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11.感情8号線 12.オーディション−南部芸能事務所No.4− 13.罪のあとさき 14.タイムマシンでは、行けない明日 15.家と庭 16.コンビ−南部芸能事務所No.5− 17.消えない月 18.シネマコンプレックス 19.大人になったら、 20.水槽の中 |
【作家歴】、国道沿いのファミレス、夏のバスプール、海の見える街、南部芸能事務所、メリーランド、運転見合わせ中、ふたつの星とタイムマシン、夏のおわりのハル、春の嵐、みんなの秘密 |
神さまを待っている、若葉荘の暮らし、ヨルノヒカリ、世界のすべて |
「感情8号線」 ★★ |
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2017年01月
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題名の「感情8号線」とは、道路の環状8号線のもじり。 直線で行くと近いけれど電車でいくと遠回りという、本書に登場する幾人もの女性たちの思い悩む心を象徴する題名らしい。 ・「荻窪」:劇団員の真希、バイト仲間である貫ちゃんが好きだが彼には恋人がいて、気持がいつまでも収まらず。 ・「八幡山」:絵梨の同棲相手はエリート会社員だがDV男。それなのに何故絵梨は我慢し続けるのか。 ・「千歳船橋」:亜実、同棲2年を経て結婚したものの、何故か湧き上がってきた不安が消えない。 ・「二子玉川」:2人の子持ちで心ならずも専業主婦の芙美。夫が浮気。子供の幸せのために我慢するしかないのか。 ・「上野毛」:キャリア志向の里奈、しかし、1LDKのマンションに一人暮らしは切ない。 ・「田園調布」:貫ちゃんを好きになり、お嬢様育ちなのに同じ餃子屋でバイトを始めた麻夕。でも好きと言えないまま。 「荻窪」はありきたりな三角関係、「八幡山」は珍しくもないDV話と、今回はありふれた日常ストーリィばかりで冴えが余り感じられないなぁと思っていたのが冒頭2篇。 収録6篇のいずれも、若い女性たちの日常的な悩み、不安といった感情を描いたストーリィですが、各篇の主人公が相互にバイト仲間、会社の同僚、友人、従姉妹と繋がりを持っている処から違った風景が浮かび上がってきます。 さしづめ佐江衆一さん言う処の“円環小説”という趣向ですが、何の悩みもなく幸せそうに見えた相手が実は自分とはまた別の不安、悩みを抱えていたり、恋人等から思いもよらぬ不誠実な行動をとられていたり、という処に興味尽きない面白さあり。 それが野次馬的な下卑た笑いに落ちないのは、ひとえに畑野智美さんの優しく、丁寧でリアルな心理描写があってのこと。 まさに畑野智美さんの達者な描きっぷりが楽しめる群像ドラマ。 男性より女性向きと思える短篇集ですが、女性心理が細やかに描かれているところから男性読者としても見逃せません。 中でも私が一番面白かったのは、独身キャリアウーマンの中西里奈30歳を主人公にした「上野毛」の篇。 面白さに加えて濃い味わいのある連作恋愛短篇集、お薦めです。 荻窪/八幡山/千歳船橋/二子玉川/上野毛/田園調布 |
「オーディション Nanbu 4th.season」 ★★ (文庫改題:南部芸能事務所 season4−オーディション−) |
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2018年05月
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“南部芸能事務所”シリーズ第4弾。 TVでのオーディション番組が始まり、“インターバル”や“ナカノシマ”に続いて“メリーランド”も出場が決まります。 しかし、不合格になったら後はない。最終決定戦まで勝ち進む迄の間、毎回毎回緊張とストレスが彼らの上にのしかかります。 緊張するとすぐ腹が痛くなる新城だけでなく、それはナカノシマや、インターバルにも共通すること。 事務所主催のライブとまるで違い、TVでは気を抜くこと一切が許されない。しかし、プロとして生きていくためには、これを乗り越えていかなくてはならない。 本書は、ステップアップするための正念場を迎えた登場人物それぞれの葛藤と奮闘を描いた巻。 