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2.秋月記 3.花や散るらん 4.柚子の花咲く 5.橘花抄 6.蜩ノ記 7.冬姫 8.散り椿 9.千鳥舞う 10.蛍草 |
春風伝、さわらびの譜、緋の天空、鬼神の如く、嵯峨野花譜、玄鳥さりて、影ぞ恋しき |
●「いのちなりけり」● ★☆ |
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2011年02月
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軽格な家臣のしかも部屋住みであった雨宮蔵人は、若くして夫を亡くした名門・天源寺の娘=咲弥の2番目の入り婿に選ばれる。 一人の女性を愛するが為に長い年月を自分の心を探して日々を送った武士の、一念を貫く清々しい姿を描いた長篇時代小説。 下流の技と蔑視される角蔵流柔術と戸田流剣術の名手、それでいて目薬作りとお灸が得意でそれで金銭を稼ぐのが常という、およそ武士からぬ振る舞いを平然としてのける雨宮蔵人。 ※題名の「いのちなりけり」は、蔵人が咲弥の元に送った詠み人知らずの歌の結句。 |
●「秋月記(あきづきき)」● ★☆ |
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2011年12月
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福岡藩の支藩である筑前秋月藩を舞台に、藩政を独断専横する家老たちの、それを糾弾して藩政を刷新しようとする若い藩士らの姿を描いた長篇時代小説。 藩政に専横な振舞いがあったとして藩内に隠然たる影響力をもっていた間(はざま)余楽斎が上意によって幽閉を命じられるところが冒頭。 時に我が儘な面がある藩主を支えて藩政を司るためには、時には悪評をかぶることも避けて通れず、ついには過酷な運命も甘んじて受けざるを得ない、という責任を担う身の厳しさを描いた作品です。 |
●「花や散るらん」● ★☆ |
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2012年10月
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雨宮蔵人・咲弥の夫婦が再登場する「いのちなりけり」の続編。 京に程近い鞍馬の村で穏やかに暮らす蔵人と咲也、娘の香也。 本作品では、その対立の結果として浅野内匠頭による吉良上野介への刃傷事件が発生した、と描いていきます。 ただ、もっと面白くなっていい筈なのに、もうひとつ物足りなさが残るのは何故なのだろう。 |
●「柚子の花咲く」● ★ |
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「桃栗三年、柿八年、柚子は九年で花が咲く」というのが本書題名の出処。 ただ事件の謎を解くというだけでなく、謎だった師の正体が明らかになることを通じて師の掴みとった人生の意義を問い、そしてまた恭平もどういう人生を選び取るか、を問うたストーリィ。 本作品の主題自体、そして本書題名の意味が明らかになる最後の場面は共に十分感動的なものなのですが、主人公、ストーリィとも、キリッとしたところ、切れ味を欠いているのが残念。 |
●「橘花抄」● ★☆ |
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2013年05月
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江戸中期の福岡黒田藩。“第二黒田騒動”とも言うべきお家騒動にて標的とされた、立花重根(しげもと)・峯均(みねひろ)という実在の兄弟が味わった悲運を題材とした長篇歴史小説。 前藩主ながら未だ実権を手放そうとしない父・光之、廃嫡された兄・泰雲、現藩主である弟・綱政という藩主父兄弟三つ巴の争いに、重根と峯均が巻き込まれるというストーリィ。 お家騒動の渦中に巻き込まれた兄弟の過酷な運命、峯均を執拗に追う剣鬼ともいうべき巌流・津田天馬との宿命の対決、卯乃の運命と、ストーリィには引き込まれますし、どう生きるべきかという覚悟に共感するところ大なのですが、どこか綺麗事過ぎるように感じてしまうのが残念。 |
●「蜩ノ記」● ★★☆ 直木賞 |
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思わぬことから親友と城内で刃傷沙汰を起してしまった檀野庄三郎は、切腹を免じられた代わりに、向山村に幽閉中の元郡奉行=戸田秋谷(しゅうこく)の元へ赴くことを命じられます。 その秋谷は、先代藩主の側室と不義密通を犯し、それを秘するため小姓を斬殺した罪を問われ、羽根藩三浦家の家譜編纂と10年後の切腹を命じられた人物。 10年後の死を決められた人間がそれまでをどう生きていくのか、というのが大きなテーマ。 戸田秋谷の人物とその姿は綺麗ごと過ぎるという向きが無い訳ではありませんが、その清廉で真っ直ぐな姿には庄三郎ならずとも、深く胸を打たれざる得ません。 「蜩ノ記」とは、秋谷が家譜編纂の日々を綴った日記のこと。 |
●「冬 姫」● ★☆ |
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2014年11月
