮社刊
(1400円+税)

2014年06月
新潮文庫化



2011/07/16



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サクリファイス」、「エデン」に続くシリーズ第3弾。
今回は、本シリーズでお馴染みの登場人物を各々の主人公にした番外編=エピソード集とも言うべき短篇集です。

「老ビプネンの腹の中」の主人公は、仏チーム=パート・ピカルディに移籍して1年目の白石誓(ちかう)
「スピードの果て」は、誓がかつて日本で所属していたオッジのエース=伊庭和実、ニースで行われる世界選手権(スペインのサントス・カンタンに所属する誓も日本チーム)に参戦です。
「プロトンの中の孤独」「レミング」「ゴールよりももっと遠く」は、誓らの先輩にあたる赤城直輝を語り手として、新人の頃・エース時代・30代になった石尾豪と赤城に関わるストーリィ。
そして
「トウラーダ」の主人公は再び、ポルトガルチームに移籍したばかりの誓。

どうしてこのシリーズに、こんなにも魅了されるのかというと、それは彼らが過酷な状況の中に生きているからではないか、と思います。
自らの身体能力とそれによる結果が全て、転倒による怪我への恐怖、という過酷な競技。それでも日本ではマイナー競技、だからといって西欧の本格的舞台へ飛び込んでいける程世界のレベルは甘くはない。そしてそんな中で自分の位置を掴みとっている白石誓、という本シリーズの主人公。

サスペンス、スポーツ競技という枠を超え、人間性を問いかけて止まない名品と言って良いシリーズ小説だと思います。

老ビプネンの腹の中/スピードの果て/プロトンの中の孤独/レミング/ゴールよりももっと遠く/トウラーダ

                          

12.
「キアズマ chiasma」● ★★☆


キアズマ画像

2013年04月
新潮社刊
(1500円+税)

2016年03月
新潮文庫化



2013/05/12



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サヴァイヴ」に続くシリーズ4作目。
これまでの主人公であるプロのロードレーサー=白石誓から一転して、今回の舞台は
新光大学自転車部。主人公はその弱小自転車部にある経緯から入部させられた岸田正樹
題名の「キアズマ」とは、生物学用語で“交叉”といった意味だそうです。

これまでの3作はプロの自転車競技がもつ魅力を過酷さと合わせて描いてきたところが魅力ですが、本書は主人公である正樹が自転車競技については全くの素人であることから、初級編に立ち返って語られるところに興味津々です。
今更ということはなく、プロのロードレースを3作読んできてその魅力を知っているからこそ、ここで初心に戻って、というのも良いなぁと思います。主人公=正樹と共に成る程なぁと思うところ度々、それもまた本書4作目の楽しさです。

部員らと揉めたことで結果的に部長の村上に大きな怪我をさせてしまったことから、その責任をとるため正樹は1年間という約束で僅か部員4人の新光大学弱小自転車部に入部します。
しかし、実際に走り始めてすぐに正樹はその爽快さを感じ、どんどん自転車競技の魅力にはまり込んでいきます。
ただ自転車競技は大きな危険も孕んでいるもの。その恐怖を味わった時正樹は挫折してしまいますが、さてその後正樹はどう自分の道を選択するのか。

正樹が新鮮な気持ちで味わう爽快さとスリリングが、本ストーリィの魅力。
そして個人競技ではあってもチーム意識の重要性、そして勝てるチャンスのある者に他は全力でサポートするという冷静な計算性を正樹が肌で知っていく面白さを、本書では読み手も共有できます。
「サクリファイス」ファンにもそうでない読者にも、お薦めしたいスポーツ小説の逸品です。

             

13.
「スティグマータ stigmata ★★☆


スティグマータ

2016年06月
新潮社刊

(1500円+税)

2019年02月
新潮文庫化



2016/07/14



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「サクリファイス」シリーズ第5弾。
2作目の
エデン以来、再び白石誓(ちかう)ツール・ド・フランス(Le Tour de France)の舞台に挑みます。
前に「エデン」は“成長篇”と言うべきストーリィと記しましたが、本書での
チカは既に30歳、“成熟篇”と言ったら良いでしょうか。
ただし、成熟篇といってもプロスポーツ選手であるチカにとって状況は一年一年厳しいものになっています。
あとどのくらい走れるのか、来年の契約は得られるのか、果たして来年はこの舞台にいられるだろうか、と。