いつも通り各篇毎に主人公は入れ替わりますが、それによって、若手芸人たちの青春群像劇であるという本シリーズの特徴が鮮やかに浮かび上がります。 第1話:新城、オーディションの失敗感から録画を見れず。でもそんなことでは・・・・。彼らを取り巻く友情が貴重。 第2話:中嶋、まもなく第一子が誕生。迷いとプレッシャー。 第3話:佐倉(インターバル)、ネットのざわめきが心に残り、不安が消えない・・・。 第4話:野島、自分だけ相手がいないという孤独感から、津田と鹿島のどちらを選べばいいかと迷うのだが・・・。 第5話:榎戸、この1年間頑張り続けたというのに、敗北感ばかりが広がる・・・・。 第6話:中野、いよいよ決勝戦を前にして・・・。 第7話:溝口、決勝戦も終わり大学の卒業式。同時に母親との同居生活を卒業して一人暮らしを始める時を迎えます。 なお本巻では、若手芸人たちだけでなく、本巻では大学生バイトのままナカノシマとメリーランドのマネージャーとなった鹿島ちゃんの成長ぶりに惚れ惚れします。どうぞお見逃しなく。 本巻での経験を踏み台にさらなる高みへ。次巻も楽しみです。 第一話/第二話/第三話/第四話/第五話/第六話/第七話 |
「罪のあとさき」 ★★☆ | |
2019年11月
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少年犯罪をテーマにした長編。 これまで温かみのある作品が中心だった畑野さん故に、意外の感を持つと同時に、大丈夫だろうかとつい思ってしまいました。 前半こそ手探りするような気分で読んでいましたが、後半になりストーリィが一気に加速すると、圧倒される思いで読了。 主人公の渡辺楓は28歳。訳あって会社を退職し、現在は友人が紹介してくれたカフェでバイト店員。 ある日楓は、知り合いの家具工房で思いがけない相手=中学の同級生であった卯月正雄に再会します。 その卯月は中学2年の時、教室で同級生をナイフで殺害するという事件を起こした少年だった・・・・。 何度も誘われて卯月と会うようになってからの楓は、彼と居ると他の誰といるよりも自分が楽な気分になっていることに気が付きます。 さる事情から中絶手術を受けた楓は、生まれてきた命を殺したという罪の意識を重く抱えています。卯月も殺人という罪を背負ってしまった人間。お互いに何も言わなくていい、という関係がその理由なのか。 そこから、互いに切ない思いを抱える楓と卯月という2人の現在と、卯月が同級生を殺すに至るまでの過去が、並行して語られていきます。 罪を犯すということがどれ程大きなことか。卯月は楓へ、事件の後、何もかもなくなってしまっていた、と語ります。その重さを改めて感じる思いです。 どれ程償っても罪が消える訳ではない。だからといって、罪を犯した少年はずっと全てから身を潜めるようにして生きて行かなければならないのか。 「そんな風に生きるために、法律は卯月くんを許したわけじゃない」という楓の言葉はとても衝撃的です。そしてそれに続く楓の決意に、強く胸を打たれます。 読了後は、楓と卯月のこれからの、険しいでしょうが、ささやかな幸せを祈りたい気持ちになります。 予想を超えた、見事な出来の力作。 是非お薦めです。 |
「タイムマシンでは、行けない明日」 ★☆ |
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2023年02月
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題名にあるとおり、タイムマシンと高校時代の初恋を絡めたSF長編ストーリィ。 主人公の丹羽光二は、宇宙ロケット発射基地のある南の島の高校生。好意を抱いていた同級生=長谷川葵の死のショックを引きずったまま、仙台の大学に進みタイムマシンを研究する研究室に所属している。それは過去に戻り、あの時彼女が口にした言葉の意味を知りたい、そして彼女を死から救いたい、と思い続けているから。 その光二の前にタイムマシンが現れ、彼は過去に跳ぶことができるのですが、思わぬ事態が生じ・・・・。 冒頭から終盤まで、切なさと寂寥感に覆われたストーリィ。 たとえタイムマシンを手に入れたからといって、人間は自分の思うとおりに運命を変えることはできない。むしろ、それに弄ばれてしまう恐れがある、と突きつけられた気がします。 