早見和真
(かずまさ)作品のページ


1977年神奈川県生。国学院大学文学部在学中より雑誌その他媒体にて執筆、ライターとして様々なジャンルにて活躍。2008年「ひゃくはち」にて作家デビュー。2015年「イノセント・デイズ」にて第68回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)受賞。


1.ひゃくはち

2.スリーピング・ブッダ

3.砂上のファンファーレ

4.東京ドーン

5.6(シックス)

6.イノセント・デイズ

7.小説王

  


           

1.

●「ひゃくはち」● ★☆


ひゃくはち画像

2008年06月
集英社刊

(1400円+税)

2011年06月
集英社文庫化



2008/07/23



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題名の「ひゃくはち」とは「108」
除夜の鐘で言うところの煩悩の数であり、野球のボールの縫い目の数でもあります。
本書は、強豪校の野球部の仲間たちと甲子園を目指した、煩悩多かりしあの頃を回想するストーリィ。

高校野球、それも甲子園球児となると、どうして大人やマスコミはああまで彼らを美化して止まないのか。
高校野球の面白さは理解するものの、ずっと私はあの美化ぶりにまやかし的なもの、現実離れした大人の勝手な決めつけを感じていました。
その点、本書に登場する高校球児たちはそれらと対極にあって面白い。煙草も吸えば酒も飲み、合コンした女の子とホテルにも行ってしまう。
こんな高校球児がいると判ったら、今でも目くじら立てられ、出場停止、出場辞退しろと騒がれること間違いないでしょう。
だからといって、主人公たちがいい加減に野球をやっている訳ではない。甲子園を目指し高校生活をかけて猛練習に明け暮れていることに何ら変わりないのです。
甲子園に出場した選手たちをマスコミはやたら称えますが、野球部員全員がベンチに入れる訳ではないのは勿論のこと。本書の主人公である青野雅人も、実力からいってベンチに入れるかどうかギリギリ。そんな部員にとってみれば、チームが甲子園に出場できるからといって単純に喜んでばかりはいられない。中心選手とは別の思いも抱えているのです。
奇麗事ではない、そんな彼らの本音ベースの高校球児ぶりが、私にはむしろ居心地良く感じられます。

仲間たちと真剣に甲子園を目指したこと、今もその仲間たちとその頃を糧に繋がっていられること、ただそれだけで充分ではないかと思うのです。
何も野球、甲子園が全てではない筈。結局それは、一つのことに熱中した高校生活の一片であるに過ぎないのですから。
本書は、野球ばかりでなかった高校球児たちを描いた、ひとつのスポーツ青春小説。読み終わった後の気分は爽快です。

        

2.

●「スリーピング・ブッダ」● ★★


スリーピング・ブッダ画像

2010年09月
角川書店刊

(1700円+税)

2014年08月
角川文庫化


2010/11/06


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大学時代に知り合い、タイプは異なるながらも同じ一つの道を目指した2人の青年の物語。
そしてその道とは、何と仏教!

片や、住職である父親の跡を継ぐべく真摯に仏教とは何ぞや、禅宗に救いはあるのかと問い続ける、小平広也
片や、全力投球していたバンド解散後“安定した就職先”、かつ仏教で世界は救えるかと、仏教界に飛び込んだ
水原隆春
単に青春小説と言ってしまうには、余りに長い年月の物語。その意味で、2人の青春彷徨記と言うに相応しい。

この時代にあって「宗教とは何ぞや!?」と問いかけ続ける本ストーリィ、着眼点がまず良い。それに加えて、僧侶はもっと一般人に顔を見せるべきだ、という主張にもすんなり同感。
この2人、単に職業として仏教を選んだのではなく、本気で仏教に向き合おうとしたことから、本山での修行時代、その後と、軋轢、迷い、試行錯誤と半端ではありません。
2人が真摯に修行を究めようとしたとあっても、世間は簡単に2人を放っておいてはくれません。
決して本書は理想的に展開するストーリィでも、感動的に展開するストーリィでもありません。むしろ、2人の挫折、変転のストーリィ。

それでも迷い、手さぐりしながらのストーリィである故に、答えは見つからなくても、読み応え十分。
むしろその小気味良さが、快感です。
 

          

3.

