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Deborah Levy 1959年生、幼少期を南アフリカで過ごし、9歳で英国に移住。劇作家としてキャリアを積み、現在までに8冊の小説を執筆。中でも、「Swimming Home」(2011年)、「ホットミルク」(2016年)はマン・ブッカー賞の最終候補。2018〜19年、コロンビア大学フェロー。 |
「ホットミルク」 ★★ 原題:"Hot Milk" 訳:小澤身和子 |
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2022年07月
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ソフィア・25歳は、離婚した母親ローズと2人きりの家族。 人類学で博士号まで得たが、原因不明の脚の不調で歩けず、要求の多い母親の介護のため研究者の道を諦め、今の仕事はカフェでのウェイトレス。 そのローズの脚の新たな治療のため、家を担保にして金を借り、2人は目的の整形外科<ゴメス・クリニック>のある南スペインの町に一時的な滞在をすることになります。 本作はそこから始まるストーリィ。 自らの将来の道を閉ざされ、そのうえ借金してまで母親の治療というと、ソフィアはもう先のことを考えるのを放棄してしまっているのかと、冒頭から落ち着かない気持ちになります。 しかし、海沿いにあるアルメニアの町で、ゴメス医師とその娘のフリエタ、ドイツ人女性のイングリット・バウワー、海岸の救護所の青年ファンらと関わることによって、ソフィアが変わっていく、という展開。 日本でも現在“ヤングケアラー”が問題になっていますが、本作のソフィアもそうした一人と言えるでしょう。 母親はソフィアにとって重い枷という存在であり、離婚した父も最早ソフィアを支援しようとは思っていない。 どこかで親に頼っている気持ちからソフィアが抜け出さない限り、ソフィアにとって道が開けていくことはないのでしょう。 なお、ローズは本当に脚の具合が悪いのか、また、ゴメス医師は果たして名医なのかヤブなのか。 そのローズとゴメス医師のやりとりは、中々興味深いものがあります。 |