青山七恵作品のページ No.2



11.

12.ハッチとマーロウ

13.踊る星座

14.私の家

15.はぐれんぼう 

16.前の家族 

【作家歴】、ひとり日和、やさしいため息、かけら、魔法使いクラブ、お別れの音、わたしの彼氏、あかりの湖畔、花嫁、すみれ、快楽

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11.

「 風 」 ★★


風画像

2014年05月
河出書房新社
(1400円+税)

2017年04月
河出文庫化


2014/07/03


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面白いことに表紙と裏表紙を開けた見返しに、「予感」という題名の僅か4頁の掌篇。
そして
「ダンス」は、子供の頃から踊るということができない一人の女性を描いた小品。

「二人の場合」は、大手肌着メーカーに同期で入社した2人の女性の15年に亘る付き合いを描いた中篇。
お互いに落ちこぼれの営業職、好みの傾向が似ていて、他の女性たちと相容れないところもそっくり。お互いがいれば十分というくらいの仲でしたが、片方の結婚を境に2人の関係は変わっていく。
あれだけ密接だった2人なのに何故?と思うのですが、一呼吸置いて眺めて見れば、当たり前過ぎるくらいにごく普通のこと。その意味では、一見特殊な関係に見えて、極めて普遍的なストーリィではないかと思う次第です。

表題作の
「風」は、父親からの遺産とその残してくれた家で暮らす共に独身、五十代の姉妹を描いた篇。
お互い離れられないくせに罵り合うといった、グロテスクな可笑しさを振りまく二人ですが、決して他人事ではないといった切実感を感じます。結婚せず子供もなく年取っていくという人生は、もう稀ではないのが現代日本なのですから。


ダンス/二人の場合/風 *予感

           

12.

「ハッチとマーロウ Hutch & Marlow ★★


ハッチとマーロウ

2017年05月
小学館刊

(1700円+税)

2020年04月
小学館文庫



2017/06/13



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双子の女の子、小学5〜6年生のハッチとマーロウの視点に立って描いた、日常、そして家族の物語。

ハッチマーロウ(本名:千春と鞠絵)の母親は小説家。気まぐれなところもあるシングルマザー、あちこち転居し、現在は長野県の穂高で3人暮らし。
2人の誕生日、母親がいきなり宣言します。
「今日でママは大人を卒業します」「今日からふたりは子どもを卒業、子どもを卒業して大人になります」と。
とはいっても、急に小学生が大人の女性になる訳もなく、その言葉の意味は、これからは自分で考えて、自分で責任をもって行動して、ということなのでしょう。
そうした伏線があって、女の子2人の積極的な視点、行動、そして先走った思い込みがストーリィを賑わす、という次第。

何となく捉えがたい、フワフワした印象を受ける作品。
まぁ小学生の女の子2人が主人公なのですから、私から見てフワフワした感じを受けるのもやむを得ないことだろうと思います。

2人のやり取り、感じ方、思い・行動ぶりが可愛らしく、そして面白く、それなりに楽しんで読みました。

双子だから何でも助け合える、一人になることがない、というのは、2人にとっては強力な武器ですね。


1月:わたしたちが大人になった日のこと/2月:やみくもさんとれいこちゃんとチョコレートについての日のこと/3月:個性をつくってみた日のこと/4月:ふうがわりな転入生のこと/5月:家出人と山菜狩りをした日のこと/6月:ゆうれいたちの顔を見た日のこと/7月:東京でバカンスした日のこと/9月:男の子の気持ちになってみた日のこと/10月:森の家にたくさんお客さんが来た日のこと/12月:ママが行方不明になった日のこと/12月:わたしたちがいちばん海の近くにいた日のこと

                

13.

「踊る星座 ★☆


踊る星座

2017年10月
中央公論新社

(1500円+税)

2020年07月
中公文庫



2017/10/29



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「ここからいますぐ逃げ出したい−−ダンス用品会社のセールスレディが、疲労と珍事件にまみれて今日を駆け抜ける! 働きすぎてしまう人の心にそっと寄りそう、汗と笑いのお仕事小説」というのが出版社の紹介文。

特に気に留めずに読み始めたのですが、仕事先で仕事とは関係ないゴタゴタに巻き込まれたり、居眠りや酔っぱらっての妄想?といった展開まであり、ええーっお仕事小説なのに!?と頭を翻弄された思い。

しかし、読み終わってからもう一度上記紹介文の読むと、あぁそういうことだったのかと得心出来ました。

仕事、仕事に追われていると、その疲労の故にいろいろな珍事件に遭遇するかもしれない。でもそれは、それだけ心身共に仕事に疲れているということではないか。

コミカルで元気を取り戻すことができるような一般的な“お仕事小説”ではなく、仕事に疲れ果てた末に正常意識を失うことのないよう警告する“お仕事小説”であったか、と思う次第。

いやー、読んでいる最中困惑してばかりでした。(笑)

1.ちゃぼ/2.煙幕/3.スーパースター/4.恋愛虫/5.わたしの家族/6.ハトロール/7.あなたの人格/8.妖精たち/9.テルオとルイーズ/10.お姉ちゃんがんばれ/11.奥さんの漂流時代/12.ジャスミン/13.いつまでもだよ

                  

14.
「私の家 ★★


私の家

2019年10月
集英社

(1750円+税)

