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1.女子芸人 2.ふたり 3.ぼくの守る星 4.しょっぱい夕陽 5.七色結び 6.母のあしおと 7.下北沢であの日の君と待ち合わせ |
1. | |
●「女子芸人」● ★★ 新潮エンターテインメント大賞 |
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女性漫談師・平のコトリこと琴音の、女芸人だからこその苦闘・挫折・再挑戦ストーリィ。 講談師と漫談師という違いはありながらも、著者の神田さん自身女性芸人だからこそ描ける、本音ストーリィでしょう。 琴音、お笑い芸人の筈なのにその性格ときたら、ひどくネガティブ(実は神田さん自身の性格を反映しているらしい)。 それでも真正面から頑張ろうとする琴音ですが、女性芸人だからこその煩悶もあるらしい。 すなわち、所詮女という目で見られ反発しますが、実際に挫折感を覚えるや結婚という逃げ道に入り込んだりと甘えを捨てきれないのも事実。 女芸人たるもの、男芸人とはまた違った難しさあり、というところでしょうか。 それでも、女芸人だからこその道もあり、という結着の付け方がお見事。 なお、主ストーリィを別にして、花嫁に逃げられ新郎一人となった結婚披露宴での司会業・迷走ぶり、先輩芸人の葬儀で司会役を仰せつかった時の珍闘ぶり、最終舞台での開き直りぶりといい、笑いをとる絶妙さが素晴らしい! 満員の通勤電車内だというのに、込み上げてくる笑いを抑えきれず。 |
2. | |
「ふたり Chie and Moss」 ★★☆ |
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北海道から東京に出てきて専門学校の寮に入った千絵は、自分に自信が持てず、あらゆることにマイナス思考の少女。 同じ寮に住むモスは対照的に超ボジティブ、芸術的な才能にも恵まれていて自信たっぷり、という少女。 千絵は同級生であるモスの存在に気付いていないが、モスは千絵のいつもビクビクした様子を嫌っている。 そんな2人の少女の成長を描いたストーリィ・・・なのですが、千絵とモスにはある特別な関係があった、というのが本作品のミソ。 2人の間にどういう秘密があるのか。それは早い段階で明らかにされるのですが、そこからがむしろハラハラドキドキの展開。そこに自らもトラウマを抱える女性精神科医の由加利が絡み、ストーリィは3人が交互に語り手となって進められていきます。 親元を離れて初めての大勢の中での生活、それ自体誰にしろそれなりのストレスがありそうですが、千絵におけるそれは甚だしいものがあった。やがてついに千絵がモスと出会った時から、大きく2人の生活は変化を遂げていきます。2人の成長ストーリィ第2幕、という処。 対照的な性格の2人ですが、そのどちらにも強く惹きつけられます。そして2人が手を取り合うようにして新たな生活に挑み、2人それぞれに成長の兆しが感じ取れるようになった時にはいささか感動を覚えます。 ショッキングであり凄絶であり、そして極めて清新な少女の成長ストーリィ。 「女子芸人」と全く異なる趣向の作品であることには驚きでしたが、本作品に出会えたことは喜びです。お薦め。 |
3. | |
「僕の守る星」 ★★ |
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2016年03月
