朝比奈あすか作品のページ


1976年東京都生、慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務を経て結婚後に渡米。帰国後の2006年群像新人文学賞受賞作を表題作とする「憂鬱なハスビーン」にて作家デビュー。


1.彼女のしあわせ

2.BANG! BANG! BANG!


3.憧れの女の子

4.あの子が欲しい

5.天使はここに

6.自画像

7.少女は花の肌をむく

8.人間タワー

9.みなさんの爆弾

10.人生のピース

 


      

1.

●「彼女のしあわせ」● ★★


彼女のしあわせ画像

2010年05月
光文社刊

(1500円+税)

2013年05月
光文社文庫化



2010/07/17



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女性にとっての生き方も、何が幸せなのかも、人それぞれ。
そう言ってしまえばそこで終わってしまうのですが、本作品はそれを、三姉妹と母親という4人各々の姿から、連作風に描いたところがミソ。
近い関係だからこそ、相手への反発、批判も生々しい。それでいてやはり家族という関係は断ち切れない。

桃井凪子は、姉たちと年の離れた3女で、結婚したばかり。彼女には子供ができないかもしれないという問題があり、トラウマを抱えている。
梅原月子は次女。高校時代には荒れて専業主婦である母親を馬鹿にしたりしていたが、今は地方都市で幼い娘の夏海を抱えて自身もまた専業主婦。しかし、自身のブログの方が第一で、娘のことは第二という、今の暮らしに不満を抱えている状況。
栗林征子は長女、30代後半。有名百貨店で副部長の職にあり、マンションも既に購入、結婚する気は余りないらしい。
佐喜子は3人の母親で専業主婦。娘たちのことを心配すれど、娘たちには言われ放題。定年退職後も相変わらず自分勝手な夫についに腹を立て、家出する。

まさに4通りですが、各々その気持ちは理解できるし、どれをとって是とも非とも言うことはとてもできません。
要は、自分自身が今の生活に満足を、幸せを見出すことができるかどうか、次第なのでしょう。
そう思うと、冒頭凪子が思い出す、中学時の担任があてつけのように言い放ったという、「本当に欲しいものは手に入らない。それが人生なんです」という言葉が印象的。
人生なんて思い通りに行く訳がなく、その中でどうやって幸せを見出すか、ということが鍵なのでしょうから。

各篇とも彼女たちの生き生きとした姿、前向きなストーリィである点が魅力的。
また、今を生きる女性たちが直面し、いろいろと考えるだろう問題、結婚、恋愛、出産・子育て、仕事、介護、定年後の生活等々が余すところなく描いているところが秀逸です。
なお、女性たちの物語の所為か、どうも男性側は肩身が狭い。ただ、本人はサラリーマンで妻は専業あるいは働く主婦という基本パターンも、いずれは女性たちのように様々に変わっていくのではないか、という予感がします。

凪子の空/月子の青/征子の道/佐喜子の家/征子の海/月子ちゃんへ

       

2.

●「BANG! BANG! BANG!」● ★★


BANG!BANG!BANG!画像

2011年10月
講談社刊

(1500円+税)



2011/12/04



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同級生のばんちゃんが転落による事故死を遂げる。
親友と言いつつ実はばんちゃんを弄んでいた主人公は、自分に責任を感じて口を閉ざす。一方、いつまでも口を閉ざしたままの主人公に対し、クラスの裏サイトでは「キモイ」と誹謗中傷が溢れる。
それは自分への罰かもしれないと主人公は思い、自分への誹謗にただ身を任せ続ける。

「BANG! BANG! BANG!」は、友人の死のきっかけを作ってしまった中学生の行き場のない苦しみ、救いを見い出せない姿を描いた中篇小説。
学校で救いを見い出せないばかりか、家庭でも祖父の介護を巡って母親が何かといきり立ち、索漠とした雰囲気。
しかし、思いがけない事実が判った時、主人公にも再生のきっかけが生まれる。

イジメとか、イジメの結果としての悲劇とかについて書かれた作品は幾つもありますが、ここまで自分を責め、壊れそうになっている幼い心を描いた作品となると、そうはないのではないか。
それだけに、読者も主人公と同様に暗く、塞がれた気分になるのですが、それだけに最終場面で明らかになった事実には、救われる気分になります。
どんなことになっても君は一人ではないんだ、ということを知ることができたら、人はどんなに救われることかと思います。
 
「トン骨とジュリアン」は、ばんちゃんの死にやはり関わった女子の10年後、クラブホステスになったを描いた中篇小説。
ひとつの事故がどれだけ長く関係者に影響を及ぼすものか、ということをつくづく感じさせられます。
本篇も、「BANG! BANG! BANG!」に劣らず、力の籠った中篇作品です。

※作品中引用されるライラの冒険は、P・プルマンの児童小説。
 
BANG! BANG! BANG!/トン骨とジュリアン

         

3.

