醸造メーカーのバイオ事業部に勤務する縣(あがた)和彦は、英国コッツウォルズで偶々知り合った現地女性から 100年以上前に書かれた英国人男性の手記を託されます。
その手記は、百年後まで開封せぬこと、日本人に読んで貰いたいと付記されていた。
手記の書き手は、1862年に香港から江戸に転任した英国情報士官のウィリアム・エヴァンズ少佐。そしてそこには、彼が見た幕末日本の世情、そして彼の日本語教師となったユキという武家女性との悲恋の物語が書かれていた。
本作品のミソが英国人の視点から見た幕末日本の様子、そして武家女性との悲恋にあることは疑いありません。
しかし読み終わった今、中途半端に終わったという印象がぬぐえません。外国人からみた幕末日本という点では、英国外交官だったアーネスト・サトウ「一外交官の見た明治維新」という名作がありますし、幕末に生きた武家女性とのロマンスという点では(ジャンルが異なるとはいえ)梶尾真治「つばき、時跳び」の方が印象に残ります。その2作とつい比較せずにいられなかったため、本作品に対しては厳しい見方になったことと思います。
肝腎なのは、成瀬由紀という女性像にあるのですが、エヴァンズという英国人武官が現代日本人的であるのに対し、むしろユキという女性の方が外国人的。私としてはついにこの女性像が、焦点を結びませんでした。
英国のコッツウォルズで縣が見た野いばらの群落は2人の悲恋の証、という設定がロマンスを盛り上げているのですが、率直に言ってイマイチ物足らず。
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