一木けい(いちき)作品のページ


1979年福岡県生、東京都立大学卒。2016年「西国疾走少女」にて第15回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、18年「1ミリの後悔もない、はずがない」にて作家デビュー。現在バンコク居住。


1.1ミリの後悔もない、はずがない

2.愛を知らない

3.全部ゆるせたらいいのに

 


                   

1.
「1ミリの後悔もない、はずがない ★★☆
 I have no regrets whatsoever... that cannot be true.


1ミリの後悔もない、はずがない

2018年01月
新潮社刊

(1400円+税)

2020年06月
新潮文庫



2018/03/04



amazon.co.jp

R-18文学賞読者賞を受賞した「西国疾走少女」を含む連作5篇を収録したデビュー作。

「西国疾走少女」は、訳ありで貧しい母子家庭に育つ女子中学生の由井が主人公。
学校では貧乏ったらしい服装ということで除け者扱い、帰宅しても父方の叔母からお前たちの所為で実父は人生を損なったと責められる日々。
そんな絶望しても不思議ない状況の中、由井を救ったのは、
桐原という男子同級生に対する恋心。それもあってか、ミカ、金井という同級生とも親しくなり、桐原を含めた親しい仲間を得ることができます。
由井は桐原への恋を大事に育てていきますが、それは桐原側でも同じ。2人の初恋が実った後、桐原が自分を大事にしてくれたという思いが、その後の人生において由井を勇気づけてくれた、というストーリィ。
初恋の甘酸っぱさと、人生を乗り越えていく勇気を勝ち得たという、女子中学生ストーリィ。
清純で、それでいて力強い美しさに溢れている一篇。

しかし、本作はその一篇に留まりません。それから繋がる4篇によってひとつの連作ストーリィに仕上がっているのですが、そのどの篇をとっても、確かな手応え、速やかに読者を惹きつけて離さない文章力、構成力が感じられて、素晴らしいの一言。

「ドライブスルーに行きたい」:由井の友人だった林ミカが主人公。大学卒業後いろいろあって今はフリーター、そのミカが、中学当時憧れの的であった高山先輩に偶然再会するのですが、現在の2人は今・・・・。
「潮時」:由井の夫である雄一が主人公。乗った航空機の異変に、由井と河子(かこ)に思いを馳せると共に、自分のこれまでを回想します。彼もまた辛い境遇で育った過去あり。
「穴底の部屋」という主婦が主人公。その彼女の浮気相手が高山。恵まれた環境にありますが、幸せな生活を取りこぼしそうになっているという点で、由井らと対照的。
「千波万波」:主人公は由井の娘で中一女子の河子。クラスで除け者になり学校に行きたくなくなり。ママである由井と一緒に青春18キップを使っての旅に出ます。最後に行ったのは九州、由井がお礼を言いたい相手がいるという場所。
そこで由井が再会した相手も、もう一人の主人公。

いやー、どの篇も実に見事でした。読み終えた時の満足感に、唸らされた気分です。
一木けいさんの今後の活躍に期待大!


西国疾走少女/ドライブスルーに行きたい/潮時/穴底の部屋/千波万波

              

2.
「愛を知らない ★★★


愛を知らない

2019年06月
ポプラ社

(1500円+税)



2019/07/11



amazon.co.jp

高校2年の合唱祭。
実行委員である
青木優がアルトとバスのソロを募ったところ、バスに立候補したのがヤマオ。そのヤマオがアルトとして推薦したのが、千葉橙子
しかし、その橙子、クラスきっての問題児。授業はサボるし、約束は平気で破る等々。そして、主人公である
僕(涼)にとっては大叔母=芳子の娘という、親戚関係にある幼馴染み。

橙子の行動に振り回される、涼、ヤマオ、青木の3人。しかし、ヤマオの橙子に対する信頼は少しも揺るぎません。一体何故なのか。ヤマオと橙子の間には何があったのか。
やがて僕は、橙子が愛着障害であること、橙子の複雑な事情を知ることになります。

「愛を知らない」という本書の題名に、どれほど深い意味があるか、それは本書を読んで初めて判ることです。
それらの全てが明らかになる終盤は、まさに圧巻!の一言。

どちらも非難することはできません。その心の底には、お互いに愛を求めたいという切ない思いがあったのですから。

最後、高校生たちの友情が新たな希望を生み出したこと、新たなスタートを生み出したことに、清新な感動を覚えます。
一木けいさん、デビュー2作目にしてこの質の高さは凄い!
是非、お薦めです。 

                

3.
「全部ゆるせたらいいのに I wish I could forgive every thing ★★


全部ゆるせたらいいのに

2020年06月
新潮社

(1350円+税)



2020/07/07



amazon.co.jp

題名からはどんな内容か推測がつきませんでしたが、アルコール依存症を題材としたストーリィ。

第1章の主人公は、幼い娘=
の子育てに苦闘中に千映。高校の吹奏楽部で後輩だった夫の宇太郎は、仕事でのストレスが多い所為なのか、毎日酔い潰れて帰って来るという状態。
夫がそんな状況では妻として、幼い娘を抱える母親として、心配して小言を繰り返すのもそりゃやむを得ないよ、と感じるところです。その千映の心配はもう一つ、宇太郎が自分の父親のようになるのではないかという恐れ。

第2章では千映の両親の出会いと結婚生活。第3章では酒を飲んで千映に暴力を振るうようになった父親のこと、そんな家庭で育つ娘の哀しさが描かれます。
そして第4章では、アルコール依存症と宣告されても酒を止めない父親、その父親に振り回される千映の状況が描かれます。

仕事のストレス発散のためとはいえ、前後不覚になるくらいまで酒を飲むというのは、もはや逃げ以外の何物でもないでしょう。
でも、簡単にそう言えるのは本人ではないから、他人だからでしょうか。
大酒飲みの夫、父親を見限って、縁を切ってしまうことができれば、際限のない苦労から逃れられるのかもしれません。
でも、かつて楽しかった時の記憶があり、夫、父親に対する愛情があるからこそ苦しむのでしょう。
そこに立って本書題名を改めて噛みしめると、そこには深く、重たく、やるせない思いがあるのを感じます。

重たいストレスを抱えた時期は私にもあります。
でもお酒に依存せずに済んだのは、酒が弱くて飲めばすぐ眠たくなってしまうこと、何より本を読むのが最大のストレス解消策であったことが幸せだった、と思います。


1.愛に絶望してはいない/2.愛から生まれたこの子が愛しい/3.愛で選んできたはずだった/4.愛で放す

       


   

to Top Page     to 国内作家 Index