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それぞれに悩みごとを抱えた中学生たち、その親たちを描いた連作風長編小説。 「ジャイアント僕」の主人公は、学習障害の一種であるディスレクシア(読み書き障害)をもつ中学生の夏見翔(かける)。自分では真面目にやっているつもりだが失敗の連続、それが同級生たちには絶妙なボケをかましているように捉えられているらしい。 「澄んだ水の泡」は、翔のことに全力投球しているその母親。 「ゴール」は、翔の同級生でどこか似た処のある中島まほり。 「はじまりの音」も同じく同級生で、翔に漫才コンビを組もうと熱心に働きかける山上強志。 「山とコーヒー」は、カイロ赴任から帰国した翔の父親。 そして「ぼくの守る星」は再び、翔。 それぞれに抱えているのは、彼ら一人一人の問題なのですが、中学生たちにしてみれば親の影響を色濃く受けざるを得ず、親子であるからこその問題も抱え込んでいます。 子供のことを思っているつもりがいつの間にか自分のための行動になってしまっている親の存在、それは子供にとってかなり切ないこと。 そんな中で、自分なりに頑張ろうとしている中学生たちの姿はとても愛おしく感じられます。 そしてついに自分の考えで行動し始めた翔の姿にはとても胸熱くさせられます。 夏見翔と中島まほり。つたない行動ではあっても、子供たちを信じ、少し距離を置いて温かく見守ってあげるという勇気も大人には必要なのでしょう、きっと。 ジャイアント僕/澄んだ水の泡/ゴール/はじまりの音/山とコーヒー/ぼくの守る星 |
4. | |
「しょっぱい夕陽」 ★☆ |
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2016年12月
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「48歳年女・年男たちの5つの奮闘!」とのこと。 48歳という年代、ちょうど人生の曲がり角を感じる頃かなぁと思います。 それなりに生活は、良くも悪しくも定まっている筈。でも人生はまだまだ続く、このままで良いのだろうかとふと胸に兆すこともあることでしょう。 ・「エフの壁」の主人公は、存在感の薄い公務員。妻に浮気されているが、気づかないふりをしてやり過ごそうとしている。 ・「肉巻きの力」は、息子のサッカーコーチに対して、若い頃の様なときめきを託してせめてもの楽しみとしている中年主婦。 ・「バナナの印」は、駄洒落を飛ばすことが習性になっているしがない会社員が主人公。離婚したうえ、会社でも左遷されるが、それを機にささやかな楽しみを見いだしている。 ・「もえぎの恋」は、見下されながら働いている非正規保育士。唯一支えとなっているのは若手落語家への熱い思い。 ・「かみふぶきの空」は、何故か自分は女生徒に慕われることが多い、そのため苦難に会うこともあるが我慢するしかないと思い込んでいる中学教師。 どの篇の主人公にも同年代として親近感を抱くこと多。これからの人生に向かい、気を取り直して頑張ろうとエールを送りたくなる短編集です。 必ずしも順調とは言えない中、かつての同級生たちと繋がれることは嬉しいこと。また、張り合う相手を見い出したり、新たな趣味を見つけたり、故郷を恋しく思ったりすることも良い転機と思います。 各篇にそれとなくユーモアが刺しこまれていて、そのためにストーリィが暗くならず、むしろ明るささえ感じられる点が神田さんの持ち味でしょう。 エフの壁/肉巻きの力/バナナの印/もえぎの恋/かみふぶきの空 |
「七色結び」 ★★ | |
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主人公の矢吹鶴子は、平凡な専業主婦、45歳。 家族は夫の光太郎、中学生である息子の永亀に、義母=ナナという4人。世田谷区の一軒家で義母との同居暮らし。 働きに出たいがそうもいかず、水引職人として独立した友人=温子から受ける内職をしつつ、今年は中学のPTAで広報委員に任じられたのですが、これが結構面倒。 楽天的なところはありますが、ごく普通の主婦の日常、そしてPTA活動の苦労話という展開だったのが前半。 ところが、不祥事により突然PTA会長が辞任、その後の新会長を鶴子が押し付けられたところから、俄然面白くなります。 というのは鶴子、会長になった途端にPTA改革にやる気を出していきなり暴走(?)し始めるのです。 そんな鶴子を支え、元気づけるのは、義母がファンだったことから知ったロックミュージシャン=フジマサキの存在、その歌。 そしてもうひとつは、女性占い師のアドバイス(鶴子のキャラクターをまさに確定するような指摘で、これが面白い)。 