タイムマシンとロマンスといえば梶尾真治さんの専売特許のようなものですが、ロマンスが進展しないというのが梶尾作品との大きな違い。そこに新鮮さも感じます。 ただし、それは主人公に限ってのことであり、彼の周辺ではそれなりにロマンスは成就していきます。 主人公がどう行動したにしろ、時間と運命はそれなりに進んでいく、という象徴のようです。 なお、本書は「ふたつの星とタイムマシン」と表裏関係にある作品。短編集であった同書の幾つかの篇における登場人物が本書に登場し、その背後関係を繋ぐ縦のストーリィになっています。 最後はちょっと唐突な観がありましたが、きれいに本ストーリィが収められる展開へ。 ほっとさせられると共に、清涼感を味わえる幕切れです。 |
「家と庭」 ★★ |
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2020年02月
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居心地の良い下北沢の街、これまた居心地の良い中山家という家族の元で暮らす望とその姉妹たちを描いた家族ストーリィ。 主人公の中山望は現在24歳。大学卒業後きちんと就職せず、マンガ喫茶のバイトを続けている。 父親は海外に単身赴任中とあって、現在は母親、1歳違いの次姉=文乃、高校生の妹=弥生という4人暮らし。そこに長姉=葉子が夫と別居し、娘のメイを連れて中山家に戻ってきます。その結果、男性は望一人、女性5人に囲まれての暮らしという次第。 本作はそこから始まるストーリィです。 居心地の良い場所というのは、果たして本人にとって良いことなのでしょうか。 望は何の疑問も持たずそこに留まって安心している感があり、姉の文乃はそこに逃げ込んでいるという風。それと対照的に妹の弥生は、そんな状況に懸念を感じて大学進学を機に家を出たいと考えている。 本ストーリィでは、中山家の家族だけでなく、その周辺にいる登場人物たちも皆、一人一人の人物像がくっきりしていて読み応えがあります。 中でも注目させられるのは、望と幼馴染で一家全員と親しい関係にあるあまね。彼女もまた望にとって、そこにいて当たり前という都合の良い存在。 居心地の良い場所を隠れ家にしてしまってはいけない、そこから出ていくことも、積極的に居心地の良い場所を作っていくことも必要である、と語るストーリィになっています。 同時に、上記の主旨は別として、中々に楽しめる群像劇ともなっています。その辺り、畑野智美さんは実に巧い。 |
「コンビ Nanbu 5th.season」 ★★ |
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2019年10月
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芸人を目指す若者たちを描いた青春群像劇、“南部芸能事務所”シリーズ第5弾にして完結編。 前作の「オーディション」を勝ち抜いた“ナカノシマ”には仕事が次々と舞い込んできて順調。それと対照的に、大学を卒業した新城や溝口は試練の時を迎えます。 南部芸能事務所の正社員となってマネージャー業に邁進する鹿島は、その能力を南部社長から高く評価されていますが、それはそれで・・・・。 ・「コンビ」:新城拓巳。友人たちは就職して忙しそう。それなのに自分は今一歩、バイトもつまらない。恋人である美沙とも今は会いたくないという心境に・・・。 ・「ラブドール」:津田葵。自分の周りに誰もいなくなったという孤独感・・・。 ・「中間地点」:“ナカノシマ”の中野。仕事は順調、思いもかけない程の収入を得、いつしか傲慢な気分に・・・。 ・「ファンシー」:鹿島梓。溝口への想いを整理して次の段階へ進もうと決意します。 ・「歯車」:元“スパイラル”の長沼。芸人を辞め、実家の農業を継ごうと山梨へ戻ったものの、まだ迷いは消えず・・・。 ・「南部芸能事務所」:南部社長。彼氏と別れた今、思い出すのはかつての相方=溝口(父)のことばかり。 ・「サンパチ」:溝口。胸の中に黒い塊が巣くうことになった原因は、鹿島と疎遠になってしまった所為なのか・・・。 完結編といっても、登場人物たちの物語はまだまだ途中。それでも、大学を卒業する等々、自分に対しても他人に対してもそれなりの責任が生じ、本気で勝負していかなくてはならない踊り場を迎えたと言って良いと思います。 唐突という感もありましたが、青春群像劇としてはここで幕を下ろすべきなのでしょう。 これからも彼らの成長は続く筈ですが、それはもう本ストーリィには描かれない、作品以後の物語。新城や溝口、鹿島や橋本らの成長と幸せを心から祈りたい気持ちです。 コンビ/ラブドール/中間地点/ファンシー/歯車/南部芸能事務所/サンパチ |