●「砂上のファンファーレ」● ★★☆


砂上のファンファーレ画像

2011年03月
幻冬舎刊

(1400円+税)



2011/05/14



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主婦の若菜玲子、最近物忘れがひどくなったようが気がして、痴呆症が心配。
長男の
浩介は既に結婚して独立、大学生の次男=俊平は実家からは通いきれないと東京でアパート暮らし。昔は一家団欒楽しかったマイホームですが、亭主の克明と2人きりになった今、重い住宅ローン、あちこち借りまくったサラ金の返済に日々追われ、地獄のような状況。何のために“家”を維持しなくてはならないのかと、思うばかり。
それなのに亭主と次男は好き勝手。嫁の
深雪はちっとも寄り付こうとせず。
それでも大事な家族なのに、最近では息子の顔も判らなくなってきて・・・。

女房、母親の苦労も知らず、見ようともせず、各々好き勝手、バラバラだった家族が、玲子の病気を機に家族としての繋がりを取り戻すという、家族再生物語。

カッコだけは付けたがるくせまるで役立たずの父親、能天気な次男、夫の実家を冷たく見る長男の嫁と、この家族どうしようもないのではないか、と思わせられるのが前半。
しかし、妻の冷たい視線にもかかわらず責任を果たそうと頑張る長男、意外な活躍を見せ始める次男と、兄弟のふんばりが家族の針路を良い方へと向けていく展開に好感が持てます。
最後の団欒風景を見ると、何だこの家族、とても良い雰囲気じゃないか、という感じなのです。

核家族化が今では普通の家族小説の中にあって、家族の一員、家族の繋がりを訴えた本作品、今の世間には逆行しているかもしれませんが、大事なものは“家”ではなく“家族”という言葉には、納得がいきます。
老いては、若い子供たちに頼れ、とも言える展開ですが、それはそれで理想的な家族の姿と感じられます。

母の咆哮/兄の自覚/弟の希望/父の威厳/家族の欠片

           

4.

●「東京ドーン」● ★☆


東京ドーン画像

2012年04月
講談社刊

(1400円+税)



2012/05/15



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就職、仕事、恋愛、結婚等々、悩み多き現代の若い男女が味わう苦衷を描いた連作短篇集。

職場での過酷な労働状況、フリーターの就職問題、結婚したいのにプロポーズの気配もない恋人、野球部元エースの挫折、7年越しの恋人関係の破綻。
現代社会ではもはやごく普通の風景とも思えるのですが、若いからこそ苦悩も大きいのでしょう。かつては私たちも辿った道(まぁ就職に関する状況は以前より深刻かもしれませんが)。

今がどんなに辛くても、今の状況が全てではない、これで終わりではない。頭を切り替えてみれば、まだまだ新しい出発をすることもできる。
そんな若者たちへのエールが感じられる連作短篇集です。
各章の最後、読み手の胸の内にも希望が広がっていくような気がして、楽しい気分になります。
それが特に感じられる篇は
「二子玉ニューワールド」。
また、冒頭の
「新橋ランナウェイ」、結婚披露宴でこき使ってばかりの上司が述べた祝辞に、新郎の父親が「ケンカを売る訳ではないが」と言いつつ語る挨拶が傑作。
まさにその通りと言いたい内容ですが、こんな父親がいてくれれば息子としても何と心強いことでしょう。

6篇、主人公は各々異なりますが、本書を通じて読むといろいろ絡み合っていることが判り、各章で明らかにされなかった各人の名前がやっと最後の「碑文谷フラワーチャイルド」で明らかになるといった仕掛けが施されており、ちと小癪。
「新橋」と「二子玉」が私としてはやはり面白かったです。

新橋ランナウェイ/北新宿ジュンジョウハ/成城ウィキペディエンヌ/十条セカンドライフ/二子玉ニューワールド/碑文谷フラワーチャイルド

            

5.

●「6 シックス」● ★☆


シックス画像

2012年07月
毎日新聞社刊

(1400円+税)

2015年11月
集英社文庫化



2012/07/31



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夏、そして野球といえば、高校野球に他ならないでしょう。
その夏に野球を描いたストーリィといえば季節に適ったものと思いますが、本作品は高校野球ではなく、
東京六大学野球を題材にした連作風小説。そうと知って初めて「6」という題名も納得がいきます。

大学野球そのものがスポーツ小説の題材になるのは珍しいのではないか。高校野球程純粋に野球に打ち込むという訳でなく、いっぱしの野球人でありながらまだ学生、という中途半端な立ち位置にある所為ではないかと思います。
そのため本書6篇全てが大学野球選手を主人公にしている訳ではありません。野球選手は何と2人だけで、他4篇の主人公はマネージャー、就活生、女子学生、選手の母親一人という顔ぶれ。
それでもストーリィになるというのが、おそらく高校野球、プロ野球とは違った大学野球の魅力なのではないかと思います。
そう、自分が通う大学の試合を球場で応援するのは、大学生活を謳歌しているという楽しさ、充実感が得られますから。

