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Weike Wang  中国、南京生。5歳の時に両親と共にオーストラリアへ移住。カナダを経由して11歳で渡米。ハーバード大学で化学と英文学を専攻、公衆衛生学の博士号を取得。ボストン大学の美術修士号を取得するために書いた小説「ケミストリー」にて注目を浴び、2018年ホワイティング賞・PEN/ヘミングウェイ賞を受賞。19年「OMAKASE」にてO・ヘンリー賞を受賞。

 


             

「ケミストリー」 ★★
 原題:"Chemistry" 
    訳:小竹由美子


ケミストリー

2017年発表

2019年09月
新潮社

(2400円+税)



2019/10/30



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米国の学歴社会で奮闘する中国系移民リケジョのこじれた思いを描く、等身大の物語。

主人公は幼い頃に両親に連れられて中国から米国に移住。
現在は、ボストンにある大学の大学院で化学の博士課程に在学、同じ研究室で出会った、理想的な恋人エリックと数年同棲中という状況。
極めて順調に思えますが、貧困家庭の出身で苦労して米国社会で今の生活を築き上げた父親からの<成功しろ>というプレッシャーは大きいし、元々インテリ系家族の出身である母親からは<成功してこそ自分の娘>というプレッシャーも大きい。
それなのに、博士課程からはドロップアウト寸前、博士号を取得して仕事も決まったエリックからは結婚の申し込みをうけているが、回答を保留し続けている、という状況。

中国移民の家族というと如何にもありそうな話に思えますが、決して中国人家族の特有の問題ではない、と言う。
親が子供に過剰な期待をかける、自分たちはここまで出来たのだから子供であるお前はもっと出来て当たり前、目指すべきだ、という押しつけは日本だってないとは言えないことでしょう。

ただ、本作の主人公については、悩み多かれど素直に恋人の胸に飛び込んでいけないのは、親からのプレッシャーと同時に、年中激しく喧嘩してばかりいる両親の姿を目にしているからのようです。

高学歴、でもこじれた思いを抱え込んでにっちもさっちもいかなくなっている、現代女性の等身大の物語として受け止めた方がよさそうです。
その悩みに悩む様子は、可愛らしくさえ思えてきます。主人公だけでなく、あちこちにこうした女性たちがいるのではないでしょうか。
文章は、リケジョらしく、分析的で明快なところが特徴。
若々しく清新さを感じる作品です。

    



新潮クレスト・ブックス

  

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