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Delia Owens 米国ジョージア州出身の動物学者、小説家。ジョージア大学で動物学の学士号を、カリフォルニア大学デイヴィス校で動物行動学の博士号を取得。ボツワナのカラハリ砂漠でフィールドワークを行い、その経験を記したノンフィクション「カラハリ−アフリカ最後の野性に暮らす」(夫マーク・オーエンズとの共著、1984)が世界的ベストセラーとなり、同書にてジョン・バロウズ賞を受賞。現在はアイダホ州に住み、グリズリーやオオカミの保護、湿地の保全活動を大なっている。69歳で執筆した「ザリガニの鳴くところ」が初の小説作品。 |
「ザリガニの鳴くところ」 ★★★ |
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2020年03月
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本当に久しぶりに、素晴らしい作品に出会えた、感激、という思いです。 「ザニガニの鳴くところ」という題名、どういう意味だろうと不思議に思うところですが、その意味を知らされると、しみじみとこの作品への愛しさが染み入ってくるような気がします。 舞台はアメリカ南部、ノースカロライナ州沿岸の湿地帯。 ストーリィはまず、1969年10月、町で有名な青年チェイス・アンドルーズが死体となって発見されるところから始まります。 それに次いで、1952年08月、まだ 6歳のカイアを置いて母親が家を出ていく場面が描かれます。 カイアは5人姉兄妹の末っ子。母親出奔後、3人の姉兄、続いて仲の良かった次兄ジョディもカイアを置いて家を出ていく。そしてカイアが10歳の時、遂に父親も家に帰らず。 1952年から、湿地にある小屋で幼いカイアがたった一人で生き抜き、成長していく物語と、1969年のチェイス殺害?事件の捜査ストーリィが並行して語られていきます。 とにかくカイアの物語が圧巻。 置き捨てられた悲しみ、不安、寂しさ、孤独・・・・それらを乗り越えてカイアは、湿地帯にある我が家=小屋でたった一人生きていきます。友となるのは鳥たち。 学校に行ったのは僅か1日だけ、カイアに生活の糧を与え助けてくれたのは、年老いた黒人男性のジャンピンとその妻メイベルだけ。 町の人々はいつしか彼女を“湿地の少女”と呼び、偏見を持って遠くから眺めるだけ。 やがてテイトという少年がカイアの前に現れ、カイアの読み書きを教えてくれたことから、新たな扉がカイアに開きます。 そして2つのストーリィがついに交わった時、チェイス殺害の犯人としてカイアの裁判が始まります。 その法廷場面は、まさにミステリ、緊迫のサスペンス。 人間社会から疎外されたようなカイアですが、逆に自然はカイアに力を与えてくれたと言えます。 「ザリガニの鳴くところ」とは、茂みの奥深く、生き物たちが自然のままの姿で生きてる場所、という意味。まさにカイアが生きてきた、これからも生きていく場所もそうなのでしょう。 五百頁余の分厚い一冊ですが、頁を繰る手を少しも止められず、一気読み。それだけの読者を惹きつける力、読み応え、感動と面白さに満ちた作品です。 いつの時も、カイアの胸の内に思いを馳せると、彼女への愛しさがこみあげて胸がいっぱいになります。 頁を繰るごとに感動尽きない傑作、お薦めです! ※設定も主人公の状況も相当に違いますが、本書を読みながら思い浮かんだのは、G・ポーター「そばかすの少年」。 G・ポーターもまた博物学者であり、自然への愛という点で共通するものを多く感じます。 |
※映画化 → 「ザリガニの鳴くところ」