井口ひろみ作品のページ


1971年静岡県浜松市生、愛知大学文学部西洋哲学科卒。2007年「月のころはさらなり」にて第3回新潮エンターテイメント大賞(選考者:宮部みゆき)を受賞。

 


   

●「月のころはさらなり」● ★☆




2008年01月
新潮社刊

(1200円+税)

 

2008/02/15

 

amazon.co.jp

無理やり母親に同行して山奥の庵にやってきた、17歳。
その庵にはおんば様と呼ばれる老女と、という美少女が住んでいた。
母親が独りで山に入って足を挫いたことから、夏休みということもあって悟は母親と共に暫く庵に滞在することになります。
電気やガスも引かれておらず、TVもなく、風呂は五右衛門風呂という生活。
そして悟と茅の間を遮るように飛び込んできた、という小学生の存在。
おまけに彼らの口からは聞きなれない言葉が次々と出てきます。預かり子、鈴鳴らし、はふり、魂振り・・・。
それらの言葉は何を示すのか? そしてこの庵、おんば様とはどんな存在なのか?

山奥にある滝、その先にある神域とも言うべき禁足地、祠。体を満たして吹き抜ける風。文章を追うだけで清々しい大気に包まれたような気分になります。実に爽快。
しかし後半、真の父親という外部からの侵入者が登場するのを境に、物語は別の局面を見せ始めます。

本作品は“青春ミステリ”という触れ込みですが、その対象となる悟の父親に関する部分。しかし、その謎が明らかにされると、余りに陳腐という思いがします。
ミステリというより、本作品はやはり庵とおんば様、鈴鳴らしの子しか入れないという聖域の存在に興を見出すべき。
ファンタジーな雰囲気を醸し出すストーリィですが、特異な能力はあくまでも添え物であって、弱者である女子供の避難所としての庵の存在に、本ストーリィの意味があるらしい。
ただ、他に行き場所を見出せない者にとっての一時的な安息所として是であっても、その先がしかと見えないと物足りないと思うのは私が大人の男性だからかもしれません。

     


   

to Top Page     to 国内作家 Index