知里幸恵(ちり・ゆきえ)作品のページ


1903〜1922年。北海道登別のコタン出身のアイヌ女性。絶滅の危機に瀕していたアイヌの口承文芸“ユーカラ”を日本語に訳し、ローマ字を使ってその音も記した「アイヌ神謡集」によって、アイヌ伝統文化の復権復活へ重大な転機をもたらしたことで知られる。心臓に持病を持ち、19才で死去。
※2010年秋、登別市に<知里幸恵 銀のしずく記念館>が開館。

 


                    

知里幸恵 アイヌ神謡集  ★★★


アイヌ神謡集

2023年08月
岩波文庫

(720円+税)



2024/03/14



amazon.co.jp

泉ゆたか「ユーカラおとめで初めて知った、知里幸恵が遺した名著。どうせなら読んでみたい、と思った次第です。

まず、知里幸恵が記した
「序」の文章はとても美しい。
そしてその文章からは、アイヌも和人も同じ人間であることに変わりないのだという、私たち和人への呼びかけ、願いが感じられて胸を打たれます。

「民謡」ではなく「神謡」、その理由は、各物語の主人公が様々な神たちだからでしょう。
神が主人公だからといって、それら神たちが完璧だったり強者であったりするとはかぎりません。悪戯や悪さもします。そして、より強い神さまに懲らしめられたり、殺されてしまうこともあるのです。決して穏やかばかりでの話ではありません。
その意味で、本書に登場する神たちはある意味、人間的、いやその姿からは動物的、と言うべきなのかもしれません。
そしてこれらの物語が伝えることは、悪さや悪戯などをしてはいけない、ということ。

神ですらそうなのだと思えば、人間としてはホッとするのかも。
そう思うと、これら物語を伝えてきたアイヌは、愛すべき民たちという思いがこみ上げてきます。
アイヌの伝承文学を文字にし、さらにアイヌ語をローマ字で併記し、きちんとした書籍として世に遺したことは、本当に偉業だと思います。

※「
オキキリムイ」という神が度々登場します。人祖らしい。
 小オキキリムイが登場する2篇も、愛すべき物語です。

序【知里幸恵】/
梟の神の自ら歌った謡「銀の滴降る降るまわりに」/
狐が自ら歌った謡「トワトワト」/
狐が自ら歌った謡「ハイクンテレケ ハイコシテムトリ」/
兎が自ら歌った謡「サンパヤ テレケ」/
谷地の魔神が自ら歌った謡「ハリツ クンナ」/
小狼の神が自ら歌った謡 「ホテナオ」/
梟の神が自ら歌った謡「コンクワ」/
海の神が自ら歌った謡「アトイカ トマトマキ クントテアシ フム フム!」/
蛙が自らを歌った謡「トーロロ ハンロク ハンロク!」/
小オキキリムイが自ら歌った謡「クツニサ クトンクトン」/
小オキキリムイが自ら歌った謡「この砂赤い赤い」/
獺が自ら歌った謡「カッパ レウレウ カッパ」/
沼貝が自ら歌った謡「トヌペカ ランラン」/
知里幸惠さんのこと【金田一京助】/神謡について【知里真志保】/補訂にあたって【中川裕】/解説【中川裕】

       


   

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