|
1962年米国カリフォルニア州生。父親は、戦後米国に移住した航空宇宙エンジニア、母親は日系二世。イェール大学で絵画を学び、コロンビア大学大学院で美術学修士号を取得。2002年「天皇が神だったころ」を発表、高評を得る。11年刊行の「屋根裏の仏さま」にてPEN/フォークナー賞、仏フェミナ賞外国小説賞他、22年刊行の「スイマーズ」にて米カーネギー文学賞を受賞。 |
1.屋根裏の仏さま 2.スイマーズ |
1. | |
「屋根裏の仏さま」 ★★☆ PEN/フォークナー賞・仏フェミナ賞 |
|
2016年03月
|
20世紀初頭、相手の写真だけを頼りにアメリカへ嫁いで行った、日系移民女性たち=“写真花嫁”を描いた逸品。 写真の様子から夫となる相手を信じて太平洋を渡った若い娘たちに待ち受けていたもの・・・・現代の我々からすると容易に推測がつくというものですが、当事者となった写真花嫁たちにとってそれはどんなに過酷な運命であったことか。 冒頭の一文が強烈なインパクトを持っているからこそ、のっけから本作品に深く惹き込まれます。 本作品の稀なる特徴は、「わたしたち」という主語によって多くの娘たち、その群像が本物語の主人公となっている点。 それは一人一人について語るということではなく、多くの娘たちの声を重ねるようにして、彼女たちが味わった様々な苦衷、辛い経験を語りかけてきます。 まるで幾層もの波が、途切れることなく、微妙に姿を変えながら、何度も畳みかけるように押し寄せてくるようです。 甘い言葉に騙されたのは彼女たちだけでなく、先に日系移民として米国に渡った夫たち側についても言えることなのでしょう。しかし、当時は男性に従うしかなかった女性たちの身にとっては、男性以上に悲哀を覚える日々だったに違いありません。 前半、彼女たちについて「わたしたち」と表現され、「彼ら」と表現されるのは米国人たち。ところが最後の2章では、いつの間にか米国人たちが「わたしたち」の立場になっています。 その最後の2章で語られる事実が衝撃的。これ以上に哀しいことなどあろうかという思いに駆られます。 写真を頼りに太平洋を渡り、苦労の末ようやく安定的な暮らしを築いてきたというのに、太平洋戦争勃発によって強制収容されるまでを描いた、写真花嫁たちの歴史を描く中編小説。 是非お薦めしたい傑作です。 ※なお、本書題名は作中にも登場する一文ですが、アメリカ社会への同化を強いられ、日本人としてのアイデンティティを片隅に置かざるを得なかったことを象徴するものとのこと。 来たれ、日本人!/初夜/白人/赤ん坊/子どもら/裏切り者/最後の日/いなくなった |
2. | |
「スイマーズ」 ★★ カーネギー賞 |
|
2024年06月
|
地味〜な作品ですが、心に伝わってくるものは深い。 本作題名は、冒頭で描かれる、地下深くにある市民プールでいつも泳いでいる人たちのこと。 そこはもうまるで異空間のようです。そこは地上世界から切り離され、地上でどういった役職にあるか、身分にあるかといった事柄は全く無関係、そのプールで泳ぐ人たちにある区別は、どのレーンで泳ぐスイマーか、というだけ。 しかし、プールにひびが発見され、それが拡大していることが分かってプールの営業が中止されると、人々の間には揺らぎが生じます。 後半の三章では、スイマーの一人で認知症の初期段階にあった女性、アリスのことが主となります。 アリスは「彼女」と呼ばれ、記憶が失われていく様子が描かれます。 一方、アリスの娘は「あなた」と呼ばれ、母親との思い出が語られて行く。 年を取れば、どんな家族にも訪れるであろう出来事。 それだけに胸に沁み入ってくるような気がします。 1.地下プール/2.ひび/3.Diem Perdid/4.ペラヴィスタ/5.ユーロニューロ |