2022年12月
集英社文庫



2020/01/19



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49日法要を振り出しに、一周忌法要まで、3世代に亘り“家族”につき一人一人の思いを描いた連作風ストーリィ。

男と別れ実家に戻ってきた次女=
、何かと騒がしい性格の母親=祥子、未婚のまま一人暮らしの大叔母=道世、ずっと行方知れずになっている伯父=博和、既婚・娘一人の長女=灯里、押しつけがましい言動の多い母親の陰で無口な父親=滋彦と。

こうして一人一人から、家族、そしてその対比における自分に関する思いを聞くと、家族って何だろう?と思います。

戻るべき場所か、戻ることのできる場所か、あるいはいずれ遠ざかってしまう場所か。
建物としての“家”か、家族という意味での“家”か。一体とも言えるし、違うともいえる気がします。

私にとって“家”とは何かと言えば、実家はかつて自分の“家”であり、家族を持ってからは“かつての家”であり、今の家は自分と家族がいるところ。
そして、自分が戻るべき場所であり、寛げる場所であって欲しいと思う場所、ということかなと思います。

その点、梓は中途半端というか、まだ旅の途中、母親の祥子に関して言えば自分がいる処、というところではないかな。
しかしまぁ、自分の存在をいつも主張し続けているような祥子の性格は、育った時の環境の影響もあるかもしれませんけど、私などからすると距離を置いておきたい家族、と思います。


※一番安定している観があるのは、道世と博和か。

         

15.
「はぐれんぼう ★★


はぐれんぼう

2022年09月
講談社

(1900円+税)



2022/10/17



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久しぶりの青山七恵作品読書です。

本作、なんとなく奇妙な物語です。
チェーン店<
あさりクリーニング>の芋山六丁目店に勤める平凡な女性=優子が主人公。
依頼主が長く引き取りに来ない衣服、本社工場に保管されていた筈なのに、ある時から店に戻されるようになります。
先輩の
馬宵(まよい)さん、それらをこっそり捨ててきてと、優子に無理矢理持ち帰らせます。
翌朝優子が目覚めると、それらの衣服を全部纏っていて、各洋服に導かれるようにして持ち主の元へ向かうことになります。

さて、一体何が起こったのか。
そして優子は、自分と同じようにちぐはぐに色々な服を纏っており、他店に勤めているという
ユザという男性に出会い、徒歩で工場を目指すことになるのですが・・・・。

優子という平凡な女性を主人公とした、何とも奇妙な冒険譚。
前半の
「出発」は工場へ至るまで。
途中、
キヨ、タロー&アンヌ老夫婦とも道づれになります。

後半の
「倉庫」は、彼らがそこに行き着いてから。しかし、そこは以外にも極めて居心地の良い場所で・・・。

何処へ辿り着くのか分からないという珍妙さが前半の面白さ。
しかし、後半はというと、この閉鎖された居心地の良さは、もしかすると老人施設のようなものではないか、と思えてきます。

さて、最後どういう結末が待っているかは、読んでのお楽しみ。本作はやはり、優子の奇妙な冒険譚なのです。そこには、何とも言えない面白さがあります。


1.出発/2.倉庫

               

16.
「前の家族 ★★


前の家族

2023年07月
小学館

(1800円+税)



2023/08/11



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特にこれといった心の備えもないままに読み始めた本ストーリィでしたが、後半になって、本当に恐ろしくなり、その怖さに思わず震え上がりました。
これはもう、現代的日常生活ホラー、と言って過言ではないと思います。

主人公の
猪瀬藍は、小説家で大学で講座も持っているという、30代後半の独身女性。
6年ほど物件探しをしてきたところで、ついに好中古物件を見つけ、即ローンを組んでの購入を決断します。

築12年ながらゆとりある2LDK、南西角部屋とあって満足。
ところが、引っ越し後、前の所有者である
小林一家の幼い娘=ありさ(9歳)・まり(5歳)の姉妹2人が足繁くやってくるようになります。
やむを得ず部屋に招き入れた処、それ以降2人が藍の部屋を上がり込むということが常態化。
さらに母親の
杏奈までやってきて、藍を自宅に招待。
これもお付き合いの一環かと思って訪ねれば、まるで家族の一員のように扱われ、さらにお泊りまで勧められるに至る・・・。

まるで小林一家に取り込まれていくような藍の様子に、じれったさが抑えきれず。
自分の仕事に影響が生じているのですから、断ってきちんと境界を設ければ良いのにと思うのですが藍、ずぶずぶと。

さらにいろいろ問題ごとが起こり、藍はもうノイローゼ気味。
その後の急展開は・・・実に恐ろしい。

現代的な日常生活の中で起きることだけに、他人の身勝手さ、それに巻き込まれる怖さは、本当に凄い!
夏の怪談話を聞く代わりに、是非この恐怖感をご体験あれ!

※私も自宅マンションは2度経験していますが、2回とも新築マンションでしたし、売却したマンションに懐かしさはあっても購入者家族と交流しようとは思いもしませんね。


1.引っ越すまで/2.訪問者/3.猫の勉強会/4.逃げる家/5.団欒の体験/6.帰郷/7.べつの生きもの/8.SOS/9.しあわせのうた/10.心の鍵/11.西日のなかで

       

青山七恵作品のページ No.1

      


   

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