(ひがし)直子作品のページ


1963年広島県生、神戸女学院大学家政学部食物学科卒。歌人・小説家。96年「草かんむりの訪問者」にて第7回歌壇賞を受賞。2006年「長崎くんの指」にて小説家デビュー。※姉の小林久美子も歌人。


1.
ゆずゆずり

2.
トマト・ケチャップ・ス

3.キオスクのキリオ

4.いとの森の家

5.晴れ女の耳

 


   

1.

●「ゆずゆずり」● ★☆


ゆずゆずり画像

2009年03月
集英社刊

(1300円+税)

2009/04/03

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とくに事件も起こらず、ごく日常的な事々が淡々と綴られていくという小説作品。

一応、主人公が仮住まいする間の同居人として、イチ、サツキ、ナナという女性たちが登場しますが、ストーリィや彼女たちに余り現実感はありません。
あるとしたら、せいぜい引越の章でしょうか。私自身が2年半前にしたばかりという所為かもしれません。

ですから、どこかふわふわしていて、エッセイという雰囲気に近い。
ちなみに主人公は「シワス」と呼ばれ、4人とも生まれた月をもじっての通称とのこと。

なんとなく和みますねぇ。のほほんとした良さあり。

      

2.

●「トマト・ケチャップ・ス」● ★★☆


トマト・ケチャップ・ス画像

2012年03月
講談社刊

(1300円+税)

2015年03月
講談社文庫化

  

2012/04/22

  

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漫才トリオを結成した女子高生3人の青春ストーリィ。
てっきり
山本幸久「笑う招き猫のような、ユーモアも交えたビルドゥングス・ロマン、高校生版と思ったのですが、かなり切ない高校生ストーリィでした。

3人の顔ぶれは、
トマト=漆原依理、ケチャップ=山口葉、ス=連翹(れんぎょう)ゆな
前2人は学年でも1、2を争う成績優秀者のうえに美人。対照的にゆなは、いつもぼんやりしているような能天気な女の子。特に親しい訳でもなかった依理から突然に不可欠なメンバーと言いだされたゆなは困惑するばかり。
つまり、トリオといっても2+1という構図なのですが、何故2+1なのか、何故“トマトケチャップ+ス”なのか、というところに本ストーリィの意味、味わいがあります。

一見何の問題も抱えていないような依理、葉の2人ですが、ストーリィの蓋を開けてみれば、2人各々に深刻な家族問題、親との亀裂を抱えていることが判ります。
一方、何の取り柄もないゆな、という印象でしたが、彼女は先の2人が羨むようなものを持っていた。しかし、そのゆなもまた、2人はまた違った家庭問題を抱えることになります。

つまり2人は元々深刻な家庭問題を抱えていて、さらにそこからゆなを加えた3人が大きな試練に直面するというストーリィ。
彼女たちを支え、また救ったものが“トマト・ケチャップ・ス”という3人の結びつきだったという展開が素晴らしい。
相当に切ないところがあるストーリィですが、友と手を取りあって困難を乗り越えていく、高校時代を共に過ごす友同士だからこそという展開は、感動と共に彼女たちの強さへの期待を抱かされます。
また、漫才という形を以てする3人の語りに妙あり。
高校生青春ストーリィの逸品です。


トマト・ケチャップ・ス/草の上のアヒルたち/トマトスとフーテンのケチャップ

        

3.

●「キオスクのキリオ」● ★☆


キオスクのキリオ画像

2012年10月
筑摩書房刊

(1600円+税)

2017年01月
ちくま文庫化

2012/10/31

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キオスクで働くおっちゃん=キリオの元には、何故か様々な人が勝手な無理難題を持ちかけてくる、という連作短篇集。

何でまたこんなことぉ〜と思うのですが、肝心のキリオが茫洋とそれを受け入れている風なので、読者といえども何もキリオに言うことは出来ず、という雰囲気があります。そこが本作品の味わいなのでしょう。

