北 夏輝
(なつき)作品のページ


1986年大阪府生、2012年現在大学院在学中。「恋都の狐さん」にて第46回メフィスト賞を受賞。


1.
恋都の狐さん

2.
美都で恋めぐり


3.狐さんの恋結び

4.狐さんの恋活

 


           

1.

「恋都(こと)の狐さん」● ★★


恋都の狐さん画像

2012年02月
講談社刊
(1400円+税)

2014年03月
講談社文庫化

  

2012/03/07

  

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古都=奈良を舞台にした、ちょっと不思議感ある、20年間彼氏なし歴を持つ女子大生の初恋ストーリィ。

主人公は奈良の女子大に通う大学生。節分の日、御利益を得ようと東大寺二月堂の豆まきに出かけた彼女は、そこで生涯忘れられない出会いをします。その相手は、着流し姿に立派な狐の面をつけた長身の男性。主人公は彼のことを“狐さん”と呼びます。
狐さんと豆を奪い合ったことがきっかけとなり、狐さんとその連れである20代後半の美女=
揚羽さんと知り合った私は、その後一緒に元興寺〜興福寺の豆まきへを巡ります。
それから幾度となく2人と出会うようになった私は、いつしか狐さんに恋心を抱くようになります。
しかし、狐の面を決して外そうとしない狐さんの正体はどんな男性なのか。いつも狐の面を被っている理由は何なのか。
そして、時に狐さんが演じる芸は、単なるマジックなのか、それとも本当に・・・・。

何となく夜は短し歩けよ乙女等の森見登美彦作品を思い起こします。京都と奈良という舞台の違いはありますが、ファンタジーなのか現実なのか定かではないようなところ、似た雰囲気があります。
さしづめ、一癖ある森見作品に比較すると、そのジュニア版といった風。若々しさと、私としては奈良を舞台にしているという点に、好感が持てます。
また奇矯な言動をする狐さん、それを容赦なくたしなめる揚羽さん、仲間に入れてもらったという観ある主人公という3人のやり取りが楽しい。
最後、主人公の切ない思いにちょっと胸がきゅん。
甘酸っぱくも忘れ難い、初恋ストーリィです。

                       

2.

「美都(みと)で恋めぐり」 ★☆


美都で恋めぐり画像

2013年04月
講談社刊
(1400円+税)

2015年04月
講談社文庫化

  

2013/05/26

  

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地元公立大学へ進学した彼氏と離れ、主人公=安藤友恵は関西の大学へ進学。
母親の従弟で書道家である
黒衣(くろこ)の元で知り合ったのは、大学教授の殿下、従叔父の習字塾の教え子である美女、と思えば実は男性というサカイ。そのサカイは偶然にも友恵と同じ大学の一回生。

そんな友恵が、黒衣、殿下、サカイ、さらに3人絡みあるいはバイト先絡みで知り合った個性的な面々と大阪、京都、奈良の繁華街〜観光場所を巡る恋?&観光ストーリィ。
大阪では
ミナミの日本橋周辺に友恵用のたこ焼き器を買いに皆で出かけると思えば、東寺の弘法市へまゆまら人形を探しに行き、次には殿下の奥さんも交えて大阪城へ。
奈良では
春日大社の深夜に行われるおん祭りへ。そして締めは梅田スカイビル
そして各章において、ちょっとしたなぞなぞが様々な人物から主人公たちに投げかけられるといった、お遊び要素もあり(双六要素もあるストーリィと言うべきでしょうか)。
読者にとって最大の謎は、いくら美形とはいえサカイ、何故黒衣宅では鬘を被り女性のふりをしているのか?でしょう。

大阪〜京都〜奈良の関西三都を巡る観光双六に、女子大生らしい恋愛風味を加えた、気軽に楽しめるストーリィ。
森見登美彦作品風なところもありますが、同作品のようなクセはなく、万人向きです。

プロローグ/1.ミナミたこ焼き探訪/2.弘法市での攻防/3.大阪城で愛を叫ぶ/4.春日の神へ/5.キタの宝石箱/エピローグ

        

3.
「狐さんの恋結び ★☆


狐さんの恋結び

2014年03月
講談社刊
(1400円+税)

2016年09月
講談社文庫化

  

2014/04/24

  

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狐面を被った奇妙な青年=を中心人物とした恋都の狐さんの続編。
前作の最後、狐と
揚羽の強い結びつきを知って身を引いた女子大生とのことがかなりトラウマになっているらしく、狐はしきりと彼の女子大生にフラれた痛みを口にします。
その狐の前に久しぶりに現れた友人の
、揚羽への想いを狐に向かって宣言するとともに、会社の同僚女子を狐に紹介しようと持ちかけてきます。
一方、彼の女子大生の代わりにこの続編に登場するのが、奈良の大学一年生となった
春菜。いわゆる箱入り娘ですが、偶然に狐と知り合ったことが契機となって、狐といろいろ関わりが生じるようになります。
上記登場人物の間で恋心が複雑に絡み合う、というのが今回でのストーリィ。

狐という主人公の特異なキャラクターから、前作同様、ついつい森見登美彦作品と似ている処を探してしまいます。
それに加えて、これまた前作と同じですが、奈良の観光案内要素があるのが特色。

狐を初めとして箱入り娘的女子大生の春菜等々、登場人物のユニークなキャラクターでストーリィを引っ張っていく構成は前回と同様。それなりに楽しめましたが、今一つという印象も拭えません。


1.狐の憂鬱/2.令嬢の挑戦/3.伏見稲荷にて/4.名月の晩に/後日談

             

4.
「狐さんの恋活 


狐さんの恋活

2015年04月
講談社刊
(1400円+税)

 


2015/05/06

 


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まぁ“恋都の狐さん”三部作の完結編、ということだそうなので読んだようなもの。
結論を端的に言ってしまうと、予想以上に物足りずという印象。

シリーズ第一作恋都の狐さんで、狐さん揚羽さんが恋仲と思いこんで身を引いた理系女子大生のビンバこと鹿島、その後自分の思い違いと気付いたことから狐さんへの想いがぶり返し、悶々とする日々。
一方、ビンバに振られて傷ついた狐さんが新たに恋した相手は箱入り娘の女子大生=
春菜。しかし、お付き女性の七瀬から仕事にもついていない人間がお嬢様と付き合うなどとはおこがましいと批判され、狐は友人のや揚羽から就職のための指導・励ましを受けて就活に挑戦するのですが・・・・。
同じ相手を想うビンバと春菜が同じコーヒー専門店でバイトの先輩後輩という関係であるのが悩ましいところ。
果たしてビンバ、狐、春菜の恋は如何なる進展を見せるのやら。

本書ではそのビンバ、狐、春菜が代わる代わる主人公となるのですが、その辺りが整然としていないためにどうしても中途半端な印象を受けざるを得ません。
また狐の就活の様子、いくら狐のキャラクター故とは言いつつ、滑稽を通り越して幾ら何でも酷過ぎるのではないか、目を覆うばかりだという感想です。
作者の北さんには失礼と思うのですが、どうしても森見登美彦作品と比べてしまいます。バカバカしいならバカバカしいでそれに徹すれば一本筋が通っていると思えるのですが、中途半端に終わってしまっていると言わざるを得ないところが残念。
酷な感想ではありますが、大団円というより、やっと終わったかとホッとした気分。


プロローグ/1.ケーキとハンドタオル/2.就活の狼煙/3.御湯立神事にて/4.芸は狐を助ける/5.ブーツでは上手く走れない/6.As you sow,so shall you reap./エピローグ

  


   

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