「憧れの女の子」 ★★☆


憧れの女の子画像

2013年02月
双葉社刊

(1400円+税)

2016年03月
双葉文庫化


2013/04/14


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表題作の「憧れの女の子」、てっきり恋した相手の女性のことかと思いきや、さに非ず。2人男の子が続いた故に次は女の子を産みたい、という妻の強い願望を表した題名なのです。
そこからの展開が凄まじいというか、同じ亭主族としてはただただ唖然とするばかり。ただし、妻側の気持ちも判るし、亭主側の唖然とする気持ちもあります。これってどの夫婦にとっても、それが大事かどうかは別として、無視できない普遍的な問題であろうから。
それにしても妻の奮闘ぶりが絶句もの。そしてその結末がまた意表をついて傑作。温かい気持ちに包まれる一篇です。

「ある男女をとりまく風景」、朝比奈さんに見事にしてやられました。感想としてはただその一言。後はもう読んでもらう他ありません。

「弟の婚約者」「リボン」「わたくしたちの境目は」は、家族を含む男女、人と人との微妙な心のズレを描いたストーリィ。
特別な状況にある物語のようでいて、人と人との普遍的な問題を語っている処に、思わず唸りたくなる上手さが光ります。
お薦め!

 
憧れの女の子/ある男女をとりまく風景/弟の婚約者/リボン/わたくしたちの境目は

   

4.

「あの子が欲しい」 ★★


あの子が欲しい画像

2015年01月
講談社刊

(1400円+税)

2017年02月
講談社文庫化



2015/02/13



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就職戦線を学生側ではなく、採用者側から描いた作品。

新興IT企業に勤めるアラフォー女性の
川俣志帆子、昨年大失敗に終わった採用活動を反省した社長によって、採用プロジェクトのリーダーに指名されます。
採用など初体験ながら指名されたからには結果を出さない訳にはいかないと、志帆子の行動はまずプロジェクトチームのメンバー指名から。
この志帆子が根っからのビジネスウーマンであるところに、本ストーリィのミソがあります。およそ必要と思われる手立てを次々と迅速に打って行く。
採用担当者としては適格な行動なのでしょうけれど、何だかなぁと思う部分があるのも事実。
読み終えて第一に感じたことは、こりゃ、応募する学生側・採用する者側双方ともに、相当な消耗戦だなァということ。
とにかくお互いに(本書では採用側が特に)かけひきに終始しているという風。

本書主人公である志帆子の、公私共に余りなビジネスライクぶりには噴飯させられます。同棲中の元部下で小説執筆中の彼氏に向かい、あのセリフはないよなァと。
そんなキャラクターだからシビアな就職戦線にも躊躇なく突っ込んでいけるのだなぁ、と思わぬでもありません。

余分なストーリィの織り込みは抑えられていますので 160頁と長編にしては短めにして、キレ良し。

      

5.

「天使はここに」 ★★☆


天使はここに

2015年04月
朝日新聞出版

(1500円+税)



2015/05/07



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主人公はファミレスチェーンのエンジェル桜野店で契約社員として働く松村真由子。エンジェルでのバイト経験は長く、高校1年の時から初めてもう7年。前店長の桜井は毎年真由子を正社員に推薦してくれていたのですが、情勢が厳しいからか正社員として採用されることはなく、店長交替で入社2年目の十亀が初店長として異動して来た時に補佐させるつもりか、バイトから契約社員に格上げされて今に至る、という状況。
その真由子、今や古典的と言って良いくらいに生真面目で、エンジェル店を愛し、お客さまそして店の運営のことを何よりも大事に考えている女性。そのため人繰りの割りを喰って超過勤務することも度々で、恋人からはブラック企業ではないか、搾取されているのではないかと心配されてしまう程。

思えば私が就職した頃、こうした考え方をする社員は当たり前に居たように思います。しかしその後、経営の効率化とか人件費削減、さらにパート労働者の活用、能力主義・実力主義という名目の元に、地道に会社に尽くしているだけの社員はむしろ評価されないという風潮が広がり、欧米並みに転職してステップアップする方が推奨される推奨されるようになった現在、そうした社員は絶滅危惧種のような存在になったのではないかと思います。本書主人公の真由子は、まさにそうした社員。
とはいえ、真由子に関しては古い木造アパートに一人住まい、TVも持たず、お洒落にも縁遠いといった風で、今時の若い女性像からすると信じられないような地味な生活ぶり。まぁその点は、真由子の生い立ちにも起因するのでしょうけれど。

客、店長、学生バイトたちの間に挟まり、真由子は必要以上に奮闘させられているのが常。それでも決して彼女は明るさを失いません。それはこの仕事が好きだから、客の嬉しそうな表情を見るのが好きだから。
本書は、そんな真由子を主人公とするお仕事&成長ストーリィ。真由子の清冽なキャラクターが何と言っても魅力です。
また、こうした地味な働き方をもっと評価してほしい、真由子のように誠実に働く従業員たちへのエール、と言って良い作品だと思います。お薦め!

