映画「スラムドッグ$ミリオネア」の原作だからという理由で読書。
刊行当時話題になっていたであろうに、読まずにいたのは不明のかぎりと恥じる思いがします、そんな傑作。
クイズ番組が舞台となり、何故彼が正解を出し続けることができたのかという疑問に答える形で、主人公ラム・ムハンマド・トーマスという青年のこれまでの人生が、そしてまた繁栄するインド社会の裏の部分が描き出されるという趣向は、もちろん映画と同じ。
ただし、ストーリィの中味はかなり異なります。青年ラムの聞き手となるのは、刑事ではなく、ラムを警察から救い出した女性弁護士。映画でヒロインとなったラティカという少女は登場しません。
映画は観たときから、ストーリィ運びが整い過ぎていると感じていました。それはストーリィとクイズの進行を合わせざるを得ないため仕方ないことだったのだろうと思います。
原作はその点が自由で、各章の時間は前後します。そして、訥々と主人公が語っていくという趣向は、映画より原作の方がずっと味わい深い。
そして、ストーリィとしての面白さ、各章で描かれる人間ドラマの多彩さ、深さは、まさに圧巻。
本書では、富があるからといって必ずしも幸せとは限りません。人気俳優のアマーン・アリがそうですし、最も象徴的な例として元有名女優のニーリマ・クマーリのことが挙げられます。
彼らに比較すると、どんな苛酷な目にあっても自分を見失わず、機転をもって乗り越えてきた主人公ラムの方が、余っ程逞しく、前向きです。そんな主人公の姿に本書の価値、素晴らしさがあります。
なお、ラムとニータの恋愛関係には胸打たれますし、女性弁護士スミタ・シャーの正体、ラムが意思を決める手段として大事にしていた1ルピー硬貨の秘密等々、最後はあっと言わせられることばかり。この幕切れ、種明かしも実にキレが良い。
この驚くべき物語をスカッとした気分で読み終わる、この爽快感が本書の卓抜した魅力です。
プロローグ
1.ヒーローの死 → 1千ルピー
2.聖職者の重荷 → 2千ルピー
3.弟の約束 → 5千ルピー
4.傷つけられた子どもたち → 1万ルピー
5.オーストラリア英語の話し方 → 5万ルピー
6.ボタンをなくさないで → 10万ルピー
7.ウエスタン急行の殺人 → 20万ルピー
8.兵士の物語 → 50万ルピー
9.殺しのライセンス → 1百万ルピー
10.悲劇の女王 → 1千万ルピー
11.エクス・グクルッツ・オプタヌ → 1億ルピー
12.十三番目の問題
エピローグ
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