原田宗典作品のページ


1959年東京都生、早稲田大学第一文学部卒。84年「おまえと暮らせない」にてすばる文学賞佳作を受賞。作家の原田マハ氏は実妹。

  


 

●「小林秀雄先生来る」● ★★




2009年12月
新潮社刊
(1300円+税)

 

2009/01/04

 

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青森県西津軽郡の小さな港町、そこでは同人誌の活動が代々続いていた。
その同人誌 100号を記念して小林秀雄先生を呼び講演会を、と企画したものの、こんな田舎町に来てくれるのやら。
しかし、駅で待つ4人の前に現れた小林秀雄、果たしてその老人は本物なのかどうか。

本喜劇がゴーゴリ「検察官」をヒントにしているのは間違いないことでしょう。
しかし、「検察官」と違って本劇に登場する小林秀雄が本物かどうかは、最後の最後まで判らない。
そのスリルと、フィリッピーナが加わったことから更に混乱が高まった同人誌仲間のゴタゴタが笑えます。
とにかく舞台は文学かぶれの港町。町の名前が「カフカ浦」。同人誌の中心となっている青年4人は、漁師の坂口万五、書店兼雑貨店の小林瀧ニ、国鉄職員の小林一佐、郵便局員の萩原作太郎、フィリッピーナまでマノン・レスコーというのですから、その名前が出てきた冒頭から笑ってしまいます。
それでも終盤、講演の場に引っ張り出された「小林秀雄」氏、堂々と本居宣長の例を引き出し、学問とはどうあるべきものなのか、そしてこの現在でそれはどうなっているのかと語り出すと、思わず襟を正してしまう厳粛な気配あり。

「検察官」の笑いには及ばないまでも、読者を煙に巻く、唖然とさせるという点では「検察官」に優るとも劣らない痛快な喜劇。
喜劇好きな方には是非お薦めしたい快作。

 


  

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