題名を見ただけで楽しくなりませんか。
この題名と表紙の絵に惹かれて読んだ本ですが、思った以上に楽しかったです。
てっきり田舎での話かと思えばとんでもない、東京の目黒の話。そして「森」といっても、主人公が子供の頃オババと呼んでいた個人の所有地なのです。それなのにまるで森の如くに樹は繁り、鳥や虫やヒキガエル等々いろいろな生き物が生息していて、まるで自然観察園の如き土地なのです。
旅行会社を中途退職した主人公・中里祥平は、幼馴染の紹介でオババが倒れて入院した後荒れ放題となっている“オババの森”に管理人として住み込むことになります。
家が荒れ放題なので樹上にツリーハウスを作ってそこが住まい、ついでに探偵業を始めたことから、人呼んで“木登り探偵”という次第。
ユニークな探偵を主人公にしたユニークな日常ミステリ短篇集と思っていたら、これは全くの見込み違い。
どうしてどうして堂々とした長篇なのです。それも依頼された探偵仕事が主というのではなく、オババの森自体、そして森に通ってきて主人公と仲良くなった小学生の女の子・嶋村奈々とその母親マリエに関わる謎解きが主ストーリィになります。
そして主人公はいつの間にか、オババの森、奈々、マリエの守り手に。
何といってもツリーハウス、それ故の木登り探偵という設定が楽しい。私が子供の頃は秘密基地として樹上の小屋なんて憧れでした。
それと、オババの森で維持されている生態系、それを主人公が奈々と一緒に観察する辺り、とても楽しそうです。コンクリートだらけの今の東京からするとまるでユートピア。
でも今後どうするのかという現実的な問題提起を脇役人物にきちんとさせている点、ただ浮かれている訳ではない平野さんに称賛を贈りたい。
主人公、奈々、マリエ、オババ、角松刑事等々、出てくる登場人物が皆気持ち良い(一部例外はありますが)ところも本作品の魅力です。
夏休み読むには恰好の作品と思います。夏休み気分の読書に是非お薦めです。
なお、作者の平野さん、G・ポーター「そばかすの少年」のファンなのではないでしょうか。とくにマリエが怪我する場面、そばかすとそっくりです。
少年・少女とは違いますが、風変わりな大人同士のロマンスが花開きつつある様子も楽しいものです。
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