束縛されると共に無理矢理押し付けられるから、つまらない、苦労ばかり。でも、アイデアをどんどん活かすことができ、自分のやりたいようにやれるのなら、PTA仕事だって面白くなるのかも。 勿論、常に反対者はあるもの。それを乗り切る方法も、本作中に描かれています。 大勢を動かすコツを掴んだかのように、PTAをリードする“PTA会長のツルちゃん”こと鶴子の目覚ましい活躍が痛快です。 本作を読めば、元気になれること間違いなし! 1.水色の封筒/2.ラベンダー色のブラ/3.青色グッピー/4.紅いタラコ/5.緑色の水引/6.黄色いタオル/7.オレンジ色の恋 |
「母のあしおと」 ★★ | |
2020年04月
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ごく平凡な妻であり母であった日吉道子という女性の一生を、その死後から語り出し、時間を遡って描いていく連作ストーリィ。 ・夫であった和志が未だ抱える、亡妻・道子への思い。 ・次男の悟志が、道子の49日法要時に気付いた母への思い。 ・長男の啓太と婚約した祐子が、姑となる道子に対して感じたこと。 ・啓太が感じた、母・道子の偏狭な性格。 ・和志の従妹であるフミを通して描く、まだ若い妻であり母であった道子の姿。 ・結婚式を明日に控え、父親と兄姉に囲まれる道子の姿。 ・道子の実母と、まだ10歳の頃の道子の姿。 妻であり母であるという姿が固定してしまうと、最初から妻&母であったかのように思ってしまうのですが、それ以前に遡る人生が誰にもあった、ということを改めて感じさせられます。 時間を遡る程、道子の生き生きと溌溂とした姿が翻っていくようで、読後感はとても新鮮です。 とくに最後の「まど」は、その愛おしさがたまりません。 ただ、家族からしてみれば、最後の最後まで、妻であり、母なんだよなぁ。 はちみつ−平成26年/もち−平成23年/ははぎつね−平成8年/クリームシチュー−昭和61年/なつのかげ−昭和49年/おきび−昭和42年/まど−昭和28年 |
「下北沢であの日の君と待ち合わせ」 ★★☆ Meeting with you on that day in Shimokitazawa |
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放埓だった20歳の頃、安アパートで友人2人と色濃く付き合った青春期をふり返る回想ストーリィ。 理夏は30年ぶりに下北沢を訪れます。 当時安アパートの仲間であり、パン屋「アンゼリカ」で一緒にバイトもした秋子から、アンゼリカ閉店の知らせを貰って。 当時の理夏、服飾専門学校の寮費を使い込んでしまい、やむなく寮を出て転がり込んだのが、「コーポ服部」という安アパート。 入居するや否や巻き込まれるように友人付き合いを始めることになったのが、同じコーポの住人である秋子(劇団員)と、元住人のちはるという2人。 そこから年中3人でたむろし、引っ張り回されたり、笑い合ったりする日々が始まります。 とは言っても、バカ騒ぎばかりで過ごしていた訳ではありません。 仕事にいい加減な姿勢を見せた理夏を秋子が手厳しく批判したり、予想もつかない指示をしてくるちはるのおかげで、一歩前進できたりと、その中に成長するための兆しもあったのです。 しかし、あることから、理夏と秋子はちはると絶縁してしまい・・・。 その時は分からなくても、長い時間が経てからふり返ってやっと分かることもあります。しかし、その時友人は・・・・。 30年も経ってふり返ってみて蘇ってくる、輝かしくもあり、苦みもある青春時代。 本作の中には、そんな光景があります。 現在と過去を交え、やはり同じコーポの住人で小説家志望だった尾村雪江という人物、その手紙を入れ込んだストーリィ構成がお見事。お薦めです。 ※椎名誠さん、北上次郎(目黒考二)さんたちの青春録をふと思い出しました。 イエローポリ袋/下北スイート/カレーパンサイドライン/しあわせパン工房/みそパンワイド/かたばみの葉/謎のチカラパン |