6篇中私が一番魅せられたのは冒頭「赤門のおちこぼれ」。予想外の面白さを感じたのは次の「若き日の誇り」でした。
また
「もう俺、前へ!」での就活生の苦闘、リアルです。

赤門のおちこぼれ/苦き日の誇り/もう俺、前へ!/セントポールズ・シンデレラ/陸の王者、私の王者/都の西北で見上げた空は
※「東京六大学野球」とは、日本で最も古い大学野球リーグで、参加校は慶應・東京・法政・明治・立教・早稲田(五十音順)。毎年春秋に明治神宮球場でリーグ戦を開催。
※各篇題名からどの大学を舞台にしたものか推測がつくのだろうと思いますが、私がすぐ判ったのは4校だけでした。

   

7.

「イノセント・デイズ Innocent Days ★★    日本推理作家協会賞


イノセント・デイズ画像

2014年08月
新潮社刊
(1800円+税)

2017年03月
新潮文庫化



2014/09/16



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東京拘置所の単独房での朝、「主文、被告人を死刑に処する!」という判決、冒頭から衝撃的な場面で始まる長編ストーリィ。

被告人=
田中幸乃24歳、捨てられたことを恨んで元恋人の一家をストーカー、その果てに放火して妊娠中の妻と双子の女児3人を殺害。元恋人は介護施設で夜間勤務のため在宅しておらず助かったという。
母親は17歳のホステスで覚悟もないままに彼女を出産、少女時は義父から暴力を振るわれ、中学生時には強盗致傷事件を起こして児童自立支援施設入り、という経歴が裁判長によって並び立てられます。事件直前に彼女が整形手術を受けていたことから、事件は<整形シンデレラ放火殺人事件>と巷で呼ばれる。

それだけ聞けば死刑になっても当然という犯人像に落ち着きますが、本当にそうなのか。裁判長が並び立てたことはまるで正反対の事実が、かつて幸乃と関わりをもった複数の証言者(産科医、義姉、同級生、元恋人の友人、幼馴染等)による回想として語られていきます。
この子を幸せにしたいという強い思いから「幸乃」と名付けた母親、それなのにどうして法廷での「生れてきてすみません」という謝罪文言に至ってしまったのか。そこに他者の責任は無かったのだろうか。
たとえ極悪人であろうと、生れてきたことを詫びなければならないような人などいるのだろうか。それがそうなってしまったには何らかの要因があり、何人かの責任があることを改めて問うべきではないのか。
何が問題だったのか、誰が悪かったのか、などと簡単には言えないストーリィ。今まで犯罪者についてそうしたことを考えもしなかっただけに、胸を揺さぶられずにはいられません。

最後は衝撃的な結末・・・・もう、言葉もありません。


プロローグ.「主文、被告人を・・・・」/第1部.事件前夜/第2部.判決以後/エピローグ.「死刑に処する・・・・」

       

7.
「小説王」 ★★


小説王

2016年05月
小学館刊
(1600円+税)



2016/07/27



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文芸冬の時代と言われる現在、かつて小学校の同級生であった2人は今や、大手出版社の文芸編集者=小柳俊太郎と売れない作家=吉田豊隆
そんな2人が、お互いに編集者・作家としての覚悟を賭け、傑作小説を世に生み出そうと疾走を始めます。
どうしたら人を引きずり込むような小説作品を生み出せるのか、そのために編集者と作家は何をしなければならないのか。
本書は、“お仕事小説”の域を超えて、文芸編集者と作家の、全力投球の奮闘ぶりをリアルに描いた業界小説。
まるで幼馴染2人がタッグを組んで業界に殴り込みをかけるような意気込み、勢いを感じさせられるストーリィになっています。

ただし、冷静に眺めてみれば、如何にリアルに描こうとも、2人の奮闘ぶりを主とした単純なストーリィとも言えます。
それを多少なりとも膨らませたストーリィに仕上がっているのは、2人を囲む様々な周辺人物たちのおかげ。何とか2人を盛り立ててやろうという温かい視線がそこにあります。

とは言ってもそれだけでは★☆評価に留まるところを★★評価にアップさせたのは、知り合った時は銀座の文壇バーでホステス、後に豊隆にとって大切な女性となる
晴子の人物造形。
この晴子の存在があるからこそ作家<吉田豊隆>が光って見える、と言って良いでしょう。
私にとっては、この晴子の言動がすこぶる魅力的、そのまま本作品の魅力になっていると言って過言ではありません。

    


  

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