ちょっぴり摩訶不思議さあり。そんな処は(引用するのが適切かどうかわかりませんが)、
梨木香歩「家守綺譚の登場者を人間に限定したうえで現代風にした、そんな感じを覚えます。

誰にも言えないような、もし口にしたとしたら馬鹿にされるような思い、事柄、どこかに吐き捨てるような感じで誰かに言うことができたら。それにちょうど良い場所がキオスクであり、そこにいるキリオだったのかもしれないなぁと思う次第です。


迷いヘビ/調合人/夕暮れ団子/トラの穴/シャボン/アジサイコーラ/ミルキー/行方不明見届人/空の中/時の煮汁

     

4.

「いとの森の家」 ★★


いとの森の家画像

2014年10月
ポプラ社刊

(1500円+税)

2017年04月
ポプラ文庫化



2014/11/23



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小学4年生の加奈子は、父親が福岡の田舎を気に入って家を建てたことから、両親と姉妹と共に都会から田舎へと引っ越してきます。
初めて経験する田舎の暮らしは驚くことばかり。だからといって皆が皆、嬉しいことばかりではありません。最初に経験したことはむしろ気持ち悪くなって保健室で寝込むようなこと。
それでも近所に住む同級生と親しくなり、様々なことを近所の人や同級生たちに教わるうち、田舎暮らしの楽しさ、喜びを満喫していきます。

蛙やオケラ、ホタルとの触れ合い、きのこ狩りや椎の実拾い、田舎だからこその遊び、等々。
そうした中で生き物の命や、人の死についても考えるようになります。その面で大きかったのは、森の中のかわいい家に住む老女
おハルさんとの出逢い。結構重たい部分もそこにはあります。

様々なことに驚き、喜びを見い出していく少女の姿を描いた瑞々しい作品。
出会った様々な出来事から感じたことを、加奈子がどんどん身の内に吸収していく様子が手に取るように感じられるところが素敵です。
また、今や定番となった観のあるイジメに無縁なだけでも、ホッとする気分があります。
都会暮らしと田舎暮らし、それぞれ良い面も悪い面もあるでしょうし、好き好きもあるでしょうけれど、子供の頃はこうした田舎暮らしを経験する方が大切なのではないかなァと感じます。

どちらかというと児童向け作品と思いますが、その新鮮な感覚は大人が読んでも嬉しい一冊です。

      

5.

「晴れ女の耳」 ★★


晴れ女の耳

2015年04月
角川書店刊

(1500円+税)

 


2015/05/19

 


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東直子さんの出自でもある和歌山県紀州の深い森を舞台に広がる怪談短編集とのこと。
でも読んだところ、いわゆる
“怪談”という印象は薄い。むしろファンタジー小説のような味わいです。

全7篇。そのどれもが悲惨な内容を含んでいます。だからホラーと言えばホラーストーリィなのですが、本書を読んで感じる印象は極めて温かなものです。さらに言えば、ユーモモラスな雰囲気さえ感じる程。それは一体何故なのか。
そうした目で改めてストーリィを追ってみると、そこには家族への愛、親子の愛といったものが脈々として今も確かに息づいているのを感じます。
悲惨なことがあっても家族の愛が壊れることはない、むしろ逆に強まっている風。だからこそ、それに触れて読み手も温かな気持ちになるのでしょう。

7篇の中では何と言っても表題作である
「晴れ女の耳」が秀逸。未だ傘を差した覚えがないという主人公の不思議の理由は、小さな豆ばあさんの存在にあった、という話。
主人公における明るい面と、豆ばあさんにおける過酷な思い出が、一つ短篇の中で絶妙にブレンドされていて見事な味わいを醸し出しているのです。
また、冒頭の
「イボの神様」も私は好きですネ。

怪談は怖くてどちらかというと苦手なのですけれど、こんな怪談集ならもっと読んでみたいというものです。お薦め。


イボの神様/ことほぎの家/赤べべ/晴れ女の耳/先生の瞳/サトシおらんか/あやっぺのために

  


   

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