市川朔久子
(さくこ)作品のページ


1967年福岡県生、西南学院大学文学部外国語学科英語専攻卒。2011年「よるの美容院」にて第52回講談社児童文学新人賞を受賞し作家デビュー。現在千葉県在住。


1.
よるの美容院

2.
紙コップのオリオン


3.ABC!−曙第二中学校放送部−

4.小やぎのかんむり

 


           

1.

「よるの美容院」 ★★          講談社児童文学新人賞


よるの美容院画像

2012年05月
講談社刊
(1300円+税)

  

2012/07/10

  

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主人公は小学6年生の女の子、まゆ子
仲の良かった
タケルがすぐ目の前で交通事故に遭い、そのショックから徐々に言葉を失ってしまう。しかし、母親はまゆ子に対してただプレッシャーを与えるのみ。
そんな事情からまゆ子は学校を休み、両親の元からも離れて、親戚で“
ひなた美容院”を営んでいるナオコおばさんのところに同居している。
ナオコおばさんを手伝って、朝から店の掃除、買い物等のお手伝い。必要に備えてメモを持っていく。
そんなまゆ子が、再び声を取り戻していくまでを描いた再生ストーリィ。

 
何と言っても本作品の魅力は、まゆ子という少女の胸の内を、優しくそして丁寧に描いているところにあります。
声が出ない、休学、両親と別居とただ数え上げるとまるで不運な少女のように感じられますが、まゆ子の日々は結構充実しているようです。ナオコおばさん、手伝いのサワちゃん、猫のジンジャーに囲まれ、不幸どころかかえって充実した日々を送っているかのようです。
また、本作品については、文章のリズムが快い。気持ち好いと言っても良いでしょう。
言葉を発することができなくても、人と繋がることはできる。でも言葉を発することができればもっと気持ち良い。
“ひなた美容院”でまゆ子が過ごした日々は僅かではあるものの、ビルドゥングス・ロマンと言いたい程です。
なお、
「よるの美容室」とは、定休日である火曜日の前日、まゆ子がナオコおばさんにシャンプーをしてもらって快さに身を委ねている場面を語っているようです。

               

2.

「紙コップのオリオン」 ★★☆


紙コップのオリオン画像

2013年08月
講談社刊
(1400円+税)

   

2013/09/19

   

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主人公は中2の橘論里。小2の妹=有里と両親という4人家族。ただし、母親は未婚で論里を生み、3年後に4歳年下の今の父親と結婚したという関係。
ある日、母親がしたいことが今あるという手紙を置き、家族3人を残して突然旅に出てしまいます。といっても家族を捨てた訳ではなく、その後もメールあるいはブログによって消息は知れるという次第。
そんな状況下、論里は中学の創立20周年記念行事の実行委員に親友の
轟元気と共に選出されてしまいます。あと2人クラスから選出されたのは、変わり者という評判の女子=水原白(ましろ)と、問題児の河上大和

家庭、学校の双方において取り組まなくてはならない課題を抱えた論里の、中学生らしい成長ストーリィ。
何よりも読んでいて気持ちがどんどん良くなってくるのが魅力。
最初は表題「紙コップのオリオン」の意味が解りませんでしたが、それは論里が提案した記念行事でのイベントのこと。そうと判ってからは、子供たちと一緒に興奮する気分です。
それを実現するためには何が必要か、どう行動しなくてはならないか。そして家庭のこと。同級生や先輩、そして家族との絆を結び、強めていく様子を段階的に描いていった成長物語。

どの登場人物も魅力的ですが、特筆したいのは、論理の妹である有里と一緒に実行委員を務めることになった同級生の水原白の2人。共に夢中になるとついついのめり込んでしまう、その分性格は真っ直ぐ、という共通点あり。如何にも同級生たちから浮いてしまうタイプですが、夢中になれるということがどんなに素晴らしいことかを2人が感じさせてくれます。
いいなぁ。読んでいる間、とても楽しかったです。その楽しさ故に星2つ半。

   

3.
「ABC! 曙第二中学校放送部 Akebono Broadcasting Club ★★☆


ABC!画像

2015年01月
講談社刊
(1500円+税)

