荒木 源作品のページ


1964年京都府生、東京大学文学部仏文科卒。朝日新聞社社会部勤務等を経て03年「骨ん中」にて作家デビュー。


1.
ふしぎの国の安兵衛(文庫改題:ちょんまげぷりん)

2.
人質オペラ

  


 

1.

「ふしぎの国の安兵衛」 ★☆
 
(文庫改題:ちょんまげぷりん)


ふしぎの国の安兵衛

2006年09月
小学館刊

(1200円+税)

2012年12月
小学館文庫化


2006/11/08


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江戸時代の武士がひょっこり現代社会に現れたというタイムスリップ・ストーリィ。

侍が現代社会にやってきた話となれば思い出すのは原田康子「満月。でも本書は原田作品とは異なる、軽妙なユーモア感溢れるホームドラマ的ストーリィです。
たまたま梶尾真治「つばき、時跳びとタイムスリップものを続けて読むこととなりましたが、ロマンスとホームドラマという違いがありますから全く気にならず。

街中で途方に暮れた様子をしている奇妙な恰好の男を拾うこととなったのは、離婚してシングルマザーとなった遊佐ひろ子友也の母子。
衣食住を世話になっている恩返しにと、SEの仕事で手が回らないひろ子に代わって家事を引受けた木島安兵衛でしたが、これが思わぬ拾い物、というのが本書の楽しいところ。
家事をなんとかこなすどころか、友也のしつけも料理も見事にこなし、さらにケーキ作りにまで才能を発揮し出すというのですから笑ってしまいます。そこからストーリィは次々と思わぬ展開を繰り広げていきます。
理屈ぬきにハートウォーミングな物語、とても気持ち良く楽しい気分に浸れるところが本書の魅力です。

※なお、子育てについ手抜きしている現代の父親(私を含む)、母親にはちょっと耳の痛い部分もあります。

       

2.

「人質オペラ ★★


人質オペラ

2017年05月
講談社刊

(1550円+税)



2017/06/21



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シリアで日本人2人がイスラム過激派組織IHOに人質にされ、身代金の要求が行われる。
その時、日本政府はどう対応するのか、という極めてリアルなストーリィ。

本作は、人質をどうしたら救えるか、というようなアクション活劇風のストーリィにはなりません。
矢面に立つことになった政府、具体的には内閣総理大臣を支える官房長官の
安井聡美にあっては、現政権に対する国民の支持を失わないためには、どう事件を抑え込めばいいか、対応状況につき批判を受けないためにはどう姿勢を取り繕えばいいかが全て。
そこでは人質の生命保護、救出など二の次に過ぎません。

国際的な大事件の舞台裏で繰り広げられる、(不謹慎とは思いますが)何やら滑稽なドタバタ劇を見させられた気分です。

一人目の人質は、NGO活動をしていた若い女性。それだけならこの政権は体裁さえ取り繕えれば簡単に見殺しにしたのでしょうけれど、二人目の人質が現職外務大臣の長男だったことから問題は一気に拡張、いろいろな問題を引き起こすことになります。

政治家とは、票のため以外には動かないもの・・・何やら真実を言い当てているドラマを見ているようで、滑稽でもあり、情けなくもあり。
それにしても、
平谷総理を始め、登場する男性たちが概ね単純、お調子者のきらいがあるのに対し、安井官房長官を始めとする女性たちの何と冷静沈着だったり、強かだったり、横暴だったりすることか。
ある意味で、これはひとつの群像劇だった、と感じます。

1.人質/2.二人目/3.転進/4.混乱/5.噴出/6.戦場/7.桜の木の下で

   


  

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