       

6.
「自画像」 ★★


自画像

2015年10月
双葉社刊

(1500円+税)

2018年08月
双葉文庫化



2015/11/09



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婚約者らしい相手にしきりと語り続ける女性。
相手を抑えつけるように、一方的に語り続ける展開だけに凄いリアル。そしてその迫力たるや、何をか況や。
しかし、主人公はいったい何について語ろうとしているのか。それが謎であるだけに、どんな処へ行き着くのかまるで見当もつかないという怖さを感じさせられます。

中学生当時、酷い面皰(にきび)に悩んでいた
田畠清子。醜いと指摘され、クラスで最下位の位置に落とされてしまうこと、それが清子の一番恐れることだった。
しかし、清子にとって幸いなことに、同じクラスには清子よりもっと酷い面皰面の女子生徒がいた。それが
蓼沼陽子
クラスの中で自分がどう扱われるか、清子が常に戦々恐々としていたのに対して、陽子はすべて覚悟してしまったのか、いつもたった一人で黙々と学校での時間を過ごしていた・・・。
長々と語られていくのは、美醜によって女子の中学校生活が惨めなものにも楽しいものにも変わってしまう、ということ。
美容整形で美少女になり、男子たちにももてはやされるようになっ
松崎琴美は、清子や陽子とは対照的な存在。

美醜によって女子の運命がどれ程変わってしまうことか。それを左右しているのは、まるで無邪気なお遊びであるかのように笑ってすませてしまう男子生徒や男性教師たちのエゴ、と言うべきなのでしょう。

後半、思いがけない展開へとストーリィは発展していき、田畠清子だけでなく、他の人物も第一人称にて登場しますが、本作品の凄みは田畠清子が語り続けることによって婚約者である相手を一歩一歩追い詰めていく、その迫真さにあると言って過言ではありません。
それに比べると結末はやや平凡のように感じますが、そのお陰で読後感から毒気が一掃されたように思います。

                    

7.
「少女は花の肌をむく ★☆


少女は花の肌をむく

2016年06月
中央公論新社

(1500円+税)



2016/07/12



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10歳、20歳と2つの年代にまたがって描く、少女3人の成長ストーリィ。

小学生の時、
武藤阿佐はクラス内に“親友”を確保し居場所を見つけることに懸命。一方、美少女の春山野々花は、ひとつのことに夢中になると他のことが全く目に入らず、しかも興味対象がころころ変わるといった問題児で、人と群れることにはまるで無関心。また、小木曽咲は、自ら名付けた“オノ病”者で、他人に対して極めて臆病、といった具合。

あぁ、なんと女子の交友関係の複雑にして面倒なことか。イジメやシカトが蔓延る現在においては、男子であっても友人の確保は重要な問題だろうと思いますが、いくらなんでも連れ立ってトイレへ行くためにも友人確保、といったことは男子では考えられませんし。

10歳の時は同級生でも、20歳になるとそれぞれが置かれた状況は様々です。女子大生、アイドル、ショップ店員と。
それでも結果的に未だに友人として繋がっていられる(お互いの良い面と悪い面を各々曝け出しつつ)、それこそ一番大事なことではないか、と思えます。


十歳/二十歳

             

8.

「人間タワー ★★


人間タワー

2017年10月
文芸春秋刊

(1500円+税)



2017/11/11



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組体操、それは運動会の華と言うべきなのでしょうか。その中でも特に注目されるのが“人間ピラミッド”あるいは“人間タワー”と呼ばれる演技。
観応えがありますが、同時に危険性もあると、現在は賛否両論というところでしょうか。

本作は、その人間タワーを題材にした連作ストーリィ。
舞台となる
桜丘小学校は、23年前に旧緑町小学校と合併した時に皆がひとつにまとまる象徴として“桜丘タワー”を演じて以来、同校運動会の伝統として毎年続けてきた、というのが前提。

