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Paula Mclain 1965年米国カリフォルニア州生。両親が育児放棄したために2人の姉妹とともに様々な里親を転々としながら育つ。看護助手やピザ配達等で生計を立てながらミシガン大学で詩作を学び、99年に最初の詩集を出版。自伝、詩集を出版後、「ヘミングウェイの妻」がベストセラーとなり映画化も決定済。 |
「ヘミングウェイの妻」 ★★☆ |
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2013年07月
2013/08/24
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1920年代、作家ヘミングウェイとその最初の妻=ハドリーが過ごしたパリの時代を描いた長編小説。 となれば当然に思い出すのは、ヘミングウェイがまだ無名の作家だったパリ時代を語った名品「移動祝祭日」。 本書はそのパリ時代を、ハドリーの側から描いた長編小説。 本書の主人公はもちろんハドリーですが、そのハドリーの存在があって、まだ無名時代のヘミングウェイの様子、その代表作となった作品の生まれた土壌および執筆過程が浮き彫りになっていると感じられます。 したがって本書はハドリーの物語であると同時に、それ以上にヘミングウェイの物語であって、すぐ傍らにいたハドリーの視点から描かれている処から深い感慨を覚えます。 物語はハドリーとヘミングウェイが出会ったところから細やかに語られ、如何にも女性的な語りですが、リアルさもこの上ない。小説ですからフィクション部分も多い筈なのですが、すべては事実そのままではなかったかと思えてしまうくらいなのですから素晴らしい。 訳題は穏当に「ヘミングウェイの妻」とされていますが、原題は「パリの妻」。移動祝祭日、即ちパリでの日々を支えた最初の妻に捧げる称号としてこれ以上の言葉はないだろうと思います。 そうした2人であったにもかかわらず、ヘミングウェイの2番目の妻となったポーリーン・ファイファーの登場により、2人の関係が破綻していくだりはとても切ない。 結局は糟糠時代、成功時代という境遇の変化に応じて作家が求める妻の像が変わっていったのだと評することは簡単ですが、決してそれだけではないような気がします。 そんな思いが読了後も深く後を引いて、余韻の深く残る作品となっています。 ヘミングウェイ自身の「移動祝祭日」と合わせて、お薦め。 |