今村翔吾
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1984年京都府生、滋賀県在住。「狐の城」にて第23回九州さが大衆文学賞大賞・笹沢左保賞、2018年デビュー作「火喰鳥-羽州ぼろ鳶組」にて歴史時代作家クラブ・文庫書下ろし新人賞を受賞、同年「童神」にて第10回角川春樹小説賞を受賞。


1.童の神

2.てらこや青義堂 師匠、走る

  


       

1.

「童の神 ★★        角川春樹小説賞


童の神

2018年10月
角川春樹
事務所刊

(1600円+税)



2018/11/17



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平安時代、京の近辺には、朝廷の支配下に属さない古くからの民たちがいた。
鬼、土蜘蛛、滝夜叉、山姥、等々、如何にも恐ろし気、まるで化け物といった名で朝廷人たちは彼らを呼ぶ。その総称が“童”という次第。

朝廷支配下に属さない彼らを執拗に攻撃し、根絶やしにしようとするのが、
源満仲とその跡継ぎである源頼光
源頼光といえばすぐ思い起こされるのは“酒呑童子”伝説。伝説では酒呑童子が悪側、源頼光とその四天王(
渡辺綱・卜部季武・碓井貞光・坂田金時)が正義側とされていますが、本作は正悪を逆に描いたストーリィ。
伝説とは、常に勝った側が描く故に、負けた側は常に悪とされてしまいますが、事実は本当にそうなのか。
偽計、奸計をめぐらし、彼らを<人に非ず者>と一方的に決めつけ、女子供を構わず皆殺しにしようとする頼光らの側に、本当に正義はあるのか。
後に
摂津竜王山の滝夜叉、大江山の鬼、葛城山の土蜘蛛らを連携させ、朝廷軍に対する抵抗勢力のリーダーとなるのが、自領の民を守ろうとして朝廷軍に攻め滅ぼされた蒲原郡の豪族=山家頼房の嫡男だった桜暁丸(おうぎまる)

最初から最後まで、童たちと頼光率いる朝廷軍との戦いに尽きるストーリィ。暗澹たる気持ちになるのも仕方ない処。
しかし、ふと思うとこれは、やはり山の民を描いた隆慶一郎一連作品から遡るストーリィではないか。また、秀忠率いる江戸幕府に最後まで抵抗し続けた影武者家康らの戦いに類似するストーリィではないか、と思った次第。

最後は、壮快な幕切れ。
自分らしい生を全うした童たちの姿が愛しく目に浮かびます。
なお、
坂田金時=金太郎も元々は足柄山の山姥という童の出自なのですが、早くに朝廷軍に降伏し、京人に仕えたという設定。

序章/1.黎明を呼ぶ者/2.禍(わざわい)の子/3.夜を翔ける雀/4.異端の憧憬/5.蠢動の季節(とき)/6.流転/7.黒白の神酒/8.禱りの詩(いのりのうた)/終章.童の神

     

2.

「てらこや青義堂 師匠、走る ★★


てらこや青義堂 師匠、走る

2019年03月
小学館

(1600円+税)



2019/05/15



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題名に「寺子屋」とあるのですから、当然ながら江戸市井ものと思うのが普通。
最初は確かにそのとおり。他の寺子屋から追い出された問題児を引き受けているため、毎日頭が痛くなる揉め事ばかり。
それでも問題児を嫌うことなく、真摯に寄り添おうとしているのですから、主人公の
十蔵、良い先生ですよね。

ところがその十蔵、公儀隠密を務める
伊賀組与力・坂入家の次男坊、しかも「伊賀組始まって以来の鬼才」と言われたほどの、腕利き忍び。
しかし、何故十蔵は公儀隠密を辞め、一介の寺子屋師匠の道を選んだのか。そして、妻を離縁した6年前の出来事とは何か。
それなのに十蔵、子供たちのために奮闘するうち、いつしか公儀隠密に復讐しようとする忍びの一党との対決に巻き込まれ・・・というストーリィ。

「童の神」とは時代や舞台設定、趣向もまるで異なりますが、現実離れした設定に面白さがあるところは、やはり共通するものがあると感じます。
同じ時代小説の中でも、忍び対忍びの対決ストーリィとなると、秘術の連発もあってやはりスリリングですねー。
そこに、それぞれ個性的な才能をもつ
筆子(教え子)たちまでその対決に参入してくるですから、いやはや。

陰惨な対決という雰囲気になって不思議ないところ、個性的な問題児ばかりという教え子たちが勝手に加わってくるのですから、これはもう本当に愉快、面白い。
それもこれも、登場人物たちの個性が敵も味方も際立っているところが面白さの秘訣でしょう。
それにしても十蔵の元妻である
睦月、幾ら何でも出来過ぎの観がありますが、それもあっての魅力と言わざるを得ません。

伝奇小説未満の面白さ、満喫しました。


序章/1.鉄之助の拳/2.吉太郎の袖/3.源也の空/4.千織と初雪/5.睦月は今日も笑う/6.十蔵、走る/7.筆子も走る/終章

    


  

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