「天国と地獄」片桐雪子は桜丘小の卒業生。離婚して実家に戻り、息子の貴文の運動会で久々に桜丘タワーを目にします。
「すべてが零れ落ちても」:老人施設に入所している本郷伊佐夫、TVニュースで桜丘タワーを見て称賛しますが・・・。
「珠愛月の決意」:6年生の担任教師である沖田、桜丘タワーの継続に使命感をもって臨むのですが、早くも暗雲・・・。
「月曜日の審判」:前章に続く後半戦。
「熱意と高慢」:6年2組の担任教師=島倉優也が主人公。今風に生徒と接する島倉ですが・・・。
「乗り越える」:監査法人からネットニュース社に転職した高田剛が主人公。実は桜丘小の卒業生だが、悪い思い出。その彼が久しぶりに母校の運動会で見た“桜丘タワー”は・・・。

大勢の人が集まり、人と人が協力して作り上げるのが人間タワーですが、人間社会も人と人が関わり合って築かれるという点で、共通するところがあると感じさせられます。
自分にとってどういう人間タワーが築かれるのかは、結局は自分の意思、姿勢次第ということなのでしょう。
含蓄に満ちた連作ストーリィです。


1.天国と地獄/2.すべてが零れ落ちても/3.珠愛月(じゅえる)の決意/4.月曜日の審判/5.熱意と高慢/6.乗り越える

              

9.
「みなさんの爆弾 ★☆


みなさんの爆弾

2018年04月
中央公論新社

(1550円+税)



2018/05/11



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いずれもクセのある女性たちを主人公にした、6作からなる短篇集。
てんでバラバラなストーリィなのですが、何か共通点はないのかと思ったところで気づいたのは、全員が何らかの小説家、ということ。
そして、新人作家からベテラン作家までと、徐々に小説家としてのキャリアが多い作家へと並べられているらしい。

6篇の中で私として楽しかったのは、「初恋」「官能小説家の一日」「戦うなと彼らは言った」の3篇。
甘酸っぱい初恋ストーリィ、コミカルな母子物語、イジメからの立ち直りと、前向きな気持ちになれるもの。それと対照的に、不気味で暗いストーリィは、どうもねぇ。

「初恋」:中学生の主人公、後に恋愛?小説家。
「譲治のために」:一応小説家。出版は2作のみ。
「メアリーとセッツ」:自称、実験的小説家。
「官能小説家の一日」:シングルマザーの官能小説家。
「世界裏」:ホラー作家、作家歴は25年。
「戦うなと彼らは言った」:ファンタジー作家。

初恋/譲治のために/メアリーとセッツ/官能小説家の一日/世界裏/戦うなと彼らは言った

              

10.
「人生のピース ★★


人生のピース

2018年11月
双葉社刊

(1500円+税)



2018/12/19



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30代半ばに至った、学生時代からの親友同士である女子3人の、揺れ動く心・行動を描いた長篇。

3人恒例の<朝活>で、男性にまるで縁がなかったはずの
水上礼香から突然、見合いして結婚が決まったと報告を受ければ、そりゃあ他の2人は慌てますよね。
主人公の
大林潤子は再び結婚相談所に予約を申し込み、ダメ男との腐れ縁でずっと同居生活を続けていた児島みさ緒はついに男との別れを決断する。
さあ、それから2人の婚活が慌ただしく繰り広げられる・・・といった簡単なストーリィにはなりません。

どんな相手なら結婚しても良いのか、ただ結婚すれば万々歳なのか、仕事はどうするのか、自分の自由は・・・。
それでも潤子は婚活を続けていきますが、心が傷つけられるばかり、のようです。
そんな潤子がSOSを発信すれば、残る2人がすぐ反応し、今にも駆けつけんばかりの姿勢を示します。
これほどの親友がいるなら、もう無理に結婚などしなくても十分幸せではないのか。それなのに何故、結婚しなくてはならないと思い込むのか・・・。

いろいろな展開があって、最後はそれぞれ予想もしなかった結末に至るのですが、それは失敗、成功という問題ではない筈。
3人がそれぞれに、ひとつ吹っ切れて、一段階上へあがった、という印象です。
本ストーリィは女性たちが主役ですが、男性たちだって同じことが言える筈。幸せとは何なのか。それぞれの人なりの幸せの姿があって良いのではないか、と思います。

ともあれ、本書に登場する女性3人に、幸あれ!
どんな結末であろうと、自分の人生を輝かせたいと思ってのことであれば、間違いないと信じて良いのではないでしょうか。


1.友達と同じ人生は歩めない/2.恋愛時代の終焉はいつ/3.落としやすすぎる城に返事はこない/4.彼女の架空アカウント/5.何もかも既視感がありすぎて/6.慎ましい捕食者/7.「それなりの幸せ」が無限に遠い/8.友達の人生を、わたしは知らない/9.プライドを処分できたら/10.人生のピース

     


   

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