1905年発表
1989年11月
岩波文庫刊
第2刷
2000年4月
(700円+税)
2000/05/22
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永井荷風が心酔した作家とのことで、読むに至った本。
本書の主人公であるジャン・ド・フラノワは、零落した貴族の息子であり、夢想的な青年。
ふとした偶然により彼は、150年前の同名の先祖が、従兄モーリス・ジョンスーズの妻であるアントワネットの先祖と悲恋の間柄であったことを、残された恋文から知る。そのことから、彼は過去の恋を受け継いで生きようと思い込むようになります。
本書のストーリィは、上記のように文庫表紙で紹介されていますが、その部分は最後の4分の1程度にしか過ぎません。むしろ、この作品の面白さは、廃れゆく貴族文化と、新しく勃興してきた近代文化との対比にあるように思います。
ジャンの父親ド・フラノワ氏は、ヴァルナンセの貴族生活を維持していくことを至上命題と考えている人物であり、それと対比的なのが、その甥でジャンの従兄であるモーリスです。働くことを恥と考える旧貴族世代に比し、モーリスは自ら働いて糧を得ることを生きがいにしています。また、フラノワ氏らが馬車を利用するのに対して、モーリスが自動車を乗り回しているのが、対比の妙。また、アメリカの資産家令嬢・ワトソン嬢の率直な物言いも印象的です。
時代から言えばモーリスの方が正しいのでしょうが、恋愛の艶やかさを考えると旧貴族世代の方に軍配が挙がるようです。ジャンの友人であるロオブローのジャニーヌへの恋情故の苦悶、チェスキーニ伯爵とド・ロオモン侯爵夫人の長きにわたる不倫関係も並列的に描かれており、時代の移り変わりをそのまま物語っているようです。
上記が滑らかに語られ、完成度の極めて高い作品です。
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