「消えない月」 ★★★ |
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2021年02月
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ストーカー小説。 被害者とストーカー、その両方の胸の内を交互に一人称にて描いていく構成。 被害者となるのは、商店街にあるマッサージ店でマッサージ師として働く河口さくら、28歳。 ストーカーとなるのは、その店に足繁く通っていた出版社勤めの松原、31歳。 お互いに好意を感じ合っていた2人は、松原からさくらを誘う形で交際を始め、じきに恋人関係になります。 しかしそこから、2人の間に齟齬が生じ始めます。さくらを自分の思うままに従わせようとする松原、こんな筈じゃなかったと別れを告げたさくら。 その後、松原の行動はどんどんエスカレートしていく・・・。 怖い、・・・本当に怖い。身の内から怖ろしさがこみ上げて来るようです。 どんなに言葉を尽くしても、その意味が伝わらない。それどころか、勝手に自分に都合よく意味を置き換えてしまうのです。言葉が通じない、思考がまるで違った次元にある、といった感じ。 それがどんなに怖ろしいことか。 それは、そうした事態を味わったことのない人には、中々通じないことと思います。しかし、そんな事態が、この長編ストーリィの中にあります。 しかし、世慣れていないさくらは、自分にも悪いところがあると考えてしまうのです。そのどんなにじれったいことか。 そんなさくらにも、真摯に心配してくれる先輩やその知人、そして家族たちがいます。それなのに・・・・。 本ストーリィは、サスペンスやホラー小説より余っ程怖ろしい。ましてそれは、現実にあることなのですから。 被害者、ストーカー、両方の側から一人称で描くというストーリィ構成だからこそ、その怖ろしさが際立って感じられます。 ストーカー犯罪をよくある犯罪のひとつとして捉えては、決してならない、そう思うばかり。 「罪のあとさき」にも圧倒されましたが、本作はそれに勝る力作かつ傑作と言って過言ではありません。 読了後は、虚しさと哀しさが胸の内の襞に纏わりついて、いつまでも消えないような気がします。 |
「シネマコンプレックス」 ★★ |
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2020年10月
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郊外のショッピングセンターにあるシネコン、そのクリスマス・イブの日を舞台にした連作ストーリィ。 足繁く近所のシネコンに映画を見に行く身であるだけに、身近な存在であるシネコンの裏側、スタッフたちの働きぶりを描く本作には、興味だけでなく親近感も覚えます。 ストーリィは、チケットのもぎりや清掃の<フロア>、飲食売店の<ボックス>、グッズ売店の<ストア>、映写担当の<プロジェクション>、事務所の<オフィス>と、それぞれのポジションで働くバイトやフリーター、パートを各篇の主人公に設定しています。そのため、各ポジションでの苦労や求められる能力を知ることができる処に、お仕事小説としての面白さあり。 計9つのスクリーンがあるこのシネコン、正社員は 9人であるのに対し、バイト等は延べ 100人。 バイトやフリーターが多い職場の難しさ、というのも本ストーリィでは大いに感じさせられます。 社員同士であれば上下関係がはっきりするのですが、その点でバイト等の相互関係は難しいし、かえってベテランになる程敬遠されがち、というところがあるのでしょう。 各篇での主人公を別にしても、ストーリィがはっきり異なる訳ではなく、以前として相互に絡み合っているところが本連作ストーリィの良さ。