レベッカ・マカーイ作品のページ


Rebecca Makkai  1978年生まれ。言語学者の両親のもと、シカゴ近郊の村で育つ。父親はハンガリ―出身で、父方の祖母は著名な女優・小説家。ワシントン・アンド・リー大学およびミドルベリー大学大学院で学び、2011年長編「The Borrower」にて作家デビュー。14年発表の「The Hundred-Year House」が、シカゴ作家協会により年間最優秀長篇小説賞に選ばれる。

 


             

「戦時の音楽」 ★★
 原題:"Music for Wartime" 
   訳:藤井 光 


戦時の音楽

2015年発表

2018年06月
新潮社刊

(2000円+税)



2018/07/26



amazon.co.jp

ベスト・アメリカン・ショート・ストーリーズに4年連続選出されたという、名手による短篇集とのこと。

収録された17篇はいずれも、率直に言って、かなり中々捉え難いストーリィばかり。
極端な掌篇もあれば、中編小説なみの濃さをもった篇もあり。
その一方、現実的なストーリィもあれば、幻想的なストーリィもあるといった具合。
そのうえ、舞台となる時代設定も様々となれば、読み進めば進むほど作者に翻弄されてばかり、というのが正直な実感。

冒頭、敵兵に薬指を切断された9本指の名ヴァイオリニストが登場するかと思えば、サーカスの象が死んだことによって巻き起こされたある村の変化あり、さらに大学教授に成りすまして逃亡を続けるシェフもいます。

どこに共通点があるのか、本書の狙いは何か、という説明は私の手には余ります。
したがって、出版社の紹介文を借りれば、
「時代や運命の不条理に翻弄されつつも何かを生み出そうと苦闘する人々の物語」、そしてそれは「作家自身の家族史をも織り込みながら、繋がり合うように広がっていく」ということだそうです。

私にとって面白かったのは、仏料理のシェフが大学教授に成りすまして逃亡を続ける小サスペンス
「ブリーフケース」、中古のヤマハピアノから現れたヨハン・バッハと主人公女性の思いも寄らぬ流れを描いた寓話「赤を背景とした恋人たち」、教え子から思わぬ逆襲を受けて動揺する女性助教を描いた「絵の海、絵の船」といった篇。

どの篇も明快な結末がある訳でなく、主人公たちの苦闘はまだまだ続いていく、と感じさせられる内容。
そんな特徴もあって、本短篇集はかなり玄人好みの短篇集、と感じます。


歌う女たち/これ以上ひどい思い/十一月のストーリー/リトルフォーク奇跡の数年間/別のたぐいの毒(第一の言い伝え)/ブリーフケース/砕け散るピーター・トレリ/赤を背景とした恋人たち/侍者(第二の言い伝え)/爆破犯について私たちの知るすべて/絵の海、絵の船/家に迷い込んだ鳥(第三の言い伝え)/陳述/十字架/聖アントニウスよお出ましを/一時停止 一九八四年二十日/惜しまれつつ世を去った人々の博物館

    



新潮クレスト・ブックス

  

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