とは言いつつ、一旦レースが始まれば、そこはいつもの「サクリファイス」の世界。
今年のレース、ドーピングを告発されて表舞台を去っていたかつての英雄ドミトリー・メネンコがこの舞台に戻ってきます。そのメネンコがもたらす不穏な空気。それにチカも巻き込まれざるを得ません。
一方、「エデン」に登場した有力選手たちが本書に再び登場して本ストーリィを賑やかにしています。かつてアシストとしてコンビを組んだ
ミッコ・コルホネンは今回ライバルチーム、その代わりにニコラ・ラフォンが今回同チームとなり、チカのアシスト対象の選手となります。また、伊庭和実もヨーロッパに参戦してくるといった次第。

本書の魅力は何と言っても、グラン・ツールのレース、その実況にあります。過酷な状況に日々挑む選手たち。ただ勝利をかけて競うという単純なものではなく、エースとアシストという違いがあったり、総合優勝を狙うか個々のステージ優勝を狙うかといった戦略的なものから、何を目的にどう走るのかといった哲学的な領域にさえ及びます。
この厳しく、見知らぬ世界がリアルに描かれる処がこのシリーズの魅力。
さらに、メネンコの真の狙いは何なのか、というミステリ風味が加わります。

読むに値する、見事な面白さのある一冊、お薦めです。

          

14.

「マカロンはマカロン Un macaron, c'est un macaron ★★


マカロンはマカロン

2016年12月
東京創元社刊

(1500円+税)



2017/01/12



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美味しい料理+日常ミステリ、ビストロ・パ・マルシリーズ第3弾。

3冊目に至って心行くまで本書の舞台、料理、そして謎解きを楽しめた気分です。
本書ミステリの魅力はその軽やかさ。ただの軽やかさではありません。ビストロ・バ・マルで
三舟忍シェフが提供する、とても美味しそうな料理にちょうど良く寄り添っているという軽やかさ。
美味しいフレンチにデセールは欠かせませんが、本書はさらにミステリという美皿が添えられています。
また、シェフの三舟、スーシェフの
志村洋二、ソムリエの金子ゆき、語り手であるギャルソンの高築智行というスタッフ4人のチームワークの良さも嬉しいこと。
そんな本シリーズで唯一残念に思えることは、三舟シェフが作り出すメニューの数々を、実際に見て味わえないこと(文章から想像するだけでも楽しいとは思いつつも)。

・乳製品アレルギーだという女性が口にした「フランス料理との和解」の意味は?
・店で出していないブルーベリー・タルトが、何故「最高に美味しかった!」とブログに?
・再婚予定の相手男性と中学生の息子、何故すんなり親しくなれたのか? それに加え、息子の偏食はどうして急に改善?
・常連客の犬飼が結婚する相手女性、豚の血のソーセージを拒む事情が有り?
・イタリアのトリノで知り合った女性を失った大学教師の西田、本当に恋は失われたのか?
・パティシエとして雇われたばかりの岸辺綾香は、何故姿をくらませたのか?
・予約客は何故タルタルステーキをメニューに載せてほしいと要望したのか?
・グループ客の一人が帰り際に言い残した伝言の真意は?


コウノトリが運ぶもの/青い果実のタルト/共犯のピエ・ド・コション/追憶のブーダン・ノワール/ムッシュ・パピヨンに伝言を/マカロンはマカロン/タルタルステーキの罠/ヴィンテージワインと友情

               

15.

