2001年発表
2001年9月
早川書房刊
(2200円+税)
2001/10/16
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風変わりなニューヨークの住民たちを描く連作短編集。
各篇に登場する主人公たちは、それぞれ頓狂であったり、ユーモラスであったり、孤独であったりと、実に様々です。しかし、そんな奇矯な主人公たちに、ニューヨークという都会は如何にも似つかわしい。
本書を読んでいると、リング・ラードナーの現代ニューヨーク版という気がしてきます。ただ、ラードナーのような味のあるユーモアとは異なり、「ニヤリ」を誘う、そんな面白味が本書の持ち味です。
本書中、最も微笑ましいストーリィは「ジェイコブの風呂」。スカンクに乱入された新婚初夜以来、毎晩妻が夫を風呂に入れてあげるという習慣をずっと続けている夫婦の話です。
一方、「怒れるネズミその四」と「セレンディピティ−思わぬ幸運」の主人公の滑稽さには、笑い出してしまいます。
表題作の「マンハッタンでキス」と、主人公が裏返しになる「やらなければならないこと」は、毎晩のように美女を着飾らせてアパートメントに連れ帰りながら、その美女を裸にしたまま一切手を触れないという、変質的なパトリック・リグが主人公。何とももったいないなあ(苦笑)と思わせる話だけに、その奇矯さは際立っています。そのパトリックのハウスメイトは、エレベーターのオーティスに深夜話し掛けることを自らの救いにしているジェームズ・ブランチ。
気がつけば、この短篇集は主人公を次々と換えながらも、彼等はそれぞれ袖触れ合う関係にあり、繰り返し本書中に登場します。しかし、ストーリィは次第にパトリックとジェームズの2人を中心に収斂し、最後は一本の長篇小説のようなまとまりをみせるのですから、なかなか巧妙な作品です。また、予想もしない展開、最後にホッとさせる最終章はお見事、心憎いばかりです。
現代ニューヨークでの様々な人間模様を描いた、洒落た連作短篇集。ラブ・ストーリィもあり、通好みの一冊です。
チェッカーズとダナ/ジェイコブの風呂/怒れるネズミその四/オパール/マンハッタンでキス/やならければならないこと/スモーカー/セレンディピティ−思わぬ幸運/オーティスにすべてを語って/黒ずくめの男/緑色の風船
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