石井睦美作品のページ


1957年神奈川県生、フェリス女学院大学卒。出版社勤務を経て、86年「五月のはじめ、日曜日の朝」にて第3回毎日新聞はないちもんめ小さな童話大賞・新美南吉児童文学賞、2003年駒井れん名義による小説「パスカルの恋」にて第14回朝日新人文学賞、06年絵本の翻訳「ジャックのあたらしいヨット」にて産経児童出版文化賞大賞、「皿と紙ひこうき」にて日本児童文学者協会賞を受賞。


1.
五月のはじめ、日曜日の朝

2.兄妹パズル

3.皿と紙ひこうき

4.愛しいひとにさよならを言う

5.ご機嫌な彼女たち

 


     

1.

●「五月のはじめ、日曜日の朝」●(画:南塚直子)★★  新美南吉児童文学賞等


五月のはじめ、日曜日の朝画像

1989年11月
岩崎書店刊
(1049円+税)



2010/05/23



amazon.co.jp

子供たちのちょっとした胸の内、心の動きを瑞々しく描き、さらりと本に映した児童向けの本。
こうしたひとつひとつの思いを大事に重ねて、子供は大人になっていくんだなぁと改めて感じました。

「五月のはじめ、日曜日の朝」:柴犬のバウ2歳が自動車事故で死んでしまい、それ以来走ることを止めていたぼくに、とうさんは新しいランニングシューズを買ってきてくれた・・・。
「おじょうさん、おはいんなさい」:ママに叱られたわたしは、家を出ておばさんに教えられた広場に行くと、そこでは女の子たちが楽しそうに縄跳びをしていたのだが・・・。
「ぼくのピエロ」:気になる転校生の女の子。するとぼくの中にピエロが住むようになって・・・。
「しろつめ草のかんむり」:仲の好いあやこと一緒にはらっぱへ遊びにいった私の話。
「夏まつりのまぼろし」:夏休みに祖父母の家へ。浴衣で夏祭りに出かけたわたしが夜店で出会った女の子は、わたしそっくり。
「いじめっこに、ごようじん」:同じ名字のいとうくんはいじめっこで苦手だったが・・・。

「五月のはじめ、日曜日の朝」「しろつめ草のかんむり」が、本書中でも気持ち好さにおいて光ります。「夏まつりのまぼろし」はちとファンタジーな一篇。
「ぼくのピエロ」は男の子の気持ちをつかみとっていてお見事。そうなんですよねぇ。

五月のはじめ、日曜日の朝/おじょうさん、おはいんなさい/ぼくのピエロ/しろつめ草のかんむり/夏まつりのまぼろし/いじめっこに、ごようじん

     

2.

●「兄妹パズル」● ★☆


兄妹パズル画像

2010年05月
ポプラ社刊

(1429円+税)

2012年07月
ポプラ文庫化


2010/06/19


amazon.co.jp

高校2年の松本亜実、家族は両親に、美男で成績優秀な長兄「コウ兄」(浩一)と元気で人気者の次兄「ジュン兄」(潤一)という5人。
仲の良い家族であるが、中でも年の近いジュン兄と亜実は特に仲が良い。
そのジュン兄が、突然家出。その理由は何だったのか。

心配する母親、何故か落ち着いている父親とコウ兄。
そして亜実の心は、ジュン兄の思いもしなかった面を見せられて戸惑う気持ちと、そのジュン兄を慕っている同学年のサッカー部員・清水を好きという気持ちが入り混じって、千々に乱れます。
9歳離れた長兄と、2歳しか離れていない次兄への思いの違いを、亜実は自分の幼い頃まで遡って量ってみます。
本作品は、一家の末っ子、高校生の亜実を主人公とした家族ドラマ、そして兄妹ストーリィ。

大人と子供の境目、高校生の視点に立つからこそ、家族、兄妹のこと、いろいろと感じることの多いストーリィだと思います。
一方、大人の視点に立って読むと、ただ達観して終わってしまう気がします。
その意味で、主人公と同年代の読者こそ本書に一番相応しい、と感じる次第。

  

3.

●「皿と紙ひこうき」● ★★       日本児童文学者協会賞


皿と紙ひこうき画像

2010年06月
講談社刊
(1300円+税)

2014年05月
講談社文庫化



2010/07/25



amazon.co.jp

北九州の山間部、陶芸を営む小さな集落で育った少女=由香の日々を綴った、心洗われるような気持ちの良い作品。

“皿山”と周囲で呼ばれる集落、何百年もの間12軒で、陶芸は稼業として受け継がれてきた。一子相伝とか。
由香は、祖父母・両親という5人家族で、祖父・父親が陶芸家。
子供たちは皆、小学生の頃から高校生まで、朝夕一便ずつあるバスで一時間かけて町まで通う。
冒頭、「恐竜の鳴き声が聞こえる。ぎーっ。」、仲間を呼んでいる、途絶えることはない、という一文にギョッとしてしまうのですが、これは土をつく巨大な臼の音。由香たちにとって、この集落での暮らしを象徴する鳴き声らしい。

都会で生まれ育った私からみると、不便極まりない生活のように思えますが、由香にすればごく当然のことで、今の暮らしを厭うようなところはどこにもありません。
むしろ、恐竜の鳴き声が途絶えることのない皿山の暮らしを愛おしみ、その良さを大切に引き継いでいるという風があって、そこがとても心地良い。
それでも変化がない訳ではありません。皿山を嫌って出て行った人間もいますし、この地にやってきた人間もいます。由香の母親は東京の人間でしたし、東京からの転校生も登場します。
一方、部活動で由香が親しんだ3年生カップルは、やがて別れ道に至ります。

生まれ育った暮らしを引き継いでいくか、そこから出ていくか。どちらが正しいとかいう問題ではなく、選択の問題に過ぎませんが、今までの生活を愛しみこれからも大事にしていきたいという心根に胸打たれます。
「皿と紙ひこうき」は、その選択を象徴する題名。
由香の友人が泊まりに来て口にする、闇の深さ、山の匂いという言葉にふと惹かれます。

       

4.