 


2015/02/22

 


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訳有って2年途中にバスケ部を退部し、放送部に転じた本庄みさと、3年生になったものの、肝心の放送部は同級生で機材担当を自称する古場和人とたった2人だけ(校内放送を担当する放送委員が別にいる、というのが立場の苦しいところですね)。
それでも無難に過ごせばいいやと思っていたところ、新しく顧問になった新人教師の
須貝がやたら張り切って・・・・というストーリィ。
そうした中でみさとは、誰もが目を瞠る美少女でありながら孤高を貫く転校生の
真野葉月のことが気になり、またやはり同級生で“いいヤツ”である新納基にも気を惹かれと、中学生はいろいろ忙しいのです。
須貝のハリキリぶりが効を奏したのか、放送部にも新入部員が入って計5人となり、放送部の活動も本格化してきます。

嫌味な同級生もいれば、頑固な教師もいる。そしてみさとや葉月のように、過去の失敗に未だ捉われている生徒もいます。
ごく当たり前の中学校生活の中で放送部の特徴は、人に何かを伝えようとする部である、ということ。
人に何かを伝えようとすること、人に伝えたい言葉を持つということ、その大切さが知らず知らず伝わってくるところに本作品の素晴らしさがあります。
そうした中学生の素直な気持ちを受け留めようとせず、聞くふりをして聞く耳を持たないといったベテラン教師の何と最悪なことでしょう。教師のみならず、職場の上司にもよく見受けられることです。

特訓でみさとたち放送部員が短い間に成長していく姿も魅力的ですが、クラス内での確執、淡い恋愛感情も当たり前のこととして描かれている点も好ましい。お薦め!


1.新学期/2.勧誘/3.お昼の放送/4.新入部員/5.発声練習/6.始動/7.根/8.出場部門/9.片手/10.けんか/11.台本/12.録音/13.エントリー/14.大会/15.夏空/終章.はじまりの声

        

4.
「小やぎのかんむり」 ★★☆


小やぎのかんむり

2016年04月
講談社刊

(1400円+税)

 


2016/05/31

 


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中高一貫の有名女子校に通う中3生の万木(まき)夏芽、夏休みに親友から誘われた勉強合宿にはいかず、何故か山の中にあるお寺でのサマーステイに応募して参加。安くて遠いというのが申込理由でしたが、何と参加者が夏芽一人とは予想外のこと。
それでも迎えてくれたサマーステイの担当者だという
小宮美鈴穂村の2人は男性は実直で人の好さそうな印象。
ともあれ、夏芽の夏休みはこうして始まるのですが・・・。

ちょっとした夏休み物語かと思って読み出したのですが、母親かが強引に寺へ預けて行った
雷太という5歳の男の子が飛び込んできたかと思えば、草取りの最新兵器として高1生の葉介がヤギの「後藤さん」を連れてきたりと、中々賑わしくなってきます。
それぞれ和気藹々として楽しそうなのですが、雷太には隠された事情があることが判ってくるかと思えば、夏芽が抱える問題もやがてクローズアップされ、さらには穂村や美鈴にも苦悩の過去があったことが明らかにされていきます。

子供にとって辛い現実は、親を子供は選べないということ。
それでも新しく人と繋がることによって救われることができる、そもそも子供は宝なんだと知ることができるのは、どれ程大切なことでしょうか。

夏芽、美鈴、穂村、雷太、美鈴の祖父でカラオケ好きの住職、檀家の平治さん、その孫の葉介と、どんどん人の繋がりが広がり、同時に繋がりが強まっていく様子が、背景に切ない事情があるからこそ素晴らしく感じられます。

市川朔久子さん、まだ4作目なのですが、これからも目が離せない作家であることはもう間違いなし。お薦めです!


1.夏のはじめ/2.サマーステイ/3.新顔/4.助っ人/5.三匹のヤギ/6.小さいヤギ/7.わるい草/8.小石/9.中くらいのヤギ/10.山の晩餐/11.大きいヤギ/12.小さいヤギ 中くらいのヤギ 大きいヤギ/13.最後の夜に/終章.夏のたからもの

  


   

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