「ときどき旅に出るカフェ ★★


ときどき旅に出るカフェ

2017年04月
双葉社刊

(1500円+税)



2017/05/08



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小さなカフェを舞台にした連作日常ミステリ。

語り手は
奈良瑛子、独身37歳。3年前に購入した1LDKの中古マンションで一人暮らし。照明会社で働くワーキングウーマン。
近所で見かけた白い小さな一軒家のカフェに入ってみたところ、何とそのオーナー兼店長(店員一人)は、6年前同じ職場にいた後輩社員の
葛井円(くずい・まどか)
祖母から相続した家で、2年前に念願の
“カフェ・ルーズ”を開店したのだという。
本作は、そのカフェ・ルーズを舞台に、葛井円が奈良瑛子を相手とささやかな謎解きをしてみせるというパターンの日常ミステリ短編集。

謎解き、揉め事の解決というストーリィも確かに楽しみなのですが、それ以上に魅力的なのは、このカフェ・ルーズ。
2人掛けのテーブルが4つ、カウンターに5席という小さな店なのですが、南西に大きくとられた窓からの眺めも良好と、何とも居心地良さそうなのです。
その上、サービスされるメニューは、円が実際に海外で味わった飲み物・菓子が中心。まるで居ながらにして旅行気分です。
そう、カフェ・ルーズのコンセプトは
“旅に出られるカフェ”なのですから。

近藤史恵さんには既にビストロを舞台にした
ビストロ・パ・マル”シリーズがありますが、フランス料理というと少々敷居の高いところあり。でもカフェとなれば、誰もが訪れやすく、その空間・そこでの時間を楽しめるところがあります。

読み手は瑛子を案内人に、瑛子と共にカフェ・ルーズで提供される各国の珍しいメニューの数々、そして居心地良さをたっぷり味わえる短篇集。それこそが本書最大の魅力といって過言ではありません。オーナー兼店長である円の心意気もまた嬉しい。
カフェ好きな方に、是非お薦め!


1.苺のスープ/2.ロシア風チーズケーキ/3.月はどこに消えた?/4.幾層にもなった心/5.おかくずのスイーツ/6.鴛鴦茶のように/7.ホイップクリームの決意/8.食いしん坊のコーヒー/9.思い出のバクラヴァ/最終話

                     

16.

「インフルエンス INFLUENCE ★★☆


インフルエンス

2017年11月
文芸春秋刊

(1500円+税)



2017/12/17



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40代の女性小説家の元に、私たちの話に興味が惹かれる筈という一通の手紙が届きます。
手紙の送り主と会った小説家の前に、驚愕すべき物語が語られ始める・・・というのが本ストーリィの出だし。

大阪の団地に暮らす
戸塚友梨日野里子は幼い頃からの親友。しかし、ある事を境に2人の仲は疎遠になっていく。
里子に代わるように友梨の前に現れたのは、両親が離婚して東京から母親の実家に引っ越してきたという転校生の
坂崎真帆
中学生になったある日、真帆に突然襲い掛かった男。必死で真帆を守ろうとした友梨は男を包丁で刺してしまう。
逃げ出した2人ですが、翌朝、里子が警察に逮捕されたと友梨は知らされ、愕然とする・・・・。

小学生時から始まり、40代に至るまでの長い物語。
3人の女性の間に繋がるものは篤い友情だったのか、あるいは相手を利用しようとする利己心か、それとも宿縁だったのか。
いくら考えてもその奥底、闇は途轍もなく深い。

冒頭からピリピリするような緊迫感に包まれ、最後までその緊迫感は全く途切れなし。
今年の最後を飾る、極上のミステリ、サスペンスと言って過言ではありません。
流石は近藤史恵さんと、唸らされる思いです。
この緊迫感、興奮を味わえずにいるのは、実に勿体ないこと。


※題名、つい乃木坂46のヒット曲を連想してしまうのですが、影響は無きにしも非ず、だったのかしらん。

               

17.
「震える教室 ★☆


震える教室

2018年03月
角川書店刊

(1500円+税)



2018/05/07



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歴史の古い私立の中高一貫女子校=鳳西学園を舞台にした、学園もの連作青春ホラー。

大阪の中心地である心斎橋に近い鳳西学園高等部、主人公の
秋月真矢は高等部からの入学。
その真矢が入学早々親しくなったのは、同級生でやはり高等部からの入学生である
相原花音
その花音、この学校に何やら不気味なものが感じられて怖い、と言う。まず気になったのはピアノ教室。
花音と二人でそのピアノ教室に足を踏み入れた真矢、その目の前に指が血だらけの腕が2本現れ・・・。