「愛しいひとにさよならを言う」 ★★☆


愛しいひとにさよならを言う画像

2013年02月
角川春樹
事務所刊
(1500円+税)



2013/03/07



amazon.co.jp

19歳になる主人公=いつかが「チチ」との出会うまでを回想として語る、という設定にて始まるストーリィ。

まず前半は、絵画修復家の斎藤槙が未婚にて妊娠、たまたま同じアパートに住むというだけの繋がりである区役所職員の飯田由紀に支えられながら、いつかを出産し育てていくストーリィ。
由紀と槙、この2人の間にはかなり年齢差があるのですが共に実母と折り合いが悪く、実家との関わりを絶って一人で暮らしている女性という共通点があった。
この
由紀、槙、いつかという3人の関係がとても素敵です。まるで互いに寄り添い、互いに助け合いながら、自分たちの力だけでしっかり生きていこうとしているかのようです。
そんな2人に挟まれて育ったいつかは、ユキさん=母=自分をひとつ家族であると信じ疑っていない。

この3人の様子を見ていると、家族とは何か?という思いに至ります。血縁があるから家族なのではなく、相手への思いやり、愛情、お互いの間に信頼感があってこそ家族なのではないか、と。
とはいえ、血縁上の家族がいる故にやがて由紀はいつかの前から去り、一方で槙といつかは相容れない祖母と一時的な同居を余儀なくされます。
その結果状況は一転、いつかは心身のバランスを失い苦しむことになります。そんないつかを救ってくれたのは、母がただ一人信頼できる友人だといつかに明言した「
チチ」(いつかの実父ということではありません)との出会い。
彼もまたいつかを愛情をもって導こうとし、いつかもそんな彼に信頼感を抱きます。彼もまたいつかにとっては、大切な家族の一人と言えるのではないか。

肉親と言える存在は母親一人ながら、いつかは血の繋る家族以上に家族らしい人たちに支えながら育ってきた。
かねて槙がいつかに言っていたように、2人だけが当たり前の状況がやがて訪れますが、ユキさん、チチがいつかに与えたものは年月がいくら経とうが決して消え去ることはない。それはそのままいつかに対する2人の愛情の証であろうと思います。
そんな本書は、女性たちの愛おしく、美しい物語と言うに尽きます。 是非お薦め!

           

5.
ご機嫌な彼女たち」 ★★☆


ご機嫌な彼女たち

2016年02月
角川書店刊

(1700円+税)

2017年12月
角川文庫化



2016/04/04



amazon.co.jp

シングルマザー4人の頑張りと友情を描いた連作風長編ストーリィ。
年齢も20代・40代・50代と幅があり、シングルマザーになった理由も様々に異なる4人それぞれの状況を描くところから始まります。
フリー校正者の
安岡寧は42歳、バツイチ。娘のは小3。
寧と大学時代からの友人である
西島万起子も42歳のバツイチで、スタイリスト。同じく小3の息子=はすっかり問題児童化し、悩みが尽きません。
谷本美香は29歳。高校中退して家を出てからスーパーで働き、今は正社員。未婚で産んだ娘の美雨は、西島翔と同級生。こちらも現在問題を抱えています。
万起子と同じマンションに暮らす
大沢崇子は53歳、夫をがんで亡くした後、料理の腕を認められて予約制の料理店を開業。子供は2人。

どの女性を描いてもシンプルで、彼女たちの頑張り、子育ての悩み等々の苦労がストンと腹落ちする気分。その辺りが実に小気味良い。
シングルマザーであるからこそ何より子供が大切という考えもあれば、母親であってもまだまだ女、という考え方もあり。前者の代表が谷本美香であれば、後者の代表が西島万起子でしょう。
4人の間に友情とも言える交流が生まれたことにより、本音トークが交わされ、それによってシングルマザーが抱える状況が明瞭になってくるという展開はお見事。
また、母親たちと対照的に、子供たちの視点から描いた一章も見逃せません。

男性の出る幕は殆どなく(2人程例外はありますが)、男性かたなしといったストーリィ展開ですが、それを越えて彼女たちが愛おしくてならない、という気持にさせられます。
とくに惹き付けられるのは、谷本美香と美雨の母娘。美香の凛々しさと美雨の健気さには胸熱くなります。
読後感は極めて爽快。お薦めです!


1.それもあたしか/2.三十代の男/3.スーパーアイドル/4.恋心/5.どうして/6.嘘と秘密/7.子どもの言い分/8.海とキャベツ/9.崇子さんのごはん/10.ご機嫌な彼女たち

   


   

to Top Page     to 国内作家 Index