ミハイル・シーシキン作品のページ


Mikhail Shiskin  1961年露・モスクワ生。「皆を一夜が待っている」(1993)にて文芸誌「嵐」最優秀デビュー作賞を受賞。2000年「イズマイル陥落」(1999)にてロシアブッカー賞、「ヴィーナスの毛(ホウライシダ)」(2005)にて国民的ベストセラー賞とボリシャーヤ・クニーガ賞をダブル受賞。結果的に、現在ロシアにある代表的な文学賞を全て受賞したこととなった。2011年「手紙」にて再びボリシャーヤ・クニーガ賞を受賞。

 


                

●「手 紙」● ★★
 
原題:"Letter Book"      訳:奈倉有里

  
手紙画像
 
2010年発表

2012年10月
新潮社刊

(2400円+税)

  

2012/11/28

  

amazon.co.jp

ワロージャサーシャ、恋し合う2人の互いに向けた手紙から成る書簡体小説。
ワロージャは戦地に、そしてサーシャはモスクワ。どれ程お互いに想い合っているか、冒頭からその手紙を読むだけで判ろうというものです。
しかし、ふと違和感を抱くと、ワロージャのいる戦地とは1900年の中国。彼は当時の中国で起きた義和団事件鎮圧のため進軍した連合軍の一兵士らしい。一方、サーシャがいるのは現代のモスクワらしい。
2人の生きた時代は相当にズレています。それなのに何故、互いへの手紙が成り立つのか。さらに途中でワロージャは戦死してしまうが、それでも手紙は途切れることなく続いていきます。これは一体・・・・。
互いにワロージャ、サーシャと呼びかけながらも、手紙の内容は次第にそれぞれが陥った辛い状況を嘆くことが主体に。ワロージャは地獄のような戦地の状況を、サーシャはやっとつかんだ男との関係も結局破綻していく失意の経過を語るのみで、相手の辛い状況については何も触れられません。

途中ハムレットの「時の流れが崩壊した」という言葉が引用されていますが、そもそも2人の時間のズレを云々すること自体、意味のないことなのだろうと思います。
2人の関係がどうであろうと、ワロージャの語る惨状はリアルですし、サーシャの語る彼女の半生は一つの物語として十分読み応えがあります。さらに2人には各々、親との関係がいびつであったという共通点が明らかとなり、親子ドラマという面でもかなりの読み応えがあります。

手紙とは何か。言葉とは何か。言葉が残って初めてその人間の生きた証となるのか。
いずれにせよ、2人とも呼びかける相手がいたからこそ辛い状況も耐え抜き得た、という気がします。
言葉や思いは時間も場所も超越していく、そういうことなのか。

不思議さのある異色の書簡体小説ですけれど、それ故にこそ惹きつけられ、読み応えも感じる一冊となっています。

    



新潮クレスト・ブックス

      

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