ストーリィの違いというより、視点を変えて同じ進行を眺めるという面白さがそこにはあります。 そしてまた、ベテランスタッフである島田貴実という女性フリーターと、島田と同じくシネコンのオープン時から働いているプルジェクション担当の岡本という2人の関係が、何人かのスタッフからしきりに取り沙汰されていることに注目必須です。 5年前、2人の身に何があったのか。そんなミステリアスな味わいが全篇を通しての興味処になっています。 お仕事小説+輻輳する人間関係+ミステリ風味と、盛り沢山の内容ですが、キレの良さがすっきりした連作ストーリィに仕上げています。 最後の幕切れも、映画のエンディングのように鮮やかで、かつ美しい。 なお、彼氏・彼女がいなくったって、クリスマス・イブに働いていたって良いじゃないですか、ほっとけ、と言いたい。(笑) フロア/コンセッション/ボックス/ストア/オフィス/フロア・新人/プルジェクション |
「大人になったら、」 ★☆ | |
2022年01月
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チェーン店のカフェで副店長である葛城メイ(命)は、現在35歳。高校生の頃から付き合っていた恋人から27歳の時に別れを告げられて以来、8年間も男性との交際歴なし。家を出ていった父親とは音信不通、母親は10年程前に癌で死去しており、孤独な身。 それでもカフェの仕事は好きだし、高校時代からの友人であるみっちゃん、大ちゃんも同じ独身とあって、今でも気軽に会える友達付き合いが続いている。そして、居心地の良い「ストロボ」という行きつけのバーもあり、現在の暮らしに不満はない。 それでも、高齢出産のラインである35歳を迎えた今、このままでよいのだろうかと思うことも多い。とくに友人のみっちゃんは、何としても子供を産みたいと婚活に今も熱心とあって。 地味ですが、自分を安売りせず、自分に誠実に生きている30代の独身女性という人物像から、帚木蓬生「千日紅の恋人」の宗像時子と共通するところを多く感じます。 ちょっとストイックですが生真面目に生きている、そんな2人の女性には好感大。 しかし、同作から10年も経った今、結婚した方が良いのかどうか、今後どう働いていくのか、20代男女とのギャップ等々、メイの迷いははるかに複雑になっている、現代日本社会だからこそ、と感じます。 メイに、果たして新たな恋の芽生えはあるのかどうか。 いずれにせよ、メイにはこれからも自分を大事にして生きていって欲しいと願うばかりです。 登場人物たち、中には少々クセ者もいますが、基本的には善良な人々ばかり。その点も気持ち良いストーリィです。 ※それにしても「普通」という言葉のどんなに厄介なことか。 |
「水槽の中」 ★★ | |
2022年03月
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主人公は私立高校2年生の井上遥。 中学時代は陸上部で活躍していたが、高校では帰宅部。 同じく帰宅部の親友=綿貫茉莉といつもくっちゃべって時間を過ごしている。 そんな遥であっても、憧れの男子上級生はいるし、同じクラスで好きになりかけている相手もいます。 帰宅部ですから、とくに部活動に熱中するということもないし、恋愛感情を燃やしているということもなく、のんべんだらりと時間を過ごしている感じ。 好きになりかけていた相手とのハプニングという一幕はあるものの、とくにドラマティックなことは何も起こらず、ただ時間が過ぎているというのが、遥とマーリンこと茉莉の日常。 特にどうということもない日々。でも、後になって振り返ると、そうした日々も何と貴重で愛おしく、ちょっぴり後悔も混じって思い出されることでしょう。 私も帰宅部に近い高校生活を送っていただけに、遥や茉莉の日常がまるで我が事のように感じられ、愛おしくなってきます。 起伏の少ない、地味なストーリィですが、考古学部の男子同級生であるアルトやバンちゃん、学年一可愛いけれど地味な川西さん、しっかりものの田村さんや瀬戸さんといった女子同級生たちの人物造形も等身大の高校生さながらで、見逃せない魅力あり。 しんみりと高校時代を振り返る気持ちにさせられる逸品。 まさに、私好みの佳作です。 |
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