バッジ・ウィルソン作品のページ


Budge Wilson  カナダ・ノヴァスコシア出身。ダルハウジー大学、トロント大学に学び、カナダ子供の本出版センターの最高賞をはじめ、ダートマス市図書賞、カナダ図書館協会ヤングアダルト賞など数々の賞を受賞。文化功労者としてハリファックス市長賞を受賞するほか、カナダ勲功章を受勲。

 


 

●「こんにちはアン」● ★★★
 原題:"BEFORE GREEN GABLES"      訳:宇佐川晶子




2008年発表

2008年07月
新潮文庫刊
上下
(各590円+税)



2008/07/22



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本書は赤毛のアン出版百周年の企画として、モンゴメリの子孫から委託を受け、地元ノヴァスコシア出身の小説家ウィルソンが創作した、グリーンゲイブルスに来る前のアン・シャーリーの物語。

原作の後日談物語は多いけれど、それ以前の物語というのは珍しい。しかし、原作より以前の段階において幼い少女アンには既に波乱万丈の物語の在ったことが、原作の中でアンの口からマシューとマリラに語られています。本書はアンから詳しく語り尽くされなかったその頃の物語。
読み始めた最初は、あのアンの生き生きとして突拍子もない珍騒動ぶりがなく原作に比べるとやはりつまらないなぁと思ったのですが、読み進んで行くとさにあらず。
どんな辛い目にあっても挫けず、想像力を発揮して自分を慰め、そして勉強への向学心を燃やして止まない、やっぱりこれはあの“アン・シャーリー”の物語。
そしてまた同時に、モンゴメリの書いた「アン」ではなく、みなし子という境遇に負けず奮闘する、もうひとつのアンの物語。

お互いに教師であり、愛し合うシャーリー夫婦の間に生まれながら、生後僅か3ヶ月で両親が熱病にかかって亡くなり、みなし子となったアン。
引き取られたトマス家では家事手伝いに追われ、その後引き取られたハモンド家では3組の双子+2人の世話に明け暮れる。
幼い少女ながらアンは何と苦労をしていることか。それなのに、あの楽天的で勉強好き、そしてひたむきなアンの性格はどうやって歪められずに育ったのか。
アンの仰々しい言葉遣いと、詩を愛する気持ちがどうやって身に付いたのか。その謎も本書は明らかにしてくれます。

本物語の最後で、アンは憧れのプリンス・エドワード島に渡り、マシューの待つブライトリバーの駅に降り立ちます。
読み手はきっとそれから後のアンの幸福を願わずにはいられないでしょう。
そしてまた、そこから始まる「赤毛のアン」の物語を再読したくなるに違いありません。以前よりもっとアン・シャーリーという少女の身の上を愛おしく感じながら。

         


 

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