真矢と花音、その2人の身体が触れ合うと、普段は見えない奇怪なものが見えてしまう、という設定が本作の妙味。
歴史の古いこの学校、いろいろなものが存在していても何の不思議もない、というのが2人の思い。

連作ホラーといっても、その原因を突き止め、事件を解決してその存在を消し去る、というストーリィではありません。
むしろ、そんな存在があっても不思議ない、でもどんな存在なのか、そして何故そうした存在があるのか、という展開(中には解決するような展開もありますが)。

解決なんか別にしなくなっていい、そのままでいい、というのは何と気が楽なことでしょう。
読了する頃には、こんな不思議なことがいろいろあるのも、この鳳西学園の特色・個性であり、歴史のなせること、という気になります。
それなりに楽しませてもらいました。


「ピアノ室の怪」:指が血まみれの腕が2本現れ・・・
「いざなう手」:痩せた手が女生徒のスカートを・・・
「捨てないで」:女生徒の肩に何かふわふわした白いもの。
「屋上の天使」:各務先生の後ろに小さな女の子の姿・・・
「隣のベッドで眠る人」:保健室のベッド、そこに濡れた女生徒の身体が。しかも・・・
「水に集う」:プールの底へ引きずり込もうとする大勢の手。

プロローグ/1.ピアノ室の怪/2.いざなう手/3.捨てないで/4.屋上の天使/5.隣のベッドで眠るひと/6.水に集う/エピローグ

         

18.
「みかんとひよどり La Mandarine et Le Bulbul ★☆


みかんとひよどり

2019年02月
角川書店

(1500円+税)



2019/04/14



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見送ろうと思っていたのですが、フレンチ、それもジビエ料理が題材と知ると、ついつい誘われてしまいますねぇ〜。

主人公はフレンチ・シェフの
潮田亮二・35歳
フランスの料理学校やその後の修業先でも料理の腕にはそれなりの評価を得ていたというのに、任された店を2軒潰し、借金して自ら開いた神戸の店も失敗。24時間営業の店で働いて借金を返した後、今はジビエ料理好きの女性オーナーに拾われ、再び雇われシェフ。ところがその店も、赤字続きと前途多難。

その潮田が油断し、
愛犬ピリカと共に山で遭難しそうになったところを助けてくれたのが、北海道犬マタベーを連れた代々猟師だという大高重実、同年配の男。

各章の題名から分かるように、ストーリィ中、様々なジビエ料理が紹介されます。
ただ、猟師が獲った野鳥や獣を、そのままレストランでジビエ料理として供することはできないらしい。免許をとった解体施設でその解体を行うということが前提になるらしい。
したがってまずは、大高がくれる獲物を使って試作してみる、というのが潮田のパターン。

潮田、大高とも、共に不器用な人物。だからこそ彼らの今の芳しくない状況がある訳ですが、潮田と大高が互いに絡み合う中で一歩前進、そこにジビエ料理好きのオーナー=
澤山柊子が積極的に絡んできたことでさらに前進、というストーリィ。
途中、大高の周辺等でトラブルが続いて発生。そこはミステリ部分です。

ジビエ料理に個性的なキャラクターが絡む面白さ、それに加えてちょっぴり大人の男2人の成長ストーリィ、ちょっぴりミステリという味付けがなされているところが、本ストーリィの楽しさです。
フレンチ料理は敷居の高いところがありますが、本作は気軽に手が出せて、十分楽しい。
 
※出番は少ないですが、店スタッフの
大島若葉も興味惹かれる女性です。

1.夏の猪/2.ヤマシギのロースト/3.若猪のタルト/4.小鴨のソテー サルミソース/5.フロマージュ・ド・テット/6.猪のパテ/7.ぼたん鍋/8.雪男/9.鹿レバーの赤ワイン醤油漬け/10.熊鍋/12.ヒヨドリのロースト みかんのソース

     

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