安藤祐介作品のページ


1977年生、福岡県出身、早稲田大学政治経済学部卒。IT企業などを経て、現在公務員。2007年「被取締役新入社員」にてTBS・講談社第一回ドラマ原作大賞を受賞。


1.
被取締役新入社員

2.1000ヘクトパスカルの主人公

3.おい!山田(文庫改題:大翔製菓広報宣伝部 おい!山田)

  


    

1.

●「被取締役新入社員(とりしまられやく)」●      ドラマ原作大賞


被取締役新入社員画像

2008年03月
講談社刊

(1429円+税)

2013年04月
講談社文庫化

    

2008/04/08

 

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「被取締役」と書いて「とりしまられやく」と読むらしい。
本書は、TBS・講談社主催の第1回「ドラマ原作大賞」の受賞作。TVでも先日放映されたばかりのところです。

主人公の鈴木信男は小学生の頃から何をやっても駄目、働きに出ても何一つ満足にできず、唯一続けられる仕事は段ボール箱の組立だけという、これ以上ないというくらいの駄目な男なのです、彼は。
そんな主人公がなぜ一流の大企業に中途採用されたかというと、その会社の秘密プロジェクト「ひとりいじめられっこ対策」に格好の人材として認められたから。
即ち、社内でダメ男ぶりを発揮して、他の社員からの罵詈雑言を一手に引き受け、エリート社員のストレス解消に貢献する、というのがその役目。したがって社内での名前は「羽ケ口信男」と決められる。
その代わり定例給与20万円の他に3千万円の役員報酬という厚待遇。それにしてもなぁ・・・、そう簡単に勤まる役回りじゃないですよ、これは。
全く以って、何てとんでもない発想をするものだと呆れてしまうくらいです。

そんな一人ダメ男がいるお陰で、部内のチームワークは何故か良くなり、皆の志気が上がって業績もうなぎ登り。社長と人事担当役員の奇策が成功したと喜んだのも束の間、事態は思わぬ方向へと転がっていきます。
しかしなぁ・・・(主人公にとって)良い方向へ転がっていってしまうと、何故か面白さは月並みとなり、ありきたりなストーリィになってしまう観あり。
ちょっとした気持ちの持ち方次第で職場の人間関係はコロリと変わってしまい得るもの、という点をユーモラスに描いたところは評価しますけれど、ストーリィ自体は相当にマンガチック。
小説としては粗さが目立ちますが、毒気の不要なTVドラマなら抜群に面白いストーリィになるのかもしれません。

※ふとフィンダー「侵入社員を思い出しました。片やサスペンス、片や本書は心温まるユーモア小説という違いがありますが、私としては「侵入社員」の方が歯応えがあって、面白かったように思います。

             

2.

●「1000ヘクトパスカルの主人公」● ★★


1000ヘクトパスカルの主人公画像

2011年07月
講談社刊

(1300円+税)

  

2011/09/02

  

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空を眺めるのは好きです、昔から。
本ストーリィの主人公、そして彼に大きなきっかけを与えてくれた女の子も、空を眺めるのが大好きという大学生。

人から言われるまま漫然と生きてきた
城山義元。空をぼぉっと眺めていた義元に話しかけてきたのは、羽村友恵
空が好きで高一の時には早や気象予報士の資格を取り、将来は気象庁に入るのが夢だと語る友恵。それに対し義元はというと、サークルの仲間らが年中アパートにたむろし、のんべんだらりと過ごしている、何の目標も持たない男子学生。
そんな義元が、友恵との出会いをきっかけにして、とりあえず何かに一生懸命取り組み、また歌唄いの老婆
マリーや赤ん坊を抱える主婦のと知り合うことによって、少しずつ変わっていくという青春小説です。

ただ、義元の身に決定的な変化をもたらすのは就活戦線であるというところが現代的。誰しも疑問を持たざるを得ない現代の就活ですけれど、そこに疑問を感じて別の道を選び取ることを決心するに至るのは、義元が素直な青年だからこそと思います。
読み終わってみれば、義元と友恵、自堕落に見えた義元とサークル仲間、マリーや静らとの関わりが、それぞれ愛おしく胸に残ります。どれもこれも無駄なものは少しもなかった、という述懐がとても気持ち良い青春ストーリィ。
また、歌唄いのマリーとその娘の、対立と和解を描いた部分も魅力に富んでいます。
人それぞれどんな道を選ぼうと、夢や希望をもって進んでいけば、いつか大切なものを手に入れることが出来るのかもしれない。読了後の余韻はとても爽やかです。


1000ヘクトパスカルとは、言うなれば地表から上空8万メートルまで積み重なった空気の重さ、つまり“空の重さ”だと言う。
※作者は異なりますが、羽村友恵、
あさのあつこ「えりなの青い空のえりなが成長するとこんな女の子になるのでは。

        

3.

「おい!山田」 ★★
 (文庫改題:大翔製菓広報宣伝部 おい!山田)


おい!山田画像

2014年02月
講談社刊
(1400円+税)

2015年02月
講談社文庫化

  

2014/03/16

  

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世間はすっかり“ゆるキャラ”ブームですが、ゆるキャラブームに乗り遅れすっかり焦った経営陣から、「金出さず、人出さず、成果出せ」と言われた広報宣伝部長の琴平、窮余の一策として考え付いたのが、一社員をゆるキャラにすること。
そのゆるキャラ社員に指名されたのが、山田さん、29歳。大阪の物流部から広報宣伝部に異動させられ、さっそく
「ゆるキャラ、山田です」となりますが、さてその成果は・・・・。

ユニークなお仕事小説という印象ですが、あにはからんや、結構まっすぐなストーリィ。
原型は
源氏鶏太のサラリーマン小説にあるのではないかなぁと思います。保守的で自分の立ち場ばかり気にする役員・部長陣に対して、若手社員らが一気団結して会社の為に邁進する、というストーリィです、要は。
単純に主人公=
山田助(たすく)、という訳ではありません。
その時々でゆるキャラ“山田”のプロデュースを命じられた
水嶋里美だったり、山田本人であったり、またまた他の人物であったりと、第一人称で語る主人公役は随時変わります。おっと、今の主人公は誰?と戸惑うところもありますが、それもまた面白味かも。
源氏鶏太「青年の椅子」辺りと比較すると、当時は女性社員が主人公を支えるという立場でしたけれど、そこは現代らしく女性社員も山田さんと一緒に戦う“戦友”という立場にグレードアップしています。

四の五の言う前にまず行動、最大の敵は会社に巣食うセクショナリズム、という本書中の言葉は、あらゆる会社に共通する真理でしょう。もちろん、私の職場でも常日頃感じる問題です。
会社の為に真面目に働く一般社員たちの姿を捉えたサラリーマンン小説、面白く、楽しく読めること請け合いです。


1.ゆるキャラ山田、はじめました/2.フルスイング/3.ぼくたちにできること/4.ビジネスライク、ひゅーまんらいく/5.倒せ、永遠の敵を/6.絵に描いた餅に思いは宿る/7.戦友/8.ぼくらは社畜ではない/9.ゆるキャラ山田、再び/10.ハッピーバレンタインデー?/11.ブラックホワイトデー

     


  

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