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織田信長の次女にして、信長からその才を高く評価された蒲生氏郷の正室となり、激動の戦国時代を生きた冬姫を主人公とした歴史時代長篇小説。 その冬姫、父信長の血を濃く引いて類稀な美貌だったと言われるようですが、それだけでなく性格や考え方も濃く受け継いでいた、というのが本作品の設定。 男たちの闘いの裏側で、女たちにも壮絶な戦いがあった、と描いているところが本作品のミソでしょう。 |
●「散り椿」● ★☆ |
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2014年12月
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18年前に扇野藩を放逐された瓜生新兵衛が、妻の死をきっかけに故郷へ戻ってくる。 「故郷の散り椿をもう一度見たい」と言い、何かを新兵衛に託して死んだ妻の篠。彼女はいったい何を夫に頼んだのか。 新兵衛の帰郷と時を同じくして藩内の権力抗争が激化、新たな犠牲者が生まれます。 かつて同じ道場に通い四天王と並び称された友人たち、そして新兵衛に迷惑面を向ける甥の坂下藤吾も例外ではありません。 新兵衛の帰郷は藩内抗争と何か関係するのか、そこからどんなドラマが繰り広げられるのか。そんな謎も秘めた時代ストーリィ。 葉室麟作品、いつも何となく物足りなく思ってしまうところがあります。鍵は男性の主人公像。「いのちなりけり」の雨宮蔵人同様、自分の歩むべき道より女性を優先するような生き方にどこか女性的なものを感じてしまうからでしょう。 その風貌、性格と別にして、瓜生新兵衛のキャラクターにもそんな印象を受けます。 新兵衛と篠の2人がどう扇野藩に留まった人たちと絡んでいたかを除けば、本作品、単なる藩内抗争を描いた月並みなストーリィと言えなくもありません。 結局は藩内抗争に巻き込まれて命を落とした人々に比して、浪人という身とはいえ18年間を妻と平穏に過ごした新兵衛のどちらが幸せだったか、と問いかける面が本作品にはありますが、武士とはそれだけではないだろう(藤沢周平作品を思い返しつつ)と感じるのです。 なお、愛しさと余韻が残る最終場面は鮮やかで、ちょっと心に留め置いておきたくなる部分です。 |
※映画化 → 「散り椿」
9. | |
●「千鳥舞う」● ★★☆ |
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2015年01月
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女絵師を主人公に据えた時代小説。同じく女絵師の道を生き貫こうとする女性の姿を描いた乙川優三郎さんの名品「冬の標」を思い出し、読んでみたいと思った一冊。 主人公は女絵師の春香こと理緒。かつて江戸から福岡にやってきた絵師=杉岡外記と恋に落ち、結果的に不義密通をしたこととなり師から破門。男は3年後迎えに来るという言葉を残して江戸に去った。そして3年後の今、師の衣笠春崖から許され、豪商=亀屋藤兵衛からの依頼で屏風絵“博多八景”を描くことになったというのが冒頭。 その理緒が八景画を描き進めていく中、ひとつひとつの風景画に絡んで男女の哀切極まりないドラマが連作形式で描かれていく、という趣向の時代小説。 ひとつひとつの男女ドラマに連作短篇の味わいがあり、それと同時に理緒自身が今なお抱える恋心の行方という長篇ストーリィ要素が相まって、深い読み応えのある作品となっています。 悲運の中にもどこか希望はある筈と語るのではなく、どこかに希望があって欲しい、僅かではあっても幸せを掴んでほしいという祈りに似た願いが本作品には籠められていると感じます。 「比翼屏風」はプロローグ、「挙哀女図」がエピローグといったところで、間の8章がそのまま八景図の題となっています。 その品格と孤高に深く惹きつけられる時代小説。お薦めです。 比翼屏風/濡衣夜雨/長橋春潮/箱崎晴嵐/奈多落雁/名島夕照/香椎暮雪/横岳晩鐘/博多帰帆/挙哀女図 |
10. | |
「蛍 草」 ★★ |
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2015年11月
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シリアスな内容の多い葉室作品にしては珍しく、藩内抗争ストーリィではあるものの、軽妙かつユーモアにも満ちた作品。 武士だった父親が刃傷沙汰を起したとして切腹。実家である赤村の庄屋に戻った母親が病死した後、菜々は16歳で勘定方の風早市之進の元に女中奉公に出ます。 妻女の佐知は菜々をまるで妹のように優しく導き、幼い子供たちからも慕われ、菜々にとっては幸せな日々が続いていましたが、やがて風早家に暗雲が立ち込めます。 市之進が無実の罪を着せられ投獄され、残った家族は屋敷からも追い出されてしまう。しかし、そこから菜々の獅子奮迅の活躍が始まります。そして菜々は、市之進を罠にはめたのが、自分にとっても父の仇である轟平九郎と知ります・・・。 自分に託された風早家の子供たち=正助ととよを守ろうとする菜々の行動ぶりが目覚ましく、痛快にして爽快。 とくに、いつしか菜々の応援者となった武士や町人たちへ呼びかける際の、菜々の言い間違えがユーモラス。多分葉室さん、そこにかなり力点を置いてご自身でも楽しんでいたのではないでしょうか。 元気でめげない活力ある女子=菜々のキャラクターが魅力の、時代ものエンターテイメント。 ※主人公の菜々、朝井まかて「ちゃんちゃら」の主人公を男子から女子に変え、武家の世界において活躍させるとこんな感じになるのでは、と勝手に連想してみました。 |