第二次大戦、英国植民地時代のインドを舞台にした、新しい時代への息吹を感じさせる少女ヴィドヤの、愛と成長の物語。
“図書室”に惹かれて読み始めた作品ですが、読み始めの冒頭に何を感じたかというと、バーネットの名作「小公女」に似た部分のこと。
ボンベイで開業医である父親の元、裕福な家庭に育った少女ヴィドヤが主人公。独立運動デモに巻き込まれた父親が頭に大けがをしたため、一家はマドラスに住む祖父・伯父の元に身を寄せることになります。
開明的な思想の持ち主だった父親と対照的に、伯父夫婦は旧弊、保守的。おかげで兄キッタと父親は2階、ヴィドヤと母親は1階という分かたれての暮らし、そのうえヴィドヤと母親は召使のごとく伯母にこき使われる日々。
その中でヴィドヤが自分を見失わずに生きる力を得ることができたのは、図書室に出入りし、本を読むことができたおかげ。
冷たい邸の中で、図書室からヴィドヤの新たな生活が生まれた、と言ってよいストーリィです。
家長が専制的な権力を振るう家族制度、女性を男性より劣る存在と位置づけ賤しめる風習、そしてカースト制度、その驚くべき徹底ぶりは面白くさえあります。
ヴィドヤは賢明で、はっきりとした自分の意思を持つことができる少女。そんな彼女の眼を通してこそ、それら風習がインドの抱える課題として鮮やかに浮かび上がります。
ヴィドヤは図書室で、開明的な考え方の持ち主である青年と愛を育んでいきますが、その彼にしても女性を下に見る姿勢から中々逃れ得ない。
ヴィドヤが鋭く指摘することに、目を白黒させながらも善良に同意していく場面、面白さと同時に、これからのインド社会を作り変えていくだろう若い世代への期待を大きく抱かせてくれます。
原題は「階段をのぼって」。 若い方に是非お薦めしたい、インド社会の少女成長物語です。
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